日本の敗戦から80年のことし8月15日、各地で追悼式典が開かれたと報じられています。東京発行の新聞各紙の16日付朝刊は、東京・日本武道館で開かれた政府主催の全国戦没者追悼式の様子を始め、「敗戦80年」の関連記事を複数のページにまたがって掲載しました。1面トップで扱ったのは、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙。日経新聞は1面の2番手(準トップ)でした。各紙の1面の主な見出しは以下の通りです。
・朝日新聞「80年 平和継ぐ覚悟/追悼式 戦後生まれ半数超す」/「首相式辞に『反省』13年ぶり」/「天皇陛下 次世代に託す思い」
・毎日新聞「平和へ 決意刻む/首相式辞 13年ぶり『反省』/戦後80年 終戦の日」
・読売新聞「終戦80年 平和誓う/陛下『苦難語り継ぐ』/戦没者追悼式/参列遺族 戦後生まれ53%」/「首相 式辞に『反省』13年ぶり言及」/戦後80年 昭和百年 家族の記憶5「引き揚げ 夫婦作家に影/藤原てい・新田次郎 と次男の藤原正彦・妻の美子さん」
・産経新聞「終戦80年 平和誓う/陛下『戦中・戦後の苦難 語り継ぐ』/戦没者追悼式」/「首相式辞 13年ぶり『反省』/石破氏『見解』、発出時期調整」
・東京新聞「不戦80年 これからも」/戦後80年私のことば「終戦の年 少年の日記-8月『下』 甘いキャラメル 平和の味」
・日経新聞「『戦争の反省 胸に刻む』/『進む道を間違えない』/戦後80年 終戦の日式辞/首相、不戦継承の思い込め」
戦争を直接経験した世代がいなくなるのも、そう先のことではありません。戦争体験の継承が社会の課題になっていることが、各紙の見出しに反映されているように感じます。
各紙とも15日付や16日付の社説でも、「敗戦80年」を取り上げました。その中で目を引いたのは、朝日新聞の15日付社説です。米国や英国との太平洋戦争の以前から、日本が中国と戦争していたことに焦点を当てています。
▽朝日新聞
・8月15日付「戦後80年と日本 歴史を見過ごさないために」/対米戦だけでなく/大義なき日中戦争/すれ違う歴史認識
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16281637.html
書き出しは以下の通りです。
80年前に日本の敗北で終わった戦争を振り返るとき、思い浮かぶものは何だろう。真珠湾攻撃、ミッドウェー海戦。硫黄島の戦い。東京大空襲、沖縄戦。広島、長崎への原爆投下。これらはいずれも対米戦だ。戦いが終わった時点で中国に100万人を超す日本の将兵がいたこと、日本と戦う連合国に中国が含まれていたことが忘れられがちではないだろうか。
■対米戦だけでなく
日中戦争は1937年7月に始まった。12月には日本軍が中国の当時の首都南京を占領、多くの市民を殺害する南京事件を起こした。中国の国民党政権は首都を重慶に移し抵抗を続ける。高校の歴史教科書の説明はここまでか、40年ごろで終わるものが多い。
中国との戦争を巡っては、7月の参院選で当選した参政党の議員が、南京虐殺はなかったとの趣旨の主張をしています。神谷宗幣代表も同調しています。日本政府が、犠牲者の人数はともかく「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています」と公式に見解を表明しているのにもかかわらずです。
※参考 外務省:アジア 歴史問題Q&A
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/qa/
史実を否定する、直視しようとしない人たちは以前からいました。しかし、敗戦から80年の節目の年に、国会で無視できない地位を占めるようになるとは、思いもしませんでした。
歪んだ歴史観や、排外主義をあおる政治勢力が支持を集めていることに対しては、他紙も民主主義を危うくするとの懸念を記しています。戦争の歴史の継承は、まさに社会的な課題だと感じます。
以下に全国紙5紙の「敗戦80年」に関連する社説、論説に見出しを書きとめておきます。いずれも、各紙のサイトで全文を読むことができます。朝日、毎日、読売、日経の4紙は、本文の一部を書きとめておきます。
■朝日新聞
・8月15日付「戦後80年と日本 歴史を見過ごさないために」/対米戦だけでなく/大義なき日中戦争/すれ違う歴史認識
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16281637.html
対中国戦を忘れがちな日本と、抗日戦を強調する中国。このすれ違いが、日中間の歴史問題の根底にあったのではないか。中国側による歴史の政治利用は事実の誇張や無視を伴いがちで、距離を置くべきであるとしても、史実に無関心であることは避けたい。
戦争をめぐる歴史を直視することは決して隣国対策ではない。他国に武力を用いず、国際協調主義を歩んできた戦後日本の大事な原点である。
時間とともに社会の記憶は薄れていくが、「80年が過ぎたからこそ歴史として書ける」と広中さんは前向きに捉えている。「戦争に関わった当事者がいなくなることで、フラットに戦争を総括できる段階になったと思う」
中国から太平洋へと戦線を広げた歴史には、まだ掘り起こしを待つ事実があるだろう。シンガポール、フィリピンを含む東南アジアにも日本軍の爪痕が残る。過ちを含む史実を伝えることは後の世代の務めだ。見過ごしてきたことはないか、不断の問い直しを続けたい。
・8月16日付「終戦の日と首相 平和国家 未来像語る時」
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16282273.html
きのうは石破内閣の閣僚である加藤勝信財務相、小泉進次郎農林水産相のほか、自民の高市早苗、小林鷹之、萩生田光一氏らが靖国神社に参拝した。参院選で躍進した参政党は、国と地方の議員が大挙して参拝した。
戦前の軍国主義を支えた国家神道の中心的施設に、政治指導者が参拝することは、戦争への反省を忘れ、過去を正当化しようとしていると見られても仕方あるまい。
戦争体験者が減り、記憶の風化とともに、実相が正しく伝わらず、歴史の美化や改ざんがまかり通る。とりわけ参政は、戦後の歴史認識や歴史教育に異論を唱え、核武装に言及した議員もいる。
多大な犠牲の上に築かれた戦後の歩みを顧みることなく、不都合な事実から目を背けていては、同じ過ちが繰り返されかねない。首相はきのう、「分断を排して寛容を鼓(こ)し、より良い未来を切り拓(ひら)く」とも述べた。そのための具体的構想を、自らの言葉で語る必要がある。
■毎日新聞
・8月15日付「戦後80年 終戦の日 平和つくる行動を今こそ」/まかり通る強者の論理/「自国第一」から決別を
https://mainichi.jp/articles/20250815/ddm/002/070/056000c
トランプ政権が世界の安定に背を向ける今、問われているのは、戦後日本の歩みを踏まえ、自ら平和を創出する構想力である。
焦眉(しょうび)の急は秩序の立て直しだ。グローバルサウスに耳を傾け、公正な国際ルールを作る。日本の国力低下を嘆くのでなく、「中堅国が小国と手を携えて存在感を発揮できる国連」(中満泉・国連事務次長)の機能を強化すべきだ。
自由貿易体制を守らなければならない。東南アジア諸国や欧州連合(EU)と対話を深め、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を拡大するのは理にかなう。
東アジアに安定をもたらす環境整備も急がれる。日本は信頼の醸成に向け、地域対話の枠組み創設を提唱すべき立場にある。
肝要なのは、戦前に見られたような「日本中心のアジア主義」の押しつけでなく、対等なパートナーとして協働する姿勢だ。
・8月16日付「『終戦の日』談話見送り 首相は反省と教訓明示を」
https://mainichi.jp/articles/20250816/ddm/002/070/059000c
法の支配に基づく戦後秩序は、崩壊の危機に直面している。世界では戦火が絶えず、「自国第一主義」のような内向きな考えが各国で広がっている。
国内の政治家からは、沖縄戦などの史実をゆがめる発言が繰り返されている。唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器の保有を「安上がりだ」と主張する人物が国会議員となった。
戦争体験者が減り、戦後生まれの世代が大半を占める時代を迎えた。記憶の継承は困難となり、風化が危ぶまれている。
こうした状況だからこそ、政治指導者が戦争を巡る認識を示し、国民や国際社会と共有する意義は大きいはずだ。
首相は戦後日本の不戦の歩みを踏まえ、世界の平和構築に力を尽くすとのメッセージを打ち出すべきだ。
■読売新聞
・8月15日付「戦後80年 平和の回復に向け先頭に立て/日本外交の構想力が問われる」/国連の立て直しが急務/ポピュリズム広がる/「力の空白」どう回避
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20250814-OYT1T50280/
日本は長年、政府開発援助(ODA)などを通じて途上国に協力してきた。中東諸国とも良好な関係にある。そうした蓄積を生かし、紛争当事国への働きかけも強めなければならない。
国連安保理は、米国の影響力の低下やロシアの暴挙によって機能不全に陥っている。
国連総会の決議に法的拘束力はないが、ロシアなどが総会決議を順守するよう、日本は加盟国と協力して国際世論の形成に力を尽くしていくことが重要だ。
(中略)
国際情勢は先を見通しにくくなっている。トランプ米大統領は「米国第一」を掲げ、同盟国にまで高い関税をかけた。
欧州では、移民や難民の受け入れ政策への不満から、排外的なポピュリズム(大衆迎合主義)が横行し、戦後の発展を担った穏健な中道勢力は後退している。
日本も例外ではない。戦後長く主要な立場にあった既成政党が国民の信頼を失い、代わりに、排外主義のような主張を掲げた野党の新興勢力が台頭し始めた。
岐路にある民主主義をどう立て直していくかは、日本を含む各国にとって重い課題だ。
民主主義国がどこも内向きになっている現状は、「力の空白」を招きかねない。領土や資源を不当に奪おうとする勢力が、一層力を増す恐れがある。
・8月16日付「終戦の日 80年続いた平和を次の世代に」
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20250815-OYT1T50303/
追悼式に参列した遺族は、戦後世代が初めて半数を超えた。一方、軍人恩給を受給する元兵士は今年1000人を下回った。80年という歳月は、戦争を、同時代史から歴史へと変えつつある。
大戦の末期、フィリピン・ルソン島の激戦地・バレテ峠で戦った鳥取県の兵士らが1968年に設立した「バレテ会」は今年、ホームページを開設した。
会員の高齢化に伴い、来春解散するため、活動の記録を残すのが目的だ。バレテ峠の慰霊碑は地元の行政機関が管理するという。
ただ、こうした例は少ない。海外では近年、訪れる人もなく、荒廃が進む慰霊碑の管理が課題となっている。建立した戦友会などの解散で放置され、撤去を求められているケースもある。
国は、国内外の慰霊碑の管理状態を調査している。維持が難しい場合は撤去する必要もあろう。
一方で、惨禍の歴史を伝える取り組みは一層重要となる。
戦後世代が、戦中・戦後の暮らしや労苦を学び、学校などで伝える「語り部」の活動が各地に広がっている。戦争体験者が健在なうちに、さらに育成を進めたい。
■日経新聞
・8月16日付「戦後80年の警鐘を平和への誓いに」/なぜ戦争は起きたのか/無責任体制に堕すな
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK143IH0U5A810C2000000/
国民は開戦を歓迎し、すっきりした解放感が広がった。近現代史研究の辻田真佐憲氏は近著「『あの戦争』は何だったのか」で、明治以来抱えてきた自画像のねじれが解消したからだとみる。
日本はいち早く列強入りした。だが欧米には差別を受け、アジアには植民地支配は欧米と同類と批判される。このもやもやした思いが、米国に対峙する開戦で振り払われたという見方だ。
これは外国人への不満を選挙で晴らすのに似て危うい。国際社会では、イスラエルとの関係のように矛盾や曖昧さは国家につきものだ。居心地の悪さに耐えながら、その時々で複雑な方程式を解くのが政治の役割である。
戦後日本も平和憲法と自衛隊、被爆国と米国の核の傘への依存という矛盾を抱える。平和国家を唱えるとき、戦争が絶えぬ現実をきちんと踏まえてきただろうか。自らの歩みを顧み、国際秩序の再構築にどう貢献するかを考えるのも戦後80年の意義である。「戦後」を終わらせてはならない。
■産経新聞
・8月15日付「主張」特別編・榊原智論説委員長「日本断罪から決別したい 靖国神社参拝で慰霊と顕彰を」/人種平等に力尽くした/「戦後平和主義」の限界
https://www.sankei.com/article/20250815-3TODN6CFWRLPLHXMYTZDBA4S6U/