本土メディア間の差異と沖縄メディア―本土メディア間の段差

 少し日がたってしまいましたが、見過ごせない問題をはらんでおり、備忘も兼ねて簡単に思うところを書き留めておきます。沖縄県の米軍施設をめぐり日米両政府は5日、嘉手納基地より南の6施設の返還の時期や手順について合意し、発表しました。
※「普天間返還時期、確定せず 辺野古移設前提、日米合意」(47news=共同通信
 http://www.47news.jp/CN/201304/CN2013040501001216.html

 日米両政府は5日、沖縄本島で米軍嘉手納基地より南にある施設・区域の返還計画について最終合意した。普天間飛行場沖縄県宜野湾市)は2022年度以降に返還可能と明記した。地元が反対している名護市辺野古沿岸部への県内移設を前提としているため、返還時期は確定しなかった。普天間以外の5施設・区域の計570ヘクタール余りのうち、地元が早期返還を望む牧港補給地区(浦添市)は、大半が24年度以降に返還する。
 安倍晋三首相が5日夕、ルース駐日米大使と官邸で会談、返還計画を了承した後、正式発表した。岸田文雄外相、小野寺五典防衛相、在日米軍幹部も同席した。

 日米政府間の合意事項とあって、本土マスメディアもみな大きく報じました。わたしが直接目にした全国紙5紙(朝日、毎日、読売、産経、日経)の大阪本社発行の6日付朝刊最終版も、後掲の通り各紙とも1面をはじめ複数のページ大きく記事を掲載しています。いずれも日米間で合意に至るまでの経緯を詳しく報じており、安倍晋三首相が返還時期の明示にこだわったこと、普天間飛行場の返還時期については諸手続きに必要な時間を積み上げて「2022年」を弾き出したこと、しかし米側がなお慎重姿勢のため「以降」を付けて「2022年度以降」とすることで折り合ったことなどが紹介されています。こうしたディテールの報道は、日本のマスメディア、中でも特に全国紙が政治分野で得意なスタイルと言っていいと思います。
 わたしが見過ごせないと思うのは、ではこの日米合意をどう受け止め、評価するか、の点です。1日遅れの掲載となった朝日を含めて5紙とも社説でも取り上げています。読み比べると、今回の日米合意を是とし、加えて普天間飛行場沖縄県名護市辺野古への移転をも是とする論調の読売や産経、日経の社説は歯切れの良さが目立ちます。一方で、朝日や毎日の社説は米軍施設の早期返還は支持しながらも、普天間飛行場辺野古移設に対しては歯切れが悪いように感じます。日米同盟に基づく米軍基地の日本国内配置をどうするか、このまま沖縄に負担を強いることを続けるのかどうかをめぐり、本土メディアの中での論調の違いが明確になっていると受け止めています。しかも、政府方針を是とし支持する論調の方が明快で歯切れがよいという状況は、ひとつ前のエントリーでも書きましたが、日本の新聞と戦争の歴史にかんがみた時に軽視できません。
 一方、この日米合意に対する沖縄のメディアの評価は苛烈です。本土メディアと沖縄メディアの間には、「温度差」では済まない大きな段差、溝があります。一例として、琉球新報の6日付の社説の冒頭部分を引用、紹介します。

 これはまさに「沖縄の基地負担温存政策」ではないか。県外に行く基地は一つもない。沖縄だけを犠牲にする政策がもはや限界だと、なぜ気付かないのか。
 日米両政府が嘉手納基地より南の5基地の返還・統合計画を発表したが、5基地返還は2005年に合意したことで、今回はその時期を示したにすぎない。それを、さも安倍政権が努力した「負担軽減」であるかのように言いはやすのは、経緯を知らない国内世論向けの印象操作だ。詐術に等しい。
 沖縄だけに基地を押し込める方策は過去何回も頓挫してきた。政府は過去の失敗に学ぶべきだ。

琉球新報「基地返還・統合計画 沖縄だけの犠牲は限界だ 詐術に等しい『負担軽減』」
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-204939-storytopic-11.html
 米軍基地の日本国内への配置のありようをめぐって、私はマスメディアの現状をこう見ています。本土メディアの中で論調の差異が明確になっている一方で、政府方針に批判的・懐疑的なメディアとの間でも、沖縄メディアとの段差は大きい、と。
 米軍基地が沖縄に集中している現状に対して、沖縄の負担軽減が必要だと本土マスメディアが考えるのならば、まずは負担を強いているのは誰なのかについて考察を深め、自らの当事者性を意識する必要があると思います。米軍基地を沖縄に置くという政治判断を直接決めているのは日本政府かもしれません。しかし、本土メディアは、沖縄の負担を軽減する責任を負っているのは日本政府であることを指摘し、批判していればいいのでしょうか。その政府を成り立たせているものへの考察を深めるべきではないのか、と思うようになっています。

 そんな思いとともに、今回の日米合意について全国紙のほかにもネットで地方紙の社説をいくつか調べる中で、京都新聞の社説の末尾の一文に目が止まりました。今までになかった本土メディアの中の変化かもしれません。同紙の社説は「安倍晋三首相は『沖縄の負担軽減に極めて有意義だ』と胸を張るが、その言葉に説得力はない」と疑問を提示し、普天間飛行場辺野古への移設のために埋め立て申請を強行したこと、沖縄にとっては「屈辱の日」である4月28日を「主権回復の日」としたことなどを挙げ「首相らが口にする『沖縄との信頼関係』を行動が裏切り続けている」と指摘して、最後を次のように結んでいます。

 本土復帰から40年以上が経ても国土面積の0・6%しかない沖縄に、米軍専用施設の74%が集中する状況は異常だ。本土への基地機能移転を考える必要があろう。

京都新聞4月6日付社説「理解できぬ『県内』前提」
 http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20130406_4.html
 日米同盟と米軍の日本駐留が本当に必要だと考えるなら、基地を本土に移すことが具体的に論議されて然るべきでしょう。現にある「沖縄への差別」と呼ぶほかない沖縄への基地負担の強要を解消するには、避けて通ってはならない議論だと思います。日米同盟と米軍の日本駐留の是非をさて置いてでも。


 以下は全国紙各紙の大阪本社発行の6日付朝刊最終版の記録です。
【朝日】
本記:1面トップ「6基地返還で日米合意」「『13〜28年度以降』期限設けず」「大半、県内移設条件」
1面「『沖縄の負担減にならない』」(沖縄県知事、名護市長反応)/「嘉手納以南の米軍基地返還計画」(とはもの)
2面「返還 先送り懸念」「『年限を』首相は要求」「『またはその後』加えて決着」「米、実現性に疑問」/「県内移設・海兵隊移転 進まず」/「沖縄『一日でも早く』」
3面「県民の悲願 足踏み」「96、06年合意 実現できず」
4面:合意の概要(図表を除く全文)、安倍首相発言など(1ページ)
社会面トップ「いつまで待てば 17年動かぬ普天間 失望」「『一等地』の牧港 返還は分割」
社説(7日付朝刊掲載)「基地返還計画 可能なところから早く」

【毎日】
本記:1面トップ「首相『普天間進める』」「日米発表 6施設返還計画」
3面:クローズアップ「沖縄の不信ぬぐえず」「首相意向で時期明記」/「合意実現 難航の歴史」「『見極め必要』沖縄は冷静」/質問なるほドリ「返還予定はどんな所?」「県都近隣 跡地再開発に期待」
5面「沖縄の米軍施設返還計画 要旨」
社説「米軍基地返還計画 普天間『切り離し』守れ」

【読売】
本記:1面トップ「返還開始 今年度にも」「日米両政府 計画公表」「嘉手納以南 米軍施設」
2面「辺野古移設 進展期待」「政府 負担軽減策と合わせ公表」
3面:スキャナー「時期明記 首相固執」「首脳会談機に前進」「米は期限設定に難色」「代替施設確保 難航も」
6面:計画の要旨(1ページ)
第2社会面「沖縄、時期明示を歓迎」「牧港3段階分割は不満」
社説「米軍施設返還案 普天間移設と好循環を目指せ」

【産経】
本記:1面「首相『普天間固定化ならぬ』」「返還合意 牧港一部は何度内」/「辺野古申請 転換点に」
3面「沖縄負担軽減へ『決意』」「普天間移設 地元説得 高い壁」/「米評価『重要な節目』」
社説(主張)「米軍施設返還 沖縄の抑止機能を守れ 新合意で『普天間』移設実現を」

【日経】
本記:1面準トップ「移設前提 22年度以降に」「普天間返還 日米が最終合意」
3面「日米、時期明示で攻防」「首相 普天間進展狙う」「米政府 議会の反発懸念」/「沖縄、歓迎と疑念」「条件多く県内移設に反発」
4面:返還計画、首相発言など
社会面「『辺野古前提、喜べない』」「憤り・警戒、地元に渦巻く」
社説「今度こそ日米合意を守り普天間移設を」