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基地建設強行「理不尽」「差別」と訴える沖縄2紙~辺野古「承認撤回」の各紙社説

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画を巡り、沖縄県の翁長雄志知事が7月27日、前知事が出した沿岸部の埋め立て承認を撤回する手続きに入ることを表明しました。その際に、東京発行の新聞各紙がどのように報じたかは、このブログの以前の記事で紹介しました。ここでは、新聞各紙の社説の動向を目に止まった範囲で書きとめておきます。とりわけ、「理不尽」「差別」などの強い表現を用いながら、他の地域にはみられない基地建設の強行が沖縄だけで続くことのおかしさを訴える沖縄タイムス、琉球新報の2紙の主張は、直接は日本政府、安倍晋三政権への批判ながら、沖縄県外の日本本土に住む日本国の有権者の一人として、わがこととして受け止めなければならないと考えています。

・沖縄タイムス「[辺野古撤回手続き]正当性を内外に訴えよ」7月28日付
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/290206 

 法廷で再び国と争うことになる重い決断であるが、国は勝訴を見越して平然としている。
 本来問われるべきは、問答無用の姿勢で工事を強行し、知事をここまで追い詰めた国の行政の公正・公平性であり、あまりにも理不尽な基地の恒久的押しつけである。
 負担軽減と言いながらその自覚すらないことに深い危惧の念を覚える。
 (中略)
 国の主張する「正当性」が日本全体を覆うようになれば、沖縄の言い分はかき消され、「安全保障は国の専権事項」だという言葉だけが基地受け入れの論理として定着することになる。
 「国の専権事項」というお決まりの言葉を使って、普天間飛行場の代替施設を九州に持って行かないのはなぜなのか。
 日米地位協定が優先される結果、情報開示は不十分で、事故が起きても基地内への立ち入り調査ができず、飛行制限に関する約束事も抜け穴だらけ。沖縄の現実は受忍限度を超えている。
 「『沖縄県民のこころを一つにする政治』を力の限り実現したい」と翁長知事は言う(『戦う民意』)。知事の苦悩に満ちた決断を冷笑するような日本の政治状況は危うい。
 沖縄の主張の「正当性」を幅広く内外に発信していくことが今ほど切実に求められているときはない。

・琉球新報「埋め立て撤回表明 新基地建設断念求める」7月28日付
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-770334.html 

 翁長雄志知事が辺野古埋め立て承認の撤回を表明した。新基地建設を強行してきた政府はさまざまな対抗措置を準備しているとみられ、再び司法の場での争いになると予想される。政府がやるべきことは、長年基地の過重負担に苦しんでいる沖縄の状況を是正することである。知事が民意を背に決断したことを尊重し、辺野古新基地建設を断念すべきだ。
 (中略)
 そもそも国土の0・6%にすぎない沖縄県に全国の米軍専用施設面積の約70%が集中していることが問題の根本だ。基地の過重負担を強いながら、基地縮小を求める県民大多数の民意を無視し、貴重な自然を破壊する工事を強行する。このようなことが沖縄以外でできるだろうか。
 辺野古に新基地を建設することについて自民党の石破茂元幹事長でさえ「ベストでもベターでもない。ワーストではないという言い方しかできない」と述べた。ワーストでない所なら沖縄以外にいくらでもあるはずだ。普天間飛行場の代替施設がどうしても必要と言うなら、沖縄以外に求めるべきである。他県には決して振りかざさない強権を沖縄には突き付ける。二重基準であり、差別そのものだ。
 知事の決断を多くの県民が支持している。その民意に向き合うよう改めて政府に求める。建設強行に未来はない。

 以下は日本本土の新聞各紙の社説の中で、目に付いたものです。読売、産経は翁長知事に批判的ですが、朝日、毎日のほか地方紙、ブロック紙はいずれも日本政府に批判的です。ただ、沖縄の民意を尊重し、翁長知事とよく話し合うよう政府に求めてはいますが、沖縄県外への基地建設の主張までには至っていません。

・朝日新聞「辺野古工事 目にあまる政府の背信」
・毎日新聞「辺野古埋め立て工事 知事選を待った方がよい」
・読売新聞「辺野古移設問題 承認撤回は政治利用が過ぎる」
・産経新聞「辺野古埋め立て 知事は「承認撤回」中止を」

・北海道新聞「辺野古承認撤回 工事阻止への重い決断」
・信濃毎日新聞「辺野古撤回 工事を止め話し合いを」
・中国新聞「辺野古承認の撤回表明 強行する国の責任重い」民意に耳傾けよ/環境面でも問題/県民投票も視野
・愛媛新聞「辺野古承認撤回 移設は『唯一の解決策』ではない」
・南日本新聞「[辺野古撤回へ] 政府は沖縄の声を聞け」
(以上、7月28日付)
・茨城新聞「沖縄・辺野古承認撤回 住民の意向問う機会を」
(7月30日付)

 ほかに中日新聞(東京新聞)は7月25付で「「沖縄県民投票 あなたならどう投票?」の社説を掲載しています。

 自宅で郵送購読している琉球新報の7月27日付、28日付の紙面が手元に届きました。

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※追記 2018年7月31日21時25分
 チェック漏れの熊本日日新聞、北國新聞のほか、7月31日付掲載の社説もありました。以下の通りです。
 北國新聞は翁長知事に批判的、ほかは日本政府に批判的です。 

・熊本日日新聞「辺野古承認撤回 沖縄の疑問に答えるべきだ」(7月28日付)
・北國新聞「辺野古の承認撤回 行き過ぎた権限行使では」(7月29日付)
・中日新聞・東京新聞「辺野古工事 国は真摯な話し合いを」(7月31日付)
・山形新聞「沖縄・辺野古承認撤回へ 住民の声に耳傾けたい」(7月31日付)
・新潟日報「辺野古承認撤回 沖縄の声に真摯な対応を」(7月31日付)
・京都新聞「辺野古『撤回』  話し合いに戻るべきだ」(7月31日付)
・神戸新聞「辺野古承認撤回/国は立ち止まって再考を」(7月31日付)

※追記2 2018年8月4日12時45分
 8月3日付でさらに3紙の掲載がありました。いずれも日本政府に批判的です。
・福井新聞「辺野古承認撤回へ 国は沖縄の声に耳傾けよ」(8月3日付)
・西日本新聞「辺野古承認撤回 国は立ち止まる度量持て」(8月3日付)
・宮崎日日新聞「沖縄・辺野古承認撤回 政府は地元の意向尊重せよ」(8月3日付)

 沖縄2紙以外でこれまでに社説掲載を確認した新聞のまとめです。
▼沖縄県の翁長知事に批判的(3紙)
 読売新聞、産経新聞、北國新聞
▼日本政府・安倍政権に批判的(17紙)
 朝日新聞、毎日新聞、北海道新聞、山形新聞、茨城新聞、信濃毎日新聞、新潟日報、福井新聞、中日新聞(東京新聞)、京都新聞、神戸新聞、中国新聞、愛媛新聞、西日本新聞、熊本日日新聞、宮崎日日新聞、南日本新聞