取材相手、情報源を萎縮させれば、報道は発表しか伝えられなくなる〜参院参考人の新聞労連委員長が指摘したことの意味

 特定秘密保護法案は、与党が国会会期末の6日までに参院の採決を強行する構えと伝えられています。参院国家安全保障特別委の3日の議事進行も、野党の反対を押し切って与党が賛成多数で決めました。
毎日新聞サイト「会期末迫り攻防激化 野党7党が緊急集会」
 http://mainichi.jp/select/news/20131204k0000m010105000c.html

 国家機密の漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法案について、自民、公明両党は3日の参院国家安全保障特別委員会で、4日午前に安倍晋三首相が出席する質疑、同日午後にさいたま市で地方公聴会を行う決定を強行した。民主党など野党4党は「採決へのアリバイ作りだ」と反発し、公聴会を欠席する方針。ただ与党は今国会会期末の6日までに同法案の参院可決を強行する構えで、今国会での与野党の攻防は最終盤を迎えた。
 自公両党は3日朝の理事会で地方公聴会などの日程を提案し、野党と対立。3日夕の特別委で、野党委員が中川雅治委員長(自民)に詰め寄って「認められない」と抗議したが与党側は無視し、公聴会開催を賛成多数で決定。中川氏が特別委を打ち切った。
 また与党は岩城光英参院議院運営委員長(自民)が職権で、産業競争力強化法案などを採決する4日昼の参院本会議も設定。同日は午後の党首討論も含めて異例の過密日程となる。政府・与党は会期を延長せず、秘密保護法案をはじめとする重要法案を「駆け込み可決」で押し切る狙い。自民党石破茂幹事長は3日の記者会見で「会期内に仕上げる方針に何ら変更はない」と述べた。

 自民、公明の与党の議席は選挙の結果ですが、有権者から「白紙委任」を受けたわけではないはずです。法案そのものも民主主義を危うくするものですが、このような経過で問題が多い法が成立、施行されようとしている、そのこと自体も民主主義の危機ととらえるべきだろうと思います。


 3日の参院の審議では、特別委で3人の参考人質疑が行われ、新聞労連の日比野敏陽(ひびの・としあき)委員長(京都新聞労組出身)が意見陳述を行い、法案を廃案にするよう訴えました。参考人質疑の模様は、NHKが正午の全国ニュースで伝えたほか、3日夕刊では朝日新聞(大阪本社最終版)が1面左肩、毎日新聞(同)が1面トップに記事を掲載しました。朝日新聞参考人3人の発言要旨も掲載しています(他の2人は瀬谷俊雄・元全国地方銀行協会長、江藤洋一・日弁連秘密保全法制対策本部長代行)。これらの報道で、日比野委員長の発言部分がどのように報じられたか、備忘を兼ねて以下に引用しておきます。

朝日新聞3日夕刊(大阪本社最終版)
・1面肩「『知る権利 損なう』」「秘密保護法案で参考人質疑 参院特別委」

 日本新聞労働組合連合中央執行委員長の日比野敏陽(としあき)氏(京都新聞記者)は「法案には極めて問題が多く、国民の『知る権利』に奉仕する取材・報道の自由を大きく損なう。廃案にするよう求めたい」と主張した。

・第3社会面に参考人質疑での発言要旨

 日比野敏陽・日本新聞労働組合連合中央執行委員長 法案に知る権利への言及があり、政府答弁では「これで報道や取材が過剰に規制されることはない」と説明しているが、とてもそうは思えない。法案が成立すれば取材相手、そして情報源でもある公務員がこれまで以上に萎縮し、国民に知らせるべき重要な情報も出てこなくなる。

毎日新聞3日夕刊(大阪本社最終版)
・1面トップ「『刑罰規定広い』懸念」「秘密保護法案 参考人日弁連 参院特別委」

 新聞労連の日比野敏陽委員長も「石破氏は(ブログを)撤回したが、事の本質が解決したとは思えない。当局が処罰対象を恣意的に運用するのは確実だ」と懸念を表明。法案にある取材・報道の自由への配慮規定については「捜査当局に配慮してもらうため、『良い子でいろ』と記者に言っているようなものだ」と語り、法案を廃案にするよう訴えた。

▼NHK 3日正午の全国ニュース
参院特定秘密保護法案で参考人質疑」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131203/k10013533951000.html

 同じく野党側が推薦した日本新聞労働組合連合中央執行委員長の日比野敏陽氏は「ジャーナリストの営みが全国各地で行われているからこそ、日本の民主主義が成り立っている。その意味で法案が成立すれば、主権者たる国民が正しい情報を得られずに正しい判断ができず、日本の民主主義を根底から脅かすと言わざるをえない。廃案にすべきだ」と述べました。


 ほかにわたしが目にした範囲では、日経新聞は夕刊総合面に短信で、3人の参考人全員が懸念を表明したことを伝えていました。読売新聞、産経新聞の夕刊には、参考人質疑の記事は見当たりませんでした。
 日比野委員長は参考人としての肩書は労組役員でしたが、取材・報道の現場で働く記者としての立場から法案を検証し、問題点を指摘しました。わたし自身も取材・報道の仕事にかかわる一人として、この法案でもっとも深刻な問題は、日比野委員長が指摘したように「取材相手、そして情報源でもある公務員がこれまで以上に萎縮し、国民に知らせるべき重要な情報も出てこなくなる」との点だろうと考えています。何もマスメディアや取材記者に直接的な圧力をかけずとも、メディアや記者に公務員が近づかないようにできれば、結局はメディアは公式発表しか伝えることができなくなります。取材も、発表の枠内でしかできなくなり、発表された内容が正しいかどうかの裏付け取材も非常に困難になります。それがどんなに息苦しい社会か。さらにわたしたちの社会が戦争を容認する社会に変容した時に、どんなことが起こるのか。すぐに思い起こされるのは、1945年の敗戦までの大本営発表報道です。あるいは順番は逆かもしれません。「国益」を理由に軍事や外交がどんどん秘密にされていくと、社会は戦争を跳ねつけることができなくなり、戦争容認へ向かうのかもしれません。
 今、わたしたちの社会は重要な岐路に置かれているのだと思います。


※追記 2013年12月4日12時15分
 赤旗のサイトに、より詳しい意見陳述要旨がアップされていました。
 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-12-04/2013120403_01_1.html

社説もテロ扱いか
新聞労連委員長 日比野敏陽氏

 法案には極めて問題が多く、国民の知る権利に奉仕する取材、報道の自由を大きく損なうものだ。廃案にするように求めたい。
 取材行為について、「著しく不当な方法と認められない限り」は「正当な」取材だとしている。「著しく不当」とは何か。極めてあいまいだ。取材内容によっては、記者は相手に厳しく迫る。法案の内容や政府の説明は、取材、報道の現場の事情からかけ離れた非現実的な規定だ。
 (法案)第22条の「(国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に)配慮」する主体は誰か。捜査当局が「配慮」するわけだから、捜査当局に「配慮」してもらうように取材中も自分で「良い子になれ」「規制しろ」と言われているとしか思えない。
 重要なことは、取材によって国民、読者の「知る権利」に応えることができるかどうかだ。
 法案の構造自体が非常に問題だ。裁判では無罪になるかもしれないが、訴追ができ、(行政や捜査当局が)取材や報道の邪魔をすることが可能だ。そういうツール(道具)を時の権力が握ることになる。その恐ろしさを多くのみなさん、議員に自覚していただきたい。
 自民党の石破幹事長は、街頭デモを「テロ行為」と共通していると指摘した。この通りなら、新聞の社説やコラム、あらゆるジャーナリストの原稿もテロ扱いされるのではないかという声が新聞記者仲間からも上がっている。ここに法案の本質が隠れているのではないか。衆議院のような強行可決は絶対に許されない。


※追記 2013年12月5日3時55分
 日比野委員長の発言の、より詳しい要旨が神戸新聞の4日付朝刊に掲載されていました。共同通信の出稿記事です。以下に引用します。

▽日比野敏陽新聞労連委員長 国民の「知る権利」に奉仕する取材、報道の自由を大きく損なう法案で、廃案にすべきだ。取材行為に関する規定では著しく不当な行為と認められない限り、正当な取材としているが、極めてあいまいだ。捜査当局に取材方法を指図される筋合いはない。
 法案が成立すれば、取材相手や情報源である公務員がこれまで以上に萎縮する。国民に知らせるべき重要な情報も出てこなくなるのは確実だ。
 処罰規定は秘密を取り扱う相手に接触し、取材しようとしただけで教唆や扇動の罪が成立する可能性が強く、重大な懸念を抱いている。報道機関の捜索や資料押収もあり得る。事実上の報道の弾圧が可能になる。
 公務員と記者ら報道関係者の接触をめぐる規範はどのようなものであっても不要だ。取材現場に萎縮効果をもたらすだけだ。
 真実を明らかにするジャーナリストの使命が果たせなくなるのは明らかだ。掘り起こし的な取材活動が、政府の恣意的運用によってできなくなる可能性が相当ある。
 表現の自由に試行錯誤はあり得ない。一度壊れた表現の自由を元に戻すのは過去の歴史から見ても難しい。