基地の過剰負担は本土の日本国民も当事者~名護市長選皮切り、復帰50年の沖縄の選挙を注視する

 沖縄県名護市長選が1月16日、告示されました。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の返還に日米両政府が合意したのは1996年。その後に移設先として名護市辺野古が浮上してから7回目の市長選です。立候補したのは自民、公明の推薦を得て2期目を目指す現職の渡具知武豊氏と、立憲民主や共産などの推薦を受けた前市議の岸本洋平氏の2人。辺野古の新基地建設が最大の焦点のはずですが、辺野古に関する両候補の主張は、岸本氏が反対を明確に掲げているのに対し、渡具知氏は賛否を表明せず、主張は明確にかみ合っているわけではないようです。
 沖縄タイムスの16日付社説が、この名護市長選の特徴を端的に言い表しているのではないかと思います。
※沖縄タイムス・社説「[名護市長選告示]国策の地 7度目の選択」=2022年1月16日
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/895145
 以下、一部を書きとめておきます。 

 名護市長選は経済振興への期待から基地受け入れを表明する陣営と、過重負担の固定化につながる基地受け入れに反対する陣営の、対立の構図が続いてきた。
 選挙戦の争点を巡って様相が変わったのは前回、18年の市長選からである。
 現職を破って初当選した渡具知氏は、相手が設定した土俵には乗らず、辺野古の是非を語らない戦術をとった。
 渡具知氏は今回も「国と県による係争が決着を見るまでは、見守るよりほかない」と賛否を表明していない。
 これに対し岸本氏は「軟弱地盤で完成が見通せず、県民投票で反対の民意は示されている」として、新基地阻止を前面に掲げている。
 新基地建設は軟弱地盤の存在が明らかになったことで先行きが見通せない。その間の普天間飛行場の危険性除去も宙に浮いたような格好だ。
 市長選は新基地建設という明確な対立軸が論戦の争点にならないという極めて奇妙な構図のまま、告示の日を迎えることになった。そのこと自体を問う選挙でもある。

 国政選挙ではなく自治体の首長を選ぶ選挙ですから、国政のテーマである辺野古新基地建設のほかにも、有権者の判断を左右する地域固有の要素はあります。しかし、普天間移設問題、ひいては米軍基地の過剰な負担によって、沖縄では人々が地域の未来を自分たちで選び取る自己決定権が十分に担保されているとは言い難い状況です。
 辺野古新基地建設への賛否の一点に絞れば、2019年2月の県民投票で「反対」が7割を占めたように、民意は明らかです。そうした民意は知事選や国政選挙でも何度も示されてきました。にもかかわらず、日本政府は新基地建設をやめようとはしません。沖縄の人たちにとって「いくら反対しても新基地建設は止まらない」と考えるなら、新基地に反対ではあっても、個々の選挙では別の投票行動を取ることもある、ということも、選挙の意味を考える上で知っておいた方がいいと思います。一方で今回は、辺野古沖の埋め立て予定地に軟弱地盤が存在することを巡って、玉城デニー沖縄県知事が工事の設計変更を不承認とし、工事が進められない状況になっています。前回の選挙とは違う要因もあります。
 沖縄での新型コロナウイルス感染拡大の要因として、沖縄の米軍基地と日米地位協定が指摘されていることも、わたしは注目しています。地位協定によって、在日米軍は日本政府と同じ検疫、防疫体制を強制されることはありません。米本国からの直行便が在日米軍基地に到着し、米軍将兵はそのまま基地の外にも出ていきます。日本政府がいくら水際防疫を強化しても、米軍基地という大きな穴があったわけです。今年に入って、沖縄では感染者がすさまじい勢いで増加しました。米軍基地がある日本国内の他地域でもそうでした。
 岸田文雄政権は米国に配慮してか、在日米軍基地が存在する地域の感染者急増との因果関係を認めず、したがって日米地位協定の改定の必要性も認めません。こうした事情が、選挙結果にどう影響するのか、しないのかにも注目しています。
 ことしは1972年に沖縄が日本に復帰して50年です。夏には参院選があり、秋には知事選が行われます。そこで示される沖縄の民意から何を読み取るのか。米軍基地の過剰な負担は沖縄の民意が求めたことではありません。その一方で、在日米軍による安全保障上の利益は日本本土も享受しています。このブログでも何度となく書いてきたことですが、その意味で、沖縄の基地問題に対しては、日本本土に住む日本国の主権者も当事者です。日本本土のマスメディアには、復帰50年の今年、沖縄で何が起きているのかを日本本土に伝えることに大きな責任があります。

 

【追記】2022年1月19日0時10分
 名護市長選告示について、東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が翌17日付朝刊でどのように報じたか、主な記事の見出しを書きとめておきます。
 1面で扱ったのは朝日新聞だけでした。本記のほかにサイド記事で、選挙戦の構図などをより詳細に報じたのは朝日、読売、産経、東京の4紙でした。
 このうち読売、産経両紙は、これまで社説などで再三、辺野古移設と新基地建設の推進を主張してきています。対して朝日、毎日、東京各紙は反対ないし慎重な論調です。17日付朝刊の報道で目を引いたのは、読売、産経が選挙報道の公平性を確保するためか、自紙の論調とは異なる新人候補の主張も丁寧に紹介している点です。結果として選挙報道の情報量としては毎日、東京を上回っています。特に産経が共産党の機関紙「しんぶん赤旗」の掲載記事まで紹介していることには意外な感じもしました。

▼朝日新聞
1面「辺野古移設巡り一騎打ち/名護市長選告示 現新、対応分かれる」
3面「沖縄選挙イヤー幕開け/辺野古移設 現職語らず・新顔『止める』/コロナ拡大 両陣営に戸惑い」
▼毎日新聞
2面「名護市長選一騎打ち/辺野古埋め立て後、初」
▼読売新聞
2面「名護市長選告示 一騎打ち/知事系・与党系 辺野古移設 焦点」
4面「コロナ拡大 舌戦一変/米軍基地周辺の感染 論点」
▼日経新聞
2面「名護市長選告示 現新の一騎打ち」(1段)
▼産経新聞
2面「名護市長選告示 現新争い/『持続発展を』『辺野古移設反対』/沖縄『選挙イヤー』幕開け」
「与党 落とせぬ『初戦』/コロナ拡大 逆風」
「野党 米軍クラスター/“失政”印象付け/地位協定の見直しも言及」
▼東京新聞
2面「辺野古争点 現新一騎打ち/名護市長選が告示」
「移設の賛否 問われ続け」

■辺野古移設に否定的な民意が「容認」を圧倒
 沖縄タイムスが実施した名護市内の有権者への電話世論調査によると、米軍普天間飛行場の辺野古への移設に対し「反対」が43・4%、「どちらかといえば反対」が18・7%で、否定的な回答が計62・1%を占めたとのことです。「容認」は12・8%、「どちらかといえば容認」は20・4%で計33・2%でした。
※「名護市長選、最も関心のある争点は? 無党派の動向は? 沖縄タイムス電話調査」

 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/896080

 琉球新報などの電話世論調査でも、辺野古移設を進める政府の姿勢に対して「支持しない」「どちらかといえば支持しない」が63.6%に上ったのに対し、「支持する」「どちらかといえば支持する」は31.0%でした。全世代で「支持しない」と答える割合が高くなったとのことです。
※「<名護市長選・序盤情勢>辺野古めぐる政府の姿勢『不支持』が63%」
 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1455951.html

 沖縄タイムスの調査、琉球新報などの調査とも、普天間飛行場の辺野古移設に否定的な回答の割合は6割超でほぼ一致しています。辺野古移設に限って言えば、有権者の6割超が否定的な考えを持っています。地元の民意は依然として、否定が容認を圧倒していると言っていいと思います。