自民党の高市早苗総裁が10月7日、新執行部を発足させました。わたしなりの受け止めを言えば「派閥支配」と「裏金政治家のなし崩しの復権」です。刷新感は皆無。後退、劣化の感しかありません。連立政権を組んできた公明党も、高市自民党との連立継続を即断できず、党内には連立解消論もあると報じられました。石破茂首相の後任の首相を決める臨時国会開催は、当初の見通しよりも遅れ、10月20日以降になりそうです。その間、首相と自民党総裁が別、という状態が続きます。高市総裁の選出がもたらしたいきなりの政治的混乱だと感じます。
■「人事は全てお任せ」
自民党の副総裁に就いた麻生太郎元首相は、党内で唯一残った派閥のオーナー。鈴木俊一幹事長はその麻生派の重鎮で、念の入ったことに麻生元首相の義弟です。有村治子総務会長も麻生派です。総裁選では、麻生元首相が「高市勝利」の流れを作りました。このブログの一つ前の記事でも触れましたが、高市氏は麻生氏に対して、「『総裁選後の人事は全てお任せします』と確約していた」(共同通信)と報じられていました。まるでその通りの結果のようです。「論功」を超えた、あまりにも露骨な「麻生支配」だと感じます。
もう一つ、「まさか、本当にやるのか」と驚いたのは、萩生田光一・元政調会長の幹事長代理代行就任です。旧安部派の有力者の一人。パーティー券裏金事件では2728万円の不記載がありました。いったんは不起訴になっていた秘書が、検察審査会の議決を経て今年8月、政治資金規正法違反罪で略式起訴され、罰金刑になりました。
党の処分を終えていること、昨年の衆院選で信任を得ていることで、いわゆる「みそぎ」は済んでいる、ということのようです。しかし、秘書の立件はその後のこと。しかも、一般社会の判断の反映である検察審査会の議決を経た再捜査による立件です。総裁選直後に共同通信が実施した世論調査では、裏金事件に関与した議員を党役員や閣僚などの要職に起用することに反対との回答が77%に上っています。にもかかわらず裏金議員を要職に就けるとは、「政治とカネ」に対する高市総裁の感覚は、社会一般の意識と相当にずれていると受け止めざるを得ません。
■改革どころか逆行
東京発行の新聞各紙も、10月8日付の朝刊紙面では、さすがに批判や疑問を投げかけるトーンが目立ちました。6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の紙面を対象に、どんな見出しで報じたか、目についたものをまとめました。
「論功」「古い自民党」「派閥政治」などの表現が目立ちます。中でも日経新聞の「党内政権交代」の見出しは、事の本質をよく言い表していると感じます。
もう一つ、目を引いたのは、社論として自民党支持が顕著な産経新聞が、1面トップ記事の主見出しに自民党と公明党の連立協議持ち越しを据えたことです。「自公の連立協議が一度で合意に至らないのは極めて異例」としています。仮に連立継続、高市政権発足となったとしても、自公の結束には質的な変化が避けられないように感じます。
「高市体制」に公明党が抱いている懸念は①政治とカネ②靖国神社参拝など歴史認識問題③外国人排斥-の3点だとされます。②は、例えば安倍晋三元首相の例のように、首相在任中は参拝を控える対応もありそうです。③もこれからの施策の問題です。しかし、①の政治とカネは、裏金事件の最大の要因だった党内の派閥支配が、解消どころか、派閥や旧派閥の枠組みが総裁選の行方を決定づけ、唯一残っている麻生派が最大の“役得”を得ているような状況です。加えて、萩生田氏を“実質幹事長級”で重用を決めたことは、改革どころか逆行のイメージを決定づけているように思えます。
読売新聞は8日付朝刊の2面に「公明内に『連立離脱論』/『政治とカネ』強い懸念」の見出しを立てていました。自民党の国会議員には、公明党や支持母体の創価学会の支援がなければ当選がおぼつかない議員は少なくないはずです。連立協議の行方は、自民党内の高市総裁の求心力にも少なからず影響があるはずです。
■政治報道も真価が問われている
臨時国会開会までに時間があるということは、自民・公明両党の間だけでなく、野党間でも、自民党内でもいろいろ対応する時間があるということです。高市総裁選出の直後、新聞、放送の多くは一斉に「初の女性の首相へ」と報じました。その通りに進むのかどうか。マスメディアの政治報道もまた、取材や伝え方をめぐって、真価が問われているとの自覚が必要だと思います。