自民、公明両党の与党が大敗した衆院選の結果を、地方紙はどんなふうに見ているか、10月28日付、29日付の社説、論説を各紙のサイトでチェックしてみました。
全文を読めたものに限ってのことですが、自公の大敗の直接の要因は自民党派閥パーティー券裏金事件に代表される「政治とカネ」への有権者の怒りだとしても、選挙で問われたことの本質は、第2次安倍晋三政権以降、12年間に及んだ「自民1強」政治だった、との指摘がいくつも目につきました。
表裏一体のことになりますが、今後の政治に求めるキーワードとして「熟議」を使っている社説、論説が目立ちます。「『1強』はもう存在しない。政党同士が譲り合わなければ動かない政治状況は、熟議を通じて新たな政策実現が可能な環境とも言える」(神戸新聞28日付社説)との指摘は印象に残ります。
議席の過半数を押さえる政治勢力が見えない状況では、ともすれば「混乱」「混迷」とか「決められない政治」などとネガティブな評価が出てきがちです。しかし、有権者の選択に信をおくことなしには、民主主義は成り立ちません。民意が選び取った「熟議」こそ、これからの政治に欠いてはならないことだと思います。
以下に、いくつかの社説、論説の一部を書きとめておきます。
■北海道新聞 28日付「衆院選で自公過半数割れ 裏金への怒り受け止めよ」
今回は、第2次安倍晋三政権以降の12年間にわたる自民1強体制を問う選挙でもあった。
裏金問題をはじめとする不透明で強権的な政治は、そのおごりから生まれたと言っていい。
これまで圧倒的多数を占めてきた自民党の大敗は、有権者の1強政治そのものへの不信の表れにほかならない。
■福島民報 28日付「与党過半数割れ 民意にどう向き合うか」
共同通信社が選挙戦中盤に実施した第2回衆院トレンド調査では、望ましい選挙結果として「与党と野党の勢力が伯仲する」との回答が49・7%に上った。圧倒的多数を占めた自民党による政権は、年を重ねるごとに「数による横暴」と映る場面が増えたと国民が捉えたのだろう。一方で、野党に政権交代の可能性を与えた。有権者が投票によって示す民意とは、実にうまくできている。絶妙なバランス感覚が議席に反映された。
■福島民友新聞 29日付「衆院選・低い投票率/権利放棄が政治の緩み許す」
裏金事件の根底には、「1強他弱」による自民のおごりがある。国会を軽視し、不祥事への批判にも意に介さぬような振る舞いで、自浄作用が働かない自民の体質的な問題が放置されてきた。
今回は野党が自民への批判票の受け皿となり、与野党の勢力が伯仲する状況が生まれた。国会では厳しい政治改革の議論が展開されるはずだ。1票を積み重ねることで現状が変えられることを、有権者は改めて銘記してほしい。
■信濃毎日新聞 28日付「自民党が大敗 傲慢な『1強』政治の帰結」
自民が政権に復帰した2012年末の第2次安倍晋三政権の誕生から続いてきた「1強多弱」に終止符が打たれたことになる。
原因は明確だ。「政治とカネ」の問題を軽視し、国民の厳しい批判に向き合わなかったことだ。巨大与党の議席数におごって少数意見に耳を貸さず、議論をおろそかにする強引な手法を繰り広げてきた自民党政治の帰結である。
■中日新聞・東京新聞 29日付「自民1強終焉 熟議の政治を取り戻せ」
衆院選では自民、公明の与党が過半数を割る一方、野党第1党の立憲民主党も過半数勢力を結集するに至っていない。「自民1強」の終焉(しゅうえん)とも言える与野党伯仲。幅広い合意形成なくして政策を遂行できない状況を、熟議の政治を取り戻す好機に転じるべきだ。
■京都新聞 29日付「自民『1強』終止符 熟議を通して政治を進めよ」
衆院選で、有権者は自民党「1強」の政治に終止符を打った。それは2012年から続いた安倍晋三政権と、その下で党内最大勢力となった安倍派を軸とした強権的な政治に「ノー」を突きつけたともいえよう。
(中略)
内外に課題が山積する中、自公政権が国民の信頼を損ない続け、政治の停滞を引き起こしている責任は重大だ。与野党の熟議を通し、政治改革と政策遂行を急ぐよう求めたい。
■神戸新聞 28日付「自公が過半数割れ/信頼される政治へリセットを」
「1強」はもう存在しない。政党同士が譲り合わなければ動かない政治状況は、熟議を通じて新たな政策実現が可能な環境とも言える。長く棚上げされてきた選択的夫婦別姓制度の導入や、核兵器禁止条約への参加など、多くの政党が公約した政策の前進につなげるべきだ。若い世代の関心が高い地球温暖化対策や、政治分野のジェンダー平等にも党派を超えて踏み込んだ対応が求められる。
■中国新聞 29日付「石破氏の会見 政策本位で野党と協調を」
政策を擦り合わせる相手として、衆院選で躍進した立憲民主党や国民民主党などが念頭にあるとみられる。「それぞれの党の主張に寄せられた国民のご理解、共感を謙虚に受け止め、取り入れるべきは取り入れる」。自公でくみ取れなかった多様な民意を反映できるなら、それに越したことはあるまい。
本来は政権の枠組みにかかわらず、大切にしたい姿勢である。「聞く力」を掲げた前政権では国会審議を軽んじ、閣議決定で決めた重要政策もあった。党利党略を超えて手を携え、国民のための政策を練り上げてもらいたい。
■西日本新聞 29日付「与野党伯仲 国会運営を改める好機だ」
2012年に発足した第2次安倍晋三政権以降、自公政権は国会の過半数を大きく上回る議席数を背景に、国会論議をないがしろにして政策転換を重ねた。選挙結果を踏まえ、長期政権のおごりを改める時だ。
与野党伯仲を国会改革の好機としたい。与党は野党との合意形成に努め、強引な国会運営をなくす。野党も審議拒否に象徴される古びた日程闘争から脱却する。
国民の目に国会が変わったと映らないようでは、国政選挙で2人に1人しか投票しない傾向は変わらない。
■琉球新報 29日付「自民、『オール沖縄』互角 民意に従い責任を果たせ」
沖縄が全国より投票率が低いのは、争点の辺野古新基地問題で示した民意が政府や司法に顧みられないため、県民に「諦め感」があるからだという指摘もある。経済振興や地方自治の在り方にも関わる新基地問題を県民は諦めるわけにはいかない。政治家、各陣営は、避けたり逃げたりせずに、違いを説明し伝えることが求められる。
以下は、各紙のサイトで確認した社説、論説の見出しの一覧です。全文を読めるものは、リンク先のURLも記しておきます。
▽北海道新聞 https://www.hokkaido-np.co.jp/tags/editorial/
・28日付「衆院選で自公過半数割れ 裏金への怒り受け止めよ」/民意に背向けた首相/立法府の復権求めた/野党の構想問われる
・29日付「石破首相会見 『反省』とは言葉だけか」
▽河北新報
・28日付「衆院選与党過半数割れ 「政治とカネ」に厳しい審判」
▽東奥日報 https://www.toonippo.co.jp/category/editorial
・29日付「民意に従い政治を変えよ/衆院選で与党過半数割れ」
▽秋田魁新報 https://www.sakigake.jp/news/list/scd/100003000/
・28日付「自民敗北 裏金事件に厳しい審判」
・29日付「本県6氏当選 政治改革、問われる覚悟」
▽山形新聞
・28日付「衆院選、与党過半数割れ 強かった裏金への怒り」
・29日付「与党大敗 民意に従い政治変えよ」
▽福島民報 https://www.minpo.jp/column/ronsetsu
・28日付「与党過半数割れ 民意にどう向き合うか」
・29日付「本県議員2人減 党派超え課題解決を」
▽福島民友新聞 https://www.minyu-net.com/category/column/shasetu
・28日付「衆院選・与党過半数割れ/政治の機能不全は許されぬ」
・29日付「衆院選・低い投票率/権利放棄が政治の緩み許す」
▽神奈川新聞
・28日付「自民完敗 この不信感受け止めよ」
▽山梨日日新聞
・28日付「自公が過半数割れ 1強のおごりに国民の鉄槌」
・29日付「衆院選後の政治 民意に従い根本から変えよ」
▽信濃毎日新聞 https://www.shinmai.co.jp/news/list/shasetsu
・28日付「自民党が大敗 傲慢な『1強』政治の帰結」/裏金問題の矮小化/「表紙」だけでは/民主主義の原点を
・29日付「野党の伸長 政策実現で責務を果たせ」
▽新潟日報 https://www.niigata-nippo.co.jp/category/editorial
・28日付「自公過半数割れ 政権への不信任明らかだ」
・29日付「県内自民系全敗 解体的な出直しの覚悟を」
▽中日新聞・東京新聞 https://www.chunichi.co.jp/wadai/opinion/editorial
・28日付「民意は政治腐敗拒んだ 自公が過半数割れ」/石破首相の変節に疑念/岸田政権の3年に審判/抜本改革の議論を急げ
・29日付「自民1強終焉 熟議の政治を取り戻せ」
▽北日本新聞
・28日付「与党が議席減/『政治とカネ』に鉄つい」
・29日付「政権の行方/政治を改める覚悟示せ」
▽北國新聞
・28日付「衆院選自民敗北 稚拙な政権運営が命取りに」
・29日付「自公過半数割れ 『少数与党内閣』が視野に」
▽福井新聞 https://www.fukuishimbun.co.jp/category/editorial
・28日付「石破自民大敗 政権を担う資格はあるか」
▽京都新聞 https://www.kyoto-np.co.jp/category/editorial
・28日付「自公が過半数割れ 民意は政治改革やり直しだ」
・29日付「自民『1強』終止符 熟議を通して政治を進めよ」
▽神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/shasetsu/
・28日付「自公が過半数割れ/信頼される政治へリセットを」/有権者の熱量低く/多様な政策可能に
・29日付「衆院選後の首相/謙虚に合意形成に努めよ」
▽山陽新聞 https://www.sanyonews.jp/special/column/shasetsu
・29日付「自公過半数割れ 地方創生の灯を消すな」
▽中国新聞 https://www.chugoku-np.co.jp/feature/special/%E7%A4%BE%E8%AA%AC
・28日付「自公が過半数割れ 裏金のけじめ求めた民意」/1強政治への審判/非公認対応があだ/政治改革速やかに
・29日付「石破氏の会見 政策本位で野党と協調を」
▽山陰中央新報
・28日付「衆院選を終えて 地方再生に目を向けて」
・29日付「与党過半数割れ 民意に従い政治変えよ」
▽愛媛新聞
・28日付「与党過半数割れ 結果直視し政治改革に取り組め」
・29日付「愛媛でも自民逆風 信頼回復と地域の再生に尽くせ」
▽徳島新聞
・28日付「2024衆院選、自公が過半数割れ 国民を見くびった結果だ」
・29日付「政権の枠組み 混迷の長期化は避けよ」
▽高知新聞 https://www.kochinews.co.jp/tag/detail/editorial
・28日付「【衆院選高知】地域再生へ重責果たせ」
・29日付「【自公過半数割れ】再出発する覚悟が要る」
▽西日本新聞 https://www.nishinippon.co.jp/category/column/editorial/
・28日付「自公過半数割れ 国民の怒りと受け止めよ」/言葉に行動が伴わず/野党にも変化求める
・29日付「与野党伯仲 国会運営を改める好機だ」
▽大分合同新聞
・28日付「衆院選投開票 有権者、政権継続に疑念」
・29日付「与党過半数割れ 民意に従い政治を変えよ」
▽宮崎日日新聞
・28日付「衆院選 政権不信任を突きつけた」
・29日付「与党過半数割れ 民意に従い政治を変えよ」
▽佐賀新聞
・29日付「与党過半数割れ 民意に従い政治を変えよ」
▽熊本日日新聞
・28日付「全国 『政治とカネ』拒んだ選択」
・29日付「これからの政治 民意に沿う枠組み構築を」
▽南日本新聞
・28日付「自民過半数割れ 乏しい危機意識に審判」
▽沖縄タイムス
・28日付「沖縄選挙区2勝2敗 基地・経済ともに解決を」
・29日付「自公過半数割れ 日本政治の大転換図れ」
▽琉球新報 https://ryukyushimpo.jp/tag/editorial
・28日付「自公過半数割れ 与党に厳しい審判下した」
・29日付「自民、『オール沖縄』互角 民意に従い責任を果たせ」
※写真出典:衆議院