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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「令和」初日 祝賀に包まれた在京紙の報道の記録

 新元号「令和」初日、東京発行新聞各紙の5月1日付朝刊はいずれも徳仁皇太子の天皇即位と改元を大きく報じました。前日の「平成最後の紙面」と同じく、この「令和最初の紙面」もある意味、歴史の記録だろうと思い、6紙(朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、東京新聞)の紙面の概要を記録として書きとめておきます。1面、総合面、社会面の主な記事の見出しは後掲します。

 全体としては、新天皇の即位と令和時代の始まりに対して祝賀ムードに包まれた紙面、報道だと感じました。各紙とも社会面は、各地の人々の表情を切り取って並べる構成が主流です。1日午前0時に「平成」から「令和」に変わるその瞬間を取り上げた記事についた「カウントダウン」の見出しは、朝日、毎日、読売、日経の4紙に見えます。天皇の代替わりと改元が、さながら大みそかから新年へのイベントのように、一般の人たちに受け止められていることの反映と言えるのかもしれません。

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 社説・論説は読売新聞が「平成から令和へ 平和と安定へ努力重ねたい」との見出しで1面に掲載したのが目を引きました。産経新聞は通常は「主張」が載っている位置に「令和のはじめに 新時代にふさわしい国家戦略を」との乾正人・論説委員長の署名の論考が掲載されています。前日の4月30日付朝刊では、産経新聞社会長の署名の論考が同じ位置に掲載されていました。
 社説・論説の中で重要な指摘だと感じたのは、毎日新聞の社説「令和時代に入る日本 変化にしなやかな適応を」の中の一節です。一部を引用して書きとめておきます。

 急速なグローバル化の反作用として世界各国で社会の分断が懸念されている。日本が相対的に安定を保っているのは、象徴天皇制による絆があるからだとも言われる。
 国家はその領域にいる人びとの共同体だ。皇室への敬愛は、成員がまとまる力になるのは確かだろう。
 ただし、これからの日本は国内で暮らす人が必ずしも国民とは限らない時代に入っていく。
 日本の在留外国人はすでに人口の2%、273万人に上る。4月には外国人労働者受け入れ拡大の新制度が始まった。母語も習慣も違う隣人との共生がますます必要になる。
 外務省は外国政府向けに令和の趣旨を「beautiful harmony(麗しい調和)」と説明した。令を命令の意の「order」と訳する海外メディアがあったためだという。
 もし令和の精神が「調和」であるのなら、同質者の集合ではなく、でこぼこの個性を互いに認め合える多様性の尊重でなければならない。それがグローバル化する日本の姿を考える上でのしなやかさだろう。

 在日コリアンの人たちの存在とヘイトスピーチの問題はもう随分と前から日本社会の克服すべき課題としてわたしたちの目の前に表れているとは思いますが、それでもこの毎日新聞の論説が触れている定住外国人と日本社会の多様性の視点は、天皇制を考える上でも重要だと気付かされました。

 天皇制や元号を巡る報道について、もう一つ書きとめておきたいのは、この社会には天皇制を肯定的にとらえている人ばかりではないはずだ、ということです。今回の代替わりと改元は、昭和から平成への時のような自粛ムードがないことから自由に天皇制や元号を語れるのなら、報道も肯定意見ばかりではなく、異論も取り上げる機会であっていいと思います。実際に、そういう意見の表明なり、デモなりの出来事もあったようですが、報道はわずかです。目に止まった限りですが、その報道のわずかさぶりも、記録として以下に書きとめておきます。
 ▼朝日新聞「代替わり儀式『憲法に違反』/キリスト教団体」(第2社会面下:見出し1段27行)
 ▼毎日新聞「新宿駅前が騒然」(天皇制反対集会:社会面下・見出し横1段相当・12行)
 ▼産経新聞「機動隊員に暴行容疑/右翼幹部の2人逮捕」(都内版・見出し1段 ※天皇制反対デモの警備に当たっていた機動隊員に暴行した容疑。デモがあったことが分かります)
 ▼東京新聞「代替わり儀式『違憲』 宗教4団体が抗議」(第2社会面下・見出し1段27行、写真)/「『天皇制廃止を』 新宿で反対集会」(第2社会面下・見出し1段28行)

 以下に、各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。1面、総合面(2~3面)、社会面と社説・論説が対象です。社説・論説はサイト上で読めるものはリンクを張っておきます。

◎2019(令和元)年5月1日付朝刊
【朝日新聞】
・1面
トップ「令和 新天皇即位/陛下退位『支えてくれた国民に感謝』」
「言葉の力を信じ 語って」福島申二・編集委員
新天皇・皇后 両陛下の横顔
・2面
「退位の儀式 憲法に配慮/即位と分離『譲位色』排す」/「恒久制度化 議論は不可避」
・3面
「前天皇と新天皇 併存/『二重権威』の回避課題」
考/論「社会の統合 皇室頼みに危うさ」原武史・放送大学教授
「退位礼正殿の儀 天皇陛下 おことば(全文)」「安倍晋三首相の国民代表の辞(全文)」
「各国から感謝の意」米国、韓国、ロシア
・社会面(34、35面)
見開き見出し「令和へ継ぐ」「平成の願い」
「渋谷の交差点 集う心」
「『平和を』美智子さまと手を携え」
「喜びのカウントダウン」/「0時に誓いのキス」/「新時代行きの列車」/「機上で感傷に」/「踊って『元気な時代に』」/「花壇も『改元』」/「東京タワー『御朱印』」/「平成駅入場券に行列」
■社説「即位の日に 等身大で探る明日の皇室」/国民とともに考える/身構えず自然体で/先送りできない課題
https://www.asahi.com/articles/DA3S13998717.html?iref=editorial_backnumber
※別刷り特集8ページ「林真理子さん寄稿」「今後の皇室日程」「天皇の一日」「代替わり ゆかりの地」「世界とのつながり」

【毎日新聞】
・1面
トップ「新天皇陛下 即位/令和時代 幕開け」
「前天皇は上皇に/『国民に心から感謝』/退位儀式でおことば」
・2面
「代替わりにお国事情」カット・検証 ※英国、ベルギー、タイなど
「3権の長 退位に寄せて」
・3面
CUクローズアップ「平和希求の『旅』成る/2分間200字かみしめ」
「退位まで感謝の交流」
「天皇像『鎮魂と感謝』」内田樹・神戸女学院大名誉教授
・社会面(26、27面)
見開き見出し「平成から令和へ」「笑顔バトンタッチ」
「カウントダウン新時代祝う」/「『令和元年』番付求め列」/「仙台・平成地区『災害ない時代に』/「高2『改元、不思議な感じ』」/「赤ちゃんに目細め」/「結婚式『令和も仲良く』」
(第2社会面)
「多文化社会 包む柔らかさ」社会部皇室担当・大久保和夫記者
「新両陛下 被災地の励み」
「『新婚のようなご夫妻』/昨年来訪 滋賀の博物館長」
■社説「令和時代に入る日本 変化にしなやかな適応を」/途切れない歴史の流れ/「国民の総意」の奥深さ
https://mainichi.jp/articles/20190501/ddm/005/070/064000c
※別刷り特集8ページ「皇室 新たな時代に」「新天皇陛下エピソード」「新天皇、皇后両陛下の歩み」「皇位安定継承なお課題」「『考・皇室』企画振り返る」「上皇ご夫妻の歩み」

【読売新聞】
・1面
トップ「新天皇陛下即位/令和元年/平成の陛下 上皇に/秋篠宮さま 皇嗣」「雅子さま 新皇后」「『国民に心から感謝』」
■社説「平成から令和へ 平和と安定へ努力重ねたい」/「守成」の困難に直面/中間層が支える日本/政治社会の分断防げ
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190501-OYT1T50033/
・2面
「即位 儀式の1年/10月 正殿の議/今月4日一般参賀」/「高齢即位 歴代2番目/59歳2カ月 光仁天皇60歳に次ぎ/8世紀以降」
・3面
スキャナー「退位 憲法に配慮」「政府、整合性の工夫」「象徴天皇 国政の権限なし/退位、典範の『例外』」
「『天翔』一時再有力案/元号選定 企業名あり断念」
※「編集手帳」(ふだんは1面)
・社会面(32、33面)
見開き見出し「令和の門出 祝う」「平成に別れ 感謝」
「カウントダウン 各地で」「本紙号外115万部」
「0時に挙式『忘れない日』」「婚姻届 続々」
(第2社会面)
「お言葉 感慨にじむ」
「『最後の日』つなぐ思い」
「被災地、沖縄 心を重ね」
※別刷り特集12ページ「令和へ 祈り継ぐ」「新天皇、皇后両陛下の歩み」「皇室これからの1年」「新天皇ご一家の暮らし」「元号248 壮観絵巻」

【日経新聞】
・1面
トップ「新天皇陛下 即位/『令和』幕開け/退位礼、皇居で厳かに」
「『支えてくれた国民に感謝』」最後のお言葉全文
「『新しい日本』を創ろう」井口哲也・編集局長
・2面
「代替わり粛々」「上皇ご夫妻、活動範囲探る/全ての公務引き継ぐ」「『二重権威』回避に配慮」「10月にパレード・饗宴/祝賀行事、年内続く」
・3面
「象徴の務めに幕」「退位13分 滞りなく」「お言葉一言一言かみ締め」
「政教分離を徹底/退位、首相が宣言/儀式 憲法との整合性配慮」
・社会面(30、31面)
見開き見出し「令和 暖かな時代に」「平成の30年に万感」
「山に情熱 交流大切に」「息の合うご夫婦・動物に愛情深く」(祝福の声)
「記念押印『31.4.30』に行列」「みんなでカウントダウン」
(第2社会面)
「『逆境に咲く花』復興へ前向けた」東北被災地/「被爆者を思い続ける優しさに感謝」広島・長崎/「ハンセン病への偏見から救われた」沖縄
■社説「令和のニッポン 社会の多様性によりそう皇室に」/平成流をみちしるべに/女性・女系含め議論を

【産経新聞】
・1面
トップ「新天皇 ご即位/令和 幕開け/きょう剣璽等承継の儀」
「『国民に心から感謝します』/退位の礼 上皇さまに」/最後のお言葉全文
「麗しき大和の国柄を守れ」令和に寄せて:櫻井よしこ・国家基本問題研究所理事長
・2面
「『平成』万感胸に」「伝統と憲法 整合性に心砕き/『お言葉』閣議決定」
「令和のはじめに 新時代にふさわしい国家戦略を」/敗北責任は昭和世代に/国会で大議論始めよう:乾正人・論説委員長
・3面
「『令和』新たな架け橋」「喜び悲しみ 国民と共感する天皇像」企画「象徴 次代へ 継承のかたち」1
「ご即位『晴れの儀式』勲章着用」「元年から多忙なご公務/米大統領来日、祝賀御列の儀…」
・社会面(26、27面)
見開き見出し「平和託すバトン」「深い慈愛に感慨」
「ご即位から30年『幸せでした』」
譲位に寄せて「上皇さまのお言葉 大きな支え」YOSHIKIさん(X JAPAN)/「上皇后さまの御歌に励まされ」拉致被害者家族 横田早紀江さん
(第2社会面)
「被災者『生きる勇気もらった』」
「『令和も 戦争なし』『平穏な時 流れて』/惜別と歓迎の声」
「厳戒渋谷『令和』の大歓声」/「道の駅『平成』ありがとう」

【東京新聞】
・1面
トップ「令和始まる/皇太子さま新天皇即位」
「天皇陛下が退位/国民に心から感謝」お言葉全文
「人と平和を守る世に」臼田信行・編集局長
・2面
核心「安定継承への議論鈍く/首相慎重 世論と乖離/女系天皇容認 女性宮家創設…/皇室制度見直しは」
「後世に問題 決断を」古川貞二郎元官房副長官に聞く
・3面
「新天皇陛下 家族と共に/『絆のありがたさ実感』」
「4日に一般参賀 即位祝う」「代替わり 住まい交換/新天皇 当面は赤坂御所から公務へ」
・特報面(24、25面)
「引き継がれた『負の遺産』/平成から令和へ 改元後も難題山積み」/「経済問題・豊かさの中の貧困」/「労働問題・非正規雇用 格差広がる」/「原発事故・脱原発を願う世論とずれ」/「安保法制・矛盾 形骸化した専守防衛」/「戦争責任・被害者団体の理解を得よ」/「沖縄基地・『ノー』民意踏みにじる政権」
・社会面(26、27面)
見開き見出し「平成から令和へ」「それぞれの願い」 カット・ドキュメント改元
「3、2、1、おめでとう」渋谷の若者/「故郷 奪われたまんま」福島第一原発避難/「平和続いてほしい」東名SA 運転手/「ご飯必要な人いる」山谷 炊き出し
(第2社会面)
「世代を背負う責任」「復興の歩み着実に」※学習院大、大阪、被災地・岩手・北海道、皇居前
「『最後の日』から いざ『最初の日』」「平和照らす花火 宮城・気仙沼」/「徹夜踊りで万歳!! 岐阜・郡上」
「『国威発揚の危うさ』令和『幸福を願う思い』/元号 専門家から異論も」
「最後のお言葉 目ぬぐう参加者」
■社説「共に生き平和を愛す 令和のはじめに」/働けども貧しいとは/軍拡より緊張の低減/歴史の歯車を動かす
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019050102000128.html