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危惧するのは「こんな人たちに」発言の再来~高市内閣への民意の期待は手放しではない

 高市早苗内閣が10月21日、発足しました。日本で首相に女性が就いたのは初めて。画期的な出来事です。共同通信社が21、22両日に実施した世論調査では、内閣支持率は64.4%。発足時では石破(50.7%)、岸田(55.7%)両内閣を上回りました。女性首相誕生が、女性活躍の後押しになると歓迎したのは「どちらかといえば」を合わせ76.5%に達したとのことです。まだ政権の実績はありませんが、民意は初の女性首相を歓迎し、期待を寄せていると言っていいと思います。その期待に応え得るような実績を高市政権が挙げていくのなら、それに越したことはありません。ただし、民意は手放しで期待しているわけでもないし、ましてや白紙委任ではありません。共同通信の世論調査では、自民党派閥裏金事件で元秘書が略式起訴された萩生田光一氏を自民党の幹事長代行に起用した人事は「適切ではない」が70.2%に上っています。
 https://www.47news.jp/13331939.html

www.47news.jp

 現実には、このブログでも書いてきた通り、自民党と日本維新の会(以下「維新」)による、理念も倫理もない、「狂気」を帯びた連立政権の始まりとして、わたしは「危うさ」を感じています。
 21日夜の高市首相の記者会見では、「強い日本を作るため絶対にあきらめない」との言葉がありました。「国益を守るため、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す」とも口にしました。忘れかけていた「日本を取り戻す」のコピーを思い出しました。安倍晋三元首相の再来のようです。敬愛する安倍元首相そのまま、と言うよりも、安倍元首相が前のめりになったような、そんな危うさを感じます。
 安倍政権は公明党との連立でした。その中でブレーキ役だった公明党の存在がどれだけ大きかったか、今はよく分かります。右派、極右のいわゆる「岩盤支持層」だけで、選挙を勝ち続けることは困難だったはずです。安倍元首相本人は極右的な信条でありながらも、政権全体としては広がりを持った支持を得られたのは、公明党との連立だったことが大きな要因だったと思います。維新にその役どころは期待できません。吉田松陰の言葉を引いて、「狂気」が必要と説く時代錯誤の政治勢力です。今は内戦前夜の幕末ではありません。歴史の教訓を踏まえて、成熟した民主主義を社会が維持できるよう、まずは意見の違いを認め合うことが必要です。自維連立の政治が、異論を切り捨て、少数意見を排除し、社会の分断を深めていきかねないことを危惧します。
※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

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 高市首相に感じる危うさの一つは、「国家」が異様に前面に押し出され、「個々人」にどこまでまなざしが届いているかが見えない。と言うより、そうしたまなざしが感じられないことです。「国家」「国益」が最前面にあり、「国民」はその後ろ。果たして、高市首相はどんな「国民」像を思い描いているのでしょうか。
 いずれまたあのフレーズを耳にすることになるのではないか、と感じています。「こんな人たちに負けるわけにはいかない」-。安倍元首相が街頭演説で、自らを批判する人たちに向けて言い放ったあの言葉です。

 高市内閣の顔ぶれの面からも、危惧、懸念は少なくありません。
 女性閣僚はわずか2人です。その点を記者会見で突かれると、高市首相は「機会の平等、チャンスの平等を大事にしている」と言いました。本意は分かりませんが、一般的には、「結果の平等」を実現させるつもりはないのに、体裁を取り繕う時にも耳にする言葉だと感じました。自民党という組織の中で、しがらみの強さは格段のものがあるのだろうと思います。そうだとしても、「初の女性首相」に高揚感が伴わないことの理由がよく分かるような気がしました。
 入閣した女性2人についても懸念があります。
 財務相に就任した片山さつき氏は生活保護の受給条件を巡って、峻烈な発言を繰り返してきました。生活に困窮している人や、生きづらさを感じている人たちには、この閣僚人事は強烈なメッセージとなっていると思います。外国人の生保受給には、より厳しい意見を公言しています。外国人の受け入れを巡る、政権の方向性をもおのずと示しているように感じます。
 その外国人の受け入れを巡る政策を担当する小野田紀美・経済安全保障相は、政治的な手腕は未知数でも、ネット空間での右派層の人気の面では抜群の“実績”がある、と見ることが可能かもしれません。昨年の東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選の三つの選挙を通じて、SNSや動画サイトでの情報発信が、有権者の投票行動に大きな影響力を持つに至っていることが明らかになっています。7月の参院選での参政党の支持増大を巡っては、批判があっても同時に支持の呼び込みにつながる、との指摘もあります。今や民意、世論の形成で、SNSやネット空間は大きな比重を占めています。総裁選で「チームサナエのキャプテン」だったことがマスメディアの報道では強調されていますが、単なる論功行賞ではないのではないか。「SNSでの高い人気」と「外国人受け入れへの強硬姿勢」の二つの実績がクロスする“逸材”としての登用だとしたら、高市首相がネット上で右派層、極右層の支持を固めるための周到な人事であるように感じます。
 極右への前のめりが危惧される高市政権の中でも、実はわたしがもっとも危うさを感じているのは、小泉進次郎防衛相です。
 石破政権の農水相でありながら、靖国神社への参拝を控えることはありませんでした。仮に現職の防衛相として靖国神社に参拝するとしたら、その意味合いは大きく変わります。単に閣僚として靖国参拝を続ける、という意味にとどまりません。
 近年、自衛隊の中に旧軍との精神的な連続性があることを示すような事例が相次いで表面化しています。その一つが、制服自衛官の靖国への集団参拝です。現職の防衛大臣の靖国参拝では、高市内閣で官房長官に就いた木原稔氏の例がありますが、当初は総裁選で本命視されていた小泉氏が仮に防衛相として参拝すれば、自衛官の集団参拝が公式に追認される意味を持ちかねません。ひいては、自衛隊と旧軍との連続性がより強まることになりかねないことを危惧します。

 高市政権が何をやりたいのか、どんな社会を志向しているのかは、維新との政権協議の合意書に書かれています。懸念が多々あります。機会を改めて、触れてみたいと思います。

※写真は10月22日付の東京発行新聞各紙の朝刊です

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

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