【憲法メモ】5月20日〜5月28日:「96条改正『憲法への挑戦』 主張超え学者結集」ほか

 憲法に関連した論考やニュースで目に留まったものをまとめた【憲法メモ】です。

伊藤和子さん「『侵略の定義はない』は事実でない。2010年に日本も参加して『侵略』に関する国際合意が成立している。」(2013年5月20日)
 http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20130520-00025060/

 橋下発言が圧倒的なので、比較的目立たないが、忘れてはならない問題な発言がある。
 安倍首相は4月23日の参院予算委員会で「侵略の定義は定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかで違う」と答弁したそうだ。これには驚いた。国連等において、侵略の定義は明らかに決まっていて、日本もその決定過程に参加し、賛成してきたからだ。
 まず、1974年の国連総会では、日本も参加・賛成して侵略の定義に関する国連総会決議が採択され、侵略が明確に規定されている。
 決議3314という有名な決議だ。和訳については外務省定訳がないようであるが、ウィキペディアは以下のように訳している。
 (リンク略)
 これは国際常識である。
 ところが、5月8日の参院予算委員会でこの国連総会決議について問われた首相は「それは安保理が侵略行為を決めるために参考とするためのもの」としながら「侵略の定義は、いわゆる学問的なフィールド(分野)で多様な議論があり、決まったものはない」と答弁したようだ。
 国連総会の文書を「参考」として過小評価するのはいかがなものか。
 内外の批判を浴びて5月15日には、「第2次世界大戦における「侵略」の定義に関し「私は日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と軌道修正したようだが、侵略の定義がないというスタンスは変えていないし、「侵略した」とも言っていない。

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長従軍慰安婦・風俗業発言も、歴史認識をめぐる記者団とのやり取りの中から出てきたものでした。
 伊藤和子さんは弁護士で、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長です。この記事はヤフーに掲載されていますが、元は伊藤さんのブログにアップされています。
 ※人権は国境を越えて-弁護士伊藤和子のダイアリー
 http://worldhumanrights.cocolog-nifty.com/


志葉玲さん「【拡散歓迎】橋下「慰安婦は必要」発言のツッコミどころ2」(「ジャーナリスト・志葉玲のblog」=2013年5月21日) 
 http://reishiva.exblog.jp/20473913/

 橋下徹日本維新の会共同代表・大阪市長の「従軍慰安婦は必要だった」「在日米軍司令官に風俗を活用することをすすめた」等の発言は、さすがにマスコミでも批判的な論調がほとんどでした。しかし、橋下氏は懲りていないようです。論点をすり替え、攻撃の矛先をメディアや米国に向けています。その一方で、今回の問題の発端とも言える、橋下氏の主張の根本の部分は変わっていないのです。そこで、今回のメルマガでは、改めて橋下発言のどこが問題なのか、検証します。

 元は志葉さんの有料メルマガの記事です。橋下氏は5月13日に従軍慰安婦と風俗業に関して発言し、批判を浴びると、真意を説明するとして発言を変遷させました。志葉さんはこの変遷にもかかわらず橋下氏の主張の根幹は変わっておらず、それは「従軍慰安婦」制度の強制性を否定することと、「従軍慰安婦」制度そのものの非人道性を否定することだと指摘しています。その上で、従軍慰安婦の強制性と非人道性について、具体的な資料を挙げて示しています。とても参考になりました。


▽「96条改正『憲法への挑戦』 主張超え学者結集」(47news=共同通信、2013年5月23日)
 http://www.47news.jp/CN/201305/CN2013052301001904.html
 マスメディアも取り上げた「96条の会」結成のニュースです。護憲、改憲と意見は異なっていても、憲法は権力を縛るものという立憲主義を守る点で憲法学者が大同団結しました。研究者の良心を行動で示したことに敬意を表したいと思います。何事であれ、良心的であろうとすることと良心を行動で示すこととの間には大きな差があります。行動で示すためには、信念や勇気のほかに誇りが必要です。自分自身への誇りです。ジャーナリズムの分野も同じだと思います。

 改憲の発議要件を緩和する憲法96条改正に反対の学者が「96条の会」を発足し、代表の樋口陽一東大名誉教授らが23日、東京・永田町で記者会見して「96条改正は憲法の存在理由そのものへの挑戦だ」とする声明を発表した。
 発起人は憲法学者政治学者ら36人。護憲派だけでなく9条改正を唱える改憲論者も含まれており、主張の違いを超えて大同団結した。声明は「96条を守れるかどうかは権力を制限するという立憲主義にかかわる重大な問題。(改正は)政治家の権力を不当に強めるだけだ」と訴えた。

 ※96条の会
  http://www.96jo.com/index.html


江川紹子さん「日本が誇るべきこと、省みること、そして内外に伝えるべきこと〜『慰安婦』問題の理解のために」(2013年5月25日)
 http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20130525-00025178/

 「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)という財団法人があった。村山内閣の1995年7月に発足。その最大の使命は、戦時中に日本兵相手の「慰安婦」となった海外の被害女性に対する償い事業だった。
 その内容は、1)総理大臣の謝罪の手紙 2)国民の募金から1人当たり200万円の償い金 3)政府資金による1人当たり120〜300万円ほどの医療福祉支援ーーといった「償い」を被害者に届けること。フィリピン、韓国、台湾、オランダ、インドネシアの5カ国で展開されたが、韓国では、日本政府が法的な責任を認めた賠償ではないとして、激しい反対運動が起きた。「償い」を受けようとする被害女性には、強い圧力が加えられた。このため、事業は難航。台湾でも同様の反発はあったが、現地の理解者の助けで、それなりの被害女性が「償い」を受け入れた、という。把握された約700人の被害女性のうち364人に「償い」を届け、基金は2007年3月末に解散。その活動ぶりは、今でもホームページを通じて確認できる(HPはこちら)。
 基金に関わった人たちの回想録を読むと、被害女性たちにとって、総理直筆の署名がなされた手紙の意味が大きかったことが分かる。その文面を知って多くが涙を流し、号泣する人も少なくなかったという。ある人は「総理大臣が、日本が悪かったと詫びてくれた。これで身の証になる。先祖のお墓に入れる」と安堵し、「日本は私たちを見捨てなかった」と喜んだ人もいた。
 それだけのインパクトを与えた総理の手紙には、こう書かれている。
〈いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として改めて(中略)心からおわびと反省の気持ちを申し上げます〉(全文はこちら)
 過去の歴史を直視し、正しく後世に伝える、とも記されている。そして最後は、今後の人生が安らかなものであるようにという祈りの言葉で結んでいる。
 橋本龍太郎氏に始まり、小渕恵三森喜朗小泉純一郎各氏と歴代四人の総理大臣が署名した。この重みは、とても大きい。
 昨今、「慰安婦」問題について、政治家が語る言葉を聞いていると、この重みが忘れられているような気がしてならない。

 この後、記事は同基金の呼びかけ人であり理事だった大沼保昭氏へのインタビューへと続きます。
 正直なところ、忘れていたこと、知らなかったことだらけでした。
 ※デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金
  http://www.awf.or.jp/index.html


▽「元慰安婦が『妄言』と橋下氏批判 なぜあのような人が市長に」(47news=共同通信、2013年5月25日)
 http://www.47news.jp/CN/201305/CN2013052501001635.html

 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長との面会をやめた韓国人元従軍慰安婦の金福童さん(87)と吉元玉さん(84)が25日、大阪市の集会に出席した。金さんは橋下氏の一連の慰安婦問題発言について「あのような妄言を言う人が、どうして市長をしているのか不思議だ」と批判した。

 橋下氏の慰安婦・風俗業発言問題を通じて、もっとも色々なことを考えさせられたのが、元慰安婦の方の「あのような妄言を言う人が、どうして市長をしているのか不思議だ」というひと言です。選挙で支持を得て市長に就任した橋下氏ですが、彼に1票を投じた大阪市民の全員が今回の発言(メディアに大誤報をやられたとの主張も含めて)を支持しているわけではないでしょう。わたしたちの社会が持っている選挙制度によって、社会の中で誰のどんな考えを誰が代表しているか、そしてそれは民主主義を十分に機能させているのか、根源的に問い直されているような気がします。昨年の原発再稼働問題のころから、私の考察テーマになっています。


水島朝穂さん「立憲主義の定着に向けて(1)――『96条の会』発足」(今週の直言=2013年5月27日)
 http://www.asaho.com/jpn/bkno/2013/0527.html

 5月8日、「96条の会」の発起人の会合が開かれ、記者会見で発表する声明案を決定。代表に樋口陽一氏(東大・東北大名誉教授)を選出し、正式に発足した。発起人の顔ぶれはきわめて多彩で、これまでこの種の行動(賛同署名を含めて)に参加したことのない方々が多く含まれている。改憲派小林節氏(慶應大学教授)も加わり、メディアの注目は一気に高まった。
 先週の23日午後、衆院第一議員会館会議室で「96条の会」の記者会見が開かれた。
(中略)
 私は夕方まで授業があったため、記者会見には参加しなかったが、その場にいた方からのメールによると、60名あまりの記者が参加。「大学の授業みたいな雰囲気」に満たされたそうである。実際、私も知人の新聞やテレビの関係者にメールで記者会見のことを知らせたところ、すぐ反応がかえってきて、関心の高さを実感していた。

 6月14日には「国民の総意なき憲法改定に抗して」と題した「96条の会」発足シンポジウムが東京・上智大で行われるそうです。都合が合えば傍聴に行きたいところです。