ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「移設容認と短絡するな」(朝日) 「普天間移設の進展を着実に」(読売)~名護市長選 東京発行各紙の社説

 沖縄県名護市長選で、自民、公明両党が推薦した現職が、同市辺野古の新基地建設に反対する前市議の新人に5000票余の大差をつけて再選されたことを、東京発行の新聞各紙が1月25日付朝刊の社説でそろって取り上げました。
 選挙戦では現職の渡具知武豊氏は新基地建設の賛否を明らかにせず、学校給食費や保育料、子ども医療費の無償化など1期目の実績を強調しました。ただ、これらの政策の財源は、米軍再編を受け入れた自治体に支給される交付金でした。渡具知氏の再選は、名護市の有権者が新基地の受け入れを暗黙のうちに認めたと受け取ることもできるようにみえます。しかし、世論調査で新基地建設への賛否に絞った質問では、反対が賛成を圧倒しています。新基地建設が地元に受け入れられたと解釈するのは無理があります。
 東京発行の新聞各紙の社説を比べてみると、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は民意が新基地建設を容認したものではないと明確に主張しています。東京新聞(中日新聞と共通)は、ことしが沖縄の日本復帰50年に当たることに触れて「復帰後も長らく『基地か経済か』が問われ続けてきた。そうした状況に追い込んだ責任は、安全保障の負担の多くを沖縄県民に強いてきた本土に住む私たちにもある」として、本土の「私たち」の責任にも言及しています。
 一方で、産経新聞は、渡具知氏は事実上、新基地建設を容認しているとの認識を示し、読売新聞もそうした認識をにじませています。その上で両紙とも、辺野古新基地の建設を急ぐよう求めています。朝日、毎日、東京と読売、産経とで明確に違いがあります。

 少なからず驚いたのは、産経新聞が「玉城知事や『オール沖縄』勢力は、宜野湾市民の安全確保の必要性と、沖縄がいや応なしに防衛の最前線になった事情を踏まえ、辺野古移設への反対を取り下げてもらいたい」とまで書いていることです。沖縄はいや応なしに防衛の最前線になった、だから新基地建設を受け入れよ、と迫っているのです。
 戦前、沖縄には軍事基地はありませんでした。太平洋戦争緒戦の勝利で日本軍はアジアと太平洋の広大な地域を占領しましたが、米軍の反攻でじりじりと追い詰められ、沖縄は本土防衛の最前線となりました。そうなることが避けられなくなってから、日本軍は沖縄に基地を建設し、実際に戦闘が始まると、沖縄を本土決戦への準備の時間稼ぎのための捨て石にしました。沖縄に存在する米軍基地の由来は、この「沖縄戦」にさかのぼります。こうした沖縄の現代史を思うと、沖縄の民意を代表する立場の知事に対して「沖縄がいや応なしに防衛の最前線になった」のだから「辺野古移設への反対を取り下げてもらいたい」と迫る物言いは、かつて沖縄を捨て石にした戦争指導者たちの視線と重なるようにわたしには思えます。

 以下に各紙の社説の見出しと、本文の一部を書きとめておきます。それぞれのサイトで読めるものは、リンクを張っておきます。

▼朝日新聞「名護市長選 移設容認と短絡するな」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15183010.html

 移設に反対する市長や知事、国会議員を選んでも、県民投票で7割を超える明確なノーを示しても、歴代政権は辺野古が「唯一の選択肢」といって工事を強行し、民意を踏まえて立ち止まるそぶりもみせない。投票を通じて自らの意思を示し、代表を選ぶことに、有権者が意義を見いだせなくなれば、民主主義の土台は危うくなる。
 渡具知氏は初当選した4年前の選挙の時から、一貫して移設への賛否を明らかにしていない。他方で、移設受け入れの見返りともいえる米軍再編交付金を主な財源にした、学校給食費、保育料、子ども医療費の「三つの無償化」を実績として訴えた。移設を止められないのなら、せめて実利をと考える有権者もいたことだろう。
 移設問題が争点にならないよう、米軍基地問題に「沈黙」する市長を生み出したのは、辺野古に固執する政権とそれを支える自民、公明両党にほかならない。埋め立て予定地に軟弱地盤が見つかり、工事の先行きに不透明さが増すなか、普天間の一日も早い危険性除去という当初の目的は置き去りにされているというのにである。

▼毎日新聞「名護市長に自公系再選 移設強行の理由にならぬ」
 https://mainichi.jp/articles/20220125/ddm/005/070/110000c

 基地反対か、交付金による生活向上か。選挙を通じてこうした理不尽な選択を市民に強いたのは、ほかならぬ政府ではないか。
 秋には知事選が控える。岸田政権は沖縄振興予算の減額などで玉城知事を揺さぶり、移設容認派の知事を誕生させようとしている。
 だが、埋め立て予定海域で軟弱地盤が見つかり、状況は大きく変わった。改良のため工期は大幅に延び、普天間の返還は2030年代以降だ。政府が工事強行の根拠としてきた「一日も早い普天間の危険性除去」は見通せない。
 沖縄が本土に復帰してから、5月で50年という節目を迎える。政府は過重な基地負担を押しつけ、県民を分断してきた。岸田政権はその責任と向き合わなければならない。

▼読売新聞「名護市長再選 普天間移設の進展を着実に」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20220124-OYT1T50233/

 市長選の結果について、岸田首相は衆院予算委員会で、「引き続き市長とも連携しながら、名護市及び北部振興に取り組んでいきたい」と語った。政府は地元の要望に耳を傾け、移設への理解を広げていくことが大切である。
 玉城デニー知事は、前市議を全面的に支援した。辺野古沖で見つかった軟弱地盤をめぐり、県は昨年11月、改良工事のための設計変更を不承認とするなど、移設阻止の方針を明確にしてきた。こうした手法は見直しが迫られよう。
 与党は今回の勝利を追い風に、秋に予定される知事選にも勝利して移設を進めたい考えだ。
 辺野古移設が実現すれば、人口密集地にある普天間飛行場の危険性が除去され、跡地利用も可能になる。政府は、沖縄全体にとって利益が大きいことを粘り強く訴えていかなければならない。

▼日経新聞「苦渋の民意を受け止めたい」
 ※サイトでは有料コンテンツ

 複雑な思いを抱えた名護市民の判断だが、それは結果として、台湾海峡情勢が緊張を増すなかで、日米同盟を強固にすることにつながる。新型コロナウイルスの第6波は米軍由来を疑われ、米軍への反発が広がるなかで示された民意でもある。沖縄に負担を強いていることを心に留めておきたい。
 政府も沖縄への配慮を一段と深めるべきだ。今回の市長選の5千票余りの差は、自公両党にとって反対派が分裂した06年以来の大差での勝利になった。政府・与党は追い風と受け止めているが、慢心すれば足をすくわれよう。
 (中略)夏の参院選、秋の沖縄県知事選は全県域での選挙であり、県民のしっぺ返しはありうる。

▼産経新聞(「主張」)「名護市長選 着実な移設推進が必要だ」
 https://www.sankei.com/article/20220125-EPJXZN6Y2FIMXDH4ZUT4AEJN6Q/

 移設を事実上容認する渡具知氏が引き続き市政を担う意義は大きい。岸田政権は移設工事を着実に進めなければならない。
 (中略)在日米軍基地をどこに設けるかは、沖縄を含む日本の平和と安全に直結する。国の専権事項である安全保障政策そのものだ。憲法は地方自治体の長に、安保政策や外国政府との外交上の約束を覆す権限を与えていない。
 宜野湾市の市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性は誰の目にも明らかだ。同時に、沖縄の米海兵隊は中国や北朝鮮を見据えた日米同盟の抑止力の要となっている。台湾有事への懸念が強まる中で、平和を守るために在沖米軍の重要性は増している。
 日米両政府は、辺野古移設が唯一の解決策だと繰り返し確認してきた。これは7日の日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同発表にも盛り込まれた。
 玉城知事や「オール沖縄」勢力は、宜野湾市民の安全確保の必要性と、沖縄がいや応なしに防衛の最前線になった事情を踏まえ、辺野古移設への反対を取り下げてもらいたい。

▼東京新聞・中日新聞「名護市長再選 『辺野古容認』は早計だ」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/156219?rct=editorial

 今年、沖縄は本土復帰から五十年の節目に当たる。今秋の知事選をはじめ、県内の自治体選挙では復帰後も長らく「基地か経済か」が問われ続けてきた。そうした状況に追い込んだ責任は、安全保障の負担の多くを沖縄県民に強いてきた本土に住む私たちにもある。
 政府には、市長選結果を辺野古容認と受け止めず、計画をいったん白紙に戻して、代替施設建設とは切り離した普天間返還を米側に提起するよう重ねて求めたい。