民意の支持を欠いた安保法制は発動されていいのか

 このブログ記事を書きながら、日付は9月18日から19日に変わりました。参院では、安全保障関連法案を本会議で可決させて成立させようとする自民、公明両党に対し、民主、共産、社民、生活の野党各党の抵抗が続きました。今夜も国会前には多くの方が集まり、安倍晋三政権と与党、法案への抗議が続いていると報じられています。
 9月17日の参院特別委で安保法案が可決された模様は、NHKがテレビで中継しており、わたしも職場で見ていました。特別委の鴻池祥肇委員長に対する不信任動議が否決され、鴻池委員長が部屋に入り委員長席に座って間もなく、何人かの議員が「だだだだだっ」という感じで駆け寄ったかと思うと、あっという間に押し合いへし合いの人だかりができ、委員長の姿は見えなくなりました。よく見ると、委員長に覆いかぶさらんばかりに人間の壁となって委員長を守っているのはどうやら自民党議員で、遅れて駆けつけ、委員長につかみかかろうとする野党議員をブロックしているようでした。陸自イラク派遣で先遣隊の隊長だったヒゲの佐藤正久議員は押し合いへし合いの中で委員長のそばに立ち、室内の与党議員へ向けて何度か手を上げ、起立を促す合図を送っているようでした。その都度、自民党の議員らが起立しているのはテレビ画面でも分かりましたが、委員長の声はテレビからはまったく聞こえません。この間、安倍晋三首相や閣僚も入室していたようで、間もなく首相が退室していくのが写り、委員長も与党議員らに守られるように委員会室を出ました。採決が行われたのかどうか、よく分からないうちに民放テレビ数局が相次いで「参院特別委で可決」と打ち、間もなくNHKも「可決」を伝えました。
 テレビを見ていた限りでは何がどうなっていたのか分からないドタバタぶりのように感じましたが、朝日新聞の18日付朝刊総合面の記事は、一連の段取りはすべて前夜から、首相官邸を交えてシナリオが練られていたことを伝えています。参院自民党は「委員会を開けば質疑をする」と吹聴し、野党は、委員会が始まってもすぐには採決に進まないと受け止め、油断が生じたとのことです。さらに地方紙に掲載されている共同通信の配信記事(ネットでは読めません)は、以下のように早朝にリハーサルまで行っていたことを明らかにしています。

 「チャンスを見つけ17日中に絶対に決着をつけるつもりだった」。自民党参院幹部が明かした。
 採決強行のシナリオは綿密に練られた。関係者によると、与党が当初想定した特別委採決を諦めた後、17日未明の理事会休憩で野党を含め関係者が引き揚げた午前6時ごろ、自民党若手議員と鴻池祥肇委員長がひそかに国会内に集まった。実際に第1委員会室の委員長席に座り、合図に従い若手が駆け寄るリハーサルを繰り返した。
 本番は、鴻池氏の不信任動議が否決され、第1委員会室の入り口から委員長席に戻る時に訪れた。野党議員は動議に関する演説で思いの丈をぶつけた後。安倍晋三首相が入室してきたことにも気を取られた。若手が鴻池氏を取り囲む“壁”を形成したのを見て、野党議員の多くが最終の質疑を飛ばし強引に採決する与党の意図を察知したが、遅きに失した。
 「採決するな」「何をするつもりだ」。怒声が響く中、与党議員らが賛成の意思を示す起立をした。

 舞台裏が明らかにされるにつれ、わたしは暗澹たる気持ちになりました。わたし自身、テレビの中継を見ながら、一体何が行われているのかよく分かりませんでした。おそらく、全国で数多くの方が中継を見ながら同じ思いを持ったのではないかと思います。テレビを見ている範囲では、委員席の議員から委員長の姿が見えているようには思えず、声が届いていたようにも思えません。また、委員長からも委員会室の様子が見えていたとは思えません。野党議員たちも、採決を強行したのではないかと疑うことはできても、委員長が何を話し、何に起立を求めているのか、同時進行ではほとんど理解できていなかったのではないでしょうか。
 それでも、委員長は「可決」を認識し、それが正式の記録に残るようです。日本の国会運営は会派主義を取っているので、委員会の委員の会派別の構成はそのまま法案に対しての賛否の内訳を示しています。厳密な記名投票でも、挙手でも、果ては今回のような怒号と混乱の中での起立でも、結論を誤ることはない、という考え方なのかもしれません。だから今回の採決が手続きとして有効だというのは、それは仕方がないのかとも感じます。しかし、国のありようを大きく変える法案の扱いとして、このような決まり方でいいわけがない、という思いが強く残ります。これでは「採決強行」と言うよりも、奸計を用いて「可決」をだまし取ったに等しいような後味の悪さを感じます。ましてや、このブログでも指摘したように、最近のマスメディア各社の世論調査では、今国会での成立に否定的な意見が肯定的な意見を圧倒していると言っていい状況の中でした。
 18日は深夜まで、野党が内閣不信任案や鴻池委員長の不信任案などを提出し徹底抗戦しましたが、19日にはこの安保関連法案は参院本会議で賛成多数で可決され、成立することは避けられないようです。しかし、このような経緯で成立する安保法制は、民意の支持を欠き正統性に疑問がある(適法かどうかはともかく)との批判を到底免れ得ないと思います。そのような法制で、このまま集団的自衛権の行使や他国軍の後方支援などが発動されていいのかどうかが、次の焦点、課題として、社会で広範に論議されていいだろうと思います。実際の発動に限ったことではなく、発動するための自衛隊の態勢や装備の整備、訓練の強化なども含めてです。それはそのまま、マスメディアとジャーナリズムの課題だと受け止めています。


 ここまでの経緯について、わたしが身を置くマスメディアの報道を振り返って危惧を抱くのは、法案に反対して直接、街頭に出て声を上げるようになった幾多の人々、中でも若者に対し、向き合い方が真っ二つと言っていいほどに分かれていることです。それは法案や安倍政権をどう評価するかの違いと重なっています。そして安倍政権を支持するメディアが、抗議する人々を報道で取り上げることは、政権に批判的なメディアに比べ頻度も分量も圧倒的に少量でした。それでいて、そうした人々に向ける視線は、単に無視、黙殺というわけではなく、敵視と言ってもいいほどの厳しさ、険しさがあるように感じます。
 仮に、安保法制をめぐって民衆を敵視するジャーナリズムが出現しているのだとすれば、軽視できません。戦争的なもの、社会の中で戦争を容認する意識や空気のようなものと、他者に攻撃的であることは親和力が高いからです。戦争をする社会になってしまうと、勇ましい言辞ほど声が大きくなっていきがちです。戦争に反対する言論や表現活動がやがて、戦争を容認する言論に駆逐されていくことは、この国の新聞の戦前の歴史が証明しているように思います。以上のことが、わたしの思い過ごし、杞憂であればいいのですが。いずれにせよ、わたしたちの社会が今後どのようなことになっても、70年前の敗戦に至ったのと同じ道をたどることのないようにすることは、マスメディアのジャーナリズムの課題だと考えています。


 あらためて、最近のマスメディア各社の世論調査結果を書きとめておきます。
【安保法案を今国会で成立させることに対して】
日経新聞テレビ東京 8月28〜30日実施 「賛成」27% 「反対」55%
▼NNN(日本テレビ系)9月4〜6日実施 「よいと思う」24・5% 「よいと思わない」65・6%
▼JNN(TBS系)9月5、6日実施 「賛成」30% 「反対」61%
▼NHK 9月11〜13日実施 「賛成」19% 「反対」45% 「どちらともいえない」30%
朝日新聞 9月12、13日実施 「必要がある」20% 「必要はない」68%
産経新聞・FNN(フジテレビ系) 9月12、13日 「賛成」32.4% 「反対」59.9% 他7.7%


※追記 2015年9月19日2時50分
 安保関連法制は19日午前2時すぎ、参院本会議で可決され、成立しました。
 47news=共同通信「安全保障関連法が成立 集団的自衛権行使可能に」2015年9月19日
 http://www.47news.jp/CN/201509/CN2015091801001988.html

 歴代政権が禁じてきた集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が19日未明の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成により可決、成立した。自衛隊の海外活動が地球規模に拡大し、戦後の安保政策は大きく転換する。全国各地で反対の声が広がり、多くの憲法学者らが「違憲」と訴えたが、与党は安倍晋三首相が公言してきた今国会成立を優先させた。
 関連法は自衛隊法や武力攻撃事態法など10本の法改正を一括した「平和安全法制整備法」と、他国軍の後方支援を随時可能にする新法「国際平和支援法」の2本。

※追記 2015年10月4日11時55分
 副題を削除して、タイトルを1本にしました。