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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

続・沖縄県知事はなぜ国連で訴えざるを得ないのか~「ゆがみ際立つ政府の反論」(信濃毎日)「日本の知事の資格疑う」(産経)

 一つ前の記事の続きです。
 沖縄県の玉城デニー知事が、国連欧州本部で開かれた人権理事会に出席し、基地負担の現状などを訴えたことに対し、日本本土の新聞では信濃毎日新聞と産経新聞が社説で取り上げているのが目に止まりました。
 信濃毎日新聞の社説は9月21日付です。普天間飛行場を運用しているのは米軍です。国連で、当事者の米国ではなく、日本政府が自国の自治体に反論する構図そのものに、基地問題のゆがみが表れていることを指摘しています。そして「『唯一の解決策』とは、誰にとっての何の解決策なのか」と問い掛けています。

▼信濃毎日新聞
・9月21日付「沖縄知事の訴え ゆがみ際立つ政府の反論」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2023092100089

 地方の首長が自国政府を責める異例の事態は、8年前の翁長雄志前知事に続き2度目となる。
 同じ席で日本政府代表部は「移設を着実に進めることが、普天間飛行場の完全返還を速やかに実現する唯一の解決策だ」と、決まり文句を主張した。
 当事者の米国ではなく、日本が自国の自治体に「反論」する。基地問題のゆがみが際立つ。
 (中略)
 普天間の代替施設を同じ県内に確保する「基地負担軽減」の欺瞞(ぎまん)に、県民が重ねて反対の意思を示しても政府は取り合わない。国会も司法も、沖縄の言い分をまともに聞こうとしない。
 国も普天間を「世界一危険」と認めているのだから、辺野古とは切り離して早期返還を要求すべきだろう。米軍の傍若無人な行動を許している地位協定の全面改定は必須なのに、交渉を米側に持ちかけようとさえしない。
 「唯一の解決策」とは、誰にとっての何の解決策なのか。沖縄が日米両政府との協議体の設置を要請しても、自公政権はこれを拒否し、基地問題をあえて国内問題にすり替えている。
 国連総会で岸田文雄首相は「人間の命、尊厳が最も重要との原点に立ち返るべきだ」と唱えた。足元の人権はないがしろにしておいて、いかにもしらじらしい。

 産経新聞の社説(「主張」)には少なからず驚きました。
 9月23日付は「日本の知事の資格を疑う」の見出しで、「日本の知事の一人が海外へ足を運び、自衛隊や同盟国の軍の存在をあしざまに語るのは間違っている」と断じました。また「安全保障政策は国の専管事項だ。県民は国民として国政参政権が保障されている。玉城氏の批判は誤りだ」とも強調しています。「間違っている」「誤りだ」との表現は、見出しの「知事の資格を疑う」も合わせて、玉城知事に対する「批判」を超えた「否定」に近いように感じます。
 知事は選挙を通じてその職にあります。民意の代表者です。玉城知事の今回の行動は、基地負担の集中に対する県民の意思を受け止めてのことでしょう。その行動は極めて異例であるのは確かですが、間違いか否か、誤りか否か、そこに明確で客観的な基準を見出すのは困難なようにわたしは思います。
 産経新聞は、知事の演説前の9月16日付でも「国益を害する言動やめよ」との見出しの社説を掲載しています。記録の意味を兼ねて、2本の社説の一部を書きとめておきます。2本とも、同紙のサイトで全文を読むことができます。

▼産経新聞
・9月23日付「玉城氏の海外演説 日本の知事の資格を疑う」
 https://www.sankei.com/article/20230923-RXHJHL5XDVIQVFF4TR5SQ334UI/

 日本の知事の一人が海外へ足を運び、自衛隊や同盟国の軍の存在をあしざまに語るのは間違っている。自衛隊・米軍と県民を分断するような演説を喜ぶのは、対日攻撃の可能性を考える外国の政府と軍ではないか。
 安全保障政策は国の専管事項だ。県民は国民として国政参政権が保障されている。玉城氏の批判は誤りだ。国が申請した辺野古移設工事の設計変更に対し、県はいまだに承認していない。工事を遅らせている責任の多くは玉城氏にある。
 そもそも、力による現状変更を図り、地域の緊張を高めているのは中国だ。中国は沖縄の島である尖閣諸島(石垣市)周辺で対日挑発を繰り返している。その点に触れず、日本と米軍の批判に終始するとはどういう所存か。

・9月16日付「玉城氏が人権理へ 国益を害する言動やめよ」
 https://www.sankei.com/article/20230916-BD3XJLT52FIWJHCDZM2SSZE6WQ/

 最高裁は4日、国が申請した辺野古移設工事の設計変更を県が不承認とした処分を巡る訴訟で、県の主張を退ける判決を下した。県の敗訴が確定して玉城氏は国の申請を承認する義務を負ったが、いまだに承認していない。義務を果たさず人権理の会議に出席し、最高裁判決をないがしろにする内容の意見表明をするのは司法軽視も甚だしい。言語道断である。
 翁長雄志前知事も平成27年に人権理で辺野古移設反対を訴え、「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」などと、日本を貶(おとし)める演説をした。
 だが、辺野古移設ができなければ、市街地中心部にある普天間飛行場の危険性を除けない。中国に尖閣諸島(沖縄県)が脅かされ、台湾有事の危険も高まっているのに、日米同盟の抑止力を確たるものにできない。
 玉城氏は翁長氏の轍(てつ)を踏んではならない。
 玉城氏の言動は、現実の脅威である中国政府の思う壺(つぼ)である点も忘れてはなるまい。玉城氏が7月に訪中した際、中国政府は序列2位の李強首相が面談するなど異例の厚遇を示した。
 中国政府に沖縄への影響力を強めたり、国と県を分断したりする思惑があってもおかしくない。それを防ぎ、県民を含む日本国民に安心を与えるのが自衛隊と在沖米軍の存在だ。玉城氏は肝に銘じるべきである。

※写真出典・沖縄タイムスの動画