ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「何があったのか」の疑問に応える組織ジャーナリズムを~SNS戦略のnote改変とマスメディア 兵庫県知事選に思うこと・その4

 兵庫県知事選で、斎藤元彦知事のSNS戦略を担当していたという方が11月20日午前、インターネット上の「note」に「兵庫県知事選挙における戦略的広報:『#さいとう元知事がんばれ』を『#さいとう元彦知事がんばれ』に」とのタイトルの記事をアップロードしました。
https://note.com/kaede_merchu/n/n32f7194e67e0

note.com

※後述しますが、当初の内容からかなり改変があります

 筆者は「株式会社merchu 代表取締役」の折田楓氏。同社ホームページによると「兵庫県や広島県、株式会社リクルートや有馬グランドホテルなど、これまでに150以上の行政・企業・団体の広報・PRを手がけている」とのことです。
 https://merchu-inc.com/

merchu-inc.com

 わたしが最初にこの記事を見かけたのは、20日中のわりと早い時期でした。主な感想は以下の2点でした。
 ・この選挙でSNS、ネットと言えば、「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表を抜きには語れないはずなのに、言及がないのはなぜだろう。
 ・斎藤知事も交えて入念に打ち合わせた様子がうかがえる。それなら選挙の発端になった内部告発文書問題について、SNSで斎藤知事の主張、反論を打ち出すかどうか、斎藤知事本人と協議しても良さそうなのに、やはり言及がないのはなぜだろう。
 読後の印象は、「SNS戦略の成功例としていわば自社のPRのような投稿か」といったことや「斎藤知事がたった1人で始めた選挙戦といっても、プロフェッショナルが最初から付いていたのか」ということにとどまっていました。
 その後、21日になって、このnoteがX(旧ツイッター)で話題になっていることに気付きました。改めてアクセスして読んでみると、当初の投稿から随分と印象が変わっていました。わたしなりに大まかにくくって言えば①選挙運動期間の前から、選挙での当選を目指して「フェーズ1:種まき」「フェーズ2:育成」の段階を設定し、告示翌日からは「フェーズ3:収穫」とする戦略スケジュールを削除②斎藤知事本人が一人でmerchu社の事務所を訪ねたとの「始まり」をはじめ、斎藤知事本人を交えて綿密に提案や打ち合わせをした経緯をあらかた削除-です。
 Xでは①に関連して、公職選挙法で禁じられた事前運動に当たるのではないのかとの指摘が相次いでいます。②についても、斎藤知事側から報酬が出ていれば、公選法違反の買収ではないか、との指摘があります。
 いずれにしても、公選法違反に当たるのかどうかは、捜査当局が判断することになると思いますし、仮に立件されるとしても最終的な決着は裁判の場です。

【写真】斎藤知事陣営のSNS戦略についてのnoteの改変を指摘するX(旧ツイッター)の投稿の例

 ここからが、私の今回の記事の本意になります。
 新聞やテレビの事件事故報道では、何か疑惑があった場合に、担当記者は警察や検察などの捜査当局が動くかどうかをまず探ります。そして立件する、捜査に着手する方向であることが分かると、取材を本格化させ、場合によっては担当記者を増員したりしながら、タイミングを見て記事を出します。あまりに早いと「捜査妨害」と言われかねません。ギリギリを見切って「きょう逮捕」というのが、事件担当記者の間の共通理解です。わたしも事件事故取材を担当していた時はそうでした。
 ただし、今回の兵庫県知事選で、新聞やテレビが問われているのは選挙報道の「習い性」です。選挙運動期間に入って、中立性を重んじた報道に徹していた間に、ネット空間ではデマや根拠不明の情報が乱れ飛ぶ、新聞やテレビを見てもよく分からない、という状況がありました。その経緯から、選挙報道の検証の動きも出ています。
 斎藤知事陣営のSNS戦略は、まさに「選挙とネット」を巡る重要な要素です。そのSNS戦略を巡って「何があったのか」が社会で大きな関心になっているのなら、その疑問に応えるのは新聞やテレビの組織ジャーナリズムの役割です。捜査当局が動くかどうかを見極めて、という姿勢ではなく、疑問に応えるべく積極的に取材と報道を進めていっていいと思います。取材現場であつれきがあるとすれば、現場を後押しして支えるのが新聞やテレビの組織力です。組織ジャーナリズムの力量を発揮する場面だろうと思います。