衆院選が10月15日、公示されました。
自民党派閥パーティー券裏金事件に絡んで岸田文雄・前首相が自民党総裁選に立候補せず、石破茂新総裁が首相に就任して8日後の解散に続く総選挙です。マスメディアの報道では、主な焦点としてまず「政治とカネ」あるいは政治改革、次いで物価高や景気対策、安全保障や外交などがあがっています。
全国紙5紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞)と東京で政治報道を展開している東京新聞の6紙について、公示日の15日に各紙のサイトにアップしたデジタル記事の見出し、16日付朝刊紙面の1面トップに掲載した見出し、16日付の社説の見出しを以下にまとめました。

各紙のデジタル記事はリードで、今回の選挙の争点や焦点を以下のように表記しています。
■朝日新聞
「自民党派閥の裏金問題を受けた改革を各党が大きな争点に位置づけるなか、政治の信頼回復につなげられるのかが問われる。物価高への対応をはじめとする経済対策、外交・安全保障政策なども大きな争点となる。」
■毎日新聞
「1日に石破茂首相が就任したばかりの自公連立政権の信任を問う。自民党派閥による裏金事件を受けた『政治とカネ』の問題が最大の焦点となる。物価高を踏まえた経済対策や安全保障政策なども争点だ。」
■読売新聞
「自民党単独または自民、公明両党で定数465の過半数(233議席)を確保できるかどうかが焦点で、発足直後の石破政権への信任が問われる選挙となる。経済対策や自民の『政治とカネ』の問題を受けた政治改革などを争点に、投開票日の27日に向け12日間の論戦が始まった。」
■日経新聞
「経済の成長戦略や暮らしに身近な賃上げや物価高への対応などをテーマに論戦を交わす。自民党派閥の政治資金問題を受けた政治改革への有権者の関心も高い。」
■産経新聞
「石破茂首相(自民党総裁)の下での自民、公明両党連立政権の信任を問う。派閥パーティー収入不記載事件を受けた『政治とカネ』への対応が最大の争点となる。与野党は物価高克服に向けた経済や安全保障政策を巡っても論戦を展開する。」
■東京新聞
「自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた『政治とカネ』への対応が最大の争点。対応の遅れが指摘された物価高などの経済対策、増税前提の防衛費大幅増などの外交安全保障政策も問われる。有権者が『信頼できる政治』を選ぶことができる政権選択の機会は2021年10月の衆院選以来3年ぶり。」
この衆院選で問われるのは「政治の信頼」であることは、各紙の報道の通りだと思います。裏金問題を抱える自民党はもちろんのこと、野党側も、少なくとも信頼が高まっているとは言い難い状況です。自民党、公明党の連立に代わる政権交代の受け皿になりうる共闘の枠組みは作りませんでした。小選挙区で野党候補の競合が目立ち、それぞれの党利党略で臨んでいるように感じます。
立憲民主党の野田佳彦・新代表に対して世論調査では、「期待する」が半数前後に達してはいるものの、「期待しない」は、石破内閣の不支持率を上回る水準にあることは、このブログの以前の記事でも紹介しました。「政治の信頼」のキーワードは裏返して言えば「既成政党への不信」であり、それは自公の与党に限ったことではないと感じます。
そんな中で懸念するのは、マスメディアがあまり取り上げていない別のキーワードがあるのではないか、ということです。「ナショナリズム」です。
15日の各党党首の街頭演説などでのいわゆる「第一声」で、「おやっ」と思ったのは、参政党の神谷宗幣代表です。「『政治とカネ』に国民の関心はあるだろうか」と問いかけ、「争点は、激動する国際情勢の中で日本がどう生き残るかだ」と強調。自民党や立憲民主党、日本維新の会を「駄目」と断じて、「選択肢は減税を訴える政党だが、その中でナショナリズムがいいなら参政党しかない」と訴えています。毎日新聞、産経新聞、東京新聞の紙面に同じ記事が載っており、共同通信の配信記事のようです。
ナショナリズムは人の感情を強く揺さぶります。日本保守党の主張も同様です。産経新聞が百田尚樹代表の「第一声」を紙面で紹介しています。「日本は、日本人はもっと幸福になるべきだ。日本は世界最高の国だ」と強調し、有本薫事務総長は「北朝鮮による拉致問題や外国資本による不動産買収など真面目にやっている政党はない。新しい選択肢を増やしましょう」と訴えたとのことです。
昨年結成の日本保守党は国会に議席がなく政治的な実績が未知数のため、他紙はほとんど動向を取り上げていません。国政復帰を目指す河村たかし前名古屋市長を短く紹介する記事がいくつか目につく程度です。百田尚樹代表はベストセラー作家として知名度が高く、現在の自民党に飽き足らない右派層に支持を得ています。
思い起こすのは、ことしの東京地知事選です。当初は現職の小池百合子知事に、立憲民主党の蓮舫参院議員が議員を辞して挑む一騎打ちの構図で報道されていました。しかし、ふたを開けてみれば、小池知事が291万票で3戦を果たしましたが、2位はネットの動画を駆使した石丸伸二・前広島県安芸高田市長。得票は165万票に上り、蓮舫元議員は128票で3位でした。新聞各紙が石丸前市長のこれほどの勢いに気付いたのは選挙戦も終盤になってからだと思います。
新聞の報道が以前のようには社会に届かなくなっている中で、新聞の情勢報道とは別の光景が、有権者の前には広がっていた可能性があります。都知事選報道の経験から何かを学ぶとすれば、その点が重要だと思います。
既成政党が信を失っている中で、感情に訴えかける政治勢力が支持を伸ばす-。1930年代のドイツでヒトラー率いるナチスが政権を獲得していった歴史が頭に浮かびます。それぞれの政党が政策を競うのが民主主義の本来のありようです。今、日本の社会で、既存政党がそれぞれの党利党略を争う中で、有権者の目にはどんな光景が見えているのか。それもこの衆院選の焦点だと思います。