新聞労連が「記者会見の全面開放宣言」〜個々の記者の後ろ支えになればいい

 新聞労連日本新聞労働組合連合)新聞研究部が4日、「記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」を公表しました。今週、日本新聞協会にも提出するようです。
 昨年の衆院選の前から民主党が首相や閣僚らの記者会見の全面オープン化を事実上の公約に掲げていたこと、にもかかわらず鳩山由紀夫首相の就任会見にネットメディアやフリーランス・ジャーナリストが出席できなかったこと、各省庁では岡田克也外相がクラブ側の慎重姿勢を押し切ってオープン化に踏み切ったのをはじめとして開放の動きが続いていることなどから、記者クラブ制度への関心がネット上などで高まっています。記者クラブをめぐっては「閉鎖的」「公権力との癒着の温床」との批判が古くからありました。記者クラブに加盟している新聞・放送の既存マスメディアが、総じて自らの報道では記者会見の開放や記者クラブ問題を積極的に取り上げているとは言いがたい中で、新聞社の各労働組合が加盟する連合体である新聞労連が見解と現場の記者への呼びかけを打ち出したことの意味は小さくないと思います。
 記者クラブをめぐっては解体論も古くからあるのですが、今回の宣言からも読み取れるように、新聞労連は以前から「開放」をキーワードに記者クラブの改革を掲げてきました。今回の宣言は「【総論・前文】」で「今、求められているのは、批判に謙虚に耳を傾け、94年、02年の提言を踏まえて、いかに実行に移すかということです」とし「新聞人一人ひとりがジャーナリスト個人としてのあり方を見つめ直すことが重要であることを確認したうえで、確実に記者クラブ改革を実行するための手引きを提示します」として、続く「【実行のための手引き】」で、記者クラブの現場で働いている記者たちに具体的な行動を呼びかけているのが特長です。項目は(1)記者会見への参加を拒んでいないか(2)記者会見の開放に抵抗していないか(3)クラブ員以外の質問を拒んでいないか(4)クラブへの加入を阻んでいないか(5)クラブ内で不当な制裁を科していないか(6)取材センターに開放スペースがあるか(7)取材センターの経費負担に努めているか(8)規約を読み議論を―の8つ。記者会見の開放にとどまらない、記者クラブの改革に向けたいわばチェックリストであり、実践マニュアルです。
 記者クラブのありようについては、日本新聞協会も「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」を公表しています(全文を過去エントリー「記者会見の開放は進めるべきだ」に引用しています)。協会見解も記者クラブは「開かれた存在」であるべきことを示していますが、その範囲が「日本新聞協会加盟社とこれに準ずる報道機関から派遣された記者などで構成」と限定的であるのに対して、新聞労連の宣言は「雑誌やフリーランス、ネットメディア、海外メディアなどの取材者にも原則的にオープンでなければなりません」としていることなど、新聞協会と新聞労連記者クラブ問題に対するスタンスには隔たりがあります。
 わたしは記者クラブ問題の特徴の一つは、責任の所在が抽象的で見えにくいことだと考えています。まず、記者クラブへの加盟は新聞社、放送局の名義ではなく形式的には記者個人であり、異動があれば個人名の脱退・加入の手続きが取られます。記者会見の設定や司会進行、クラブ内の意見の取りまとめなどの運営の実務は交代制の幹事社の記者が務めますが、重要事項の決定はクラブ総会という合議の場に持ち込まれます。クラブ総会での意見の表明は、クラブ加盟の記者個人の責任でなされてもいいはずですが、実態としては所属する新聞社や放送局の意思ということが大半です。その実態を踏まえれば、記者クラブのありようの責任の所在は、突き詰めれば新聞や放送の「編集権」が帰属している(と新聞協会自らが表明している)新聞社や放送局の経営者が実体的に構成している新聞協会にあってもよさそうですが、協会の記者クラブ見解は「全国の記者クラブがこれを基本的な指針としながら自主的にクラブ運営を行うことを期待します」と記して、責任はそれぞれの記者クラブにあることを示しています。
 このブログでも以前から書いてきたことですが、「編集権」にはマスメディアの外部に向かってのものと、内部に向かってのものとがあります。明示的な争いになることは極めて稀なのですが、マスメディア企業の経営者が握る「編集権」と、その中で働く記者の「編集の自由」とが対立する場合にどうなるのか、という問題を常に内包しています。わたしは、記者クラブ問題の責任の所在をめぐる見えにくさは、こうしたマスメディア内部の構造とも無縁ではないと考えています。記者クラブの現場の記者個々人には、外部の人からは「意外」と思えるくらいに、実は記者会見や記者クラブはオープンにすべきだという意見が多くありながら、実際にはオープン化が記者クラブの側からはなかなか進まない主要な要因にもなっていると思います。逆に言えば、記者クラブの改革は現場の記者個々人が行動として一歩を踏み出せば、不可能なことではないはずだと考えています。
 労働組合に対しては近年、一般的に厳しい批判もありますが、本来的には労働者個々の良心の自由が雇用者(使用者)その他によって侵害されそうなときに、後ろ支えになって守る機能も期待されていることの一つです。また、個々の労働者と労働組合は上下関係にあるわけでもなく、メンバーの一人一人によって労働組合が支えられています。記者クラブ問題で言えば、クラブに加盟している記者個々人が、記者会見の開放や記者クラブのよりよいありようのための改革に向かって行動しようとしたときに、新聞労連が組合員である記者個々人の良心の後ろ支えになれるかどうかが問題なのだと思います。仮にクラブ内、あるいは自らが所属する新聞社や放送局のデスクや上司と意見や考え方が一致しなかったときに、新聞労連の宣言を思い起こす―。そういう風に現場の記者たちの間にこの宣言が広がっていけばいいのだと思います。まずは記者クラブに所属するとしないとを問わず、この宣言がすべての記者に読まれることが大切でしょう。この宣言が意義深いものになるかどうかは、そんなところから始まっているのだと思います。
 わたしは2004年7月から2年間、職場を休職して新聞労連中央執行委員長を務めました。現在は新聞労連の組合員ではありませんが、以上のような考えから今回の宣言それ自体とともに、今後に注目しています。記録の意味で宣言の全文を掲載します。言うまでもないことですが、このエントリーは当事者としての立場からのものではなく、わたし個人の見解です。
 わたし自身は「記者クラブは解体すべきだ」との意見ではなく、記者会見は開放し、記者クラブもよりよいありようへ改革すべきだと考えています。最後に、わたしなりに現場の記者たちに対して、記者会見の開放や記者クラブの改革をめぐる動きをニュースとして自ら積極的に記事にしていこう、と呼びかけたいと思います。何度もこのブログで書いているように、マスメディアとそこで働く記者の取材・報道のありようは社会に可視化されているのですから。

※「記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」2010年3月4日 日本新聞労働組合連合新聞研究部
 http://www.shinbunroren.or.jp/seimei/100304.htm
新聞労連についてはホームページに組織紹介が掲載されています。中央執行委員長、副委員長、書記長の専従役員は1〜2年で交代しており、いわゆる“プロ専従”ではありません。
 http://www.shinbunroren.or.jp/info/info.htm
※新聞研究とは新聞労連の活動のうち、主に紙面のジャーナリズムのありようを対象にした分野です。中央執行委員会は専門部制を取っており、新聞研究部は専門部の一つです。
記者クラブに関するエントリーも増えてきたので、本ブログのカテゴリーに「記者クラブ」を新設しました。記者会見の開放や記者クラブの改革に関連する過去エントリーのうち主なものを以下にまとめておきます。あわせて読んでいただけたら幸いです。

 「記者会見開放で『北方ジャーナル』の取材を受けました」2010年2月16日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100216/1266257664
 「『労を惜しんではいけない記者会見の開放』〜Journalism1月号に寄稿」2010年1月13日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100113/1263317833
 「なぜ記者クラブが会見を主催するのか〜総務省と外務省の開放に差」2010年1月9日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20100109/1263048833
 「報道する側の主体性が問われる〜記者クラブ問題にも記者会見開放にも欠かせない視点」2009年11月8日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091108/1257672346
 「記者会見の開放は進めるべきだ〜やっぱりマスメディアも記者も『見られて』いる」2009年10月18日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091018/1255824803
 

「記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」

【総論・前文】

 「新聞の危機」が拡大しています。インターネットの隆盛やメディアの多様化で新聞の土台は大きく揺さぶられ、不況による売り上げ減、読者離れや新聞不信が根深くなっています。しかし、危機の時代にあっても、市民の知る権利に奉仕し、権力を監視する新聞ジャーナリズムの意義はいささかも薄れてはいません。むしろ逆境にいるからこそ、後ろ向きにならず、改革すべきところは改革し、新聞再生に努めることが求められています。日本新聞労働組合連合新聞労連)新聞研究部はこのため、閉鎖的・排他的であるとの批判に長くさらされてきた記者クラブの改革を率先して進め、まずは記者会見の全面開放に向けて努力することを宣言します。

 記者会見については、昨年9月の民主、社民、国民新の3党による連立政権の発足後、外務省や総務省などの省庁で「大臣会見のオープン化」が広がっています。本来ならば記者クラブ側が主体的に会見のオープン化を実現すべきでしたが、公権力が主導する形で開放されたのは、残念であると言わざるをえません。さらに、政府の動きに比べて、記者クラブ側は総じて積極的に素早く対応しているとは言えません。一般市民、記者クラブに加入していないメディアやジャーナリストからみて、記者クラブ、ひいては私たち新聞人自身が開放に抵抗していないか、問いかけなければなりません。

 記者クラブに対しては、「権力との癒着の温床」「発表ジャーナリズムへの堕落」などの批判も向けられてきました。そればかりか、インターネットによって情報を発信したり受け取ったりする手段が発達したことに伴い、記者クラブの存在自体がその閉鎖性・排他性によって報道の多様性を阻害しているとの批判も強まっています。多様な価値観を認め合う豊かな民主主義社会を築くためには報道の多様性が不可欠な条件であるにもかかわらず、その阻害要因とみられているのです。

 新聞労連は1994年に「提言 記者クラブ改革」、2002年に「21世紀の記者クラブ改革にあたってーー私たちはこう考える」を発表し、いずれにおいても記者会見と記者クラブのオープン化を掲げました。今、求められているのは、批判に謙虚に耳を傾け、94年、02年の提言を踏まえて、いかに実行に移すかということです。

 まず、記者クラブに所属していない取材者にとってニーズが強く、記者クラブ側にとっても取り組みやすいと思われる記者会見の全面開放をただちに進めることから始めましょう。私たちはそのことが、より実効性のある記者クラブ改革につながると考えています。

 そもそも報道の自由は知る権利に奉仕するためにあり、市民の信頼があって初めて成り立ちます。市民の信頼がなければ、公権力による報道規制表現の自由を制約する動きに対抗することもできません。記者会見や記者クラブの開放によって広く市民の信頼を勝ち取ることは、権力監視のために独立した公共性の高い新聞ジャーナリズムを支える基盤になると考えます。

 私たち新聞人一人ひとりがジャーナリスト個人としてのあり方を見つめ直すことが重要であることを確認したうえで、確実に記者クラブ改革を実行するための手引きを提示します。


【実行のための手引き】

1 記者会見への参加を拒んでいませんか?

 記者クラブに所属していない取材者から「記者会見に出席したい」と言われた経験はありませんか? 記者会見は広く市民の知る権利に応えるのが目的です。記者クラブへの加盟いかんに関係なく、知る権利に奉仕する限り、すべての取材者に開放されるべきです。どのような記者会見でも、すべての取材者が出席できるよう努めましょう。

2 記者会見の開放に抵抗していませんか?

 2009年の政権交代後の外務省や総務省などの大臣会見に代表されるように、公権力側が記者クラブに記者会見の開放を打診するケースがみられます。そもそも記者クラブ側から先に開放するべきですが、結果的に公権力側からの開放要請を受けた際、記者クラブが自ら記者会見への参加に条件や基準を設けてハードルを上げていませんか? 記者クラブが市民の知る権利を阻んでいるとみられかねません。全面的に開放するよう努め、公権力側から条件設定の要請があったとしても断りましょう。

3 記者クラブ員以外の質問を阻んでいませんか?

 記者クラブに所属していない取材者が記者会見に参加した際、記者クラブ側が質問の機会を不当に奪ったり、制限したりしていませんか? 原則として質問をする機会はすべての取材者に与えられるべきです。公権力側が特定の取材者にだけ質問を認めたり、一方的に会見を打ち切ったりするなど、恣意的な運用をした場合は抗議しましょう。

4 記者クラブへの加入を阻んでいませんか?

 記者クラブへの加入に際し、「日本新聞協会加盟社の記者であること」「会員の推薦が必要」といった条件を設けるなどして門前払いをしていませんか? 雑誌やフリーランス、ネットメディア、海外メディアなどの取材者にも原則的にオープンでなければなりません。なお、記者クラブの幹事業務は平等負担が原則ですが、業務の完全遂行が難しい取材者の負担には配慮するよう努めましょう。

5 記者クラブ内で不当な制裁を科していませんか?

 「黒板協定」(しばり)の解禁を破ったことなどを理由として、記者クラブからの除名、記者会見や取材センター(記者室)への出入り禁止、謝罪文の提出といった処分や処罰を行っていませんか? そもそも自由な報道を規制するような協定はなくすべきですし、取材者同士で制裁を科し合うことは、知る権利に奉仕するという本来の役割を記者クラブ自らが放棄することになりかねません。不適切な制裁は取りやめるとともに、例えば公権力への単独取材を不当に阻むなど、記者クラブの慣例的ルールや横並び意識などにより、取材や報道の自由を妨害するようなこともやめましょう。

6 取材センターに開放スペースがありますか?

 取材センター内に、記者クラブ員が専有しているスペースのほか、記者クラブに所属していない取材者がいつでも自由に使えるスペースを用意していますか? 取材センターは公権力を内側から監視するための公共のスペースであり、記者クラブへの加入いかんに関係なく、広く取材者に開放されるべきです。スペースに限りがある場合などは、公権力側にスペースの拡大を要請したり、記者クラブ員の専有スペースを縮小したりするなど、改善に努めましょう。

7 取材センターの経費負担に努めていますか?

 取材センターを維持するために必要な経費を、公権力側と記者クラブ側がどのように分担しているか知っていますか? 取材センターは公共のスペースですが、取材者が使用する電話代やコピー代などの実費は取材者が支払うべきです。取材センターの維持経費にかかわるすべての収支の公開に努めましょう。

8 まずは規約を読み、議論してみませんか?

 記者クラブには、それぞれ規約がありますが、一度でも読んだことがありますか? 規約は記者クラブによって異なりますが、目的や幹事業務の内容のほか、記者クラブへの加入条件や黒板協定、罰則、記者クラブ員が取材センターを優先的に利用する権利といった項目が明記されています。記者会見や記者クラブ、取材センターを広く開放することは、取材者間の健全な競争や報道の多様性を確保し、市民の信頼を高めるうえで極めて重要な意味を持ちます。一連の改革に向け、まずは規約を手に取り、見直しについて議論することから始めてみませんか?

以 上