ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「共謀罪」法案 在京紙の報道の記録(1) 5月30日―6月3日

 かつての「共謀罪」と本質的には変わりがない「テロ等準備罪」(政府呼称)を新設する組織犯罪処罰法改正法案の参院での審議が5月29日に始まりました。東京発行の新聞各紙ではかねてより、この「共謀罪」法案に反対ないし批判的な朝日、毎日、東京の3紙と、賛成ないし支持の読売、産経とに二極化しています。紙面の上でも、朝日、毎日、東京は見出しに「共謀罪」を使うのに対し、読売と産経は政府呼称の「テロ等準備罪」を使うなど、法案と政権に対するスタンスの差を反映した大きな違いがあります。以前の記事(「『共謀罪』報道、朝日、毎日、読売各紙の記事量に開き」=2017年5月22日)でも触れましたが、論調の違いから来るもう一つの大きな差異が報道の量です。政権支持の新聞の報道量は、批判的な新聞に比べて少ないのが特徴です。特定秘密保護法や安全保障法制、沖縄の基地集中の問題でも同じことが言えます。違いの理由もはっきりしています。政権支持、法案支持の新聞は、法案への批判意見をめったに載せないからです。
 以上のことをあらためて検証してみる意味で、参院での「共謀罪」法案の審議中に、新聞各紙がどれだけの報道をしたか、記事の主な見出しを書きとめてみようと思います。
 期間は5月30日付朝刊からとしました。対象の新聞は、朝日、毎日、読売、産経、東京が中心です。日経新聞は経済専門紙の色彩が強く、5紙とは同列には比べられないと思うのですが、記録します。各紙とも東京本社発行の最終版です。産経新聞は東京本社では夕刊の発行がありません。
 分類としては、記事、社説、質疑詳報の3種にします。質疑詳報とは、国会でのやり取りを質問と答えとを並べて一問一答形式にした記事です。専従する記者が必要で紙面上もスペースが必要になります。質疑詳報が載るということは、それだけその新聞がその問題の報道に力を入れていることを示しています。
 記事の本数を比較する際には、条件をそろえるため、朝刊だけを対象にします。記事本数の数え方は人によって差異があるかと思います。あくまでも、大まかな目安としてとらえたいと思います。
 「共謀罪」を巡る記録の一つとして後々、なにがしかの意味を残せるかどうかの試みとの意味もあります。
 1週間分程度をまとめてアップする予定です。今回は5月30日付朝刊から、6月3日付朝刊までです。

◎5月30日(火)
【朝刊】
朝日新聞=記事2本、質疑詳報、社説
・1面「『共謀罪参院論戦開始」
・4面「必要性 議論は平行線 首相また国連報告者非難」/焦点採録参院本会議「任意捜査『計画疑われ、準備行為の蓋然性高ければ』金田法相」※質疑詳報
・社説「『共謀罪』審議 国内外の懸念に応えよ」

毎日新聞=記事3本、質疑詳報
・2面「首相『テロ対策』強調 参院審議入り 野党強く反対 『共謀罪』」
・社会面(27面)トップ「『国連』書簡巡り応酬 首相『一方的な見解』 野党『敵視通用せぬ』」/「共謀罪」私はこう思う・反対「違法な証拠収集の恐れ」弁護士 上柳敏郎氏(60)=「ムスリム違法捜査弁護団」副団長/「共謀罪参院本会議質疑 要旨※質疑詳報

▼読売新聞=記事1本
・2面「テロ準備罪 参院で攻防開始」

産経新聞=記事2本
・2面「テロ準備罪 参院審議入り」
・5面「虎の威を借る民進 ケナタッチ書簡 前川前次官証言 幹部『内閣支持率なぜ下がらない。不思議で…』」

東京新聞=記事11本、質疑詳報
・1面トップ「『共謀罪』嫌疑なら捜査 人権・環境団体 対象認める 参院審議入り 法相『当局が判断』」/「歴史の審判に堪えられるのか」瀬口晴義・社会部長
・3面「合意の判断 根拠不明 『共謀』→『計画』に言い換え 『いいね』『既読スルー』も対象の恐れ」・「共謀罪」3つの「限定」を考える(上)/「政府と国連 公表内容に差 政府 日韓合意で『事務総長が賛意』」/「『バランス欠く』首相が強く批判 国連報告者書簡」
・6面:「共謀罪」審議入り 参院本会議質疑の詳報 ※質疑詳報
・7面:「共謀罪参院審議入り[取材班の目]6人=法務省・警察・外務省・首相・与党・野党

日経新聞=記事1本
・4面「『共謀罪』法案参院審議入り 『一般人』の定義 最大の焦点」


【夕刊】
毎日新聞=記事1本
・1面「『共謀罪』実質審議入り」

東京新聞=記事2本
・2面「『共謀罪』本格審議入り 参院委 首相『テロ資金絶つ』」/「政府参考人の常時出席決定 野党は反発」

日経新聞=記事1本
・3面「『共謀罪』実質審議入り 参院委 首相『五輪控え必要』」

◎5月31日(水)
【朝刊】
朝日新聞=記事5本、質疑詳報
・3面「『共謀罪』適用範囲で応酬 オウム真理教は?基地抗議行動は? 参院委」
・4面:焦点採録参院法務委員会「『共謀罪』2名は『団体に当たらぬ』金田法相」※質疑詳報/「刑事局長の出席 与党と維新決定」
・5面(全ページ)「『共謀罪』何が問題? 『共謀罪』法案とはどんな法律か 今のままでは不十分なのか 一般の人への影響は 普通の会社や労働組合、市民団体でも『組織的犯罪集団』とされてしまう可能性はあるのか 『組織的犯罪集団』かどうかを警察はどのように調べるのか」/「改正案、準備段階で取り締まり」/大型表・対象の法律と277罪
・社会面(39面)トップ「国連報告者 どんな人? 『共謀罪』書簡に政府ピリピリ 反論を閣議決定/人権状況を調査/『無視できない』」

毎日新聞=記事3本、質疑詳報
・第3社会面(25面)「共謀罪参院法務委質疑(要旨)※質疑詳報
・社会面(27面)トップ「『共謀罪』議論堂々巡り テロ対策有効性は/捜査機関の乱用懸念 参院審議」/「熟議へ時間確保 不透明」/「国連報告者書簡 『誤解』と答弁書 政府」

▼読売新聞=記事1本
・4面「『基地抗議の団体 対象外』 首相 テロ準備罪、論戦本格化 参院法務委」

産経新聞=記事1本
・5面「テロ準備罪 審議入り 首相、加計問題『恣意的だ』 参院法務委」

東京新聞=記事4本、質疑詳報
・2面「テロ情報 事前取得不明 『共謀罪』根拠の条約締結後 参院法務委 答弁に詰まる外務審議官」/「『共謀罪』懸念指摘は批判/拉致問題担当者には叙勲 報告者対応『二重基準』の声」/「一般人処罰 見え隠れ 『団体』→『組織的犯罪集団』に」・「共謀罪」3つの「限定」を考える(中)
・6面:論戦のポイント ※質疑詳報
・社会面(27面)「『共謀罪』自由奪わせない」声・国会前

日経新聞=記事1本
・4面「『オウム一変時期分からず』 首相『共謀罪』適用対象巡り 実質審議入り」


【夕刊】
▼読売新聞=記事1本
・3面「『独立した専門家』 国連側改めて強調 特別報告者巡り」

◎6月1日(木)
【朝刊】
朝日新聞=記事1本
・第2社会面(30面)「審議を吟味 音読広がる 臨場感あふれる再現 苦笑いとため息」・問う「共謀罪

東京新聞=記事3本
・2面「『心の中』も捜査対象 『準備行為』線引きあいまい」・「共謀罪」3つの「限定」を考える(下)/「心の底から『共謀罪反対』」声・日比谷
・24、25面(特報面)「イスラム教徒監視 米国で違憲判決 『共謀罪国際人権規約違反の恐れ 米法学者 レペタ氏に聞く 裁判所の歯止め 日本では機能せず 国連の指摘より深刻 市民をターゲット 警察の業務を逸脱」

日経新聞=記事3本
・4面「政府と国連すれ違い 続く応酬、溝は深く 秘密保護法/『共謀罪』…」/「国連特別報告者」※用語説明/「主観色濃く反映 冷静な対応必要 明石康・元国連事務次長の話」


【夕刊】
東京新聞=記事1本
2面「国際条約締結に『共謀罪は不要』 参院参考人3人中2人」

◎6月2日(金)
【朝刊】
朝日新聞=記事2本
・7面「条約に必要?歯止め利く? 『共謀罪参院委 専門家も二分 『一般人』再度焦点」/「『不安広げるための議論』首相、国会審議を批判」

毎日新聞=記事2本
・第3社会面(25面)「『共謀罪』審議 参考人賛否割れ」/「共謀罪参院参考人発言要旨・西村幸三弁護士、新倉修・青山学院大名誉教授、松宮孝明立命館大法科大学院教授

▼読売新聞=記事1本
・4面「組織的犯罪集団の『周辺者』も処罰対象 テロ準備罪」

産経新聞 ※見当たらず

東京新聞=記事7本、質疑詳報
・1面「『共謀罪 監視が日常に』 元CIAスノーデン氏警鐘」※共同電
・2面・核心「『方でなく人の支配』 『人権侵害 疑義残る』 賛成の識者『テロ防止に役立つ』 参考人 乱用を懸念」・「共謀罪」国会論戦チェック/「維新修正案を参考人が非難」/「監視システム 日米共有 元CIAスノーデン氏一問一答」※共同電
・6面「『共謀罪』法案 参考人の発言要旨 参院法務委」「謙抑的、処罰範囲狭めた」西村幸三弁護士/「刑法原則ひっくり返す」新倉修・青山学院大名誉教授/「戦後最悪の治安立法」松宮孝明立命館大法科大学院教授/論戦のポイント

日経新聞=記事1本
・4面「『共謀罪』一般人巡り論戦 参院委」※短信


【夕刊】 ※見当たらず

◎6月3日(土)
【朝刊】※見当たらず


■5月30日〜6月3日の掲載記事数(朝刊のみ)
朝日新聞:記事10本、質疑詳報2本、社説1本
毎日新聞:記事8本、質疑詳報2本
・読売新聞:記事3本
産経新聞:記事3本
東京新聞:記事25本、質疑詳報3本
日経新聞:記事6本