ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

沖縄県知事はなぜ国連で訴えざるを得ないのか

 沖縄県の玉城デニー知事が9月18日(日本時間19日未明)、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた人権理事会に出席し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設への反対などを訴えました。人権理事会で都道府県知事として初めて演説したのは同じ沖縄県の翁長雄志前知事。玉城知事の演説はそれ以来、8年ぶりとのことです。
 沖縄タイムスは以下のように伝えています。

 【ジュネーブ18日=大野亨恭】沖縄県の玉城デニー知事は18日午後(日本時間19日未明)、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた国連人権理事会で声明を発表した。「米軍基地が集中し、平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の状況を世界中から関心を持って見てください」と訴えた。県民が反対の民意を示しているにもかかわらず、日本政府が名護市辺野古の新基地建設を強行していることも強調した。

※沖縄タイムス「政府の新基地建設『平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害』 玉城デニー沖縄知事が国連人権理事会で声明」=2023年9月19日
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1224763
 ※玉城知事の演説内容(声明)は、沖縄タイムスのサイトの上記ページで読めます。動画もあります。

www.okinawatimes.co.jp

 日本国内では、辺野古移設計画をめぐる国との訴訟で沖縄県の敗訴が確定しました。玉城知事は、工事継続に必要な防衛省の設計変更申請を承認するか、判断を迫られています。仮に承認しなければ、国は代執行の強制措置に進むとみられます。そうしたタイミングで、玉城知事が国連で、過重な基地負担を人権侵害として訴えることに対しては、日本国内の法秩序をないがしろにしかねない、などとの批判もあったと報じられています。
 玉城知事の国連出席の意義については、沖縄タイムス、琉球新報の社説がそれぞれ解説しています。それぞれ一部を書きとめておきます。琉球新報はネット上で全文を読むことができます。

 ▽沖縄タイムス「玉城知事国連演説 平和の権利 世界に訴え」=2023年9月20日付

 日本政府は選挙や県民投票で示された沖縄の民意を顧みず、国土の0・6%に過ぎない沖縄に在日米軍専用施設の7割を封じ込めている。日本政府に異議を唱えても米国に物申しても、らちが明かないからの国連である。国際社会に訴えざるを得なかった現状を日米両国の政府と国民は真剣に考えてほしい。
 (中略)
 新基地を巡っては、森本敏元防衛相が「軍事的には沖縄でなくてもいいが政治的には沖縄が最適」との見解を示したり、知日派の重鎮ジョセフ・ナイ元米国防次官補が「中国の弾道ミサイルの発達で沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と基地分散化を説いたりし、沖縄の「地理的優位性」は既に説得力を失っている。
 普天間の返還合意から27年。辺野古の新基地建設には最低でもあと12年かかるとされ、その後の普天間返還は時期を見通せない。「辺野古が唯一」と繰り返すのは辺野古以外で解決を探ろうとしない政府の不作為である。
 (中略)
 復帰後、半世紀を経た今も、沖縄は広大な米軍基地を抱え、不条理に向き合い続けている。沖縄に基地負担を強いる差別の構図を訴える玉城知事と、「辺野古が唯一」一点張りの日本政府のどちらに正当性があるのか。世界の人々に沖縄の現状を知ってもらいたい。

▽琉球新報「知事の国連演説 国際社会への訴えに意義」=2023年9月20日付
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2294570.html

 地方行政の長がなぜ国連で発言せざるを得ないのか。そこに注目してもらいたい。
 基地問題の解決を訴え、歴代の沖縄県知事は訪米要請行動を繰り返してきた。1985年の西銘順治氏に始まり、今年3月の玉城知事による訪米まで歴代6人が赴き、計22回を数える。普天間飛行場の返還を中心とする基地問題が焦点だった。
 2013年の仲井真弘多知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認後、新基地建設阻止を掲げて当選した翁長雄志知事は15年9月、国連人権理で都道府県知事として初演説し、「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている」と述べ、基地建設強行が民意に反することを訴えた。
 今回の玉城知事も沖縄の状況について「意思決定への平等な参加が阻害されている」と訴えた。沖縄の現況は前回の知事の人権理演説から改善されていないのである。
 これに対する日本政府の反論が辺野古移設が「唯一の解決策だ」と紋切り型で、沖縄に対する強硬姿勢を如実に示している。
 なぜ民意は受け入れられないのか、なぜ過重な基地負担が続くのか、沖縄側からの疑問に全く向き合おうとしない。だからこそ翁長氏に続いての国際社会への訴えとなった。

 「国際社会に訴えざるを得なかった現状を日米両国の政府と国民は真剣に考えてほしい」(沖縄タイムス)、「地方行政の長がなぜ国連で発言せざるを得ないのか。そこに注目してもらいたい」(琉球新報)。2紙はともに、知事の国連出席について直視することを求めています。
 日本本土から見ていると、日本国内の政治問題、しかも司法では決着が付いた問題を、自治体の首長が国連の場に持ち出すことには、違和感があるかもしれません。でも違和感があるのならなおさらのこと、日本本土に住む主権者は、これまでの経緯と沖縄県の主張を知り、あらためて自ら考えてみるべきだろうと思います。

※写真出典・沖縄タイムスの動画より