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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「相互理解に向けて対話を重ね、抜本的解決が図られること」こそ結論ではないのか~辺野古設計変更、信を失った政権の下で代執行へ ※追記・地方自治法の規定

 地域の住民の総意と言いうる民意を「公益」と認めず、国策の強行にお墨付きを与える司法判断が示されました。沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、軟弱地盤改良工事の設計変更を玉城デニー沖縄県知事が承認しないことを不服として国が争い、代執行に向けて提訴した訴訟の判決が12月20日にあり、福岡高裁那覇支部は、設計変更を承認するよう玉城知事に命じました。期限は25日です。知事は判決に従わない意向で、その場合に国は28日に設計変更承認の代執行に踏み切る見通しと報じられています。
 この代執行手続きのことは、このブログの以前の記事でも書きました。 

news-worker.hatenablog.com

 国の意向に従わない自治体から、権限を国が剥奪しようとしている、異例の展開です。沖縄だけの問題ではない、全国の自治体にとっても決して無関係ではない意味合いを持っています。
 沖縄では知事選や参院選などの選挙のたびに、普天間移設へ反対する民意が示されてきました。辺野古の海面埋め立ての賛否に絞った2021年2月の県民投票では、「反対」は70%を超えました。県民の明確な意思表示であり、地域の住民の総意と呼んでいい意思です。にもかかわらず、日本政府は計画を見直すことなく、強行に強行を重ねてきました。
 20日の高裁那覇支部判決は、結論としては日本政府の主張を全面的に認めつつ「国と県が相互理解に向けて対話を重ね、抜本的解決が図られることが強く望まれている」と付言したと報じられています。そこまで言うのなら、それこそが結論のはずです。極めて残念です。
 訴訟で勝ったからと言って、日本政府が必ず代執行しなければならないわけでもありません。むしろ、別の意味で代執行の強行には大きな疑念を持ちます。岸田文雄政権、政権与党の自民党とも、世論の支持を失っています。内閣支持率は12月に入って読売新聞調査では25%、朝日新聞調査とNHK調査ではともに23%、共同通信調査では22.3%と軒並み20%台前半に落ち込んでおり、毎日新聞調査に至ってはわずか16%です。代執行は、国の意向に従わない自治体から権限を奪う重大な事態です。信を失い、正統性が問われかねない政権の下で行われていいものではない、と思います。

 高裁那覇支部判決について、東京発行の新聞各紙は21日付朝刊で報じました。翌22日付朝刊にかけて、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞の4紙が社説で取り上げています。見出しからも、そのトーンは明らかで、朝日、毎日、東京の3紙は司法判断に対しても、代執行に踏み切ろうとしている国に対しても批判的です。産経新聞は従来通りの辺野古移設推進の主張です。各紙の見出しは以下の通りです。いずれもリンク先で全文読めます。

・朝日新聞21日付「辺野古の代執行 自治の侵害を許すのか」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15821663.html
・毎日新聞22日付「辺野古代執行の判決 国は強権発動避け対話を」
 https://mainichi.jp/articles/20231222/ddm/005/070/108000c
・東京新聞21日付「『代執行』判決 辺野古は『唯一』なのか」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/297277
・産経新聞21日付「辺野古高裁判決 知事は敗訴を受け入れよ」
 https://www.sankei.com/article/20231221-7DHCN7VKZRJKVOWALHUM3SR7NY/

 沖縄の地元紙の琉球新報、沖縄タイムスも21日付の社説で、判決を批判しました。琉球新報はサイトで全文読むことができます。

・琉球新報「代執行訴訟敗訴 『辺野古唯一』への追随だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2604977.html
・沖縄タイムス「代執行訴訟 県敗訴 『自治の尊厳』奪われた」
※サイトでは有料コンテンツです

 沖縄タイムスの社説が、以下のように知事の辞職と出直し選への出馬に触れているのが目を引きました。

 県庁内には、司法の判断に従うべきだとの意見が少なくないが、さまざまな点を総合的に判断した場合、知事は承認すべきではない。
 承認をせずに辞職し、知事選に出馬して信を問うことも選択肢の一つだ。
 負担軽減の実質化を図り、安全保障に脅かされるような日常を転換させる。
 島しょ防衛に絡む急激な軍事化や安全保障の在り方を全国規模で議論する。
 来年は各種選挙が集中している。またとない機会に安保を争点に掲げ、日本や沖縄の未来を問うのである。
 歴史的な判断を下す期限は迫っている。

 今一度、沖縄の民意を明確に日本本土に向けて示したい、ということだと読み取りました。辺野古移設に反対の沖縄の民意は既に何度も明確に示されています。その民意を受け止めるべきは、わたしもその一人である、日本本土に住む主権者です。

 以下に、東京発行の新聞各紙が高裁那覇支部判決をどう報じたか、21日付朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。
■朝日新聞
・1面準トップ「代執行訴訟 沖縄県が敗訴/辺野古工事 承認命じる/高裁支部」/「裁判長『国と県、対話重ねて』」
・3面「沖縄の民意より国の『公益』」/「ゆがんだ政治主導の帰着」宮城大蔵・中央大教授(日本外交)/「地方の言い分否定 先例に」岡田正則・早稲田大教授(行政法)/いちからわかる!「地方自治法に基づく代執行って?/首長に任されている事務を大臣が行う。前例はない」
・29面(第3社会)判決要旨
・社会面準トップ「辺野古代執行『理不尽』/住民『民意 何度も』」

■毎日新聞
・1面トップ「辺野古 国の代執行可能に/軟弱地盤 設計変更/沖縄知事に承認命令/高裁支部判決」
・3面・クローズアップ「民意を『公益』と認めず/高裁支部 知事を非難」「上告で工事止まらず」
・社会面トップ「『辺野古ノー』届かず/沖縄分断 進む工事」/判決要旨/「移設完了へ期待 宜野湾市長」

■読売新聞
・1面「辺野古代執行 国が勝訴/福岡高裁支部 来月にも工事再開」※1面3番手
・4面(政治)「政府、早期移設目指す/辺野古 普天間返還・対中抑止 両立」
・31面(第2社会)「対話で解決なく『残念』/判決に地元 評価と反発」/判決要旨

■日経新聞
・4面(政治・外交)「辺野古『代執行』県が敗訴/設計変更、知事に承認命令 高裁支部/国の軟弱地盤工事 着手へ」

■産経新聞
・1面「辺野古代執行 沖縄県敗訴/高裁那覇支部 来月工事に着手」※1面4番手
・22面(第2社会)「『民意こそ公益』通用せず/玉城知事、『切り札』失い窮地に」/論点「法治主義軽視の風潮 招きかねない」弁護士 高井康行氏

■東京新聞
・1面準トップ「辺野古代執行 沖縄県敗訴/知事に設計変更承認命令/福岡高裁支部」
・2面・核心「沖縄苦境 でも工事にも壁/切り札の『不承認』で敗訴」/「『沖縄をばかにするな』憤る市民」
・6面(総合)判決要旨

【追記】2023年12月25日8時20分

 このブログ記事で「訴訟で勝ったからと言って、日本政府が必ず代執行しなければならないわけでもありません」と書きました。その点に対してSNS上で「しなければなりません。法の支配は憲法の理念」との投稿を目にしました。念のため追記します。
 辺野古沖の埋め立てを巡る代執行の手続きを規定している法令は、地方自治法二四五条の八です。都道府県知事に対する所管大臣の勧告から始まって、高裁への裁判の提起などの手続きを順に規定し、第8項で代執行に至ります。その第8項の条文は所管大臣を主語に「当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる」と表記しています。「当該事項を行わなければならない」とはなっていません。
 日本政府の主体的な判断次第で、代執行を回避し、辺野古沖の埋め立て工事再開を控えた状態で沖縄県と話し合いに入ることは可能です。
 少し長くなりますが、地方自治法二四五条の八の関係部分を書きとめておきます。

(代執行等)
第二百四十五条の八 各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。
2 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに同項の規定による勧告に係る事項を行わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。
3 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
4 各大臣は、高等裁判所に対し前項の規定により訴えを提起したときは、直ちに、文書により、その旨を当該都道府県知事に通告するとともに、当該高等裁判所に対し、その通告をした日時、場所及び方法を通知しなければならない。
5 当該高等裁判所は、第三項の規定により訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を定め、当事者を呼び出さなければならない。その期日は、同項の訴えの提起があつた日から十五日以内の日とする。
6 当該高等裁判所は、各大臣の請求に理由があると認めるときは、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。
7 第三項の訴えは、当該都道府県の区域を管轄する高等裁判所の専属管轄とする。
8 各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。この場合においては、各大臣は、あらかじめ当該都道府県知事に対し、当該事項を行う日時、場所及び方法を通知しなければならない。
9 第三項の訴えに係る高等裁判所の判決に対する上告の期間は、一週間とする。
10 前項の上告は、執行停止の効力を有しない。
11 各大臣の請求に理由がない旨の判決が確定した場合において、既に第八項の規定に基づき第二項の規定による指示に係る事項が行われているときは、都道府県知事は、当該判決の確定後三月以内にその処分を取り消し、又は原状の回復その他必要な措置を執ることができる。
12~15 (略)