なぜ記者クラブが会見を主催するのか〜総務省と外務省の開放に差

 あらかじめ明らかにしておくと、わたしは個人的には、記者クラブはないよりはあった方がいいと考えています。廃止か存続かではなく、ありようが問題です。
 政権交代後の閣僚記者会見の開放をめぐって、どうにも気になる動きが年明け早々に起きました。原口一博総務相の記者会見が新年最初の1月5日、記者クラブ非加盟のメディアやジャーナリストにも開放されましたが、出席の条件が厳しすぎるとの声がクラブ非加盟のメディアなどから上がっています。出席者を決めているのは記者クラブのようですので「会見を主催するのは記者クラブ」というクラブ側の主張に原口大臣も配慮しているのでしょう。一方の岡田克也外相は1月8日の記者会見で、会見出席者を拡大することを表明しました。同日の会見にはさっそく、日本雑誌協会に加盟していない「週刊金曜日」も参加。外務省の場合は、岡田外相が記者会見を主催するのは自分だと宣言してオープン化に踏み切った経緯があります。
 そもそも、記者会見の主催が当局ではなく記者クラブであることにクラブ側がこだわるのは、公権力の側による会見の出席者の恣意的な選別を許さないことが主な目的です。しかし総務省と外務省のこの2つの出来事を見る限りは、公権力の側のほうが記者クラブよりも会見の出席者を広く認めようとする結果になっています。記者会見の出席資格の判断は、そのまま「『報道』や『ジャーナリスト』をだれがどう定義するのか」の問題につながります。これは、表現規制やメディア規制の動きがあるたびに、公権力による恣意的な判断の恐れが指摘され、批判されてきた論点の一つです。総務省記者クラブの対応は一歩前進に間違いありません。それでもなおわたしは、記者クラブ加盟メディアや記者は、自分たちが社会から「公権力の方がマシではないのか」と見られかねないことに、もっと留意する必要があると思います。

 5日の原口総務相の記者会見のもようは、総務省のサイトに「概要」がアップされています。
 http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/23366.html
 冒頭発言で原口大臣は次のように話しています。「記者クラブの御了解を頂いて」と話しているように、会見の主催は記者クラブであるとの認識を示しています。

 さて、昨日ですね、私たちの政務三役会議、大臣室で行わせていただきましたが、原則オープンということで、記者の皆さまに大変お世話になりました。今日もまた、記者クラブの御了解を頂いて多くのメディアの皆さんにも参加をしていただいています。やはり、生の情報を国民の皆さんに直接お伝えをしていく。そして、私たちが何を、壁に当たっているのか、何を突破しようとしているのか、国民の皆さんに伝えていただく、あるいはそちらから意見を頂くことでしっかりとこの変革を形にしていきたいというふうに思っております。ここまで多くの皆さんに御協力を頂いてまいりました。年末から私もツイッターというものをやらせていただいています。その中でも、多くのつぶやきにたくさんのかたがたが反応していただいて、そして知識を共有することによって積み上げていく、あるいは問題解決方法を共に見いだしていく、こういう政治を目指していきたいというふうに思っています。

 総務大臣として定例記者会見を広報の場と位置づけていることもうかがえます。質疑応答では、「会見を大臣主催ではなくて、記者クラブ主催でオープン化することの国民にとってのメリットというのは、どのようなところにあるか」という問いに、原口大臣は主にセキュリティ上の観点から見直しを進めていくことを示唆しています。少し長くなりますが、記者会見のオープン化に関係したやり取りを引用します。

 問:  今回、こういう形で、私どもクラブ外のジャーナリストも参加できる、そういう形の記者会見、開かれることになったことを本当に有り難く思っております。
 答:  ありがとうございます。
 問:  で、一点、まず質問というよりもですね、一つある意味御提案なのですけれども、記者会見自体は記者クラブが主催しているものであるということは十分承知をしております。ただ、総務省のインターネットのホームーページで、こういう形で大臣記者会見録が出ておりますが、こちらですね、だれが質問をしているのか分からないような表記の仕方になっております。問と答があるだけで。これは、実は私、金融庁の方でも、それから外務省の方でもですね、今やだれが、つまり、我々のような、どこのだれとも分からないジャーナリストも含めてですね、参加する時代なわけですから、どの社の、どんなジャーナリストがどんな質問をしたのかということまで含めて、その質問者もまた国民の知る権利の対象になるだろうと思います。ですから、総務省の権限をもって、大臣の権限をもって、これをできればオープンにしていただきたい、そういう御決断を頂けないかなと思っています。
 答:  今の御提言は大変大事だと思っています。私もこの職に就任させていただいてから、できるだけそれをお願いしようというふうに考えています。一方で、ただ先ほど留保を付けたのは、知る権利の一方で個々人の記者さん、私もかつて国会Gメンという形でですね、様々な追究をしてきました。その中で、やはり安全との関係、これも踏まえながら、私はそこまで、ここにいらっしゃる記者さんたちを危険にさらしてまでということは考えていません。しかし、基本は今おっしゃったところだと思いますので、それぞれのセキュリティの範囲において、しっかりと、匿名の質問というのもやはり大事ですけれども、より責任を明確にした御質問に、的確に答えていきたい、そう思っています。ありがとうございます。
 問:  大臣が就任以来、提案されていた記者会見のオープン化が3か月たって、ようやく実現したわけですけれども、現状では、私のようなフリーランスの記者が参加する場合にですね、登録を記者クラブに対してすることになっています。セキュリティの問題でいえば、記者の身元確認を記者クラブに任せているとも取れますし、また、記者クラブの規約によると地域に根ざした文化の担い手であるミニコミ誌などの記者は参加できないということで、会見を大臣主催ではなくて、記者クラブ主催でオープン化することの国民にとってのメリットというのは、どのようなところにあるかというのを、大臣の見解をお聞かせいただければと思います。
 答:  そうですね。ここまで記者クラブの皆さんも大変な御議論を頂いて、御協力を頂いたことを、まずお礼を申し上げたいというふうに思います。その上で、昨日の政務三役の、これオープンは、私の主催でございました。多様な知る権利にこたえる形態がやはりあるのだろうというふうに思います。
 それからセキュリティの問題についてですが、今のお話の、その問題意識と同じことを私は思っています。例えば、セキュリティをすべて、今非常に複雑になっていますので、それぞれの民間の会社にお願いをしていいのかと。例えばADの方、あるいはそのカメラの方、照明の方、それぞれそこの責任においてここに来ていただいているわけです。で、それが公の機関として、果たして適切なのかと。アメリカなどは、政府がすべてのセキュリティをチェックをする形になっておりまして、その辺の議論を一歩一歩前に進めていきたいと思います。いずれにせよ、これは報道する方、知らせる方とのコラボレーションがなければできないことでございますので、また急速に発展するネットの力もお借りしながら公開をしていきたい。で、記者クラブには記者クラブの伝統があるというふうに思います。その伝統というものを私まだつまびらかに知っているわけではありませんけれども、そういったことも勘案しながら、基本はすべての人に開かれた、知る権利を保障するということで前に進めていきたいというふうに思います。

 記者会見の出席資格ですが、時事通信の記事によると新たに参加できるようになったのは(1)日本民間放送連盟会員(2)日本雑誌協会会員(3)日本専門新聞協会会員(4)日本インターネット報道協会会員(5)日本外国人特派員協会会員−とフリー記者ら、となっています。質問はしないオブザーバー参加なら従来から広く認められていたようですが、この点をめぐって5日の会見では、質問権が認められないメディアの出席者が質問してしまい、記者クラブ幹事社からルール違反を指摘される出来事がありました。会見のもようを伝えるJ-castニュースの記事の一部を引用します。
「フリーやネットの記者が張り切る 総務大臣会見の開放スタート」
 http://www.j-cast.com/2010/01/05057338.html

 質問したのは、インターネットでドキュメンタリーやインタビューの映像番組を配信しているアワープラネット・ティービーの白石草さん。白石さんはこれまでにも何回かオブザーバーとして総務省の会見に参加していたが、「大臣会見がオープン化された」と聞いて、当然自分も質問できるものだと思ったのだ。
ところが「日本雑誌協会日本インターネット報道協会など所定の報道団体に加盟しているメディアか、そこに定期的に寄稿している記者」という参加条件には該当していなかった。そのことに気付かずに白石さんは、原口総務相が年末に表明した「情報通信文化省構想」について質問。原口総務相にしっかりと回答してもらったが、会見後にクラブの幹事社から「ルール違反だ」ときつく注意されてしまった。
 「ようやく質問できて良かったと思ったが、ダメだったと分かり、ショックを受けた。今日の会見でもフリーの人達が元気よく質問していたように、活性化という意味でもどんどんオープンになったほうがいいと思うのだが……」
と白石さんは語る。特に総務省の場合は情報通信政策を扱っているので、インターネットを舞台にした新しいメディアにもっと門戸を開いてもいいのではないかという意見だ。

 白石さんのアワープラネット・ティービーのサイトはこちらです。どのような活動をされているのか、概要が分かると思います。
 http://www.ourplanet-tv.org/
 また、インターネット・メディアのITmediaは「総務省記者クラブ加盟社以外のメディアにも定例会見を開放。ITmedia Newsも、参加条件と申請方法を問い合わせてみたが……」として、総務省記者クラブの幹事社とのやり取りを記事で紹介しました。幹事社側の応対する記者によっても対応に温度差が感じられたことを伝えつつ、「『日本インターネット報道協会はOK』だが『Web専業メディアは認めない』というのはよく分からない。なぜだろうか。団体ならいいのだろうか」と疑問を提示しています。記事の最後の部分を引用します。
※「『Web専業メディアはオープン化対象外』 総務省記者クラブに定例会見への参加条件を聞いた」
 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1001/07/news077.html

 FAXで送られてきた書類によると、会見への参加に当たっては「新聞倫理綱領」にのっとって報道活動を行うよう要請されている。
 その新聞倫理綱領は2000年に改めて制定されたものだ。その2段落目には「国民の『知る権利』は民主主義社会をささえる普遍の原理である」とある。
 さらに「この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される」とうたう。そして「新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい」と続く。
 大臣会見の登録可否を決める記者クラブは「あらゆる権力」とは違うのだろうか。われわれが記者クラブに認めてもらう形で大臣会見に参加することは、「あらゆる権力から独立したメディア」という理想に照らしてみるとどうなのだろうか。「知る権利」を持つ「国民」のメディアとして「独立」すべき「権力」とは、2010年のいま、何だろう。
 理由がよく分からない制限をパスするために、認められるかどうか不透明な申請を手間をかけて出すべきなのかどうか。いまは考えている。

 8日に行われた岡田外相の記者会見のやり取りは、このエントリーを書いている9日夜の時点では外務省のホームページにアップされていません。出席資格がどのように拡大されたのかは、時事通信の記事によると「日本新聞協会未加盟の地方新聞社で構成する日本地方新聞協会会員を参加対象に加えた。また、日本雑誌協会に加盟していない社でも、媒体の発行実績によっては参加を許可する」とのことです。J-castニュースによると、少しニュアンスは異なっており、以下の引用のように、いずれの報道団体に未加盟であっても、会見に出席できる余地はありそうです。
※「外相会見さらにオープン化 団体加盟社以外も参加可能に」
http://www.j-cast.com/2010/01/08057633.html

岡田外相は8日の会見の冒頭で
「記者会見をオープン化してからほぼ3か月ということで、この会見も非常に定着してきたかと思うが、その間、いろいろ要望もいただいたので、さらに参加対象を拡大することにした」
と述べ、新しい参加資格を発表した。日本新聞協会や日本インターネット報道協会など外務省が指定する報道団体に加盟していなくても、「発行する媒体の目的、内容、業績等に照らし、それらのいずれかに準じると認め得る者」と認定されれば、会見に参加できる。また、日本専門新聞協会と地方新聞協会に加盟している新聞社も参加資格が認められた。
ただ、「媒体の内容や業績等に照らし」という基準はあいまいだ。会見では「インターネットのブロガーも入るのか」という質問も出たが、岡田外相はやや迷いながら、「ブロガーをここに含めるとは必ずしも思っていない」と答えた。

 総務相の記者会見で質問を行ったことを厳しく注意されたという白石さんや、事前の申請段階で質問を認められなかったITmedia外務相会見ならどうかというと、即断はできないかもしれませんが、少なくとも「いずれの団体にも加盟していないから質問権はない」という杓子定規の対応にはならず、「発行する媒体の目的、内容、業績等に照らし、それらのいずれかに準じると認め得る者」と認定できるか否か、検討の対象になるように思えます(ITmediaの場合は、最初に応対した総務省記者クラブ幹事社の記者は「審査する」と告げていたようです)。
 そもそも、記者会見の出席者の範囲を広げようとしながら、そこに質問権の有無に違いを設け、「オブザーバー参加」を残す意味はあるのでしょうか。総務省記者クラブの内情を知っているわけではないのですが、例えば政党や政治結社、宗教団体などの機関紙が、質問に名を借りて特定の政治的な、あるいは宗教的な活動のために記者会見の場を利用するのを未然に防ぐ、ということなら理解できなくもないのですが。ITmediaの記事によると、総務省記者クラブの幹事社の記者はITmediaに対し、Webメディアへの対応は今後、記者クラブ総会を開催して決めると伝えたとのことですので、記者クラブとして、より柔軟な対応に進むことを期待したいと思います。
 記者クラブが長らく、記者会見を自らが主催して出席者も自らが判断してきたのは、公権力に批判的な新聞や記者が会見から恣意的に排除されないようにすることが理由でした。会見への出席の可否を決めることは、「報道」や「報道機関」をどう考えるのかに直結します。それを公権力に預けてしまうのではなく、報道の側が自らの手に確保しておくことの意味は、今日でもなお小さくないと思います。仮に記者クラブよりも公権力の主催としたほうが記者会見の開放が進むのだとしても、原理的には、公権力が出席者を恣意的に選別しようとした場合にそれを防ぐ手立てはなくなってしまいます。記者クラブが今日の社会状況の変化に合わせて「報道」や「報道機関」をとらえなおすことができるのかが問われている、と言ってもいいのだと思います。
 最後に記しておきたいことがあります。総務省でも外務省でも、記者クラブ加盟メディアの中で、記者会見をめぐる今回の動きをまがりなりにも記事として伝えたのは時事通信だけのようです。とても残念です。

※参考過去エントリー
報道する側の主体性が問われる〜記者クラブ問題にも記者会見開放にも欠かせない視点(2009年11月8日)
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091108/1257672346
記者会見の開放は進めるべきだ〜やっぱりマスメディアも記者も「見られて」いる(2009年10月18日)
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20091018/1255824803
民主党のメディア政策と「表現の自由」の視点(2009年9月25日)
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20090925/1253816122