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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

政倫審開催までの曲折と検察の捜査

 自民党のパーティー券裏金事件を巡って、衆議院の政治倫理審査会(政倫審)が2月29日、開催されました。中継のテレビカメラが入った完全公開で、この日は岸田文雄首相と二階派の武田良太事務総長の二人が出席しました。安倍派の事務総長経験者ら同派の衆院議員5人4人が3月1日に出席することも決まりました。
 政倫審での岸田首相らの発言内容についてはひとまず置くとして、開催が決まるまでには紆余曲折がありました。“裏金議員”の間に、自らの政治責任を踏まえ、公の場で進んで説明しようとの意識は希薄であることが見て取れました。開き直りとも思えるそうした姿勢は、やはり検察が派閥幹部議員らの刑事責任を不問としたことと無関係ではないと感じます。検察は本当に捜査を尽くしたのかどうかは、問われ続けていい論点です。

 新聞各紙の報道によると、政倫審をめぐっては野党側が完全公開を求めたのに対し、安倍派の幹部議員の一部が非公開での開催にこだわり抵抗。調整は行き詰まっていました。業を煮やした岸田首相が28日、完全公開のもとで自ら出席する異例の措置を表明。安倍派の議員も抵抗できず受け入れることになったようです。
 岸田首相が28日午前、記者団に囲まれ、口にしたという言葉が報じられています。
 「今の状況では国民の政治に対する信頼を損ね、政治不信も深刻になる」
 「志のある議員に説明責任を果たしてもらうよう、あらゆる場で、これからも努力してもらうことを期待している」
 ※朝日新聞29日付朝刊2面「時時刻刻」
 朝日新聞の記事は、この発言について「岸田派の閣僚経験者」の解説も紹介しています。
 「首相は怒っていたな。『志ある議員』という言葉が全てを象徴している。出なければ『お前たちには志がない』ということになる」
 安倍派の5人が完全公開の政倫審に出席することにはなりましたが、同時に岸田首相の自民党内での求心力のなさも露呈してしまったようです。

 日本の新聞各紙の政治報道の特色の一つは、舞台裏を精緻に描くことにたけていることです。29日付朝刊では、朝日新聞「時時刻刻」、毎日新聞「クローズアップ」、読売新聞「スキャナー」など、総合面に掲載する大型のサイド記事の枠で各紙とも、この政倫審開催決定の内幕を詳述しました。読み応えがありました。主な見出しは以下の通りです。

 見出しだけからでも、岸田首相の求心力、指導力の欠如はよく分かると思います。少し角度を変えて見れば、「派閥ぐるみ」の裏金づくりを続けていた安倍派幹部らに、実情を公の場で明らかにしようとの意思は乏しいことを示しているように感じます。
 この問題で自民党と所属議員への疑問は多々あります。裏金を得ていた他の議員は、政倫審出席に手を挙げないのか、このままやり過ごすつもりなのか。そもそも、自民党の調査自体が不十分です。裏金は使途によっては個人所得となり、脱税の疑いも生じる可能性があります。しかし岸田首相は国会で、政治活動以外に使用したと調査に回答した議員はいなかった、と開き直るだけです。
 「政治とカネ」のことは、本来は政治家が自ら襟を正すのが筋です。再発防止のためには、政治資金収支報告書の記載に会計責任者だけでなく、議員本人の責任も問える連座制の導入などが必要と指摘されており、世論調査でも圧倒的な支持を得ています。しかし、現状で実現を期待するのは困難なように感じます。公の場での説明ですら、実施までにこれだけ混乱したのに、規制を強める法改正を自ら進んでやれるでしょうか。

 なぜ、こんなことになっているのか。要因の一つは、検察の捜査と刑事処分の甘さだとわたしは考えています。
 このブログの以前の記事でも書きましたが、検察の判断で疑問に思うのは①派閥、特に5年間で13億5千万円余りもの不記載があった安倍派について、事務総長経験者ら派閥幹部の政治家の刑事責任を不問としたこと②裏金を得た個々の政治家について、収支報告書への不記載の額がおおむね3千万円で線引きされ、そのラインに満たなければ会計責任者の訴追もなかったこと―の2点です。これらの判断について、検察は説明も十分に行っていません。
 加えて、裏金が使途によっては脱税の疑いが生じる点は、まさに検察が捜査を尽くさなければならなかったポイントの一つです。検察の捜査の過程で税法上の疑いが見つかれば、その時点で国税当局と連携し合同捜査に切り替えることは、別に異例でも困難でもありません。
 自民党の議員たちにしてみれば、一時的に批判は浴びても、刑事責任を問われることもなく、離党すらせず、国会で説明しなくても済むのなら、「今のままがいい」と考えるはずです。法改正は到底期待できません。
 「政治とカネ」を巡っては、政治家が自ら襟を正すのが本来のありようです。それができているか、マスメディアの報道が政界の動きを追うのは当然です。ただし、今回の問題の全体像を俯瞰して見れば、検察が“裏金議員”たちの開き直りに口実を与えてしまったのも同然の構図が見えます。検察の公権力の行使のありようを問い続ける必要があると思います。それができるのはマスメディアの組織ジャーナリズムですし、果たさなければならない役割の一つです。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

news-worker.hatenablog.com

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【追記】2024年3月1日0時40分
 岸田首相の政倫審での弁明は、新味はなく真相解明にはほど遠い、との評価になるようです。
 ※共同通信「首相、政倫審の弁明『新味なし』 野党『予算委と同じ』と指摘」=2024年2月29日

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