先週末に実施された4件の世論調査(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、共同通信)の結果を目にしました。特徴的なのは、政党支持率ではいずれの調査でも国民民主党が立憲民主党を上回り、野党でトップになっていることです。
国民民主党は10月の衆院選では「手取りを増やす。」の分かりやすい公約を掲げて議席4倍増の躍進を果たしました。過半数割れした自公連立政権を相手に、公約実現に向けて交渉し、年収103万円を超えると所得税が課される「103万円の壁」を見直す3党合意に達しました。世論調査では、この合意に対しても肯定的評価が否定的評価を上回っています。石破茂内閣の支持率は漸減傾向が見て取れることを考慮すると、「103万円の壁」見直しは石破政権ではなく、国民民主党の業績と民意は受け止めているように感じます。
衆院選で勢いを得た国民民主党は、その後も公約実現で成果を挙げ、勢いを維持している-。そんな風に受け止めていいように思います。
4件の調査結果の一部を一覧にまとめました。

衆院選での国民民主党の躍進の要因の一つには、SNSの活用が挙げられています。特に「手取りを増やす。」のワンワードは短い動画やSNSとの相性が抜群に良かったのだろうと思います。SNSは11月の兵庫県知事選でも、劣勢が伝えられていた斎藤元彦知事の逆転劇の大きな要因として話題になっています。自らの当選を目指さなかった「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表が、SNS上で根拠不明の情報をまき散らし、拡散していった経緯があり、新聞、テレビの旧態依然の選挙報道の課題も浮かび上がっています。
こうしたことを踏まえてのことか、共同通信の世論調査では選挙とSNS、動画サイトについての設問もありました。問いと回答状況は以下の通りです。
■共同通信
▽最近の選挙で、インターネットの交流サイト(SNS)や動画サイトを活用した情報発信が目立っています。あなたは、選挙でのSNSや動画サイトの影響が大きくなると思いますか、思いませんか。
大きくなると思う 58・1%
ある程度大きくなると思う 33・5%
あまり大きくならないと思う 4・8%
大きくならないと思う 2・2%▽あなたは選挙期間中にSNSや動画サイトを通じ、真偽不明の情報や誹謗中傷が拡散する懸念を感じますか、感じませんか。
大いに感じる 49・1%
ある程度感じる 36・4%
あまり感じない 9・4%
全く感じない 3・4%
読売新聞は一歩踏み込んで、国による対策の必要性について尋ねています。
■読売新聞
▽SNSで選挙に関する誤った情報や、偽情報の拡散を防ぐため、国が対策を講じる必要があると思いますか、思いませんか。
思う 74%
思わない 21%
答えない 5%
選挙への影響の大きさ、真偽不明の情報や誹謗中傷の拡散への懸念とも、「影響が大きくなる」「懸念を感じる」との回答が圧倒的に多いことには、あまり意外感はありません。「デマの拡散を防ぐため」との前提を示されれば、国による対策、つまりは何らか規制が必要だとの意見が圧倒多数を占めるのも当然だろうと思います。むしろ、こうした質問の立て方に、大手マスメディアの中にあるSNSへの好意的、肯定的とは言い難い視線や感情がにじんでいるようで、興味深く感じました。
選挙とSNSや動画サイトを巡っては、7月の東京都知事選で石丸伸二・元安芸高田市長が2位に入った時から、有権者の情報収集や投票行動に大きな影響力を持つことは見て取れたはずでした。10月の衆院選の国民民主党の躍進で、そのことはいっそう顕著になりました。その一方で新聞やテレビの選挙報道は従来通り、選挙期間中は中立性、公正性を重んじて控えめな報道に終始しました。ファクトチェック報道が見当たらなかった兵庫県知事選を経て、新聞やテレビは選挙報道の検証と見直しを迫られているように思います。
大きな論点の一つは、SNSや動画サイトなどを使ったインターネットとの向き合い方です。特に新聞社・通信社はデジタル展開の収益化が差し迫った課題になっています。選挙に限ったことではなく、SNSや動画サイトとどう向き合うのかが問われています。ネット空間では原理的に、すべての情報がフラットです。「新聞社だから」と言って当然に信用される、というわけではありません。虚実ないまぜのネット空間でどう信頼を得ていくかは、新聞社や通信社自身、あるいは新聞社や通信社の記者個々人がどうネット空間に分け入っていくのか、理念とスキルの問題であるように思います。この点については、あらためてこのブログでも書いてみたいと思います。
SNSをめぐっては、オーストラリアが子どもの使用を禁じる法律を制定したとのニュースがありました。毎日新聞と読売新聞の調査では、日本でどうするべきかを尋ねています。
■毎日新聞
▽オーストラリアで、世界で初めて子どものSNS利用を禁じる法律ができました。日本でも子どものSNSのトラブルが多発しています。子どものSNSの利用についてどう思いますか。理由があれば、その理由もお書きください。
日本でも禁止すべきだ 30%
禁止する必要はないが、何らかの規制は必要だ 52%
禁止も規制も必要ない 6%
わからない 12%■読売新聞
▽オーストラリアでは、16歳未満のSNSの利用を禁じる法案が議会で可決されました。あなたは、子供のSNSの利用を、規制するべきだと思いますか、思いませんか。
思う 66%
思わない 27%
答えない 7%
兵庫県知事選を巡って12月16日には以下のニュースも報じられています。
※共同通信「斎藤知事への告発状受理 PR会社経営者買収疑い」
https://www.47news.jp/11910156.html
兵庫県の斎藤元彦知事が11月の知事選でPR会社経営者に報酬を支払ったのは公選法違反(買収、被買収)の疑いがあるとして、上脇博之神戸学院大教授と郷原信郎弁護士が出した告発状が県警と神戸地検に受理されたことが16日、捜査関係者への取材で分かった。
記事中のPR会社、meruchu社の折田楓代表は、自身のnoteに、SNS運用を含む斎藤知事の選挙戦の広報全般を会社として請け負ったとも読める以下の記述を、17日午前の今も残したままです。この点は絶対に譲らない、ということでしょうか。
今回、様々なメディアで「広報・SNS戦略」を誰が手掛けているのかについて憶測が飛び交い、「大手広告代理店がやっている」やら「都内のPRコンサルタントが手掛けている」やら本当に都度事実無根の記事が拡散されていることは身内から聞いていながらも、当時、目の前の成果物を仕上げることだけに集中するようにしていました。当選後の日経新聞の記事や大手テレビ局の複数のニュース番組でも、「400人のSNS投稿スタッフがいた」という次なる「デマ」がさも事実かのように流されてしまい、驚きを隠せないと同時に、「私の働きは400人分に見えていたんや!」と少し誇らしくもなりました。そのような仕事を、東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです。
「兵庫県知事選挙における戦略的広報:「#さいとう元知事がんばれ」を「#さいとう元彦知事がんばれ」に」
https://note.com/kaede_merchu/n/n32f7194e67e0
折田氏の活動に対する「選挙違反ではないか」との指摘もSNSで始まり、やがて新聞やテレビも報じるようになって、現実社会の動きに至りました。広く「SNSとマスメディア」を考える上で、軽視できない出来事だと考えています。捜査の行方に注目しています。
※参考過去記事
兵庫県知事選を巡る過去記事は、カテゴリー「選挙とSNS:2024兵庫知事選」に集約しています。以下から読んでいただけるとうれしいです。