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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

辺野古の工事強行 本質は「地域の自己決定権」~問題意識共有する地方紙の社説、論説

 沖縄の米軍普天間飛行場の移設計画をめぐり、米映画監督のオリバー・ストーン氏らが辺野古の新基地建設に反対し、建設の中止を求める声明を1月6日に発表したとのニュースが目にとまりました。琉球新報の報道によると、声明には「沖縄の自己決定権、民主主義、自治権」を支持するとの趣旨が盛り込まれているようです。民主主義と人権を重んじるのであれば、地域の自己決定権や自治権をも尊重するのは、国を問わず共通する価値観であり、沖縄の基地の過剰な集中の問題の本質も、その点にあるのだとあらためて感じます。
※琉球新報:「世界の識者『辺野古ノー』 ストーン監督ら400人声明」=2024年1月7日

ryukyushimpo.jp

 声明は「沖縄の自己決定権、民主主義、自治権を支持する」者として、「県民の大多数が反対しているにもかかわらず、辺野古埋め立てにこだわり続け、かけがえのない生態系を破壊している」として日米両政府を非難した。代執行について、本紙12月27日付社説が「他県に住む方々は、自らの地域にこのような事態が降りかかることを是認できるだろうか」と指摘したことにも言及。「植民地主義的無関心」と日米の市民に突きつけ、沖縄差別と軍事植民地化に終止符を打つよう呼びかけた。

 この声明からまもなく、日本政府は1月10日、辺野古沖の軟弱地盤地域で工事着手を強行しました。このことに対して、日本本土の新聞各紙がどのように論じているか、11日付け以降の社説、論説について、ネット上の各紙のサイトで確認できる限りで見てみました。
 政府が地域の自治をないがしろにしており、それに司法までもが加担したこと、このままでは同様のことが沖縄に限らず全国どこでも起きかねないこと、との認識が、特に地方紙の社説や論説から感じ取れます。「問われているのは地域の自己決定権」との問題の本質が日本本土でも広く共有されれば、新たな動きにつながる可能性も出てくるように思います。

 以下に、各紙のサイト上で確認できた社説、論説の見出しや内容の一部を書きとめておきます。全文が読めるものは、リンクを張っておきます。

■全国紙
▽朝日新聞 1月12日付「辺野古着工 疑問は膨らむばかりだ」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15836113.html
▽毎日新聞 1月11日付「国が辺野古工事を強行 沖縄の声無視は禍根残す」
 https://mainichi.jp/articles/20240111/ddm/005/070/082000c

■地方紙

【1月16日付】
▽熊本日日新聞「辺野古着工 沖縄の声に応えぬ強行だ」

【1月14日付】
▽北海道新聞「辺野古着工 強行だけでは解決せぬ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/962882/

 岸田文雄首相は「丁寧な説明を続けていきたい」と述べたが、自身も担当閣僚も玉城デニー知事といまだ会うことさえしていない。
 知事は「丁寧な説明とは到底真逆の極めて乱暴で粗雑な対応だ」と非難した。全くその通りだ。
 司法判断を振りかざし、民意を容赦なく踏みにじるのは、極めて傲慢(ごうまん)な対応と言わざるを得ない。
 意に沿わぬからと言って県の権限を奪い取る代執行は、全国の自治体をも萎縮させかねない。

▽高知新聞「【辺野古工事】強行をやめ対話を重ねよ」
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/713431

 政府は、普天間の危険性除去には「辺野古移設が唯一の解決策」との立場を堅持している。ただ軟弱地盤改良工事を伴う設計変更で、移設計画は当初とは「別物」になっている。さまざまな疑問が拭えないのは地元の沖縄県だけではあるまい。
 政府が当初、示していた工期は5年。普天間返還は「2022年度またはその後」と説明していた。このスピード感が「辺野古が唯一」とする主張を支えていた面もあった。
 (中略)
 故翁長雄志知事はかつて、安倍政権の強硬姿勢を米占領下の沖縄で強権を振るったポール・キャラウェイ高等弁務官に重ね、「問答無用という姿勢が感じられる」と批判した。
 「聞く力」「丁寧な説明」を掲げる岸田首相も、沖縄の基地問題でも言葉と裏腹の対応と言われても仕方があるまい。政府は工事の強行をやめ、県や米国との対話で抜本的な解決策を探るよう重ねて求める。

【1月13日付】
▽中国新聞「辺野古追加着工 沖縄と誠実に向き合え」
 https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/410427

 政府の方針に逆らえば知事の権限を剥脱する―。その上で工事が強行された。一つの県の問題ではない。国策の下に地方自治がないがしろにされたと受け止めるべきだ。
(中略)
 設計変更を巡る一連の訴訟で、司法は軟弱地盤のリスクに踏み込まず、手続き論を盾に政府の姿勢を追認した。あしき先例づくりに加担しているかのようだった。
地元の声を顧みず、県が求める対話にも応じないまま着工したことは、憲法が保障し、民主主義の基盤といわれる地方自治の理念に反する。
地元軽視の姿勢は、不意打ちのように着工した点からもうかがえる。

▽愛媛新聞「辺野古移設 拭えぬ新たな負担固定化の懸念」
▽南日本新聞「[辺野古着工] 公益の名を借りた強権 」

【1月12日付】
▽信濃毎日新聞「大浦湾工事着工 国民を欺く見切り発車だ」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024011200112

 普天間が世界で最も危険と認めるなら、即時返還を米国に要求するのが筋だ。最低でも、傍若無人な訓練を日常化させている日米地位協定の抜本改定を米側に持ちかけなくてはならない。
 福岡高裁那覇支部は12月20日の判決で、玉城デニー知事に大浦湾の埋め立てを承認するよう命じた。ただ、知事が不承認とした検討内容は審理せず、国の主張を形式的に追認したに過ぎない。
 政府は南西諸島で軍事訓練域を広げ頻度も高めている。「基地負担軽減」のかけ声とは裏腹に、沖縄の負担はむしろ増している。
 長射程ミサイル配備、部隊展開に備える空港・港湾の改修、自衛隊と米軍の基地共同使用…。自治や法律よりも米国の意向を優先した「防衛策」の無理押しは、どの地域にとってもよそ事でない。

【1月11日付】
▽中日新聞・東京新聞「辺野古工事再開 対話なき強行許されぬ」
 https://www.chunichi.co.jp/article/835581

 今後も工事の途中で新たな問題が生じ、政府が再び設計変更を余儀なくされれば、再び県との訴訟合戦になる可能性もある。長期間の工事の末、膨大な費用を投じて新基地を完成させても、地元住民の反対に包まれれば、米軍の安定的な駐留にはつながらない。
 米国では近年、多数のミサイルを有する中国と近接する沖縄に米軍が集中して駐留することへの疑問も浮上している。新基地の完成を見込む十数年後の日本周辺情勢は不透明であり、その時点で軍事的に有用かも疑わしい。
 辺野古への県内「移設」は沖縄県民にさらなる基地負担を強いる理不尽であり、日本政府が30年近く前の構想を「唯一の選択肢」と位置付けて固執するのは思考停止にほかならない。

▽徳島新聞「辺野古工事着手 民意無視の強行 許し難い」

※追記 2024年1月16日20時50分
 熊本日日新聞が1月16日付の社説で取り上げました。一覧に追記しました。