ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

私家版ガイド:二・二六事件の関係地

 1936年のクーデター未遂事件「二・二六事件」からことしは88年。別の記事に書きましたが、一部の若い軍人が部下を私兵化して起こした独善的な反乱であるこの事件には、今日的な教訓も少なくないと思います。
 非常勤講師を務めた大学の授業では履修生たちに、社会との関わりについて考えを深めるために、ニュースの現場に足を運んでみることを奨めました。二・二六事件をめぐって、わたし自身が訪ねたことがある現場や関係地を、東京都内を中心にまとめました。若い世代の方に、参考にしてもらえればうれしいです。

▽高橋是清蔵相の殺害現場
 高橋是清は大正から昭和初期にかけて首相、蔵相を務めた金融界の重鎮であり、重臣の一人。自宅で就寝中に反乱軍に襲われ、殺害されました。82歳でした。
 東京都港区赤坂の自宅跡地は現在、「高橋是清翁記念公園」となっています。港区のホームページによると、事件後の1938年(昭和13年)、記念事業会が東京市に寄与して1941年に記念公園として開園しました。戦後、1975年に港区が管理するようになりました。
 公園内には日本庭園の趣が残り、交通量の多い青山通りに面していながら、騒音も気になりません。公園内には、英字紙と思われる書類を手にした高橋是清の座像があります。

※「高橋是清翁記念公園」
 https://www.city.minato.tokyo.jp/shisetsu/koen/akasaka/04.html

 当時建っていた邸宅は、東京都小金井市の都立小金井公園内にある「江戸東京たてもの園」に移築、復元されています。わたしが訪ねたのは10年前。是清が絶命したとされる母屋2階の寝室も見学できました。

 ※「江戸東京たてもの園」
 https://www.tatemonoen.jp/

 ※参考過去記事 

news-worker.hatenablog.com

▽反乱軍が拠点とした「山王ホテル」跡
 反乱軍は首相官邸を襲撃し、永田町から三宅坂の一帯を占拠しました。拠点としたのは「山王ホテル」でした。当時、日本を代表する高級ホテルの一つだったとされます。戦後、米軍に接収され、1983年10月に閉鎖されました。跡地はしばらく更地でしたが、2000年1月に「山王パークタワー」が竣工し、現在に至っています。
 ※以上、出典:ウイキペディア「山王ホテル」

【写真】首相官邸(右のガラス張りの建物)と道を挟んで向き合う山王パークタワー(左手前)。首相官邸の奥に並んで見えるのは国会の議員会館
 反乱軍が山王ホテルを拠点としていたことは知識として知っていましたが、その場所をはっきり認識したのは、実は最近のことです。何度も付近を歩きながら気付かずにいました。何となく「赤坂」だと思っていた地域ですが、住所表示は「永田町」だということも改めて確認しました。
 道を隔ててすぐ東側に首相官邸。その北側には国会の議員会館が連なります。当時も今も、日本の政治の中心です。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

▽刑死した将校、犠牲者の慰霊像
 事件は4日目に鎮圧され、クーデターは未遂に終わりました。投降した反乱軍の将校や、黒幕とされた民間人らは軍法会議で死刑判決を受け、東京・代々木の陸軍刑務所で銃殺刑が執行されました。その陸軍刑務所の跡地の一角に、慰霊像が建っています。
 台座の上に、右手を高々と掲げる観音像。手前の木柱には「二・二六事件慰霊像」と書かれています。台座には、像を建立した経緯を記した碑文がはめ込まれています。それによると、慰霊の対象は刑死した20人、自決した2人だけでなく、事件で殺害された犠牲者も含むとしています。建立は30回忌にあたる1965(昭和40)年2月。建立し、管理しているのは一般社団法人「仏心会」で、刑死した将校の遺族の集まりです。

 慰霊像があるのは、JR渋谷駅から北西へ徒歩10分ほど。渋谷税務署などが入る渋谷地方合同庁舎に隣接する一角です。向かいはNHK放送センター。かつては渋谷駅の近くまで、広大な陸軍の用地が広がっていたようですが、現在はビル街です。

 ※参考過去記事 

news-worker.hatenablog.com

▽斎藤実の遺品
 岩手県奥州市水沢区(旧水沢市)は最近では米大リーグ、大谷翔平さんの出身地として知られますが、二・二六事件で暗殺された内大臣、元首相、元海軍大将の斎藤実は水沢の武家の生まれです。
 奥州市役所の近くにある斎藤実記念館には、血に染まった衣類や、銃弾でヒビが入った鏡台など、事件の生々しい資料が多数、展示されています。夫人が事件後も手元に残していました。事件の直接資料がこれだけまとまって保存されている施設は、ほかには見当たらないのではないかと思います。
※斎藤実記念館
 https://www.city.oshu.iwate.jp/makoto/index.html

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 水沢にはほかに、台湾総督府民政長官、南満洲鉄道(満鉄)初代総裁、内務大臣、東京市長などを務め、都市計画などの構想の大きさから「大風呂敷」のあだ名があった後藤新平の記念館、江戸時代後期の蘭学者、高野長英の記念館もあります。