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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「メディア各社に答える義務」(琉球新報)「各メディアは自ら検証し、再出発しなければ」(信濃毎日新聞)~性加害と「不作為の当事者性」 地方紙の社説、論説の記録

 一つ前の記事の続きです。
 ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長による性加害に対しては、地方紙も社説、論説を掲載しています。マスメディアは性加害を認識していた、あるいはジャニーズ事務所が文芸春秋を提訴した訴訟などを通じて、性加害に気付き、取材して報道する機会はあったのに、テレビも新聞も沈黙していました。その間にも被害は拡大していました。沈黙していたマスメディアは、「不作為の当事者」です。地方紙でも、西日本新聞や中国新聞の社説、論説は、自紙の当事者性に明確に言及しています。

▼西日本新聞「ジャニーズ謝罪 これで『解体的出直し』か」=2023年9月9日付
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1125060/

 問題が放置され、被害が拡大した背景として「メディアの沈黙」が指摘されている。週刊誌報道を受け、04年に性加害の事実を認める判決が確定しても、大きく報道することがなかった。
 西日本新聞も問題意識を欠いていた。未成年者や男性に対する性加害への認識が不十分で、芸能スキャンダルと矮小(わいしょう)化する視点があったことは否めない。人権感覚を磨き、報道の責任を果たしたい。
 テレビ局はジャニーズのタレントを番組に起用する際、事務所に忖度(そんたく)する構造的問題があったと批判されている。企業は取引先の人権順守にも関与しなければならない。検証が必要だ。

 ひときわ目を引くのは中国新聞です。
 地方紙にとって芸能分野は、地元のことであれば自社の記者が取材して記事を書きますが、芸能界の話題ものなどは、たいていは通信社の配信記事を掲載します。ジャニーズ事務所の所属タレントを取り上げた記事も、多くは通信社からの配信でしょう。受動的な立場を強調することも可能です。しかし、中国新聞の社説は「通信社の配信記事をそのまま掲載してきた本紙も、重く受け止めなければならない」と記しています。

▼中国新聞「ジャニーズ会見 『解体的出直し』とはいえぬ」=2023年9月8日付
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/357184

 だが喜多川氏と事務所を指弾して済むことではない。問題視してこなかったメディアも問われねばならない。報告書も厳しく批判している。
 テレビ局を中心に、所属タレントの人気に依存する関係を続けたことが被害拡大につながった。あしき慣習であり、猛省が必要だ。通信社の配信記事をそのまま掲載してきた本紙も、重く受け止めなければならない。
 被害者の性別にかかわらず性暴力は深刻な人権侵害であり、決して許されない。未成年の場合、立場や権力の差を利用したケースが大半だ。日本社会はこれまで、この問題を放置してきたといえる。一人一人が根絶に向けたきっかけとしたい。

 琉球新報の社説は「メディアも検証と行動を」との見出しで、メディアの当事者性を取り上げ、なぜ沈黙していたのか、放送だけでなくメディア各社は検証して公表するよう主張しています。メディアの自己検証の必要性は、信濃毎日新聞なども主張しています。

▼琉球新報「ジャニーズ記者会見 メディアも検証と行動を」=2023年9月12日付
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1783611.html

 この間、長年にわたって被害者が出続けたのは日本のメディアの沈黙が大きな要因だったことが、国際的にも認識された。会見を受けてNHKや民放各社がコメントや声明を出したが、不十分だ。徹底した自己検証と、反省を踏まえた行動が必要だ。
(中略)
 NHKはコメントで「メディアとしての役割を十分に果たしていなかったと自省している」と述べたが、その原因を説明していない。民放各局の声明は、事務所の対応を注視していくことを強調し、メディア批判については「重く受け止める」などの表現にとどまっている。
 なぜ沈黙してきたのか、忖度(そんたく)を含め共犯的関係だったのではないかという問いに、放送だけでなくメディア各社に答える義務がある。契約や番組制作でいびつな関係がなかったか、検証し公表すべきだ。その上で、業界全体を健全にする行動が求められる。日本のメディアの在り方も問われていると自覚したい。

▼信濃毎日新聞「ジャニーズ性加害 救済は事務所任せでなく」=2023年9月9日付
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023090900116

 記者会見には、5日付で副社長を辞任した白波瀬傑(しらはせすぐる)氏が欠席した。喜多川氏の最側近で、「ジャニーズの全てを知っている」とされる。東山社長は、既に役職を退いたためだと説明したが、詳細を知る人物を隠したのではないかと不信感が募るばかりだ。
 その白波瀬氏を介して事務所と付き合ってきたメディア、エンターテインメント業界も当事者である。高視聴率を稼ぐ人気タレントを使いたいという持ちつ持たれつの関係が、重大な性加害に沈黙する態度につながった。報道機関の人権意識の鈍さも、被害を食い止める機会を失わせてきた。
 当事者の会メンバーは、テレビ各局も第三者委をつくり、調査、説明すべきだと提起している。各メディアは自ら検証し、再出発しなければならない。

 以下に、ネット上の各紙のサイトで確認できた関連の社説、論説を書きとめておきます。全文を読むことができるものは、リンクをはっています。

【9月12日付】
▼秋田魁新報「ジャニーズ新体制 救済と補償に力尽くせ」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20230912AK0017/

▼大分合同新聞「ジャニーズ性加害問題 抜本的改革とは言い難い」

【9月10日付】
▼熊本日日新聞「ジャニーズ謝罪 #MeToo広く救済を」

【9月9日付】
▼山梨日日新聞「[ジャニーズ性加害改憲]抜本的改革とは言い難い」
▼新潟日報「ジャニーズ謝罪 救済徹底し人権回復図れ」
https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/278526

 喜多川氏の性加害問題は、週刊文春が報じた記事を巡り、2003年に東京高裁が真実性を認める判決を出したが、主要メディアは放置してきた。
 重大な人権侵害を芸能界の問題だとして直視しなかったことを、私たちメディアは反省しなければならない。
 エンターテインメントに携わる全ての人の人権が守られるよう、社会全体で強く認識する必要性を、改めて肝に銘じたい。

▼愛媛新聞「ジャニーズ会見 再出発は誠実な救済あってこそ」
▼佐賀新聞「ジャニーズ性加害問題 抜本的改革とは言い難い」※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1106555

 多くの被害者を生んだ悲劇を一企業の問題として矮小(わいしょう)化せず、社会的な教訓をくみ取ることも忘れないようにしたい。
 未成年への性暴力に関する法整備を進め、性的少数者を含む全ての人への性加害を許さないという意志を共有しなければならない。ジャニーズ事務所の改革が、その重要な一歩になってほしい。

 佐賀新聞の論説は共同通信のクレジットがついています。以下の各紙の論説もおおむね同内容です。
※山形新聞「ジャニーズ性加害問題 解体的出直しには遠い」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20230909.inc
※山陰中央新報「ジャニーズ性加害問題 抜本的改革と言い難い」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/447990
※宮崎日日新聞「ジャニーズ事務所謝罪 性加害根絶 共有する一歩に」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_73333.html

【9月8日付】
▼河北新報「ジャニーズ社長交代 謝罪と救済、覚悟が問われる」
▼中日新聞・東京新聞「ジャニーズ謝罪 経営陣刷新が不十分だ」
 https://www.chunichi.co.jp/article/764743

 被害者に幅広く補償する方針は示されたものの、内容は不明だ。事務所にとっては多額の支出になる。中立的立場の経営陣が相当の覚悟で当たらなければ、十分に救済できないのではないか。
 喜多川氏の性加害は、国連人権理事会の専門家が調査に乗り出すなど国際的な非難も浴びている。スポンサー企業やテレビ局は、厳しい姿勢で臨む必要がある。

▼神戸新聞「ジャニーズ会見/救済の出発点に過ぎない」
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202309/0016787553.shtml

 特別チームの調査は、性暴力が被害者の心身にいかに深い傷を負わせるかを改めて浮き彫りにした。
 聞き取りに対して、自殺願望を抱くようになった、うつ病になった、自分を汚いと思ってしまう-などの回答があった。未成年のときに同性から被害を受けたことを「恥」と感じ、だれにも相談できなかった人は多い。今も続く苦しみへのケアが不可欠である。
 政府は、男性と男児に特化した性被害の相談窓口の新設や、親族や雇用関係などの立場を利用した性犯罪の取り締まり強化を決めた。芸能活動に関わる子どもを保護する法整備も併せて進めるべきだ。
 旧弊がはびこるエンターテインメントやメディア業界全体が変わる契機とせねばならない。

▼高知新聞「【ジャニーズ会見】新体制に懸念は残る」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/679485

 喜多川氏の性加害報道に消極的だったメディアの姿勢も問題になった。それぞれのメディアが芸能界との向き合い方を検証し、再考することが求められる。

【9月5日付】
▼中日新聞・東京新聞「ジャニーズ調査 性被害者の救済を急げ」
 https://www.chunichi.co.jp/article/762525

 調査報告は、性加害が続いた背景に「マスメディアの沈黙」があったとも指摘した。重く受け止めなければならない。

▼徳島新聞「ジャニーズ問題 性加害認め救済を急げ」

【9月4日付】
▼北日本新聞「ジャニーズ性加害/早急に救済策を講じよ」

【9月3日付】
▼熊本日日新聞「ジャニーズ性加害 事実認めて謝罪と救済を」

【9月2日付】
▼神戸新聞「ジャニーズ問題/次は事務所が答える番だ」
 https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202309/0016766133.shtml

 報告書は、新聞やテレビなど多くのメディアが正面から問題を取り上げなかった点も厳しく批判した。本紙も含め重く受け止めねばならない。被害者の性別にかかわらず、性暴力は深刻な人権侵害であり、決して許されないことを再認識し、報道機関としての責務を果たしたい。

▼宮崎日日新聞「ジャニーズ性加害 事実受け止め早急な救済を」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_73207.html

 被害者数は少なくとも数百人と推定される。尊厳を踏みにじられた苦痛、苦悩は今も続く。被害を名乗り出た人たちへのネット上などでの二次加害も深刻だ。拡大を防ぐためにも、ジャニーズ事務所は組織として事実を認め、被害者に誠実に謝罪するとともに、早急に救済措置制度を構築しなければならない。芸能界やメディアにも再発防止のための検証が求められる。

【8月31日付】
▼北海道新聞「ジャニーズ調査 夢につけ込んだ卑劣さ」

 今年3月に英国のBBCが前社長の性加害疑惑を伝え、元ジャニーズJr.が記者会見で被害を明らかにするまで、日本のマスメディアはこの問題をほとんど取り上げてこなかった。
 報告書が、報道がなかったことで性加害が継続され「さらに多くの被害者が出たと考えられる」と指摘したのは、極めて重大だ。
 メディアも責任を厳しく問われていることを忘れてはならない。

▼東奥日報「救済制度 早急に構築せよ/ジャニーズ性加害報告」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1628518

 被害者数は少なくとも数百人と推定される。尊厳を踏みにじられた苦痛、苦悩は今も続く。被害を名乗り出た人たちへのネット上などでの二次加害も深刻だ。拡大を防ぐためにも、ジャニーズ事務所は特別チームの提言を受け入れて組織として事実を認め、被害者に誠実に謝罪するとともに、早急に救済措置制度を構築しなければならない。同時に芸能界やメディアにも再発防止のための検証が求められる。
(中略)
 だが報告書も指摘するように、加害者と事務所だけを指弾して済むことではない。メディアがこの問題を積極的に取り上げず、タレントたちの人気に依存し続けたことも事務所の隠蔽体質を強化する要因になった。

▼山形新聞「ジャニーズ性被害問題 事務所は謝罪と救済を」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20230831.inc

▼山梨日日新聞「[ジャニーズ性加害調査]事実認め救済措置を早急に」

▼新潟日報「性加害調査報告 謝罪と救済をしっかりと」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/273048

 報告書は、テレビ局など「マスメディアの沈黙」も被害を拡大させたと指摘した。メディアが正面から取り上げないことで、「事務所が隠蔽体質を強化していった」と強調している。
 被害に長年耳を傾けなかったことを反省し、私たちメディアも重く考えていかねばならない。

▼京都新聞「性加害の認定 重いジャニーズの責任」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1099203

 報告書は、過去に週刊誌報道などがあったのに、多くのメディアが正面から問題を取り上げなかった点も批判している。本紙も含め真摯(しんし)に受け止めねばならない。
 特に今も多くの所属タレントを番組に起用する放送局には、影響力を行使して「人権侵害をやめさせるべきだった」と指弾する。
 タレントの争奪や視聴率優先で喜多川氏を持ち上げ、深刻な被害に目をつむった面はないか。各放送局の説明責任が問われよう。

▼山陰中央新報「ジャニーズ性加害調査報告 早急に救済制度構築を」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/442746

▼高知新聞「【ジャニーズ問題】誠実に向き合い救済を」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/677059

 この問題ではメディアの姿勢も問われている。一部週刊誌を除き、性被害を正面から取り上げてこなかったことが問題視された。
 報告書は、メディアからの批判を受けることがないため、事務所が自浄能力を発揮して再発防止を図ることや被害者を救済することを怠ったと訴える。メディア側は、被害の拡大につながったとする指摘を重く受け止めなければならない。

▼南日本新聞「ジャニーズ問題 深刻な人権侵害反省を」
▼沖縄タイムス「ジャニー氏性加害 早急に事実認め謝罪を」