一つ前の記事の続きです。
共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が10月23日、自民党の派閥パーティー券裏金事件で自民党を非公認となった候補に関して、候補が代表となっている自民党支部に選挙の公示直後、党本部から政党助成金2000万円が振り込まれていたと伝えました。これに対して自民党が24日、反論しました。石破茂首相・自民党総裁は、広島市の街頭演説で「非公認候補ではなく政党支部に出している。このような時期に報道が出ることに誠に憤りを覚える」と述べたと報じられています。自民党本部からは、2000万円の支給を正当化する文書を党内向けに送ったとのことです。
共同通信の記事の一部を引用します。
自民は同日、2千万円の支給を正当化する文書を党内向けに送ったと発表した。「しんぶん赤旗」が非公認候補に公認料を出したかのように報じたとして「事実を曲解し、誤解を誘導する」と指摘。「裏公認との指摘は一切当たらない」と主張した。
文書では政党交付金を原資に、選挙に際して党勢拡大を目的として支給したと強調。非公認となった無所属候補が衆院選に出馬した場合、自身の選挙運動に使うことはできないと説明している。
「石破首相、共産機関紙に反論 立民『裏公認』重ねて批判」
https://www.47news.jp/11667244.html
反論というより苦しい弁明との印象です。
自民党の説明には、すぐにいくつもの疑問が浮かびます。共同通信がまとめている説明文書のポイントごとに、思いつくままに挙げてみます。
▼共産党機関紙「しんぶん赤旗」は自民党が非公認候補に公認料を出したかのように報道。事実を曲解し、誤解を誘導。
→支部に支給したのだったら支部長はそのお金を使えるのではないか、となるのが一般的な考え方、受け止め方ではないか。
▼「政治とカネ」問題とは全く異なり、法律的、倫理的に後ろ指をさされるものではない。
→この衆院選は「政治とカネ」が主要争点の一つのはず。そのさなかでの出来事なのに、「『政治とカネ』問題とは全く異なる」との認識でいいのか。
▼自民は通常、政党支部に年4回、政党交付金を支給。選挙に際しては別途支給。
▼今回は、あくまで政策PRなど党勢拡大のため支部に支給。公認とは無関係で「裏公認」との指摘は一切当たらず。
→公認候補が支部長の支部には「公認料」500万円、「活動費」1500万円の明細を示している。非公認候補が支部長の支部にも同額の2000万円を支給していることとの整合性がない。
▼非公認となった支部長が無所属候補として立候補した場合、自身の選挙運動には使えず。
→党則や党の内規に規定があるのか。“使った者勝ち”にならないか。使ったかどうかチェックできるのか。使っていたら処分するのか。
次から次に「?」が浮かびます。
やはり、公認候補の支部と金額が同じだという点は不自然です。公認候補が支部長を務める支部には「公認料」500万円、「活動費」1500万円として支給されたことを、しんぶん赤旗は自民党の内部文書とともに伝えています。自民党が主張するように、非公認の候補の選挙には使えないのであれば、公認料に当たる500万円分は差し引いて支給して当然だと思うのですが、そうはなっていません。むしろ、非公認の支部長の支部を、活動費では公認の支部長の支部より優遇している、と受け取ることもできそうです。
【写真】しんぶん赤旗の24日の続報。自民党が公認候補が支部長の支部には「公認料」「活動費」の明細を明示している党内文書を掲載しています(赤枠の部分)
2000万円の支給を受けた非公認の候補の反応にも、「おや?」と思うものがあります。萩生田光一・前議員は24日、X(旧ツイッター)に動画を投稿し、2000万円の振り込みを確認したとした上で、「ありがた迷惑だ」と発言。自民党執行部への不信を隠そうともしていません。無所属での立候補で自民党の選挙公約も届いておらず、支給された資金を党勢拡大の何について使用できるのか分かりにくい、誤解を招く、などと指摘しており、自民党の主張との齟齬が目立ちます。こうなってくると、しんぶん赤旗の記事の出方も含めて、背後でどんな動きがあったのかが気になります。
自民党本部からの政党交付金について pic.twitter.com/cJnFwF584c
— 萩生田光一事務所【前衆議院議員・東京24区】 (@officeofhagiuda) 2024年10月24日
萩生田・前議員の動画は一方で、自民党の支部が支部長個人の活動とは不可分であることを如実に示しています。
石破首相はこれまで、裏金事件の直接の当事者ではなく、自民党の新総裁として真相解明や関係議員の処分、再発防止に責任が問われる立場でした。今回の非公認支部長支部への2000万円支給によって、「政治とカネ」の直接の当事者になりました。しんぶん赤旗の最初の記事が出た段階では見るべき対応がなく、新聞、テレビの報道が出そろってから慌ててしんぶん赤旗を批判するさまを目にすると、そもそもこの選挙で何が問われているかの自覚が石破首相には希薄だったと考えざるを得ません。