記者解雇訴訟、ブルームバーグがまた敗訴

 このブログでも以前の記事で触れてきた米通信社ブルームバーグの不当解雇問題で、5月28日に東京地裁でまたブルームバーグ敗訴の判決がありました。
産経新聞サイト「2度目の解雇も『無効』 元米通信社記者が勝訴」2015年5月28日
 http://www.sankei.com/affairs/news/150528/afr1505280025-n1.html

 米通信社ブルームバーグと同社東京支局元記者の日本人男性(53)が、雇用関係にあるかを争った訴訟の判決で、東京地裁は28日、「解雇は不合理で無効だ」として雇用関係を認めた。
 男性は以前の訴訟で勝ったが、ブルームバーグは記者職以外への復帰を提案、協議に応じないことを理由に再び解雇していた。鷹野旭裁判官は「提案に応じる義務はなく、拒否しても責任はない」と述べた。
 判決などによると、男性は平成17年11月に中途採用。週1本の特ダネ記事を求められ、目標を達成できなかったとして22年8月に解雇された。解雇は無効と提訴し、1、2審で認められたが、25年3月に再び解雇通知を受けた。

※弁護士ドットコム「『給料半減』『配置転換』をのまなかった記者の解雇は『無効』 ブルームバーグが敗訴」2015年5月28日
 http://www.bengo4.com/topics/3172/


 少し経緯がややこしいので、後掲の新聞労連、新聞通信合同ユニオン、弁護団の連名の声明から、経過を説明している部分を先に引用、紹介しておきます。

 本件は、通信社ブルームバーグの記者がPIP(業績改善プラン)の末に能力不足を口実に解雇された第一次解雇訴訟において、一審、二審ともに労働者が完全勝訴したにもかかわらず、会社側が当該労働者を復職させることなく再び解雇を強行した事件である。会社側は、第一次解雇訴訟の高裁判決前の和解協議の中で、労働者に対し記者職ではなく給与が半減する倉庫業務での復職を提案し、労働者側がこれを拒否するや、拒否したこと自体をもって第二次解雇を強行した。そして、第一次解雇訴訟について労働者側勝訴判決が確定した後に、その判決の効力を失わせるための「請求異議訴訟」を労働者に対して起こしてきたのが本裁判である。

 以前にも書いたことですが、ブルームバーグのように記者にノルマを設定し、達成できないことをもって「能力不足」の評価を下して解雇するようなことが許されるなら、ノルマを恣意的に設定できるようにするだけで、特定の個人を狙った恣意的な解雇がいくらでもできることになってしまいます。こうしたやり方の是非については、最初の訴訟で会社が連敗したことで、少なくとも日本の社会では認められないことが明確になりました。記者としての「能力不足」を主な理由にしていた解雇が無効と確定したのですから、常識で考えれば記者職で復職させることに何ら違和感も不合理もありません。しかし、会社がそうしなかったために、いわば無用の争いを一人の個人がさらに強いられることになっていた、そういう風にみることができるのではないかと、わたしは感じています。
 労使関係では、一人の労働者は経営側の前で無力です。いかに理不尽な仕打ちでも、一人の力では跳ね除けることは困難です。そこに労働組合の最大の意義が出てきます。団結することで、こと労働条件に関することでは労使が対等の立場で交渉できるようになります。ブルームバーグの訴訟でも、一人の個人では戦い抜くことはできなかったのではないかと思います。個人加盟労組の新聞通信合同ユニオンと上部団体の新聞労連が事実上、紛争の当事者として会社と渡り合うことで、この勝訴判決は得られたのだろうと思います。日本の労働組合運動は依然として、企業ごとの正社員組合が主流で、非正規雇用の方々をはじめとして、団結権を手にできていない“無権利状態”の労働者に既存の労組がどう向き合うのかが、しばらく前から課題として明確になっています。答えの一つは新聞通信合同ユニオンのような個人加盟組合であり、それを新聞労連のような産別労組が産業上の課題、責務として支援するやり方なのだと思います。
 新聞通信合同ユニオンの発足は2005年、わたしが新聞労連委員長の時でした。わたし自身は現在は異なった立場に身を置いていますが、合同ユニオンと新聞労連が今、このような争議に真正面から取り組み、働く者の権利を守る成果を挙げていることに、あらためて敬意を表します。


 ※参考過去記事
 ▽2010年-12月-12日「『記事の評価』を理由にできれば記者の解雇は簡単」
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20101212/1292087756
 ▽2012年-10月-05日「ブルームバーグ元記者の解雇無効 ※追記:新聞労連が声明公表」
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20121005/1349449089
 ▽2013年-04月-25日「ブルームバーグの記者解雇訴訟、2審も原告勝訴」
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20130425/1366824947


 以下に新聞労連、新聞通信合同ユニオン、弁護団の連名の声明を引用、紹介します。

ブルームバーグ第二次解雇事件・東京地裁判決についての声明


(1)東京地方裁判所民事11 部(鷹野旭裁判官)は、2015 年5 月28 日、ブルームバーグ第二次解雇事件の裁判において、労働者側勝訴の判決を出した。
 本件は、通信社ブルームバーグの記者がPIP(業績改善プラン)の末に能力不足を口実に解雇された第一次解雇訴訟において、一審、二審ともに労働者が完全勝訴したにもかかわらず、会社側が当該労働者を復職させることなく再び解雇を強行した事件である。会社側は、第一次解雇訴訟の高裁判決前の和解協議の中で、労働者に対し記者職ではなく給与が半減する倉庫業務での復職を提案し、労働者側がこれを拒否するや、拒否したこと自体をもって第二次解雇を強行した。そして、第一次解雇訴訟について労働者側勝訴判決が確定した後に、その判決の効力を失わせるための「請求異議訴訟」を労働者に対して起こしてきたのが本裁判である。


(2)本訴訟において会社側は、労働者が倉庫業務への復職提案を拒否し、復職に関する会社との協議に応じないことをもって、「記者職以外の職種で勤務する意思のないことを明らかにし、記者以外の職で労務を提供することを明確に拒否した」として本件第二次解雇の理由とした。このことについて、地裁判決は、「被告(労働者)において、本件提案を応諾し、本件提案に係る復職条件を前提とする協議に応じる法律上の義務を負うとか、そうでなくても、協議に応じてしかるべきであったなどと解すべき根拠は乏しい」として、復職提案に応じる義務を否定した。そして、「本件提案に応じるか否かは、基本的には、被告(労働者)の自由な判断に委ねられるべきものであり、被告(労働者)がこれに応じない旨の意思を明らかにしたからといって、そのこと自体に何ら責められるべき点はない」などとした。その結論として、本件第二次解雇について、会社の主張する解雇理由に客観的合理性はなく無効であると断じた。


(3)そもそも本件は、会社側がおよそ法的には成り立ちえない第二次解雇を強行してきたものであり、地裁判決は当然の結論である。ブルームバーグは、本判決を受け入れ、控訴することなく直ちに当該労働者を記者として復職させるべきである。


(4)ところで、労働時間規制の適用除外(いわゆる「残業代ゼロ」)や派遣の自由化など、今国会で労働法の規制破壊を狙う政府は、来年には「解雇の金銭解決制度」、すなわち違法な解雇であってもわずかな手切れ金を払えば雇用関係を解消できる制度の導入を狙っている。本件訴訟の会社側代理人は、解雇の金銭解決制度を推進する立場で政府の産業競争力会議に呼ばれて意見を述べている。
 昨今、ブルームバーグのみならず、IBMなど外資系企業を中心に、「能力不足」を口実にした解雇が横行しており、紛争が頻発している。解雇権濫用法理(労働契約法16 条)からすれば、現在横行しているこのような解雇のほとんどが違法・無効である。しかし、法を無視して解雇を強行する会社が日本の労働市場に横行し、それを追認するための法制度改悪が進められようとしている。
 現在の日本に必要なのは、規制の緩和による際限なき雇用破壊ではなく、これまで先人が築き上げてきた労働者を守るための規制をさらに強化し、安定した雇用を取り戻すことである。
 われわれは、ブルームバーグに対し日本の労働法を遵守することを求めるとともに、このような解雇を合法化するような雇用破壊を実現させないよう力を合わせて取り組む決意である。


2015 年5 月28 日
日本新聞労働組合連合
新聞通信合同ユニオン
弁護団弁護士
今泉義竜/小木和男/菅俊治

※追記 2015年6月13日6時30分
 労組関係者によると、会社側は判決を不服として控訴したとのことです。