10月27日に投開票の衆院選を巡り、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が10月23日、自民党の派閥パーティー券裏金事件で自民党を非公認となった候補に関して、候補が代表となっている自民党支部に選挙の公示直後、党本部から政党助成金2000万円が振り込まれていたと伝えました。自民党の森山裕幹事長が同日、内容をおおむね認めたことから、新聞各紙も報じました。
「しんぶん赤旗」の記事は、共産党の公式サイトにある同紙のページで読めます。
※「裏金非公認に2000万円 公認と同額 自民本部が政党助成金」
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik24/2024-10-23/2024102301_03_0.html
わたしなりに記事のポイントを整理してみました。
・自民党の公認候補の党支部には、「公認料」500万円、「活動費」1500万円の計2000万円が支給されている
・裏金事件で非公認となりながら党支部長のままの候補は8人。ある支部の会計責任者は「党本部から党勢拡大のための活動費ということで2000万円が振り込まれた」と認めた
・非公認支部の会計責任者によると、党本部から届いた13日付の文書には「公認料」の文言はなく、2000万円を「党勢拡大のための活動費」として振り込むという内容だった
自民党の森山幹事長は新聞やテレビ各社の取材に対し、非公認候補が支部長の支部にも2000万円を支給したことを認めた上で「『党勢拡大のため』とし、個人の選挙目的ではないと強調した」(朝日新聞)と報じられています。
しんぶん赤旗の記事でも、非公認支部長の支部に届いた党本部からの文書に「党勢拡大のための活動費」と記載されていたとのことです。しかし、それなら公認候補の「公認料」500万円分が差し引かれていてもいいはずです。支出が党支部の裁量に委ねられているのだとしたら、非公認であっても公認候補と同等の資金を選挙戦に使うことが可能になります。しかも選挙は党勢拡大の最大の機会です。「非公認の裏金候補支部に裏の資金支援」とみられても仕方がありません。
自民党の支部は衆院選の小選挙区ごとにあります。非公認を決めた時点で、党の支部長から外すといった対応も可能だったのではないか。党内処分に厳しさが欠けていた、つまりは裏金事件の反省もその程度なのか、と感じます。
一般に衆院選では、選挙期間の最後の数日で情勢が大きく変わることがあります。とりわけ支持政党を持たない「浮動票」の層は、多くの有権者が最終的な投票先(棄権や白紙を含めて)をこの時期に決めます。そのタイミングで、裏金事件で逆風にさらされる自民党が新たな火ダネを抱え込みました。共産党は自公政権に対決色を鮮明にしており、その党勢拡大を本務とする機関紙として、「しんぶん赤旗」の面目躍如だと感じます。
この非公認候補側への2000万円支給について、全国紙と東京で政治報道を展開している東京新聞、地方紙に記事を配信している共同通信に加え、NHKも対象に、デジタル上でどのように報じたかを見てみました。記事の見出しなどを以下にまとめました。
興味深いのは「しんぶん赤旗」についてどのように言及しているか、媒体ごとの違いです。
記事のリードで明記しているのは毎日、読売、産経、東京の4紙です。しんぶん赤旗が伝えた内容に対して、自民党の森山幹事長がコメントしたとの構成です。共同通信は赤旗のことは第2段落、日経新聞は第5段落ですが、記事の基本的な構成は同じです。
これに対して朝日新聞の記事のリードは「党関係者への取材で分かった」との書き出し。赤旗のことは記事の末尾で「この問題は、共産党機関紙『しんぶん赤旗』が、23日付紙面で報道した」と触れています。
NHKは「しんぶん赤旗」に触れていません。「一部で報じられました」との書き出し。日付が変わって24日未明に自局サイトにアップロードしています。新聞各紙の記事がデジタルでは出そろっていた時間ですので、「一部」はそのことを指すとも読めます。わたしの個人的な関心ですが、政党機関紙の記載内容も選挙期間中は選挙運動の性格を帯びると解釈し、選挙報道の公平性の観点から言及を控えた可能性はないのか、気になります。
以下に、それぞれの記事のリンク先とリード部分を書きとめておきます。
■朝日新聞「裏金非公認側に2千万円 自民党本部から支部へ 公認候補と同額」
https://digital.asahi.com/articles/ASSBR3T7QSBRUTFK01GM.html
自民党の派閥裏金問題を受けて衆院選で非公認になった候補について、党本部から各候補が代表を務める政党支部へ2千万円の活動費が支出されていたことが党関係者への取材で分かった。森山裕幹事長は「党勢拡大のため」とし、個人の選挙目的ではないと強調したが、公認候補へも同時期に公認料と活動費をあわせた計2千万円が支給されており、詳しい説明が求められそうだ。
■毎日新聞「自民、非公認候補の党支部に2000万円 『公認と同じ』野党批判」
https://mainichi.jp/articles/20241023/k00/00m/010/241000c
自民党派閥裏金事件で非公認となった候補が代表を務める党支部に対し、党本部が、税金を原資とする政党交付金から2000万円を支給していたことが23日、判明した。共産党機関紙「しんぶん赤旗」が報じた。自民党の森山裕幹事長は同日、「党勢拡大のための活動費として(党支部に)支給した。候補者に支給したものではない」とのコメントを出した。
■読売新聞「非公認候補に自民が2000万円、税金原資の政党助成金から党支部へ…立憲・野田氏『どうみても公認料だ』」
https://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/20241023-OYT1T50155/
自民党の森山幹事長は23日、政治資金収支報告書の不記載問題で非公認となった候補が代表を務める党支部に対し、党本部が2000万円を支出したと共産党の機関紙「赤旗」が同日報じた内容を認めた。談話を発表し、「党勢拡大のための活動費として支給した」と説明した。
■日経新聞「自民、非公認候補支部に政党交付金 森山幹事長が認める」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA232MW0T21C24A0000000/
自民党の森山裕幹事長は23日、派閥の政治資金問題を巡り衆院選(27日投開票)で非公認とした候補の党支部に政党交付金2000万円を振り込んだことを認めた。「政党支部に党勢拡大のための活動をしてもらう趣旨で支給した。候補者に支給したものではない」と説明した。
■産経新聞「自民党非公認候補の支部に活動費 森山裕幹事長『党勢拡大のため支給』とコメント」
https://www.sankei.com/article/20241023-NGCHLQACWFOE5AM6H7K75HOU64/?outputType=theme_election2024
自民党派閥パーティー収入不記載事件を巡り、衆院選で非公認となった候補が代表を務める党支部に党本部から活動費が支給されていたと、共産党機関紙「しんぶん赤旗」が23日報じた。これを受け、自民の森山裕幹事長は「党勢拡大のため活動していただきたいという趣旨で支給した」とのコメントを発表した。候補者本人に支給したものではないとしている。
■東京新聞「『非公認でも支払う』自民、裏金議員側に政党助成金『2000万円』支給 厳しい対応は見せかけだったのか」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/362154
自民党の森山裕幹事長は23日、派閥裏金事件を巡り、衆院選で非公認とした候補が代表を務める党支部に活動費を支給していたと明らかにした。党勢拡大が目的だと説明し「候補者に支給したものではない」と強調した。共産党機関誌「しんぶん赤旗」の報道を受け、森山氏がコメントを出した。赤旗は、非公認候補が代表を務める党支部に、衆院選公示直後に2000万円が振り込まれたと伝えた。
■共同通信「自民、裏金非公認支部へ2千万円 森山幹事長『党勢拡大の活動費』」
https://www.47news.jp/11663783.html
自民党の森山裕幹事長は23日、派閥裏金事件を巡り、衆院選で非公認とした候補が代表を務める党支部に活動費を支給していたと明らかにした。党勢拡大が目的だと説明し「候補者に支給したものではない」と強調した。党関係者は、公認の有無にかかわらず党支部に2千万円を支給したと説明した。一方、立憲民主党の野田佳彦代表は事実上の支援に当たるとして批判を強めた。
■NHK「“自民 非公認の候補者が代表の政党支部に2000万円支給”報道」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241023/k10014616941000.html
今回の衆議院選挙で自民党から公認されなかった候補者が代表を務める政党支部に、党本部が選挙の公示後に2000万円を支給していたと、一部で報じられました。森山幹事長は「党勢拡大のための活動費として支給したものだ。候補者に支給したものではない」とするコメントを発表しました。
ちなみに、この自民党派閥のパーティー券裏金事件の端緒はしんぶん赤旗でした。その記事を目にした神戸学院大の上脇博之教授も調査し、東京地検に告発。検察による立件へ至った経緯があります。
新聞業界では、2024年度の新聞協会賞が朝日新聞社の「自民党派閥の裏金問題をめぐる一連のスクープと関連報道」に贈られています。
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※追記 2024年10月25日9時
石破首相は24日になって、しんぶん赤旗を批判しましたが、もはや「政治とカネ」の直接的な当事者です。続報の記事をアップしました。