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「被爆者が立ち上がるまでに11年もの月日」(中国新聞社説)~被団協にノーベル平和賞 地方紙の社説、論説

 ことし2024年のノーベル平和賞が日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に贈られることに対して、地方紙も社説、論説で取り上げています。インターネット上の各紙のサイトで確認できた範囲で見てみました。
 被爆地広島の地元紙、中国新聞は10月12日付に社説を掲載しており、ネット上で全文を無料で読めます。

■中国新聞「日本被団協に平和賞 『核兵器なき世界』への力に」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/540691

 他紙にはない視点を感じました。一つは敗戦後に被爆者が置かれた境遇についてです。日本被団協の結成が1956年8月だったことに触れながら「病苦と貧困と差別に直面した広島、長崎の被爆者が立ち上がるには被爆から11年もの月日を要している」と指摘しています。被爆者が病苦だけではなく、貧困と差別にもさらされ続けたことは、敗戦後の日本社会の問題として、記憶と記録にとどめなければならないと感じます。
 もう一つは、被団協の運動の意義についてです。「草の根運動である被団協の努力が、核兵器使用が道徳的に許されないという『核のタブー』確立に大きく貢献したという授賞理由は重い」と、「草の根運動」を強調した表現です。原水爆禁止を掲げた運動が複数の潮流に分かれた背景に指摘される党派性を思うと、確かに「草の根運動」であることの意義は小さくないと感じます。
 以下に、中国新聞の社説の一部を書きとめておきます。

 広島、長崎は来年、被爆80年を迎える。幾多の人が鬼籍に入り、被爆者の平均年齢が85歳を超す長い年月を経た。核の非人道性を訴えてきた地道な努力が世界に認められたことを心から喜びたい。
 日本被団協は56年8月に結成された。病苦と貧困と差別に直面した広島、長崎の被爆者が立ち上がるには被爆から11年もの月日を要している。
 「私たちの体験をとおして人類の危機を救おうという決意を誓い合った」結成宣言を胸に、被爆者の医療や生活の安定を求める一方、国内外で証言活動を続け、被爆の実情を伝えてきた。その積み重ねで世界に「ヒバクシャ」の言葉が知られるようになった。
 ノーベル賞委員会は、被爆の証言が核兵器の拡散と使用に緊急の警告を発し「幅広い反対運動を生み出して定着に貢献してきた」とたたえた。草の根運動である被団協の努力が、核兵器使用が道徳的に許されないという「核のタブー」確立に大きく貢献したという授賞理由は重い。
 (中略)
 「精神的原子の連鎖反応が物質的原子の連鎖反応に勝たねばならぬ」。日本被団協の初代代表委員で、反核運動を率いた広島大名誉教授の故・森滝市郎さんの言葉である。人間の心のつながりが核の連鎖に勝たねばならないという原点を忘れてはなるまい。
 被団協は21年に発効した核兵器禁止条約への日本の参加を求めてきた。だが政府がオブザーバー参加さえ拒む姿勢は許されまい。被団協の受賞決定を機に政府は核禁条約参加にかじを切るべきだ。

 他の地方紙も、唯一の被爆国である日本が、核廃絶に積極的に動くべきだとの主張がおおむね共通。核兵器禁止条約への参加を求める主張のほか、核抑止政策を容認する日本政府や石破政権への疑問や批判が目立ちます。
 北海道新聞は「核抑止論との決別こそが急務」と明言。信濃毎日新聞は「政府の姿勢を変えることは、主権者である私たちの責任だ」と、他人事ではない「主権者である私たち」の問題だと強調。西日本新聞も今後の行動が問われる対象に「国際社会」とともに「私たち」を加えています。中日新聞・東京新聞は補償すべき「ヒバクシャ」の範囲を拡大するよう主張。米統治時代に核兵器が貯蔵されていた沖縄の琉球新報は、米中対立の前線として南西諸島の軍備強化が進みつつあることを指摘し「沖縄にとって核の存在は過去のものではなく、脅威として色濃くなっている」と指摘しています。

 以下に、地方紙各紙のサイトで確認した社説・論説の見出しと、全文が無料で読める新聞についてはリンク先URLを記しておきます。一部については、印象に残った部分を書きとめておきます。

【10月12日付】
■北海道新聞「被団協にノーベル平和賞 核廃絶 今こそ行動の時だ」/被爆者の願い訴えた/抑止論との決別急務/日本は責務を果たせ
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1074627/

 核軍拡を支える抑止論は核を持つことで相手の攻撃を思いとどまらせる考え方だ。
 これでは核軍拡は際限がなく、誤情報や誤作動などの偶発的な核戦争のリスクは高くなるばかりだ。
 その先に待つのは人類の破滅でしかない。核抑止論との決別こそが急務である。

■東奥日報「『核なき世界』の一里塚に/被団協にノーベル平和賞」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1877934
■山形新聞「被団協にノーベル平和賞 『核なき世界』の一里塚に」
■福島民友「ノーベル平和賞/核兵器廃絶へ大きな一歩に」
 https://www.minyu-net.com/news/detail/2024101208454627346

■神奈川新聞「被団協にノーベル賞 被爆者に『真の喜び』を」
■山梨日日新聞「被団協にノーベル平和賞 『核なき世界』への一里塚に」

■信濃毎日新聞「被団協に平和賞 核廃絶へ日本の責務重く」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024101200161

 政府は、核の力による抑止論に寄りかかり、米国の「核の傘」への依存を強めるばかりだ。むしろ核軍縮を阻む側にいる。
 表向き核廃絶を口にしながら、それに背く政府の姿勢を変えることは、主権者である私たちの責任だ。被団協の平和賞は、その行動を支える力になる。

■新潟日報「被団協に平和賞 『核なき世界』へ大きな力」/長年の努力たたえる/活動の継承次世代へ
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/491449

■中日新聞・東京新聞「ノーベル平和賞 被爆者の声を抑止力に」
 https://www.chunichi.co.jp/article/970668

 石破茂首相は外遊先のラオスで受賞決定の知らせを受けて「極めて意義深い」と述べた。真に「意義深く」するためには、まず国としてその思いを受け止め、被団協が成立の原動力になった核兵器禁止条約への参加に踏み切るべきだ。さらに、国の指定区域の外で被爆した「被爆体験者」を被爆者と認めて、すべてのヒバクシャに補償の道をひらくべきである。

■神戸新聞「被団協に平和賞/今こそ訴えたい『核なき世界』」/継承へ厳しい現実/日本は先頭に立て
https://www.kobe-np.co.jp/opinion/202410/0018219317.shtml

 体験者が減る中、被爆地では被爆体験を受け継ぐ次世代の「伝承者」の育成が進んでいる。被爆地外でも、兵庫県を含む全国各地の高校生が街頭で署名を集め、核廃絶を訴えて国連本部などに届ける「高校生平和大使」の活動が広がっている。
 ノーベル賞委員会は、日本の若い世代への期待も示した。新たな段階に活動を押し上げる弾みにしなければならない。

■山陽新聞「被団協に平和賞 核廃絶の願い世界へ広く」
 https://www.sanyonews.jp/article/1623055?rct=shasetsu

■山陰中央新報「被団協にノーベル平和賞 核なき世界の一里塚に」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/661558

■徳島新聞「被団協に平和賞 『核なき世界』への弾みに」
■高知新聞「【被団協に平和賞】混迷する核軍縮への警鐘」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/794321

■西日本新聞「被団協に平和賞 『核なき世界』の後押しに」/身をさらし惨禍訴え/国際機運を高めたい
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1269115/

 被爆者は高齢になってもなお、命を懸けて「核兵器を二度と使わせてはならない」と声を上げる。
 私たちや国際社会は「核兵器なき世界」の実現に向け、どのような行動を取るべきか。改めて考える契機としたい。

■大分合同新聞「被団協にノーベル平和賞 『核なき世界』の一里塚に」
■宮崎日日新聞「被団協にノーベル平和賞 『核なき世界』の一里塚に」
■佐賀新聞「被団協にノーベル平和賞 『核なき世界』の一里塚に」
■熊本日日新聞「被団協に平和賞 『核なき世界』信じる力を」
■沖縄タイムス「被団協にノーベル平和賞 核軍縮へ新たな機運を」

【10月13日付】
■河北新報「日本被団協に平和賞 『核なき世界』実現の一歩に」
■北日本新聞「被団協、ノーベル平和賞/核廃絶へ行動で示す時」
■京都新聞「平和賞に被団協 核廃絶へ協力広げる契機に」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1351137

 石破氏は、被団協に祝意を示す一方で「現実的対応が必要」と核抑止に頼る。だが、核軍拡競争を再燃させ、一歩間違えば破滅する状況は現実的なのか。
 被爆者とともに核なき世界を希求するなら、日本が核禁条約に背を向け続けてはならない。オブザーバーからでも参加へ踏み出し、被爆国の体験と知見を役立てることが責務である。

■愛媛新聞「被団協に平和賞 核なき世界目指す大きな一歩に」
■南日本新聞「[被団協に平和賞] 核廃絶の機運高めねば」
■琉球新報「被団協ノーベル平和賞 核なき世界の誓い今こそ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-3550030.html

 米統治時代、沖縄には1300発の核兵器が配備・貯蔵されていた。日米の沖縄返還交渉では、沖縄への核の再持ち込みを認める密約を交わしていた。現在、米中対立の前線として南西諸島の要塞(ようさい)化が進む。沖縄にとって核の存在は過去のものではなく、脅威として色濃くなっている。
 核兵器の開発から使用までを全面禁止する核兵器禁止条約が2021年に発効した。この画期的な国際法に、肝心の日本が批准していない。締約国会議へのオブザーバー参加にさえ踏み出していない。
 戦後80年にさしかかり、被爆者が少なくなる中で体験継承の課題もある。核廃絶をただちに行動に移すことが政府に求められる。