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「憲法」と「象徴の責務」「国民の統合」~新天皇発言と象徴天皇制、在京紙報道の記録(5月2日付)

 「令和」改元初日の5月1日、即位した徳仁天皇は即位に伴うもろもろの行事をこなしました。2日付の東京発行の新聞各紙朝刊(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)はいずれも引き続き、大きく報じています。各紙とも1面トップの記事は、新天皇が「即位後朝見の儀」で安倍晋三首相らを前に最初の「おことば」を述べたことを中心に報じました。その全文も6紙そろって1面に掲載しています。各紙の記事に、感じたことを書きとめておきます。

▽「憲法にのっとり」
 各紙の1面トップの記事の見出しを並べてみます。
・朝日「令和 幕開け」「陛下『国民に寄り添い象徴の責務果たす』」「即位後朝見の儀」
・毎日「『憲法にのっとり象徴の責務果たす』」「新天皇陛下 上皇さまに『感謝』」「即位後朝見の儀」
・読売「『国民を思い 象徴の責務果たす』」「天皇陛下 即位の儀式」「令和初日 列島祝福」
・日経「象徴の責務果たす」「天皇陛下 皇位継承の儀式」「『国民を思い 寄り添う』」
・産経「『国民を思い 寄り添う』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位儀式 令和時代始まる」
・東京「『国民を思い 憲法にのっとり 象徴としての責務果たす』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位後朝見の儀」
 朝日をのぞく5紙は天皇の文言を主見出しに取り、朝日もヨコの主見出しは「令和 幕開け」としたものの続くタテ見出しはやはり天皇の言葉です。平成の前天皇が象徴のありようを追求してきたことへの自負を示していたこともあって、新天皇が3代目となる「象徴」の地位を巡ってどんな言葉を発するかは、やはり最大のニュースだとの判断は、わたしもその通りだろうと思います。

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 ただ、6紙の見出しの取り方には差があります。特に「憲法にのっとり」と「憲法」に言及した部分を見出しに取り込んだのは、毎日、東京の2紙だけでした。前天皇は平成の代替わりの即位の際に「日本国憲法を守り」と口にしていた経緯があります。そうしたことも含めて、毎日新聞は3面の長文読みもの記事「クローズアップ」の中で、東京新聞も2面の同様の記事「核心」で、それぞれこの「憲法への言及」を詳しく取り上げました。朝日新聞は1面の見出しには取っていませんが、総合面で、前天皇と新天皇の「憲法」を巡る言い回しの違いを紹介する記事は掲載しています。
 では、前天皇の文言と比べて「日本国憲法」と「憲法」、「守り」と「のっとり」の違いに意味を見出すことに何らか意味はあるのでしょうか。直接、その点を巡ってではないのですが、日経新聞の井上亮・編集委員が署名記事(第2社会面)の中で「国事行為である朝見の儀のお言葉は内閣との調整で作られる。天皇の『思想』を深読みし過ぎると誤解のもとになる」と指摘していることが印象に残りました。

▽「ふわっとした国民統合」「強い統合能力」
 全体を通じて、やはり祝賀ムードにあふれた報道ぶりで、天皇制の課題の指摘といえば、皇位継承者の減少への対策ばかりという印象ですが、それでも象徴天皇制を考える上で読み応えのある記事もいくつかありました。キーワードは「国民の統合」かもしれません。
 一つは朝日新聞の2面(総合面)の企画記事「1条 憲法を考える」。「『皇室に親しみ』ふわっとした国民統合」の見出しで、被災者らに寄り添い、平和の大切さを訴えてきた前天皇夫妻に対し、国民の間に好感が広がったことについて、「これは、象徴天皇制や『国民統合』の理想モデルなのか」と疑問を投げ掛け、検証を試みています。
 もう一つは、東京新聞特報面の「平成流 共感広げ求心力/憲法の『行為』超え 祈り寄り添った30年余」のリポートです。前天皇が憲法に規定された国事行為のみならず、被災地訪問や慰霊の旅などの公的行為を熱心に続けたことを踏まえて、「人々の天皇に対する求心力を高めた。そうした意味で有能で歴史上、強い統合能力を持った天皇だった。平成は象徴天皇制が再編された時代だったといえる」との千本秀樹・筑波大名誉教授の指摘などを紹介。天皇の権威を政治が利用しようとする問題にも触れています。

▽5月1日はメーデー
 5月1日は新天皇即位と改元の日でしたが、メーデーでもありました。例年、連合系の集会やデモは前倒しで実施されており、1日は全労連系の集会、デモが各地で行われました。労働者の地位と処遇の向上は社会の問題でもあり、個人の生き方にとっても大きな問題です。「働き方改革」が課題になっている現在はなおさらです。大規模な集会やデモではないとしても、この日に労働者や労働組合から上がった声を紹介するのもマスメディアの重要な役割だろうと思います。東京発行の新聞各紙で見かけた関連記事についても、見出しや扱いの大きさを書きとめておきます。

 以下に、新天皇関係の各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。1面、総合面(2~3面)、社会面と社説・論説が対象です。社説・論説はサイト上で読めるものはリンクを張っておきます。
◎2019(令和元)年5月2日付朝刊
【朝日新聞】
・1面
「令和 幕開け」「陛下『国民に寄り添い象徴の責務果たす』」「即位後朝見の儀」
「天皇陛下のおことば(全文)」
「『ナルちゃんをよろしく』続く勉強会」
・2面
「『皇室に親しみ』ふわっとした国民統合」「被災者らに寄り添う姿 好感」「変わる社会 私たちも考える時」※カット「1条 憲法を考える」2
・3面
「皇族減少 対策不可避/皇位継承権 男系男子3人のみに/女性・女系議論 先送り続く」
「30年前『憲法を守り』今回『憲法にのっとり』/朝見の儀の『おことば』」
「『女性皇族の低い地位』指摘/上皇さまの慰霊訪問を紹介/海外メディア」
・4面 「憲法を考える 視点・論点・注目点」
「敗戦が生んだ条文はいま/日本・ドイツ・イタリア 根幹の理念に」
「1条 象徴天皇制 9条 戦争放棄/不可分の一対受け入れ/自衛隊の役割拡大 欠ける国民合意/『国民主権』考えるとき」
「ドイツ『人間の尊厳』 イタリア『社会権』/虐殺・ファシズム反省」
・社会面(21面)
「令和 笑顔晴れやか/皇后さま 東北の若者にエール」「勉強熱心 友に辞書頼む/ヘビもイモリも きちんとお世話」※カット・新天皇と新皇后
「子どもが安心して過ごせる時代に…」
「『初日』の御朱印求め10時間待ち」/「どすこい新元号」
※メーデー:5面(経済面)「『賃金増を』各地でメーデー」見出し2段
※社説は「阪神支局事件」「南北会談1年」の2本

【毎日新聞】
・1面
「『憲法にのっとり象徴の責務果たす』」「新天皇陛下 上皇さまに『感謝』」「即位後朝見の儀」
「新天皇陛下おことば全文」
・2面
「急がれる継承議論」「男系での維持 不安定」/「保守派は『女系』反対」「検討 政治日程が影響」
・3面
CUクローズアップ「晴れやか代替わり」「国民に寄り添う 不変」「服喪なく祝賀ムード」※図解「天皇陛下のおことば・平成と令和の比較」
ミニ論点「平成の実績継ぐ決意」高村薫さん(作家)/「より良い時代へ願い」河西秀哉さん(名古屋大大学院准教授)
・社会面(20、21面)
見開き見出し「令和元年 夢語る」「穏やかな世 願い」
「皇居前 祝の人波」/「余裕あった儀式/祝賀一色いいか 識者の見方」
「福島・広野『被災地 力一つ』」/「伊勢の舞姫華やか」/「関取衆『相撲に来て』」/「漁師みこし『平和が一番』」/「名古屋『3元号』結婚式」/「侍従長『力尽くしお支え』」
(第2社会面)
「『新皇后さま 自然体で』/ゆかりの方々」
「新陛下 皇居へ『通勤』/前天皇ご夫妻 引っ越しまで」
「本紙が号外配布」※3万2千部、都内4カ所
■社説「新天皇陛下が即位 令和の象徴像に期待する」/国際的な視点生かして/「女性・女系」論が焦点
https://mainichi.jp/articles/20190502/ddm/005/070/033000c
※メーデー:社会面(21面)「全労連メーデー 改元の日に実施 『100年の伝統重視』」見出し1段
※社会面「令和初日 水俣病慰霊/即位配慮 市式典は延期」見出し2段、写真

【読売新聞】
・1面
「『国民を思い 象徴の責務果たす』」「天皇陛下 即位の儀式」「令和初日 列島祝福」
「朝見の儀 天皇陛下お言葉」
・2面
「即位 輝く品々」
「令和元年 外交目白押し/10月即位礼 195か国元首招待」
・3面
スキャナー「『象徴』の形 承継の思い」「1分40秒『研鑚』の決意」「皇后さま全行事に出席」
・社会面(28、29面)※第3社会面(27面)にも関連記事
見開き見出し「幕開け 華やかに」「若者 飛躍を誓う」
「沿道 平和願う人波」/「令和の産声 平成元年生まれ夫婦に」
(第2社会面)
「五輪で『金』目標に」フィギュアスケート紀平梨花選手(16)/「世界への最善手打つ」女流三冠の囲碁棋士・藤沢里菜さん(20)/「社会変える技術 作る」IT企業CEO山内奏人さん(18)
「お祝い にぎやか 和やか」/「本紙号外120万部 特別夕刊も」※全国
■社説「新天皇の即位 時代の幕開けを共に祝いたい 象徴の在り方の承継と模索と」/国民とのふれ合い重視/知見の活用期待される/天皇・皇嗣への支えを
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190501-OYT1T50328/
※12~20面 保存用特別面
※メーデー:第3社会面「メーデー 全国で集会」※短信13行

【日経新聞】
・1面
「象徴の責務果たす」「天皇陛下 皇位継承の儀式」「『国民を思い 寄り添う』」/お言葉全文
「秋篠宮さま 皇嗣に/皇位継承1位 2位は悠仁さま」
・2面
「安定継承 議論へ/女性・女系天皇や女性宮家/首相は慎重姿勢」
「皇太子と同等の待遇、負担も/秋篠宮さまが皇嗣に」
・3面
「新時代の象徴 模索」「上皇さまの姿 自己研さん/初のお言葉 にじむ決意」
「内向き政治やめ改革を」丸谷浩史政治部長:新時代の日本へ1
・社会面(27面)
「令和 元気に強く」「5月1日生まれの赤ちゃん『縁起いい』『同じ元年』」
「改元に沸く街」「百貨店で『福売り』福袋/新元号婚に臨時窓口/御朱印求め『10時間待ち』/記念押印『1.5.1』」
「家族で遊園地/ハーフマラソンに挑戦/初日どう過ごした」
・第2社会面(26面)
「ゆかりの地 感慨浸る」「あふれる人、祝賀ムード/万葉集の宴で和やかに/雨中の参拝、新時代祈る/伝統の祭り みこし巡業」※皇居、太宰府、伊勢神宮、京都
「寄り添い方、時代に合わせ/天皇陛下お言葉」井上亮・編集委員
■社説「令和のニッポン 人口危機の克服に総動員で臨もう」/不安定雇用を減らせ/外国人政策、正面から

【産経新聞】
・1面
「『国民を思い 寄り添う』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位儀式 令和時代始まる」
「天皇陛下 お言葉全文」
令和に寄せて「新しい歴史創造への決意を」作家 石原慎太郎
・2面
「『令和』初日 厳かに」「儀式の裁可など ご公務開始」
「威厳ある お二人の姿に感銘/首相インタビュー」
・3面
「皇位継承 歴史の重み」「女性宮家創設には問題」「宮内庁参与の人事 注目/皇室重要事項で天皇に助言」
「世界の水問題 ライフワークに」※カット「象徴 次代へ 継承のかたち」2
・社会面(22、23面)※第3社会面にも関連記事
見開き見出し「『幸せと発展望む』」「新時代 踏み出す」
「天皇陛下 自己研鑚ご決意」
「『優しいお気遣い』『国際的ご活躍を』/両陛下ゆかりの人々」
「令和 記念求め/本紙の号外 都内で配布」※6700部、都内5カ所
(第2社会面)
「各地で笑顔の門出」「あやかり商法 大盤振る舞い」
■社説(「主張」)「天皇陛下ご即位 新時代のご決意支えたい 伝統踏まえ安定継承の確立を」/心から感謝申し上げる/悠仁さまの警護万全に
https://www.sankei.com/column/news/190502/clm1905020002-n1.html

【東京新聞】
・1面
「『国民を思い 憲法にのっとり 象徴としての責務果たす』」「天皇陛下 初のお言葉」「即位後朝見の儀」/お言葉全文
「『歴史のなさりよう』心に」※カット「新時代の皇室」1
・2面
核心「国民と平和と 思い寄せ」「陛下お言葉をひもとく」「皇室のあり方 追い求め」
・3面
代替わり考「承継の儀に国費支出」賛否・識者4人
「承継の儀 前例を踏襲/女性皇族出席せず/女性閣僚は参列」
「皇位継承『男系の重み』/菅官房長官 強調」
・特報面(20、21面)
「憲法の『行為』超え 祈り寄り添った30年余/平成流 共感広げ求心力/象徴天皇を考える」「強まる権威に危うさ/自民改憲草案では『元首』 政治利用の懸念も」「あるべき姿―主権者の国民が考える時」
・社会面(22、23面)
見開き見出し「新たな時 ここから」「平和願い ともに」
「『令和婚』ラッシュ・京王の臨時列車満席」「御朱印10時間待ち・皇后さまに歓声」「焼き印どら焼き無料・銀座などデモ」※ドキュメント改元
(第2社会面)
「50代 天皇陛下・皇后さま世代 子どもや孫と平穏に」「80代 上皇さま・上皇后さま世代 国民の心の支えに」「10代 愛子さま世代 女性の継承 議論を」※3世代 お言葉こう聞いた
「ネットでは『令和実感』『お言葉に感動』/『生活良くなるわけでは…』冷めた声も」
■社説「平和への祈りは続く 天皇と憲法4」/戦争放棄は日本側から/念頭から離れない遺族/戦争の記憶を伝える
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019050202000146.html
※メーデー:社会面ドキュメントにひとコマ6行、ほかに「山谷デモ」8行、銀座で天皇制反対デモ9行