ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

最大の争点は「安倍政治」

 衆院選の公示翌日、10月11日付の東京発行の新聞各紙朝刊の記録です。各紙ともおおむね、衆院選が1面トップでした。10日は午後、東京電力福島第1原発事故の被災者が損害賠償を求めた訴訟で、福島地裁が国と東電の責任を認定して賠償を命じる画期的な判決がありました。東京新聞はこの判決を1面トップに据えました。

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 衆院選公示の記事では、各紙とも本記の見出しに入っているキーワードは前日10日の夕刊と同じく「安倍政権・安倍政治」「3極」「憲法」「9条」「消費税」「原発」「森友・加計」といったところです。産経新聞の「北有事」はほかの紙面にはない特徴でしょうか。結局、希望の党の代表で東京都知事の小池百合子氏は衆院選に立候補せず、希望の党の首相候補も明示しないとあって、「政権選択」は各紙とも見出しから消えました。最大の争点は5年近くの「安倍政治」です。

 12日付朝刊では、これまでの選挙と同じように、各紙とも一斉に選挙戦序盤の情勢を報じます。11日深夜から既に各紙とも自社サイトに記事のアップを始めています。希望の党は追い風がなく伸び悩み、自民党が堅調のようです。

※朝日新聞「自民堅調、希望伸びず立憲に勢い」

www.asahi.com

※読売新聞「自民、単独過半数の勢い」

www.yomiuri.co.jp

※日経新聞「与党300議席に迫る勢い 衆院選序盤情勢 /自民、単独安定多数も 希望は選挙区で苦戦」

www.nikkei.com

 ただ、投票先を決めていない人も少なくなく、短期間で情勢は変わる可能性もあります。

 11日付朝刊では各紙とも、この選挙の意義などを社説や編集幹部の署名評論で示しています。見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
社説「衆院選 安倍政権への審判 民意こそ、政治を動かす」/『1強政治』こそ争点/一票が生む緊張感/無関心が政権支える
「『闇鍋』では任せられない」中村史郎・ゼネラルエディター

▼毎日新聞
社説「日本の岐路 衆院選がスタート 『よりまし』を問う12日間」最大の争点「アベ政治」/希望はあいまいさ排せ
「地道な政治への一歩に」佐藤千矢子・政治部長

▼読売新聞
社説「衆院選公示 安倍政権の『信任』が問われる」
「難題の4年 誰に託す」望月公一・編集委員

▼日経新聞
社説「17衆院選 次世代に責任ある経済政策論議を」増税見送りは無責任/成長戦略も議論深めよ
「問われるのは日本のあすだ」芹川洋一・論説主幹

▼産経新聞
社説(「主張」)「衆院選公示 複数の選択肢ないままか」
「迫る危機 問われる覚悟」石橋文登・編集局次長兼政治部長

▼東京新聞
社説「17衆院選 公示第一声 原発なぜ語らないのか」(中日新聞と共通)

衆院選公示

 衆院選が公示されました。

 10月10日の東京発行新聞各紙の夕刊は1面トップでそろいました(産経新聞は東京本社では夕刊を発行していません)。

 見出しに入っているキーワードは「安倍政権・安倍政治」「3極」が各紙とも共通。ほかには「憲法」「9条」「消費税」「原発」「森友・加計」といったところです。

 「安倍政治」が続くのか否かを軸にすれば、選挙戦は「自民・公明」「希望・維新」「立憲民主・共産・社民」の3極構造です。一方で、憲法改正志向という点では、自民党と希望の党や日本維新の会とで本質的な違いはないようです。希望の党は、代表の小池百合子氏は衆院選には出馬せず、首相候補も明示しないまま選挙戦に入りました。選挙結果次第では、自民との“大連立”に進む可能性もありそうです。そういうことも想定するなら、3極構造は2極でもあるのかもしれません。

 選挙後に何が起こるのか、各党や候補者がどんな動きをするのかもポイントに、論戦を見ていこうと思います。

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衆院選で問われるのは憲法

 きょう10月10日は衆院選の公示日。22日に投開票を迎えます。
 9月28日の衆院解散を前に、安倍晋三首相は同25日に記者会見し、「少子高齢化」と「緊迫化する北朝鮮情勢」を「国難」と呼び、この解散を「国難突破解散」と呼びました。「国難」と呼ぶ時代がかった感覚もさることながら、それを突破できるだけの将来展望を何か示し得ているとは到底感じられませんでした。あの会見から2週間がたちましたが、やはり国難を突破できるだけの展望は何も示されていないと感じます。特に北朝鮮の核・ミサイル開発に対しては、危機意識をあおるだけです。
 驚かされたのは野党の動きです。まず首相会見と同じ9月25日、小池百合子・東京都知事が、側近議員だとか民進党を離党した議員らの緩慢な動きに業を煮やすように自らが代表になって新党「希望の党」を立ち上げました。野党第1党の前原誠司代表は、衆院選では民進党の候補は希望の党に公認を申請することを呼びかけました。「安倍政治を終わらせるために、全員で希望の党に行く」「再び政権交代が可能な2大政党制を目指す」と聞こえましたが、実際に起きたのは「希望の党」による「選別」であり、小池代表による「排除」宣言でした。この混乱の中から、枝野幸男・民進党代表代行を中心に「希望の党」に合流しない民進党候補らの「立憲民主党」が結成され、また「希望の党」の公認を返上して無所属での出馬を選ぶ原口一博元総務相のような例も出ました。
 前原氏は10月6日になって、ツイッターで連続17回のツイートを投稿し、自らの思いを説明しています。※日付・時刻の部分をクリックすれば17のツイートを読めます 

twitter.com

 これを読んで思うのは、民進党の「希望の党」への合流で前原氏が目指したのは、安倍晋三首相に代わる保守政権を実現させるために小池百合子氏と手を握ることであり、政策面では憲法改正と安全保障法制の容認であり、そのためには民進党内の純化が必要だったのだな、ということです。簡単に言えば、リベラルや左派と呼ばれる人たちが邪魔なので切った、ということだと受け止めました。しかし、見ようによっては自民党以上に右傾化した政党に純化したところで、自民党に対抗して希望の党が並び立つ「2大政党制」と呼べるのでしょうか。この前原氏の連続ツイートに寄せられた反応がことごとくと言っていいほどにネガティブな内容であることでも分かる通り、前原氏のこのやり方は有権者の支持を得ているとは思えません。「希望の党」への支持状況にもマイナスの影響が及ぶと思います。
 選挙戦は形式の上では「自民党・公明党」と「希望の党・日本維新の会」と「立憲民主党・共産党・社民党ほか」の3極構造で政権選択を掛けて争われる、というのがマスメディアのおおむね一致した見方です。しかし一方で、「希望の党」は首相候補を明示しないまま、選挙結果を見て検討するということになりました。ここにきて自民党の一部との「大連立」が現実味を帯びてきています。自民党と希望の党では2大政党制にはならず、保守の潮流の中での主導権争いに過ぎないとも感じます。選挙戦はこれに、立憲民主党・共産党・社民党や連携する無所属らの「第3極」が対抗する構図になったとわたしは受け止めています。
 憲法を巡って安倍自民党は9条改正を前面に掲げました。希望の党の小池百合子代表も、安倍首相案には反対ながら9条改正には意欲的なようです。第3極は、少なくとも安倍政権の下での憲法改正には反対です。やはり、この選挙で将来に向けて問われるのは憲法なのだろうと思います。そのことを念頭に、今回の選挙戦とマスメディアの報道を追っていきたいと考えています。むろん、5年余の「アベ政治」への審判であることはその通りです。

 

 10月9日付の読売新聞に、7、8両日に実施した世論調査の結果が掲載されました。
 内閣支持率は、前回9月28~29日の調査結果から2ポイント減の41%、不支持率は前回と同じ46%でした。
 衆院選の比例区の投票先は以下の通りです。
 自民党32%、希望の党13%、公明党5%、共産党4%、日本維新の会3%、立憲民主党7%、社民党1%、日本のこころ0%、決めていない27%
 希望の党は前回の19%から下がりました。希望の党への期待を尋ねた質問でも「期待する」36%に対し「期待しない」58%です。読売新聞は総合面のサイド記事に「希望失速 立憲民主と分散」の見出しを立てています。

「武装難民」「射殺」発言はなぜ問題か~「憎悪」や「敵意」より「寛容」「多様性」を求めたい

 マスメディアではすぐに消えてしまったニュースですが、衆院選を控えて軽視できない問題をはらんでいると感じますので、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 自民党の麻生太郎副総理兼財務相が9月23日、宇都宮市で行った講演で、朝鮮半島から大量の難民が日本に来る可能性に触れ、「武装難民かもしれない」「警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか」と話しました。新聞各紙の中でいちばん詳しく報じた朝日新聞の記事を一部引用します。

 麻生太郎副総理は23日、宇都宮市内での講演で、朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れたうえで、「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」と語った。
 麻生氏はシリアやイラクの難民の事例を挙げ、「向こうから日本に難民が押し寄せてくる。動力のないボートだって潮流に乗って間違いなく漂着する。10万人単位をどこに収容するのか」と指摘。さらに「向こうは武装しているかもしれない」としたうえで「防衛出動」に言及した。 

  記事は東京本社発行最終版では24日付の朝刊第2社会面に全文4段の扱い。見出しは「『武装難民かも。警察か防衛出動か射殺か』/朝鮮半島難民を仮定 麻生氏が発言」でした。記事全文はネット上の朝日デジタルにもアップされました。見出しは紙面とは異なっています。
 ※朝日デジタル「麻生副総理『警察か防衛出動か射殺か』/武装難民対策」2017年9月24日

www.asahi.com

 もう一つ例を挙げると、共同通信は以下のように報じました。 

 麻生太郎副総理兼財務相は23日、宇都宮市で講演し、北朝鮮で有事が発生すれば日本に武装難民が押し寄せる可能性に言及し「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」と問題提起した。
 北朝鮮有事について「今の時代、結構やばくなった時のことを考えておかないと」と指摘。「難民が船に乗って新潟、山形、青森の方には間違いなく漂着する。不法入国で10万人単位。どこに収容するのか」と強調した。その上で「対応を考えるのは政治の仕事だ。遠い話ではない」と述べた。 

 ※47news=共同通信「武装難民、射殺にも言及/麻生副総理、北朝鮮有事で」2017年9月24日

this.kiji.is

 発言の全文が紹介されているわけではないのですが、報道を総合すると、麻生氏は北朝鮮有事の際には大量の難民が日本に来ることが予想されること、対応をふだんから考えておく必要があること、それは政治の仕事であることを述べる中で、「武装難民」という用語を使い、警察や自衛隊による射殺も選択肢に入ると受け止められる発言をしました。

▼「危険で怖い」難民像流布を危惧

 麻生氏は「武装難民」について、それがどういうものであるかを説明していないようです。そうしたあいまいさが残るものを持ち出して、いきなり「射殺」にまで言及するのは、あまりに飛躍があります。
 「難民」については、例えば国連高等弁務官事務所の日本語サイトでは次のような説明がされています。

 1951年の「難民の地位に関する条約」では、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々と定義されている。今日、難民とは、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようになっている。 

 難民とは、迫害や人権侵害を逃れるために自国を離れた人々です。たどり着いた他国に対しては庇護を求めることはあっても、その国を攻撃し国民を殺害するためにやってくるのではありません。国を出るまでの自衛手段として武器を持っている場合もあるでしょうが、一義的には海上保安庁を含む警察力が対応して武装解除し、その上で難民として処遇するのが基本のはずです。

 そうではなくて、仮に、日本や日本国民を攻撃する意図のもとに武装しているのだとすれば、それを「難民」と呼ぶのは適切でしょうか。そうではありませんし、難民対策とは全く別の対応の検討が必要なはずです。難民の中に、そうした勢力が混じっていたとしても、それをどうやって見分けるかの問題はありますが、なぜいきなり「射殺」が選択肢になるのか、あまりに飛躍が過ぎます。

 危惧するのは、この飛躍によって「朝鮮半島からの難民は危険で怖い」とのイメージが流布することです。仮に、難民ではなく武装勢力が潜入を図ることにどう対応するのか、ということであれば、それは難民対策とは全く別の問題ですし、「難民」ではなく、その脅威の態様に応じた言葉遣いが必要です。

 結局のところ、麻生氏の言う「武装難民」は具体的なイメージも、また実際に起こりうる根拠も何も示されておらず、「射殺」という飛躍した選択肢を持ち出したことで、ただ「朝鮮半島からの難民は危険で怖い」とのイメージを流布させるだけのように思います。

▼「朝鮮人虐殺」の今日的意味

 ここで思い起こすのは、関東大震災の際にデマが元で起きた朝鮮人虐殺です。「難民は危険」というイメージが流布しているところに、いざ有事となったら、関東大震災の時のように、不安に駆られた集団心理がどのような不測の事態を引き起こさないとも限りません。麻生氏の「武装難民」「射殺」発言は、朝鮮人虐殺が歴史的事実にとどまらず、同様の蛮行、愚行が再現されてしまう恐れが今日、皆無とは言い切れないこと、蛮行、愚行を引き起こす素地のような社会心理が既に醸成されている可能性を否定しきれないことを示しているようにも思います。
 関東大震災時の朝鮮人虐殺に関連しては、市民団体の主催で9月1日に行われている虐殺犠牲者の追悼式典を巡って、東京都の小池百合子知事が、昨年は寄せていたあいさつを、今年は自身の判断として取りやめたというニュースもありました。小池知事は朝鮮人虐殺について、歴史的事実ととらえているかどうか明言を避け「歴史家がひもとくもの」などと語っています。そこには、為政者として過去の歴史の教訓をくみ取り、社会のマイノリティである在日コリアンの人権と安全を守っていくとの姿勢が感じられません。その小池氏は「希望の党」代表として衆院選に臨み、多様性がある社会の実現を訴えています。

 社会のマイノリティである在日コリアンを巡っては、朝鮮学校が授業料無償化の対象から除外されていることを適法と判断した東京地裁判決もありました。わたしはこのブログで「朝鮮学校に在籍しているという一事で、日本の高校に通う生徒たちと異なった扱いを受けるのは不条理だと感じます。日本人拉致問題がある上にミサイル発射、核開発で北朝鮮への批判が高まっていますが、それはそれ。日本社会で『教育の機会均等』を図る高校無償化は、まったく別の話です」と書きました。

news-worker.hatenablog.com

 言い方を変えれば、朝鮮学校の除外という方針と、それを追認した裁判官の判断の根底にあるのは、「北朝鮮につながるような学校は信用できない」とのネガティブな感情だろうとみています。その感情は、何か事あれば容易に一方的な敵意に結び付きかねない、という意味で、麻生氏の「武装難民」「射殺」発言の危うさと底流で通じているように感じます。小池氏の朝鮮人虐殺を巡る歴史認識と社会のマイノリティである在日コリアンを守ろうとしない姿勢も、いざ何か事が起これば在日コリアンへの憎悪に結び付きかねないとの危惧を覚えます。

▼難民とテロリストの混同

 ここまで書いたところで、麻生氏が10月8日に新潟市で行った講演で、また「難民」を巡って発言したとの産経新聞の記事が目にとまりました。一部を引用します。 

弾道ミサイルの発射を続ける北朝鮮をめぐって、朝鮮半島で有事が起きた際に難民が日本に大挙して押し寄せる危険性を改めて訴え、「難民は武器を持っていて、テロを起こすかもしれない」と危険性を強調した。 

産経ニュース「麻生太郎副総理『北朝鮮には危なそうな人がいる』」2017年10月8日 

www.sankei.com

 9月23日と違って「射殺」には言及していませんが、何が問題かがクリアになったとも感じます。「難民は武器を持っていて、テロを起こすかもしれない」と話したとされますが、発言が事実だとすれば、テロを起こすのはテロリストであって「難民」とは呼ばない、呼んではいけないということです。「難民」と「テロリスト」を一緒くたにして論じることで、「難民=危険」との偏見と先入観が広がりかねません。それは北朝鮮の一般民衆への敵意と結びつきかねず、さらには北朝鮮とつながりがあるとの理由で在日コリアンへの憎悪を招きかねません。

 朝鮮半島有事の際にテロリストが日本に流入する危険が本当にあるのなら、その対策は取らなければなりません。ただし、難民とテロリストが混同されて、一緒くたに危険視され敵視されるようなことはあってはならないと思います。

▼ 「寛容」と「多様性」をこそ

 麻生氏の発言をマスメディアは決して大きく取り上げてはいません。9月23日の発言翌日の東京発行新聞各紙の朝刊の扱いや見出しは以下のようでした。
 ・朝日:第2社会面・全文4段「『武装難民かも。警察か防衛出動か射殺か』/朝鮮半島難民を仮定 麻生氏が発言」
 ・毎日:社会面・見出し2段「『武装難民は射殺か』/麻生氏 朝鮮半島有事対応で」
 ・読売:4面(政治経済)見出し1段「朝鮮半島有事で難民/麻生氏『射殺ですか』」
 ・日経:5面(総合)短信1段「『難民、武装なら射殺か』麻生氏、日本での対応」
 ・産経:5面(総合)全2段「北の武装難民 射殺に言及/麻生氏、有事なら『真剣に検討』」
 ・東京:3面(総合)全3段「『武装難民来たら射殺か』/有事対応で麻生氏」

 その後、野党が発言を批判し、韓国政府も26日に外務省報道官論評として「国粋主義的な認識を基にし、難民保護に関する国際法規にも外れたもので極めて遺憾だ」と表明し、強い不快感を示しました。共同通信が配信していますが、東京発行の新聞各紙の紙面では記事は見当たりませんでした。 

this.kiji.is

 10月8日の麻生氏の発言は、9月の発言は何ら問題にならなかったと麻生氏自身が考えているからでしょう。8日の発言の報道は、9日午前の段階で目に付くのは産経新聞のネット記事のみです。

 折しも10日に衆院選が公示されます。「マイノリティ」や「難民」のキーワードを切り口に、わたしたちの社会が「分断」や「排除」そして「憎悪」や「敵意」ではなく、もっと「寛容」と「多様性」を増していくためにはどうしたらいいのか、各政党や各候補の主張を元に考えるいい機会だと思いますし、マスメディアにもそうした観点からの争点報道があっていいだろうと思います。

 

 麻生氏の発言の問題点を考える上で、以下の論考が参考になりました。筆者の橋本直子さんは「ロンドン大学高等研究院難民法イニシアチブ リサーチ・アフィリエイト」と紹介されています。そもそも麻生氏が言うように、10万人単位の難民が本当に押し寄せてくるのかは、有事がどのような形態になるのかによっても想定は異なるようです。

※ハフポスト・BLOG「『武装難民』は射殺してもいいの?条約から読み解く難民のこと」=2017年9月26日

www.huffingtonpost.jp

 

「核廃絶、ICANにノーベル平和賞」のニュースバリュー

 ことし2017年のノーベル平和賞は、国際非政府組織(NGO)の「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN=読みは『アイキャン』)」に授与することをノルウェーのノーベル賞委員会が10月6日、発表しました。共同通信の配信記事によると、「授賞理由で、核兵器を史上初めて非合法化する核兵器禁止条約の制定に向け『革新的な努力』を尽くしたと指摘。広島や長崎の被爆者と連携し、核の非人道性を訴える活動を評価した」とのことです。
 核兵器禁止条約の制定に当たっては、広島、長崎の被爆者が原爆による惨禍の実相を訴え、核廃絶を求めて声を上げ続けてきたことが大きく寄与してきたのはまぎれもない事実です。その意味では、授賞の栄誉は被爆者に捧げられるにも等しいと思います。ICANにはピースボートを始め、日本の団体も参加しています。ノーベル平和賞という賞とその受賞者は国際社会で敬意を払われていることを考え合わせれば、ICANの受賞決定は、日本社会にとっても最重要の大きなニュースだと思います。

 この知らせに対し、日本政府は公式にコメントしませんでした。核兵器禁止条約に対しては、日本政府はかねて「核保有国と非保有国の間に分断が生じている」「日本は核保有国と非保有国の仲立ちをする。核廃絶を求める立場だが、アプローチが異なる」といった趣旨の主張をし、条約には参加していません。一方で、日米安保条約により米国の核の傘にとどまり続け、近年は北朝鮮の核・ミサイル開発などに対抗するためとして、米軍と自衛隊の一体化を進めているのが実情です。核廃絶に向けた独自のアプローチと言われても、実態も成果も見えません。そうした中では、NGOの平和賞受賞決定にコメントしようにも、何をどう言えばいいのか語る言葉が日本政府にはないのが実情なのかもしれないと感じます。

 報道の中で印象に残るのは、朝日新聞が7日付朝刊のオピニオン面に掲載した大型の識者評論のうちの元ソ連・ロシア軍縮大使、セルゲイ・バツァノフ氏の「地球の安保に核欠かせぬ」との見出しの記事です。要は、本当に必要なことは核廃絶よりも、戦争を防ぐことであり、そのために核はもはや「地球規模の安保体制の一部」だという主張だと受け止めました。「これを取り除くというのならば、戦争を防ぐという意味で、バランスをどうとるか考えなくてはなりません。戦争を防ぐには何が必要か。これは単純かつ、とても哲学的で、とても大きな問いかけなのです」との言葉は、核兵器廃絶の難しさを言い表しているのだろうということは理解できます。

 しかし一方で、そうやって現実はどう進んできたかを振り返れば、核保有国は増えるばかりです。現実に核保有を正当化している保有国があるために、自らの生存を担保するために核開発をあきらめない国があるのが実情です。ノーベル賞委員会は授賞理由の中で、北朝鮮を名指しして核保有を目指す国が増えていると指摘し、同時に核廃絶へ向けた次のステップには核保有国の関与が必要だと強調しました。日本政府が独自のアプローチで役割を果たすというのなら、とりわけ核保有国に対してのアプローチの具体策を早急に示し、何より具体的に取り組んでいくべきだろうと思います。

 さて、このように日本にとっても重要で大きなニュースなのですが、東京発行の新聞各紙のニュース・バリュー判断は分かれました。経済専門紙の日経新聞はともかくとして、一般紙では朝日新聞、毎日新聞、東京新聞が1面トップ、横見出しで揃ったのに対し、読売新聞、産経新聞は1面で扱いはしたものの、それぞれ1面の4番手、3番手の控え目の扱いでした。
 新聞はニュースの格付けメディアの一面があり、その日の重要ニュースは1面に集約し、中でも最重要のニュースをトップに置きます。次いでニュース価値の順位付けに従って、記事の掲載場所が決まります。今回は、読売、産経はトップニュースはおろか、2番手にもなりえないと判断したということです。朝日、毎日、東京とは大きな違いがあります。

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 さらに、各面の関連記事の本数や行数など、つまりは情報量にも差があります。これらの扱いの違いは、核兵器禁止条約に参加していない日本政府の主張をどう受け止めるかと関係しているようにも思えます。日本政府の立場を支持するかどうかと符合しているようです。

 以下に備忘を兼ねて、東京発行の新聞6紙の7日付朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。いずれも東京本社発行の最終版です。 

【朝日新聞】
・1面
 トップ「核廃絶『ICAN』平和賞/ノーベル賞 核禁止条約に貢献」
 視点「被爆者の声 受賞の原点」副島英樹・広島総局長
・2面
 「核使用懸念 廃絶促す/禁止条約へ世界と連携/保有大国 米ロ動かず/北朝鮮・インド…拡散進む」
 「保有国の同盟国もカギ/ノーベル委員長」
 「ノーベル平和賞 どう決まったの?」いちから わかる!(Q&A)
・3面
 「日本政府には戸惑い/正式なコメント出さず/核禁不参加 変わらず」
・12面(特集面・ノーベル平和賞にICAN)
 「被爆者 反核の歩み/救済・援護 政府に求める/廃絶・軍縮訴え 世界と連帯」
・13面(国際)
 「条約参加へ 広がる期待/ICAN創設者『意義認められた』」/「非参加国 苦しい対応」
 ■授賞理由(要旨)
・17面(オピニオン)
 「美本の我育成策 転換点に」大阪女学院大学大学院教授・黒澤満さん/「地球の安保に核欠かせぬ」元ソ連・ロシア軍縮大使・セルゲイ・バツァノフさん/「核の問題はみんなの問題」

長崎大学核兵器廃絶研究センター准教授・中村桂子さん
 「戦争、原爆 まず心の底に置いて」漫画家 こうの史代さん
・社会面(34、35面)
 ※見開き見出し「核廃絶 もっと前へ」/「願い きっと届く」
 「平和賞 被爆者らの勇気に」/「『日本政府は考え直して』/ICANの『顔』サーロー節子さん」
 「被団協『励み 力になる』」/「運動 間違いではなかった」
 「すべての核 命脅かす」反戦、反核をテーマにした楽曲も手がける歌手の加藤登紀子さん/「平和の祈り より強く」祖母と母が被爆した広島出身のバレリーナ・森下洋子さん
・社説「核廃絶運動 世界に新たなうねりを」

【毎日新聞】
・1面
 トップ「核廃絶運動に平和賞/国際ネット『ICAN』/被団協と連携 禁止条約に貢献/ノベール委 米朝けん制」
・2面
 「日本『核の傘』依存/政府、公式コメントなし」
 ミニ論点「核保有国 取り込みを」日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター主任研究員・戸崎洋史氏/「被爆者の活動重なる」大阪女学院大学大学院教授(軍縮国際法)・黒澤満氏
・3面
 クローズアップ「核廃絶 理想を追求/非核保有国動かす」
 「委員長 保有国に注文」
 「夢想家を笑うな」小倉孝保・外信部長
 「平和賞 誰が選ぶ? ノルウェー国会任命の5人 中立な選考期待」質問なるほドリ
・8面(国際)
 「核軍縮 展望なく/保有国 強く反発/米露 兵器更新へ」
 「北朝鮮 自衛論理維持か」/「緊張続く中東」/「中国は速報せず」/「仏『自主独立の象徴』」/「『現実を無視』NATO反発」
・社会面(28、29面)
 ※見開き見出し「通じた被爆者の叫び」/「世界の流れに日本も」
 「『核なき世界』追い風」
 「死が苦痛からの解放/4歳おいの惨劇 条約会議で演説 女性が平和賞祝福」
 「『運動に力与える』被団協」/「若者が主導 07年設立 ICAN」
 「惨状から未来へ一歩/ピースボート歓喜」/「全ての政府、批准を 川崎さん」/「遺影と喜び 長崎被爆者」
・社説「核廃絶NGOに平和賞 大きな国際世論の反映だ」

【読売新聞】
・1面
 「平和賞に核廃絶団体/ICAN 禁止条約採択に貢献/ノーベル賞」=4番手
 ※トップは「ドローンで被災査定/損保、迅速に保険金」
・2面
 「平和賞 北の核念頭/『衝突の恐れ 差し迫る』」
 「核兵器禁止条約 保有国や日本不参加」/「『被爆者への賛辞』ICANが声明」
・7面(国際)
 「核軍縮 環境厳しく/平和賞『期待』を優先」
 「核保有国 冷静な反応」
・34面(第2社会)
 「被爆者『活動の励みに』/ノーベル平和賞 ICAN受賞 喜び」

【日経新聞】
・1面
 「核廃絶『ICAN』平和賞/ノーベル賞 禁止条約主導のNGO」=3番手
 ※トップは「財源当てなき公約競争/目立つ曖昧さ、論戦に課題」
・3面
 「平和賞、核拡散に危機感/ICANにノーベル賞 北朝鮮を名指し」
・9面(国際)
 「『各国は核廃絶宣言を』/『ICAN』の事務局長」
 「『反核』の広がり 米に逆風」
・社会面(39面)
 トップ「被爆者『大きな励み』/核廃絶へ近い新た/仲間の受賞に涙」広島・長崎・東京
 「高齢化 伝承が課題/原爆投下72年/『語り部』存続難しく」

【産経新聞】
・1面
 「平和賞 核廃絶NGO/ICAN 授賞理由に北の脅威/ノーベル賞」=3番手
 ※トップは「掟破り 奇策あるか/希望『石破氏を首相指名』浮上」
・2面
 「核兵器禁止条約に寄与/ICAN『保有は違法』訴え」
・7面(国際)
 「米朝へ警鐘鳴らす/核廃絶運動の限界露呈も」/「保有国に真剣な交渉求める/主な授賞理由」
 「NATO『安保の現実も考慮を』/北は反応なし」
 「北情勢・核合意 背景に/欧米メディア『軍縮取り組み補強』」/「ICAN 北の威嚇を非難」
・28面(第2社会)
 「北への抑止効果 疑問/早紀江さん『暴発なら全て灰に』」
 「被爆者団体『意味ある受賞』」

【東京新聞】
・1面
 トップ「核廃絶NGO 平和賞/禁止条約実現に貢献/『被爆者と共に受賞』/ノーベル賞」
 「日本から7団体参加『ICAN』/連携 被爆者の声伝え」
・2面
 「核なき世界 実現迫る」/解説「ノーベルの遺志 原点回帰の選考」
 「首相の祝福談話出ず/条約不参加の日本政府複雑」
・3面
 「ヒバクシャの声 世界に」/核心「核禁止 進まぬ現実/日本は条約不参加」悲願/配慮
 「国連は歓迎■米は条約推進派警戒■北、反発か/授賞決定に各国反応」
・社会面(26、27面)
 ※見開き見出し「被爆者『感無量』」/「核廃絶 足掛かり」
 「ピースボート歓声/『世界が目覚める機会に』」/「『授賞式に被爆者いてほしい』/ICAN事務局長」
 「学生時代から平和運動 核軍縮発信/中心メンバー 川崎哲さん」
 「被団協『世界を動かす力に』/『友人、仲間がもらうよう』」
 「『タイムリー、意義大きい』被爆2世の作家 青来有一さん」

 

※追記 2017年10月8日6時40分
 東京発行の新聞各紙の扱いの違いについての記述を一部差し替えました。
 以下は参考です。

▼産経ニュース 社説検証:核兵器禁止条約 産経「制定で抑止に危うさ」=2017年4月5日 

月27日から国連本部で行われた核兵器禁止条約の制定交渉。だが、その交渉には米英仏露中の核保有国のほか、自らを「核強国」と誇示する北朝鮮も加わっていない。 日本も不参加を表明した。高見沢将林軍縮大使は交渉会議での演説で、「核保有国が参加しない形で条約を作ることは国際社会の分断を一層強め、核兵器のない世界を遠ざける」と指摘した。

 日本の不参加を産経と読売が支持し、朝日、毎日が批判するという対立の構図が浮かび上がった。 

www.sankei.com

普天間移設先「ゼロベースで検討」(立憲民主党・枝野代表)~沖縄県外でも争点化を期待

 10月10日公示、22日投開票の衆院選に向けて、各党の公約がまとまってきました。個人的に注目しているのは沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設問題です。安倍晋三政権は沖縄県内、名護市辺野古地区への移設作業を沖縄県の反対を押し切って強行し、新基地建設の工事を進めています。

 この辺野古移設計画について、「希望の党」の代表の小池百合子・東京都知事は10月6日、公約発表の記者会見の際、質問に答える形で、「着実に進める立場だ」と明言しました。公約には、安全保障関係の政策として、日米同盟の深化や地位協定見直しなどを盛り込んでいます。沖縄の地元紙2紙が詳しく報じています。
▼琉球新報:辺野古「着実に進める」 希望・小池代表が公約発表会見で明言 防衛相時の姿勢を堅持

ryukyushimpo.jp

▼沖縄タイムス:小池百合子代表、辺野古「着実に進める立場だ」

www.okinawatimes.co.jp

 地位協定見直しなどは独自の政策ということなのでしょうが、辺野古移設を「着実に進める立場」とは、安倍晋三政権と変わりがありません。

 一方で、希望の党には行かなかった民進党の前衆院議員らが結成した立憲民主党の枝野幸男代表は沖縄タイムスのインタビューに答え、普天間飛行場の移設先についてはゼロベースで検討を始め、結論を出す考えを示したと報じられています。

▼沖縄タイムス:枝野幸男氏「辺野古新基地はゼロベースで」オスプレイは安全性・必要性を検証

www.okinawatimes.co.jp

 立憲民主党の公約は7日発表とのことですが、普天間飛行場の辺野古移設をこのまま進めるのか、ゼロベースで見直すのかが、「自民・公明」「希望・維新」と「立憲民主・共産・社民の第3極」の間の政策の違いとして明瞭になってきました。

 このブログでも紹介したように、ごく最近の沖縄県内世論調査でも、普天間飛行場の移設先について、移設なしの撤去、県外・国外への移設を求める回答は、合わせて80・2%にも上ります。沖縄の民意は既に明らかと言うべきで、「自民・公明」「希望・維新」よりも第3極の方が民意に沿うのも明らかです。

 普天間飛行場の移設問題と沖縄への基地集中の問題は、沖縄という一地域の問題ではありません。この衆院選では沖縄だけでなく、日本本土でも争点として明確になることを期待します。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

勢い感じられない「希望の党」~備忘・朝日新聞の世論調査結果

 朝日新聞社が10月3、4日に実施した電話世論調査の結果が報じられています。10月10日公示の衆院選での比例代表の投票先では、「希望の党」との回答は12%でした。民進党が希望の党への合流を決める前の9月26、27日に実施した前回調査では13%で、朝日の記事は「支持傾向に大きな変化はなかった」との評価を示しています。希望の党の代表の小池百合子・東京都知事が衆院選に立候補するべきだと思うかどうかでは、「都知事を続けるべきだ」が79%にも上り、希望の党への期待も、「期待する」35%に対し「期待しない」50%と、前回調査に比べて「期待する」が10ポイント減る一方で「期待しない」が11ポイント増えました。総じて、希望の党への期待も、小池氏の国政への待望論も盛り上がらずにいる、とみていいように思います。

 その要因としては、やはり民進党出身者を「排除」「選別」したことのように思います。しかし、調査では、小池氏が民進党から合流する候補者に対し、安全保障や憲法観などの基本政策で一致しない人は、公認しない考えを打ち出したことへの適否も聞いており、「妥当だ」が53%でした。支持伸び悩みの要因は、必ずしも「選別」「排除」ではないのかもしれません。

 希望の党が排除した、あるいは希望の党に行かない選択をした民進党出身者の「立憲民主党」は、比例代表の投票先では公明党と並んで7%となっており、一定の存在感を得ているようです。

 主な調査結果を、備忘を兼ねて書きとめておきます。単位は%、カッコ内は9月26、27日の調査の結果です。安倍晋三内閣への支持は微増でした。

 

◆内閣支持率

 「支持」40(36) 「不支持」38(39)

◆比例代表の投票先

 自民党35(32) 公明党7(6) 共産党6(5) 日本維新の会4(3) 希望の党12(13) 自由党1(1) 社民党1(2) 日本のこころ0(0) 立憲民主党7(―) 答えない・分からない27(29)

◆「希望の党」に期待しますか。期待しませんか。

 期待する35(45) 期待しない50(39) その他・答えない15(16)

◆希望の党の小池百合子さんは、民進党から合流する候補者に対し、安全保障や憲法観などの基本政策で一致しない人は、公認しない考えを打ち出しています。こうした判断は妥当だと思いますか。

 妥当だ53 妥当ではない25 その他・答えない22

◆希望の党代表の小池百合子さんが、都知事をやめて衆院選に立候補するべきだと思いますか。それとも、都知事を続けるべきだと思いますか。

 衆議院選挙に立候補するべきだ9 都知事を続けるべきだ79 その他・答えない12

憲法尊重擁護の自覚ない「政策協定書」~「希望の党」が民進出身者に迫った「踏み絵」

  小池百合子・東京都知事が代表の「希望の党」による民進党出身者の公認問題は、憲法改正や安保法制是認を掲げる「希望の党」への合流を拒否する枝野幸男・民進党代表代行らが新党「立憲民主党」を結成し、民進党の分裂に至りました。立憲民進党は野党4党(民進、共産、社民、自由) 合意を継承して共産、社民両党との共闘を進めるようで、マスメディアの報道もここに来て、「自民党・公明党」「希望の党・日本維新の会」に加えて「立憲民主党・共産党・社民党ほか」の3極構造との報道でそろいました。自民党と希望の党、安倍晋三首相と小池百合子代表は憲法改正を始めとして、政治的志向は底流を同じくする部分が多く、両党で「二大政党制」と言うにはなはだ疑問を感じます。そうしたことから、衆院選では第3極の選択肢があることが有権者にとっては重要だと考えていました。結果的には、立憲民主党の結党によって、マスメディアも第3極に相応の力点を置いて報道するようです。

 民進党の分裂に際して違和感を禁じ得ないのは、希望の党が、衆院選で公認を申請した民進党出身者に署名を求めた「政策協定書」です。共同通信の出稿によると、全10項目のポイントは次の通りです。 

 一、党の綱領を支持し「寛容な改革保守政党」を目指す。
 一、安全保障法制は憲法にのっとり適切に運用し、不断の見直しを行う。現実的な安保政策を支持。
 一、税金の有効活用(ワイズ・スペンディング)を徹底。
 一、憲法改正を支持。
 一、消費税10%への引き上げを凍結。
 一、外国人への地方参政権付与に反対。
 一、政党支部での企業団体献金受け取り禁止。
 一、党公約を順守。
 一、党に資金を提供。
 一、党が選挙協力協定を交わした政党への批判禁止。 

 10月4日付の東京発行新聞各紙の朝刊でも、この「政策協定書」を取り上げた記事がいくつも目に付きました。

・朝日新聞:社会面トップ「『希望10カ条』のめぬ民進組/党へ資金提供『違和感』■安保・改憲『踏み絵だ』/不参加相次ぐ」※民進党から立候補予定だった新顔、元職、前職らの声を紹介

・毎日新聞:第2社会面「希望『多様性』に矛盾/『外国人参政権反対』踏み絵」※小池代表が「寛容な保守」「ダイバーシティー(多様性)社会」を掲げていることと、外国人への地方参政権付与への反対は矛盾しないか、と提起

・読売新聞:3面(総合面)「安保『踏み絵』弱める/政策協定書 理念・政策にブレ」※政策協定書のうち、安全保障法制を巡る表現が、「違憲」として法案反対に回った民進側の激しい抵抗で、大幅に修正されたことに対し、与党側の批判を紹介

・東京新聞:1面「民進出身者に『踏み絵』10項目/安保法、改憲支持、党に資金提供」※政策協定書の概要を紹介し「希望への合流をトップダウンで決められた後に、署名を求められては追認するしかない。異様な感じがする」との上智大・中野晃一教授のコメントを紹介

 記事と見出しはいずれも批判的なトーンです。各紙がそろって見出しに「踏み絵」を取ったように、実態としては安保法制や憲法改正に賛同しない人物をふるい落とすためのもので、民進党の前原誠司代表が当初、「全員で希望の党へ」と訴えていたことを考えれば、違和感の大きさは相当なものです。

 わたしがこの「政策協定書」の中で特に疑問に思うのは、憲法改正への支持を求めている項目です。憲法自体に改正の規定があるので改憲を主張することはいいとしても、一方で憲法99条は国会議員を含む公務員に、憲法に対する尊重擁護の義務を課しています。この2点を総合的に考えるなら、憲法を改正するにも限界はあり、憲法の基本原則が変わるようなことを国会議員は主張してはならない、ということだろうと思います。国会議員を生む母体の公党も同様です。例えば、国会議員やその議員が所属する政党が、この憲法の有効性を認めず、自主憲法制定を訴えるならば、その訴えも議員も政党もみな憲法違反でしょう。

 そうであるのに、何の留保もなく、憲法のどの部分をどんな風に変えようというのか、一切の説明がないままに「憲法改正を支持」と求め、また求められた側も異議なく署名してしまうとは、一体どういうことなのでしょうか。公党としても、国会議員ないしは議員になろうとする者としても、憲法99条の尊重擁護の義務の自覚を著しく欠いていると言わざるを得ません。そのこと自体で、憲法違反の疑いがあるといっても過言ではないと考えます。

 衆院選の論戦を巡っては、マスメディアはこの憲法99条をも踏まえて、各党や候補者の主張をチェックし、有権者に提示していくべきだろうと思います。 

 

twitter.com 

辺野古移設に反対80%、沖縄の民意は明白~衆院選・3極の論戦で争点化を

 衆院選を前に、この話を書きとめておこうと思います。
 沖縄県の米軍普天間飛行場に垂直離着陸機MV22オスプレイが配備されて10月1日で5年となるのを前に、沖縄の地元紙、琉球新報が9月23、24日、18歳以上の県民を対象に世論調査を行いました。主な結果は以下の通りです。

 ・オスプレイの沖縄配備についてどう考えますか
 ①配備をやめるべきだ 68・7%
 ②配備は必要だ 11・3%
 ③どちらでもない 18・8%

・オスプレイについて、日米両政府は「機体は安全だ」としています。オスプレイについてどう思いますか。
 ①安全だと思う 4・4%
 ②危険だと思う 72・7%
 ③どちらでもない 21・4%

・政府は米軍普天間飛行場の代替施設として、名護市辺野古の海を埋め立てて米軍基地を造ろうとしています。あなたはどう思いますか。
 ①計画に沿って辺野古に新基地を建設すべきだ 14%
 ②移設せずに普天間飛行場を撤去すべきだ 24・3%
 ③普天間飛行場を県外に移設すべきだ 21・1%
 ④普天間飛行場を国外に移設すべきだ 34・8% 

 琉球新報はこの結果を9月28日付の紙面で1面トップで報じ、ネットの自社サイトにもアップしています。

ryukyushimpo.jp 

 わたしが注目するのは、オスプレイ配備に対する民意もさることながら、米軍普天間飛行場の移設問題についての回答状況です。日本政府が強行する辺野古移設を容認するのはわずか14%なのに対して、移設なしの撤去、県外・国外への移設を求める回答は、合わせて80・2%にも上ります。普天間飛行場への辺野古移設に対する県民の民意は明らかと言うべきでしょう。この傾向は突然のことではなく、一例を挙げれば、昨年5、6月の琉球新報と沖縄テレビ放送(OTV)の合同調査でも、83・8%が辺野古移設に反対でした。世論調査のたびに、反対が賛成を大幅に上回る結果が出ています。

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 「辺野古移設反対」の民意は、2014年の前回衆院選でも、県内四つの小選挙区はすべて非自民の候補が勝利するという形でも示されました。しかし、日本政府はその民意を汲もうとはせず、ただひたすらに辺野古で新基地建設を進めようとしています。もう何度もこのブログで書いてきたことですが、国家事業に対する地元の民意は明らかなのに、それが一顧だにされないとは、その地域の未来への自己決定権が認められていないに等しく、日本国内で同じような地域がなく、沖縄だけがそういう状況を強いられているのは、沖縄に対する差別としか言いようがありません。そして、そうした日本政府の方針が相も変わらずに続くことは、そうした日本政府を成り立たしめている日本国の主権者である国民の選択の問題でもあります。政府を支持する、支持しないにかかわらず、あるいは意識するとしないとにかかわらず、主権者の一人である以上は、この差別の問題の当事者であることを免れ得ません。
 10月10日公示、10月22日投開票の衆院選でも、普天間飛行場の辺野古移設をはじめとして、沖縄の基地集中の問題は沖縄では大きな争点でしょう。そして上述のような、事の本質に鑑みれば、沖縄県外、日本本土でこそ沖縄の基地集中の問題が選挙戦の焦点になっていいのですが、そうはなっていません。

 衆院選に向けての本土マスメディアの関心は、小池百合子・東京都知事が代表となって立ち上げた「希望の党」の動向や、「希望の党」へ行く候補予定者、行かない候補予定者に分かれた民進党の帰趨に向けられてきました。しかし10月2日に民進党の枝野幸男代表代行が、「非希望」の受け皿になる「立憲民主党」の結党を発表し、これで「自民・公明」「希望・維新」「共産・社民・立憲民主・『非自民・非希望』の無所属候補」の3極構造が固まりました。「自民・公明」と「希望・維新」の安全保障政策や沖縄の基地集中に対する主張に違いは見出しがたい中で、第3極は「辺野古移設強行にに反対」で主張をそろえることができるのではないかと思います。民進党の分裂とともに、沖縄の基地集中の問題が、沖縄県外でも有権者の選択肢がクリアになり、争点化することを期待します。

  マスメディアは普天間飛行場移設問題を始めとして、沖縄の基地集中に対する各党の考え方をチェックし、争点として掘り起こして報じて、有権者に判断材料を提供していくべきだろうと思います。

 

【追記】2017年10月3日19時20分

 タイトルの一部、「衆院選・3極構造で日本本土でも争点化を」を「衆院選・3極の論戦で争点化を」に差し替えました。

安倍晋三内閣「不支持」が「支持」上回る、小池百合子代表「希望の党」勢い限定~世論調査結果から

 10月10日公示、22日投開票の衆院選を巡って、民進党の枝野幸男・代表代行が10月2日、小池百合子・東京都知事が代表の「希望の党」には行かない民進党の候補予定者の受け皿になる新党「立憲民主党」の結成を発表しました。共産党、社民党との連携を図るとみられ、これにより選挙戦は「自民・公明」「希望・維新」「共産・社民プラス立憲民主ら『非希望』の民進」の3極構造がいよいよ鮮明になりました。

 衆院解散を控えていた9月23、24日の週末以降、マスメディア各社の世論調査が相次いで実施されていますが、「自民VS希望」の政権選択型の衆院選との当初の想定は、修正が必要になると思われます。ただ、現在までに報じられた調査結果を見ても、安倍晋三内閣の支持率は下落し、不支持率と逆転する傾向にあり、安倍首相による今回の衆院解散に世論は厳しい目を向けていることがうかがわれます。一方で、「希望の党」と小池百合子氏には一定の期待が掛かってはいるものの、自民党を凌駕するほどの勢いは見られないようです。共同通信が9月30日~10月1日実施の調査で、次期首相として安倍晋三氏と小池百合子氏のどちらがふさわしいかを尋ねたところ、安倍氏45・9%、小池氏33・0%でした。

 今後の調査は、選挙の3極構造が明確になった中で行われ、これまでの調査から状況が変わります。これまでの調査結果は、そのことを踏まえた限りですが、参考になるデータだろうと思います。

 各調査の結果のうち、内閣支持率と、衆院選での比例代表の投票先を聞いた結果や、ほかに特徴的と思われる主な項目を書きとめておきます。

【内閣支持率】
・共同通信 9月23~24日  ※第1回トレンド調査
 「支持」45・0% 「不支持」41・3%
・朝日新聞 9月26~27日
 「支持」36%=前回(9月9~10日)比2ポイント(P)減 「不支持」39%=同1P増
・毎日新聞 9月26~27日
 「支持」36%=前回(9月2~3日)比3P減 「不支持」42%=同6P増 「関心がない」19%=同3P増
・読売新聞 9月28~29日
 「支持」43%=前回(9月8~10日)比7P減 「不支持」46%=同7P増
・共同通信 9月30日~10月1日 ※第2回トレンド調査
 「支持」40・6%=前回比4・4P減 「不支持」46・2%=同4・9P増
・ANN(テレビ朝日系列) 9月30日~10月1日
 「支持」36・9%=前回(9月16~17日)比4・4P減 「不支持」46・3%=同6・7P増

 

【衆院選・比例代表の投票先】単位は%
・共同通信・第1回トレンド調査
  自民党27・0 民進党8・0 公明党4・6 共産党3・5 日本維新の会2・2 社民党0・3 自由党0・1 日本のこころ0・1 小池氏の側近らが結成する新党6・2 「決めていない」42・2
・朝日新聞
  自民党32 民進党8 公明党6 共産党5 日本維新の会3 自由党1 社民党2 日本のこころ0 希望13 「答えない・分からない」29
・毎日新聞
  自民党29 民進党8 公明党5 共産党5 日本維新の会3 希望の党18 自由党1 社民党0 日本のこころ0 その他16
・読売新聞
  自民党34 公明党6 共産党5 日本維新の会2 希望の党19 自由党1 社民党1 日本のこころ0 「決めていない」25
・共同通信・第2回トレンド調査
  自民党24・1 公明党4・9、共産党4・9、日本維新の会2・4、自由党0・3、社民党0・1、日本のこころ0・4 希望の党14・8 「決めていない」42・8
・ANN
  自民党29 公明党6 共産党6 日本維新の会2 希望の党14 社民党1 自由党1 「わからない・答えない」39

 

【その他】
▼朝日新聞調査
・「この時期の解散・総選挙に」
  賛成21% 反対57%
・「首相がいつでも解散できる今のあり方について」
  今のままでよい31% 制限した方がよい54%
・「安倍首相は憲法9条に自衛隊を明記することを提案。このような改正の必要は」
  必要がある39% 必要はない45%

▼毎日新聞調査
・「首相の解散判断について」
  評価する26% 評価しない64%
・「衆院選で与野党どちらの議席が増えた方がよいか」
  与党34% 野党49%
・「衆院選後、国会で憲法改正の議論を進めるべきだと考えるか」
  進めるべきだ50% 進んる必要はない35%

▼読売新聞調査
・「今の時期に衆院を解散したことを」
  評価する22% 評価しない65%
・「安倍首相は、憲法第9条について、戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに、自衛隊の存在を明記する条文を追加したい考えです。この考えに賛成ですか、反対ですか」※原文のまま
  賛成47% 反対41%
・「東京都の小池知事が希望の党の代表に就任したことについて、あなたの考えに近いものを一つ」
  「今のまま、希望の党の代表と都知事の兼務を続けるべきだ」21%
  「都知事を辞職して、衆院選に立候補すべきだ」12%
  「都知事の仕事に専念すべきだ」62%

▼共同通信第2回トレンド調査
・「次期首相として安倍晋三首相(自民党総裁)と小池氏のどちらがふさわしいか」
  安倍氏45・9% 小池氏33・0% 分からない・無回答21・1%
・「望ましい選挙結果について」
  「与党が野党を上回る」27・4%=前回より5・0ポイント減 「与野党が逆転する」16・9%=前回より倍増 「与野党勢力が伯仲する」48・6%=ほぼ横ばい
・「前原誠司民進党代表による希望の党への合流決定について」
  評価しない62・3% 評価する28・1%
・「安倍首相の下での憲法改正に」
  賛成34・0% 反対53・4%
 ※共同通信の「トレンド調査」とは、出稿記事によると「選挙戦の一定期間に、有権者の選挙への関心度や政党支持がどう変わるのかなど、衆院選に対する意識の変化を探るのが目的。基本質問は同じ内容で、連続3回の全国電話世論調査を実施して分析する。各回で調査の対象者は異なる」ということのようです。毎月の定例の電話世論調査とは区別されています。

▼ANN調査
・「北朝鮮のミサイル、核兵器問題について、いずれ話し合いによって平和は保たれる可能性と、折り合いが付かずに東アジアでの戦争に行きつく可能性と、どちらの可能性が高いと考えるか」
  平和は保たれる49% 戦争に行きつく31%

※追記 2017年10月3日6時45分

 ANN調査の北朝鮮ミサイル、核兵器問題を巡る質問に対して、「戦争に行き着く」との回答が31%、つまり3分の1近くに上ったことは驚きです。ただ、「戦争」という言葉にどんなイメージを持っているのか、リアリティをどこまで伴っての回答なのか、疑問も浮かびます。