琉球新報社説「まるで中世の専制国家 民意無視する政府の野蛮」〜官房長官が知事と会談しても、負担を迫る構図は変わらない

 自宅で購読している琉球新報の3月31日付紙面が手元に届きました。米軍普天間飛行場の移設問題をめぐり、沖縄県の翁長雄志知事が沖縄防衛局に出した辺野古での作業停止の指示に対し、林芳正農相が30日に効力を一時的に停止するとの判断を示したことについて、第1面、総合面、社会面で大きく報じています。総合面に掲載した社説では「まるで中世の専制国家 民意無視する政府の野蛮」の見出しで、激しい日本政府批判を連ねています。以前の記事の繰り返しになりますが、書き出しをもう一度、紹介します。

琉球新報「農相効力停止決定 まるで中世の専制国家 民意無視する政府の野蛮」2015年3月31日
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-241173-storytopic-11.html

 いったい今はいつの時代なのか。歴然と民意を踏みにじり恬(てん)として恥じぬ政府の姿は、中世の専制国家もかくや、と思わせる。
 まして民主主義の国とは到底思えない。もっと根源的にいえば、この政府が人権意識をかけらでも持っているか疑わしい。
 言うまでもなく林芳正農相が翁長雄志知事の発した作業停止指示の効力停止を決めたからだ。これで民主国家を称するとは度し難い。理は沖縄側にある。県は堂々と国際社会に訴えればいい。民主制に程遠いこの国の実相を知れば、国際社会は耳を疑うだろう。

【写真説明】3月31日付の琉球新報1面、総合面、社会面


 菅義偉官房長官は4月1日の会見で、翁長雄志知事と会談する意向を明らかにしました。翁長氏が昨年12月に知事に就任して以来、安倍晋三首相も菅長官も会談に応じていませんでした。個人的には、ここにきて沖縄だけでなく日本本土の世論が政権に厳しい見方を強めてきていると感じ取ったのか、と感じています。
 しかし、翁長知事にしても菅氏と会うことが最終目的であるはずもなく、また普天間飛行場名護市辺野古地区への移設に理解を求められても、「はい、分かりました」となるわけもありません。日本政府が沖縄県外への移設に方針変更することも現状では考えられず、結局は日本政府が沖縄に対し、その住民意思に反した負担の引き受けを迫る構図に変わりはありません。本土に住む日本国の主権者である国民がどう考えるか、状況を変えうるのは日本本土の世論だということにも変わりはないのだと思います。
※「菅氏、翁長知事と初会談へ 4、5日に沖縄県入り」(47news=共同通信)2015年4月1日
 http://www.47news.jp/CN/201504/CN2015040101001547.html

 菅義偉官房長官は4、5両日に沖縄県を訪問し、翁長雄志知事と会談する意向を固めた。翁長氏が反対する米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐって議論し、理解を求めたい考えだ。4日に開かれる米軍キャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区(同市)の返還式典出席も調整する。1日の記者会見で明らかにした。両氏の会談は昨年12月に翁長氏が知事に就任して以来、初めてとなる。
 安倍政権としては、沖縄基地負担軽減担当相を兼ねる菅氏が翁長氏と会談することで、辺野古移設に向けた海底作業などで膨らむ県側の反発を和らげ、歩み寄りの糸口を探る狙いがある。


 ここでは、翁長知事が沖縄防衛局に出した辺野古での作業停止の指示に対し、林農相が30日に効力を一時的に停止するとの判断を示したことについて、東京発行の新聞各紙が掲載した社説を、備忘を兼ねて、一部引用し書き留めておきます。

朝日新聞「政府と沖縄―捨て石にしてはならぬ」4月1日付

 翁長知事は農水省に意見書を提出した際、「沖縄県民の痛みを感じない、感じようとしない政府の姿勢があることを国民の皆様に知っていただきたい」と訴えた。
 今年は戦後の沖縄にとって節目の年にあたる。70年前の4月1日、米軍が沖縄本島に上陸を開始した。沖縄戦での死者20万人以上。本土防衛の捨て石とされ、県民の4分の1が命を落としたと言われる。
 普天間飛行場は当時、住民を収容所に移している間に米軍が建設した。その返還のため、なぜまた同じ沖縄の辺野古が使われなければならないのか。
 菅官房長官は再三、「辺野古移設は16年前、当時の県知事と市長が同意した」と口にする。だが当時の県知事、稲嶺恵一氏は15年の基地使用期限を条件とした。名護市長の故岸本建男氏も、基地使用協定の締結などを条件に掲げた。現行計画にこうした条件はない。現行計画での移設容認を公約にして当選した知事も名護市長もいない。
 「辺野古移設こそ、唯一の解決策」と繰り返す政権に対し、県民からは「もう日本のための捨て石にはならない」との声が聞こえてくるようになった。これ以上、沖縄に基地負担を押しつけるやり方は、決して解決策と呼べるものではない。

毎日新聞辺野古移設 沖縄と敵対ばかりでは」3月31日付

 政府のこれまでの姿勢をわかりやすく言えば、次のようになる。
 辺野古移設の手続きは前知事時代に決まったことで、沖縄はこの期に及んで覆すべきでない。移設は普天間の危険除去のためであり、断固として進める。移設が頓挫し、普天間が固定化されてもいいのか−−。
 だが、沖縄の多くの人々は、普天間の危険性が除去されても、辺野古に新基地ができて固定化されれば、県全体としては負担軽減につながらないと感じている。政府の説明は沖縄に届いていない。
 知事は先週、農相に出した意見書で「安全保障が大事だという思いは共有するが、負担を沖縄だけが背負うのではなく、国民全体で考えるべきだ。沖縄の痛みを感じようとしない政府の姿勢を国民に知ってほしい」と述べた。
 政府内の推進派は、こうした声を感情論だといって切り捨てがちだ。だが、沖縄と敵対してばかりいては、県民感情は悪化する一方だ。県民の共感や理解のないまま政策を進める態度は、政治とは呼べない。

日経新聞普天間移設を法廷で争うのは筋違いだ 」3月31日

 農水省が知事の停止命令の是非を審理する間、命令の効力をいったん無効にすると林芳正農相が判断したのはもっともだ。
 ただ、法的に正しいからとかたくなな対応でよいのかはよく考える必要がある。安倍晋三首相も菅義偉官房長官も昨年の知事選後、翁長知事と一度も会っていない。こうした対応が基地移設に賛成の県民の心証まで害していないだろうか。
 農相の発表を受け、翁長知事は「腹を据えて対応する」と表明した。県が埋め立ての前提となる岩礁破砕許可を取り消し、対抗して国がその取り消しを求めて裁判所に提訴する形で法廷闘争に突入する可能性が高まっている。
 これと似た事例が1995年にあった。米軍用地の収用に必要な代理署名を当時の大田昌秀沖縄県知事が拒んだことだ。最高裁まで争って国が勝訴したが、このときに生じた国と県民の溝がいまに至る普天間問題の遠因になっている面もある。
 基地はただつくればよいのではない。周辺住民の理解がなければ円滑な運用は難しくなる。菅長官は「辺野古移設の原点が何であるかということが、沖縄県民や国民に説明が行き届いていない」と述べたが、それを説明するのは政府の責任である。裁判で争わなくてよい努力をまずすべきだ。

産経新聞辺野古移設 話し合いの土俵を整えよ」4月1日付

 翁長氏の指示は、農水省が所管する水産資源保護法に基づく岩礁破砕許可が根拠だった。そこで林氏が農水相としての判断を求められたのだが、普天間の危険性除去と日米同盟の信頼関係も考慮した常識的な判断といえよう。
 移設が阻まれれば普天間飛行場の危険性は取り除けない。平成16年には、米軍ヘリが飛行場に隣接する沖縄国際大に墜落する事故が起きた。政府、地元自治体ともにもう先送りできない問題だ。
 軍事力の拡張を続ける中国は海洋進出を強め、尖閣諸島沖縄県)の奪取をうかがっている。日米同盟を強化し南西諸島の守りを固めなければならない。米軍基地をめぐる混乱は抑止力を損ない、沖縄の安全を危うくする。
 翁長氏の指示は、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事時代の県の立場を十分な根拠なく覆すものだ。法的にも、安全保障の観点からも、移設阻止を選択すべきではない。
 しかし、国が法にのっとって粛々と工事を進めるとしても、県民との信頼関係なしには、円滑な基地運用も難しくなる。
 安倍晋三首相や菅義偉官房長官は、知事との会談に前向きな考えを示している。冷静に話し合える土俵をまずは整えてほしい。

東京新聞辺野古工事 既成事実化は許されぬ」3月31日付

 辺野古をめぐる現在の混乱の原因は、在日米軍基地の約74%が集中する現状を沖縄差別と感じ始めた県民と真摯(しんし)に向き合おうとしない安倍内閣の側にある。
 安倍内閣辺野古での米軍基地新設の根拠とするのは、仲井真弘多前知事による沿岸部の海面埋め立て許可だ。
 しかし、仲井真氏による「県内移設」受け入れは、体裁は整っているが、自らの公約を踏みにじるものであり、県民の意思を反映していない。しかも、昨年の県知事選で明確に拒否されたものだ。
 県は、仲井真氏の許可に法的な瑕疵(かし)がないか検証している。翁長氏は検証終了まで作業中止を求めているが、安倍内閣は耳を傾けようとせず、政権首脳部と翁長氏との会談もいまだ実現していない。
 これでは県民が反発するのも無理もなかろう。安倍晋三首相は胸襟を開いて翁長氏ら沖縄県民と対話し、真の負担軽減に向けた解決策を見いだすべきではないか。日米関係ばかりを優先して沖縄を切り捨てる愚を犯すべきではない。
 「沖縄の方々の理解を得る努力を続けながら…」。首相は今年二月の施政方針演説でこう述べた。首相が沖縄県民がたどった苦難の歴史と米軍基地を背負う苦悩とに向き合う誠意があるのなら、言葉を実行に移すべきだ。沖縄との溝をこれ以上、深めてはならない。


※追記 2015年4月2日8時25分

 読売新聞も4月2日付で社説を掲載しました。

▼読売新聞「辺野古移設作業 建設的立場で接点を模索せよ」4月2日付

 翁長知事は、県の岩礁破砕許可の取り消しを検討していたが、農相の執行停止決定により、先送りを余儀なくされた。
 別の理由を探して、あくまで許可取り消しを目指す道もあろう。だが、いたずらに政府との対立を激化させることが、果たして多くの県民の利益になるのか。
 普天間飛行場辺野古移設は、米軍の抑止力を維持しながら、周辺住民の負担を大幅に軽減する最も現実的な選択肢だ。移設の遅れは、飛行場の危険性や騒音被害の長期化に直結する。
 米軍は先月31日、51ヘクタールの西普天間住宅地区を日本側に返還した。一昨年の日米合意に基づく初の大規模返還だ。政府は、国際医療拠点を整備し、「基地跡地利用のモデルケース」にしたい考えだ。
 こうした基地返還と沖縄振興を進めるためにも、合意の前提である辺野古移設の実現が重要だ。
 菅官房長官は4日に沖縄を訪問し、翁長知事と会談する方向で調整している。政府は、県側と建設的な対話を重ね、移設実現への関係者の理解と協力を広げる努力を続けることが欠かせない。