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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

組織の責任を明示した日本テレビの自己検証~マスメディアは等しく「不作為の当事者」

 ジャニーズ事務所元社長の性加害と「マスメディアの沈黙」に対して、日本テレビが10月4日午後、ニュース番組「news every.」で、自己検証の結果を公表しました。その内容の約30分の動画がユーチューブの同局のチャンネルにアップされています。遅ればせながら、見ました。
 検証の対象は①週刊文春の元社長「セクハラ」キャンペーン報道と、ジャニーズ事務所の一連の裁判の伝え方②ジャニーズ事務所と日本テレビとのかかわり③ことし3月のBBCのドキュメンタリー放映以降の日本テレビの対応―の3点です。局内でヒアリングした結果をまとめています。局内にジャニーズ事務所への忖度があったこと、所属タレントの刑事事件で、忖度によって報道のタイミングが遅れた事例があったことなど、全体的に率直に報告していると感じました。反省を踏まえて「人権方針」を策定することも表明しています。
 特筆すべきと思うことの一つは、検証番組に報道局長が出演していることです。日本テレビの組織としての検証であり、組織としての見解であることを明示する意味があります。ジャニーズ事務所が週刊文春を提訴した訴訟では、性加害の報道の真実性を認めた高裁判決が最高裁で確定していましたが、日本テレビは報じていませんでした。報道局長が、結果として被害を拡大させてしまったことに「痛恨の極み」と口にしたことが非常に印象的です。その当時、わたし自身も勤務先で社会部デスクの一人でした。同じ思いがあります。番組では編成担当の局長も2度、ビデオで出演しています。組織としての責任を明示している検証結果だと受け止めました。
 もう一つは、番組に東大大学院情報学環の田中東子教授も出演し、日本テレビの検証結果にコメントを加えていることです。特に、文春訴訟の当時、人権侵害との観点が報道局内になかったことに対して、意思決定の立場にいた幹部が男性ばかりだったことを要因として指摘していることには、特段に大きな意義があると思います。また、当時、局内には、おかしいと感じた社員もいたはずだとして、口にすることができないような雰囲気はなかったか、との指摘もありました。これは労働組合の検証課題でもあるはずです。
 この日本テレビの検証は、ほかのテレビ局や新聞社・通信社にとっても自己検証の一つのモデルになりうるのではないかと思います。
 これまでも、例えば事件事故の報道では、えん罪が明らかになった場合に、容疑者の段階や逮捕以前の段階から犯人視した報道があったとして、マスメディアが自己検証し、その結果を公表してきた事例がありました。誤りをただし教訓を残すのに躊躇があってはなりません。今回の性加害もそうした事例だと思います。長くマスメディアで働いてきた先行世代の一人として、報道の仕事を受け継いでいる後続世代に範を示す必要があるとも考えています。
 ジャニーズ事務所とのかかわりは、新聞よりもテレビが深く、またテレビの中でも局によって濃淡の違いはあるだろうと思います。しかし、媒体の違いを問わず、マスメディアは「報じなかった」という不作為の当事者です。遅くとも、司法の場で週刊文春の性加害の報道の真実性を認める判決が確定した後は、各メディアが独自に取材に動くことは可能だったはずです。この「不作為の当事者」であることには、新聞社・通信社、テレビ局、さらには出版社も含めて、報道機関に違いはありません。等しく同じ立場です。
 新聞社・通信社で言えば、大半の社に外部識者に委員を委嘱した第三者委員会があります。編集局長の責任で自社内の検証を進め、その結果を第三者委員会に提出し、委員からの指摘とともに報じる、というやり方があるだろうと思います。
 この数日、記者会見での「NGリスト」の存在が明るみに出て、ジャニーズ事務所の体質追及に報道が集中している感があります。そうした報道も必要ですが、マスメディアは自らの当事者性に対し、自己検証を進めることも何としても必要です。自己検証に消極的なままでは、新たなメディア規制を招き寄せかねないことを危惧します。

 日本テレビの検証番組はユーチューブの以下のURLで視聴できます。

https://www.youtube.com/watch?v=HEtkrqGjeqY

www.youtube.com

 時間のない方には、概要版もあります。ポイントを4分弱にまとめています。
概要版 https://www.youtube.com/watch?v=XaVcQi8anuQ

www.youtube.com

【写真】日本テレビの検証動画より