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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

ヘリ炎上事故を機に、沖縄になぜ米軍基地が集中しているのかを考える~本土紙の社説の記録

 衆院選公示翌日の10月11日午後、沖縄本島北部で飛行中の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)所属のCH53E大型ヘリが出火。東村高江の米軍北部訓練場に近い民有の牧草地に不時着して炎上しました。住宅まで200~300メール。けが人はありませんでしたが「あわや」の事故でした。このブログの前回の記事で書いたように、米軍基地を巡っていつまで沖縄に過剰な負担と危険を強いるのか、衆院選では全国で争点として問われるべきだろうと考えています。

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 ここでは、日本本土の新聞各紙がこの事故を社説でどのように取り上げているかを、ネット上で分かる範囲で見てみました。

 14日現在で、全国紙で唯一取り上げた毎日新聞は、沖縄で米軍機の事故がやまないことに対して「こうした実情が変わらない限り、沖縄県民にある反基地感情を拭い去ることはできないだろう」と指摘し、日米安保条約に伴う地位協定の見直しや抜本改定の必要性に力点を置いています。

 地方紙・ブロック紙の社説も、やはり地位協定に触れた内容が目に付きます。現行の地位協定は、米軍施設の外であっても 、米軍機の事故は米軍の同意なしには日本側は現場検証も捜査もできず、米軍が再発防止策を取ったと主張しても、検証も何もできません。地位協定の抜本的な見直しは必要ですが、それが問題のすべてではありません。沖縄に基地が集中し続けていることの意味を、衆院選の折でもあり、沖縄の一地域の問題としてではなく、全国の問題としてとらえる視点が重要です。なぜ、沖縄だけが過剰な負担や危険を引き受けさせられているのか、引き受けるよう強いているのは誰なのか、の視点であり、問い掛けです。

 その意味で、例えば京都新聞の社説が「在沖縄米軍の大部分を占める海兵隊は、50年代まで岐阜県など本土にも駐在していた。沖縄に移ったのは、米軍への反発が強まったためだ」と、歴史的経緯に触れたのは重要な視点だと思いますし、西日本新聞の社説が呼び掛けているように「本土に住む私たちも、投票までに一度、想像してみたい。『もし自分が沖縄県民だったら』と」と、想像力を働かせることが必要なのだろうと思います。日本本土に住む日本国民の無関心が、沖縄の基地集中を固定化させているのだとしたら、日本本土に住む日本国民も沖縄の基地被害の当事者です。この衆院選は、そのことが広く論議される機会になるべきだと考えています。

 以下に、目にとまった本土紙の社説のリンク(いずれリンク切れになると思います)とその一部を引用して書きとめておきます。

 

【10月13日付】

▼毎日新聞「沖縄米軍ヘリ不時着事故 基地集中の理不尽さ再び」
 http://mainichi.jp//articles/20171013/ddm/005/070/048000c

 政府がいくら「強固な日米同盟」を強調しても、米軍基地をめぐる国内の鋭い対立を解消できないままでは、不安定さがつきまとう。
 現在の日米地位協定は、米軍基地の外で起きた事故であっても米軍に警察権があり、米軍の同意なしに日本側は現場検証もできない。
 米軍はこれまで事故機の機密情報の保護などを理由に共同捜査に応じず、日本は事故原因などを米軍の調査に委ねるしかないのが現状だ。
 今回の衆院選では、野党の多くが基地負担の軽減と合わせて地位協定の見直しや抜本改定を公約などで訴えている。
 政府には国民の生命を守る義務がある。もし地位協定がそれを担保できないなら、見直しを含めた検討が必要ではないか。 

 

▼北海道新聞「米軍ヘリ炎上 沖縄の現実を直視せよ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/138197?rct=c_editorial 

 危険と隣り合わせの沖縄の現実があらためて浮かび上がった。翁長雄志知事はきのう「日常の世界が一転して恐ろしい状況になる。悲しく、悔しい」と述べた。
 政府はその言葉を重く受け止めなければならない。衆院選を戦う各党も沖縄の現実を直視し、基地問題を全国に訴える必要がある。  

 

▼信濃毎日新聞「米軍ヘリ炎上 不安置き去りにするな」
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20171013/KT171012ETI090007000.php  

 米軍機の事故は、日米地位協定によって日本側の捜査が阻まれてきた。沖縄国際大への墜落事故では、米軍が現場一帯を封鎖し、警察の立ち入りを拒んだ。名護市沖の事故でも、共同捜査の要請に応じなかった。
  国民の命に直接関わる問題である。原因の解明や責任の追及を米軍任せにはできない。政府は捜査の受け入れを強く迫る必要がある。妨げとなる地位協定は、見直さなくてはならない。
  今回の事故は、沖縄の基地負担の重さをあらためて浮き彫りにした。在日米軍基地の7割余が沖縄に集中し、周辺の騒音被害も深刻だ。米兵らの犯罪も絶えない。
  名護市辺野古では、米軍普天間飛行場の移設先として政府が新たな基地建設を強行している。衆院選で、沖縄の基地問題はもっと議論されるべきだ。  

 

▼中日・東京新聞「米軍ヘリ炎上 危険が身近にある現実」
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2017101302000112.html

 今回の事故は、米軍施設に伴う危険性だけでなく、日米地位協定の問題も突き付ける。
 沖国大の事故では、日本の捜査権は及ばず、米軍が規制線を引いた。今回も米軍は事故現場を事実上の封鎖状態とし、県警は現場検証を実施できなかった。
 地位協定の関連文書では、米軍の同意がない場合、日本側に米軍の「財産」の捜索や差し押さえをする権利はない、とされるためだが、日本政府は主権が蔑(ないがし)ろにされる状態をいつまで放置するのか。政府は法的に不平等な地位協定の抜本的見直しや改定を米側に提起すべきだ。形ばかりの抗議でお茶を濁して済む段階ではない。 

 

▼京都新聞「米軍ヘリ炎上  沖縄だけの問題でない」
http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20171013_4.html 

 在沖縄米軍の大部分を占める海兵隊は、50年代まで岐阜県など本土にも駐在していた。沖縄に移ったのは、米軍への反発が強まったためだ。沖縄は当時、米施政下にあり、基地拡大に反対することは不可能だった。
  「本土は基地負担を沖縄に押しつけて日米安保体制の利益だけを享受している」。沖縄ではこう指摘されることが少なくない。
  歴史的経緯を直視し、日本全体で沖縄の声に向き合う必要がある。 

 

▼中国新聞「米軍ヘリ炎上 基地のリスク、どう軽減」
http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=380273&comment_sub_id=0&category_id=142 

 地位協定はこのままでいいのか。沖縄に集中して押し付けている米軍基地のリスクをどうすれば軽減できるのか。衆院選の最中だけに、議論を深めるべきである。野党の多くは沖縄の負担軽減や地位協定見直しなどを公約に盛り込んでいる。しかし自民、公明の連立与党は地位協定見直しなどには及び腰だ。国民全体の問題として考えることが不可欠ではないか。 

 

 ▼西日本新聞「沖縄基地問題 本土も自分の争点として」
 http://www.nishinippon.co.jp//nnp/syasetu/article/365580 

 ただ、米軍基地を巡る論争は沖縄の「地域課題」の様相となり、全国的な論戦の主要テーマには位置付けられていないのが現状だ。
 朝鮮半島情勢の緊迫を受け、安全保障に対する有権者の関心は高まっている。日本の安全保障の基軸である日米同盟を下支えしているのが沖縄だ。むしろ今こそ、各党は沖縄の基地負担問題について正面から論じるべきではないか。地域限定課題などではないのだ。
 本土に住む私たちも、投票までに一度、想像してみたい。「もし自分が沖縄県民だったら」と。 

 

 ▼佐賀新聞(論説)「米軍ヘリ事故 負担軽減と言えぬ実態」※共同通信
 http://www.saga-s.co.jp/articles/-/135567 

 現場を視察した沖縄県の翁長雄志知事は「悲しく、悔しい」と語った。日本政府は、事故の原因究明と再発防止を米側に徹底して求めるとともに、まやかしではない負担軽減に向け、抜本的な取り組みを進めるべきだ。
 衆院選では各党が沖縄の負担軽減を公約に掲げ、在日米軍の法的地位などを定めた日米地位協定の見直しにも言及している。米軍機は日本中を飛んでおり、沖縄だけの問題ではない。全国的な課題として考えたい。 

 

▼南日本新聞「[米軍ヘリ事故] おざなりの調査許すな」
 http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=87647 

 そもそも米軍による事故や事件が絶えないのは、沖縄の過重な基地負担があるからだ。
 北部訓練場は昨年末、総面積の半分超に当たる約4000ヘクタールが返還された。日本政府は本土復帰後、最大の返還だとし「基地負担軽減に大きく資する」と強調した。
 しかし、返還と引き換えに建設されたのが、集落を取り囲むような複数のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)だった。
 そこへ今回の事故である。米軍施設の島内たらい回しは到底、負担軽減になり得ない。
 普天間飛行場の辺野古移設も事故の懸念は同じだ。衆院選では各党が沖縄の負担軽減を公約に掲げている。その本気度を見極める必要がある。 

 

【10月14日】

▼陸奥新報「米軍ヘリ事故『再発防止に何が必要か』」
 http://www.mutusinpou.co.jp/index.php?cat=2 

 弾道ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮の脅威が高まっている。日米韓が歩調を合わせて圧力を強化している中、日米間に軋轢(あつれき)が生じるようなことがあってはならないだろう。しかし、必要に応じた抗議や指摘はあってしかるべきだ。
 日米地位協定により、米軍の事故を日本が捜査できることはほとんどない。このため、政府も米軍の報告をうのみにし、追認せざるを得ない状況にあるとも言えよう。そうであるなら今回の衆院選で各党は、地位協定の在り方も争点にし、大いに議論してもらいたいと思う。 

 

 ▼福井新聞「またも米軍ヘリ事故 不平等協定を見直すべき」
 http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/249016 

 だが、何を持って負担軽減というのか。返還と引き換えに東村高江の集落を囲むような複数のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)が建設された。実態は基地機能の強化である。米海兵隊が13年にまとめた報告書「2025戦略展望」は、北部訓練場について「51%の使えない土地を返還し、残りは海兵隊が最大限利用できるよう開発される」と明記している。
 軽減どころか過重負担の現実。翁長雄志知事は「沖縄にとって国難だ」と憤った。普天間飛行場の移設先である名護市辺野古の新基地は要塞化し、新たな事故が起きる可能性がある。基地撤去を求める県民の反発が高まるのは必至だ。
 さらなる問題は日米地位協定の不平等性である。協定関連文書では、米軍の同意がない場合は日本の当局に米軍の「財産」捜索や差し押さえをする権限はないとされ、自衛官らに捜査権はない。翁長知事は地位協定の抜本的な改定を求め、県独自の案を9月に日米両政府に提出した。

(中略)
 地位協定の見直しへ本腰を入れようとしない弱腰外交は衆院選の自民党公約でも分かる。「米国政府と連携して事件・事故防止を徹底し、地位協定はあるべき姿を目指します」とするだけだ。米軍機は日本中の空を飛んでいる。衆院選の課題として各党、真剣に取り組む必要がある。 

 

 以下の北國新聞の社説は他紙と異なった視点でした。

【10月13日付北國新聞】 

 「米軍ヘリ炎上 整備、技量に問題ないか」 

 これまでの米軍機事故で気になるのは、整備不良や訓練不足によるパイロットの操縦ミス、技量不足が原因の多くを占め、背景にオバマ前政権による国防費削減があるとみられることである。
 米政府監査院の高官は9月、横須賀を母港とする第7艦隊所属艦の相次ぐ衝突事故に関して、同艦隊乗組員の約4割が定期訓練を受けていなかったと米議会で証言している。トランプ政権はこうした状況を認識しており、米軍を再構築するため2018会計年度の国防費を前年度より10%増やす予算教書を議会に提示している。その中で、米軍がアフガニスタンなどでの戦争と予算削減で疲弊していることを認め、先送りされてきた装備のメンテナンスや必要な訓練の確保に取り組むとしている。その点でトランプ政権の国防予算増額方針は正しい判断といえ、着実な実行を求めたい。