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被爆者の過酷な10年を決して忘れない~ノーベル平和賞スピーチに改めて思うこと

 ノルウェーのオスロで日本時間の12月10日夜、ノーベル平和賞が日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に授与されました。被団協代表委員の田中熙巳さん(92)の受賞スピーチ全文は、毎日新聞のサイト上で全文を読むことができます。

▽毎日新聞「『核と人類、共存させてはならない』 被団協・田中熙巳さん演説全文」
https://mainichi.jp/articles/20241210/k00/00m/040/267000c

 スピーチでは冒頭で、被団協について、日本政府に原爆被害の補償を求める運動と、核兵器の廃絶を求める運動の二つを続けてきたことを強調。「核のタブー」の形成に大きな役割を果たしたことは間違いない、としつつ、今日なお1万2000発の核弾頭が存在していることや、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃を挙げて「市民の犠牲に加えて『核のタブー』が崩されようとしていることに限りない口惜しさと怒りを覚えます」と訴えました。
 長崎で被爆した田中さん自身の体験、米国の水爆実験による第五福竜丸の被ばくを契機とした被団協の結成と今日までの活動の紹介を紹介。「核抑止論ではなく、核兵器は一発たりとも持ってはいけないというのが原爆被害者の心からの願い」「みなさんがいつ被害者になってもおかしくないし、加害者になるかもしれない」「核兵器をなくしていくためにどうしたらいいか、世界中のみなさんで共に話し合い、求めていただきたいと思うのです」と呼びかけました。最後は「私たちがやってきた運動を、次の世代のみなさんが、工夫して築いていくことを期待しています」と次代への継承に触れ「人類が核兵器で自滅することのないように!!」「核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう!!」と結びました。

 このスピーチの中で、改めて胸を衝かれる思いがしたのは、田中さん自身の被爆体験と、敗戦からしばらくの間の被爆者の境遇に触れた部分です。

 その時目にした人々の死にざまは、人間の死とはとても言えないありさまでした。誰からの手当ても受けることなく苦しんでいる人々が何十人何百人といました。たとえ戦争といえどもこんな殺し方、傷つけ方をしてはいけないと、強く感じました。
(中略)
 生き残った被爆者たちは被爆後7年間、占領軍に沈黙を強いられ、さらに日本政府からも見放され、被爆後の十年余を孤独と、病苦と生活苦、偏見と差別に耐え続けました。

 被団協へのノーベル平和賞の授与が発表された際に、このブログに以下の記事を書きました。

news-worker.hatenablog.com

 田中さんが「占領軍に沈黙を強いられ、さらに日本政府からも見放され、被爆後の十年余を孤独と、病苦と生活苦、偏見と差別に耐え続けました」と語ったその時期にも、多くの被爆者が世を去っていました。まさにその当時、マスメディアはそうやって被爆者が絶望のまま死んでいっていることに気付かず、何もできていませんでした。
 今日、マスメディアの仕事に就き、これから被爆体験の継承を報じていく若い世代の人たちにも、このことはぜひ知っておいてほしいと思います。

 敗戦からしばらくの間の被爆者がテーマの忘れられない漫画があります。原爆投下から10年後の広島を舞台に描いた、こうの史代さんの「夕凪の街」という小品です。主人公は23歳の女性。死者を見捨てるように生き残った負い目を感じながら、ようやく前向きに生きて行っていいのかと思えるようになった矢先に、病魔に襲われます。
 起き上がることもできなくなり、やがて目を開けることもできなくなって、心の中でつぶやきます。

十年経ったけど
原爆を落とした人はわたしを見て
「やった! またひとり殺せた」
とちゃんと思うてくれとる?

 

ひどいなあ

 

てっきりわたしは
死なずにすんだ人
かと思ったのに

 今日、被爆者の証言活動には国際的に大きな敬意が払われ、ノーベル平和賞の授与も日本メディアは祝意とともに大きく報じています。しかし、最初からそうではなかったこと、そうなるまでに、どれほどの苦労と辛酸が被爆者にあったのかを忘れずにいたいと思います。

 10日のノーベル平和賞授与を新聞各紙が電子版でどう速報したか、被爆地の中国新聞、長崎新聞と全国紙の記事(本記)の見出しとリンク先を以下に書きとめておきます。
※一部は有料記事で全文は読めません

▽中国新聞
「核兵器も戦争もない人間社会を」 日本被団協にノーベル平和賞、代表委員田中熙巳さん演説
2024年12月11日00時10分更新
https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/569294

▽長崎新聞
被団協にノーベル平和賞 「核兵器も戦争もない世界を」
2024年12月10日23時50分
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=6f928afbb72b405cb8fed1ee0c687653

▽朝日新聞
日本被団協にノーベル平和賞授与 「人類が核兵器で自滅しないよう」
2024年12月10日 21時29分
https://digital.asahi.com/articles/ASSDB3RGKSDBPTIL00QM.html

▽毎日新聞
「核も戦争もない世界を共に」 日本被団協、ノーベル平和賞受賞演説
2024年12月10日 23時49分更新
https://mainichi.jp/articles/20241210/k00/00m/040/289000c

▽読売新聞
ノーベル平和賞受賞、被団協・田中熙巳さん「核兵器は一発たりとも持ってはいけない」…記念講演で国際社会に訴え
2024年12月10日 22時05分
https://www.yomiuri.co.jp/world/20241210-OYT1T50145/

▽日経新聞
被団協「核も戦争もない世界を」 ノーベル平和賞授賞式
2024年12月11日 00時53分更新
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF036XG0T01C24A2000000/

▽産経新聞
オスロでノーベル平和賞を被団協に授与 田中熙巳代表委員、演説で核廃絶の思い訴」
2024年12月10日 22時05分
https://www.sankei.com/article/20241210-VML2BV4F2VNVZJXSJVRGSOI4PY/

▽共同通信
被団協にノーベル平和賞授与 日本2例目、核危機に「憤り」
2024年12月10日 23時45分
https://www.47news.jp/11884168.html