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辺野古移設で代執行「苦難の歴史に一層の苦難」(玉城沖縄県知事)~対話拒絶、「普天間の危険性除去」置き去り

 暗澹たる気持ちの年の瀬です。
 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相は12月28日、辺野古沖の埋め立て工事の設計変更を沖縄県に代わって承認する代執行を行いました。これに先立つ代執行訴訟の12月20日の判決では、福岡高裁那覇支部は国の主張を認めつつも付言で「国と県が相互理解に向けて対話を重ね、抜本的解決が図られることが強く望まれている」と指摘していました。そう言うのなら、それが結論であるはずではないのか、と思っていました。やはり、岸田文雄政権は一顧だにしませんでした。「付言」というあいまいな位置付の物言いには、何の効果もありませんでした。
 沖縄県の玉城デニー知事は28日の記者会見で「多くの県民の民意を踏みにじり、憲法で定められた地方自治の本旨をないがしろにするもので誠に遺憾だ」と日本政府を批判する一方で、「沖縄の苦難の歴史に一層の苦難を加える辺野古新基地建設を直ちに断念し、問題解決に向け沖縄県との真摯な対話に応じてほしい」と求めたと報じられています(琉球新報)。今に至るまで、一貫して対話を拒否しているのは日本政府であり、それが辺野古移設問題でもっとも問われるべき点だろうと思います。
 ※以下で、玉城知事の会見の動画を見ることができます。
 https://ryukyushimpo.jp/news/politics/entry-2626834.html 

ryukyushimpo.jp

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

▽居直り

 国と自治体は対等との憲法の原則を遵守するなら、代執行が可能な状況になってもなお、政府は沖縄県と話し合いで解決する道を選ぶこともできました。しかし、岸田政権はそうしませんでした。辺野古移設という日米間の合意を優先させたのだと思います。対米追従方針を堅持する政府の下で、地域の民意は問答無用でたたきつぶされる。そのことが現実のものになったという意味で、日本の民主主義の危機が可視化されています。司法も加担している分、深刻です。
 岸田政権は安倍晋三政権、菅義偉政権の方策を引き継ぎ、辺野古移設は普天間飛行場の固定化を避ける唯一の解決策との主張を繰り返しています。本来、重要なのは、普天間飛行場の危険性の除去です。辺野古への移設はその手段であって、辺野古移設それ自体が目的ではないはずです。このまま工事を進めても、それが予定通りに進んでも、辺野古に新基地が完成し、米軍に引き渡されて移設事業が終了するのは2030年代半ば以降と報じられています。「普天間の危険性」は何ら解決に向かっていないと言うべきだと感じます。岸田政権が本当に普天間飛行場周辺の住民の安全を考えているのなら、米政府に働きかけて、実効性、実現性がある別の方策を検討してもいいはずです。普天間の危険性除去という本質は置き去り同然です。
 代執行と前後するタイミングで、興味深いニュースが目にとまりました。2013年12月に辺野古沿岸部の埋め立てを承認した仲井真弘多元沖縄県知事が、共同通信のインタビューに応じて、普天間返還が実現していない現状を「全く予想できなかった」と述懐した、とのことです。

※共同通信「普天間の未返還『全く予想せず』 辺野古承認10年で仲井真元知事」=2023年12月27日
https://nordot.app/1112689177543050021

nordot.app

 記事は「仲井真氏は埋め立て承認を前に、政府に対して5年以内の普天間運用停止を要求。当時の安倍晋三首相(故人)が努力する意向を示したことから、承認した経緯がある」とも伝えています。「努力する意向」とは何だったのでしょうか。埋め立ての承認を得たいがために、仲井真元知事に対し、できもしない(そして、現に実現できていない)普天間飛行場の運用停止に期待を持たせたのだとしたら、だましたに等しい行為です。
 そうした経緯も合わせて、日本政府と沖縄県の関係を改めて考えてみれば、今回の代執行は日本政府の「居直り」と呼んでも過言ではないようにすら感じます。日本政府は主権者による選挙を経て合法的に成り立っています。だから、沖縄の人たちの自己決定権を奪い、だました上に今度は居直り同然に民意をたたきつぶし、新基地建設を強行することを許しているのは、突き詰めて言えば日本本土に住む主権者です。個々人が現政権を支持しているかどうかは本質的な問題ではありません。わたしもその一人として、加害の側の立場であることを免れ得ません。

 年明けに始まる軟弱地盤の改良は難工事とされています。計画通りに工事が進むかは未知数。普天間の危険性はさらに長期化、固定化しかねません。代執行によって辺野古移設以外の実効性のある解決策を探る道を岸田政権は完全に閉ざした、と言うべきかもしれません。代執行が意味するのは辺野古移設の強行であり、玉城知事が言う通り、沖縄の苦難の歴史に、一層の苦難を加えるものです。沖縄県の玉城知事は代執行訴訟の高裁支部判決を不服として上告。地元の自治体も住民も反対を訴え続けます。当然だろうと思います。この状況を変え得るのは、日本本土の主権者だけです。

▽割れる論調

 代執行について、東京発行の新聞各紙は12月29日付の朝刊で報じました。柿沢未途衆院議員が公職選挙法違反容疑で逮捕されたニュースもあり、扱いは分かれました。1面トップは毎日新聞と東京新聞の2紙です。朝日新聞、読売新聞は1面準トップでした。産経新聞は1面3番手で、辺野古移設推進を社論に掲げる新聞としては控えめだと感じました。
 ニュースバリューの判断以上に違いが明確なのは、代執行を是とするか非とするかです。朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は社説やサイド記事に批判のトーンが明確です。対して読売新聞、産経新聞は代執行を支持し、沖縄県を批判しています。日経新聞は、辺野古への移設を支持しつつ、代執行に対しては日本政府を批判しています。
 代執行を支持するのは、それが普天間飛行場の危険性除去のための唯一の解決策であるから、ということのようです。ただし、仲井真氏が知事だった10年前に、時の安倍晋三首相が「5年以内の普天間運用停止」に期待を持たせていたことには触れていません。 

 日本政府がどう言おうが「普天間の危険性」という本質は何も解決に向かっていません。気になるのは、在京紙の報道の中には、代執行によって物事が大きく動き出す、と読み手が受け取ってしまいかねない表現があることです。代執行を支持している新聞だけではありません。逆に、辺野古移設を支持していても「予定通り進むかは予断を許さない」(日経新聞)と明記している例もあります。以下に、各紙が本記(事実関係を伝える中心的な記事)のリード部分で、今回の代執行の意味をどのように表現しているかを書きとめておきます。

▼朝日新聞

「国が地方自治体の事務を代執行するのは初めてで、地方自治のあり方が問われる異例の事態となった。防衛省沖縄防衛局は来年1月中旬にも、県が認めていない区域で工事を始める」

▼毎日新聞

「地方自治法に基づき、国が代執行したのは初めて。県が反発する中で異例の措置となった」「防衛省は2024年1月中旬にも、米軍キャンプ・シュワブ東側の軟弱地盤が広がる海域で工事を始める。日米両政府が1996年4月に普天間飛行場の返還に合意してから約28年。返還条件とされた移設の計画は大きく進展する」

▼読売新聞

「防衛省は来年1月中旬にも、新たな区域での工事を本格化させる方針だ。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、移設工事は新たな段階に入る」「地方自治法に基づき、国が地方自治体の事務を代執行したのは初めて。代執行は自治体の事務処理に法令違反などがあり、放置すると著しく公益を害すると判断された場合、国が代わりに是正する同法の手続きだ」

▼日経新聞

 「地盤の改良工事が可能となり、2030年代半ば以降の完成に向けて動き出す。新たに埋め立てる海域は地盤が軟弱で、予定通り進むかは予断を許さない」

▼産経新聞 

 「地方自治法に基づく国の代執行は初めて。『世界一危険』と言われる普天間飛行場の移設工事が大きく動き出す」

▼東京新聞 ※共同通信の配信記事

 「地方自治法に基づき、国が自治体の事務を代執行したのは初めて。防衛省沖縄防衛局は準備を本格させ、来月12日にも軟弱地盤がある海域の工事に着手する。移設事業が完了するのは2030年代半ば以降となる見通しだ」「米軍機の騒音や事故など基地負担は重く、県内移設には根強い反対がある。玉城デニー知事は『民意を踏みにじり、地方自治をないがしろにする』と批判。県が反発を強める中で、移設計画は新たな段階へと進む」

 以下に、各紙の29日付朝刊の主な記事の扱いと見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
・1面準トップ「辺野古 国が初の代執行/沖縄県に代わり設計変更を承認」
・2面・時時刻刻「代執行 揺らぐ民主主義/手続き粛々 冷徹な政権」「『初めて日本人自ら米軍基地を造る』」「沖縄の協力なしに 安全はない/五百旗頭真氏 元防衛大学校長」
・4面「米に忖度 沖縄への思い見えない首相/橋本龍太郎氏の元秘書官 江田憲司衆院議員」
・第2社会面「沖縄の声尾 誰に届ければ」「金網とキャンドル 家族の記憶/轟音ない空、話題にならぬ基地/『今度こそ…』裏切られた期待」/「民意軽んじる政府 支えているのは私たちの無関心」作家 あさのあつこさん
・社説「辺野古代執行 地方自治の今後に禍根」

【毎日新聞】
・1面トップ「辺野古 初の代執行/国、設計変更を承認」
・3面・クローズアップ「代執行 策奪われた沖縄/辺野古移設 12年後にも工事完了」「来夏県議選 民意影響も」「国と地方 揺らぐ対等性」「軍事有用性 疑問の声」
・社会面準トップ「美ら海に『分断』のくい/政府『アメとムチ』で揺さぶり」連載「届かぬ民意 辺野古代執行」(上)/「『解決策』対話なく押しつけ」比嘉洋・那覇支局長
・社説「国が辺野古代執行 沖縄の声押しつぶす強権」/地方自治の精神損なう/相互信頼の回復が急務

【読売新聞】
・1面準トップ「辺野古 国が初の代執行/設計変更 来月中旬 工事再開」
・2面「辺野古移設 残る課題/地盤難工事・再び法廷闘争も」/「法廷受託事務 地方自治法に規定」
・第3社会面「玉城知事 立場厳しく/歩み寄り具体策 示さず」
※社説は27日付で「辺野古代執行へ 県は司法判断を蔑ろにするな」を掲載

【日経新聞】
・3面「国、工事継続へ初の代執行/辺野古 30年代半ば完成めざす」
・社説「対話せず代執行に頼った国は反省せよ」

【産経新聞】
・1面「辺野古 国が代執行/来月着工、設計変更を承認」※3番手
・2面「移設完了は18年以降/長期化 南西防衛に影響も」/「ワンイシューに批判 求心力低下/『オール沖縄』曲がり角」/「政策判断を行うのは国会議員だ」宇那木正寛・鹿児島大教授
・社説(「主張」)「辺野古で代執行 国は着実に工事を進めよ」

【東京新聞】
・1面トップ「『地方の声 ないがしろ』/辺野古移設 国が初の代執行/設計変更承認 来月12日にも着工」※共同通信配信/「国、対話応じず『問答無用』」※自社
・2面「代執行『民意踏みにじった』/沖縄知事、政府の対応批判」/「政府『唯一の解決策』立場堅持」「来月に沖縄訪問 林官房長官調整」/識者談話2人
・第2社会面「辺野古阻止『県民諦めない』/米軍基地前座り込み 九州でも懸念の声」