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飛行停止、日本政府は明確に要求したのか~オスプレイ墜落から1週間余、ようやく米軍が決定  ※追記 “あいまい要請”官房長官も

 一つ前の記事の続きです。米軍は12月6日、輸送機V22オスプレイ全機の飛行を停止することを発表しました。日本では翌7日午前中に報じられました。鹿児島県・屋久島沖に11月29日、東京・横田基地所属の米空軍CV22が墜落してから1週間以上も経っての決定です。乗っていた8人は全員の死亡が認定されました。全面飛行停止は、墜落機の予備的な調査で「機材の不具合」が原因だった可能性が示されたことが理由だと報じられています。人為的なミスではなく、機体の構造上の原因だったことが強く示唆されています。
 墜落後も、米海兵隊が運用する沖縄・普天間飛行場所属のMV22などは、形式が異なることを理由に飛行を続け、墜落機の捜索にも参加していました。オスプレイは開発段階から墜落を繰り返し、犠牲者は50人以上に上っていたとも報じられています。それでも今回の墜落後、ただちに全面飛行停止になっていませんでした。オスプレイが米軍の軍事行動に不可欠の位置を占めているとはいえ、「安全」の考え方は市民的な感覚とかけ離れています。この墜落事故が如実に示しているのは、軍事優先の軍事的合理性の発想の中で、人命はいかに軽く扱われているか、ということです。

 この「オスプレイ全機の飛行停止」のニュースに接して、気になる点が一つあります。墜落したのは横田基地所属の機体、墜落地点は屋久島沖、飛行の目的地は沖縄の米軍嘉手納基地でした。捜索には沖縄の海兵隊のオスプレイも加わりました。日本には強い当事者性があります。日本政府は、日本社会に暮らす人たちの生命や財産を守るために、どんな対応を取ったのか、です。
 日本政府は事故翌日の11月30日午前、米国にオスプレイの飛行停止を要請したと主張していると報じられています。この点について、沖縄の地元紙の琉球新報、沖縄タイムスはともに12月8日付の社説で、「日本政府は飛行停止を明確に要求しなかった」と、重要な指摘をしています。

※琉球新報「オスプレイ飛行停止 欠陥機の全面撤退求める」
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2556771.html

 全面飛行停止に関しては日本政府の説明も必要だ。
 8人死亡という大惨事にもかかわらず、日本政府はオスプレイ飛行停止を明確に要求しなかった。「安全が確認されてから飛行するよう」求めるというあいまいな態度に終始してきた。米国防総省のシン副報道官は「私が知る限り、正式な(飛行停止)要請を受けていない」と語っているのだ。日本政府の意向は事実上無視されたのである。
 日本政府は飛行停止に関して米側からどのような説明を受けたのか。米側の判断について日本側から何らかの働き掛けをしたのか。それとも米側の自主的な判断なのか。これらの点について日本政府の説明を求めたい。
 歴代の首相や閣僚は事あるごとに「強固な日米同盟」を誇ってきた。重大事故に関して何ら要求ができないのでは対等な同盟関係とは言えない。米国に付き従うだけの主従関係でしかないのだ。
 オスプレイ墜落事故は「日本は主権国家なのか」という根源的な問題をあぶり出した。期限なきオスプレイ飛行停止と撤退を明確に米側に迫ることが主権国家の最低限の責務であるはずだ。

※沖縄タイムス「オスプレイ全機停止 危険除去へ早期撤去を」

 米軍機の運用に伴う事故に対しては、当事者である米軍だけでなく、日本政府にも責任がある。
 事故で明らかになったのは、どこに目が向いているのか分からないような、政府の頼りなさだ。
 政府は当初、米軍から情報を得て「不時着水」と表現。その後、米軍が「墜落」としたため表現をあらためた。
木原稔防衛相は米軍に対し「安全が確認されてから飛行を行うよう」要請し、「飛行停止」という言葉を使わなかった。
 米国では国防総省のシン副報道官が「公式な要請は受けていない」と発言し、食い違いが表面化した。
 あいまいな要請が混乱につながったのである。
 名護市安部の海岸にオスプレイが墜落した事故の際は、当時の岸田文雄外相も稲田朋美防衛相も「安全が確認されるまでの飛行停止」を米軍に要請している。
 それなのになぜ、今回「飛行停止」という言葉を使わなかったのか。
 この1週間、普天間飛行場で住民の不安を顧みず離着陸が続いたのは、「過剰忖度(そんたく)」が招いた結果でもある。

 11月29日の墜落直後の報道を見返してみると、墜落当日、日本政府は情報収集に努めるとの姿勢が目立ちました。翌30日午前に、木原稔防衛相が参院外交防衛委員会で、米軍に要請を行ったことを明らかにしました。朝日新聞は以下のように報じています。

 鹿児島県・屋久島沖での米軍輸送機CV22オスプレイの墜落事故を受け、防衛省は30日午前、米軍側に対し、安全が確認できるまでの間は飛行を中止するよう要請した。陸上自衛隊が保有するオスプレイの飛行も当面、停止する。木原稔防衛相らが同日の参院外交防衛委員会で明らかにした。
 木原氏は「米国側に対し、国内に配備されたオスプレイについて、捜索・救助活動を除き、安全が確認されてから飛行を行うよう要請するとともに、事故の状況について早期の情報提供を求めている」と述べた。

 ※朝日新聞デジタル「防衛省、米軍側にオスプレイ飛行中止要請 『不時着水』→『墜落』に」
 https://digital.asahi.com/articles/ASRCZ3R26RCZUTFK001.html

 米軍に求めたのは「安全が確認されてから飛行を行う」ということであり、しかも「捜索・救助活動を除き」と言っています。米軍が「日本はオスプレイの飛行停止を求めてはいない」と受け取る余地があるように感じます。米国防総省の副報道官が「私が知る限り、正式な(飛行停止)要請を受けていない」と公言する出来事がありましたが、琉球新報の社説が指摘するように、あいまいな物言いであったために、日本政府は飛行停止を求めたつもりでも、米軍には無視されてしまった、ということではないかと感じます。
 その後も日本政府は、オスプレイの飛行停止を米軍に求めた、と主張し続けています。が、ではどういう文言だったのか、報道では分かりません。日本政府や防衛省の動向を恒常的に取材し報道している東京所在の「大手」と位置付けられるマスメディアが、その点を突き詰めて報じた形跡は、わたしが承知している限り見当たりません。要請のあいまいさを指摘し、腰が引けた日本政府のスタンスを「主権」の問題と捉える沖縄の新聞2紙と、「飛行停止を要請した」との政府の主張をそのまま報じる本土のマスメディアには、顕著な差異があります。その差異はどこから来ているのかと言えば、生命と生活に対する脅威としてオスプレイの危険性に直面せざるを得ない日々を強いられてきた沖縄と、そうではない場所との差異と言えるのではないかと思います。
 このブログの前回の記事で書いたように、今回の墜落が明らかにしたのは、沖縄の人々が直面している危険は、実は東京でも、全国でも変わりがない、ということです。墜落した機体は東京の在日米軍基地が拠点です。オスプレイの危険性は、沖縄や陸上自衛隊のオスプレイが配備される地域だけが関係地ではありません。東京をはじめ全国が危険にさらされています。在京の大手メディアも、日本政府が米軍に要請したという「飛行停止」について、要請の内容や経緯を検証するべきだと思います。

 オスプレイ全機の飛行停止のニュースを、東京発行の新聞各紙は12月8日付の朝刊で報じています。毎日新聞と読売新聞は1面トップ、朝日新聞と東京新聞も1面の準トップです。目を引くのは、関連記事の中に沖縄県知事や陸上自衛隊のオスプレイの配備が県内に予定されている佐賀県知事らのコメントはあっても、東京都の小池百合子知事のコメントが見当たらないことです。前回の記事でも触れましたが、東京都知事は東京都の住民の安全に責任を持つ立場です。墜落当日も、小池知事のコメントは報じられていません。
 日経新聞は2面に掲載。1面のINDEXにも入っています。産経新聞は2面に本記のみ。日本政府の動向も含めて日本国内に関する記述はありません。
 以下は在京各紙の主な記事の見出しです。

【12月8日付朝刊】
▼朝日新聞
1面準トップ「米軍、オスプレイ全機停止/墜落『機材不具合の可能性』」
2面・時時刻刻「『原因不明』異例の全機停止/米軍オスプレイ 機材不具合か/特異な設計 相次ぐ事故」「防衛相、米軍HPで確認/自衛隊機 今後の運用懸念」「沖縄やっと『遅すぎる』要請・抗議重ね/鹿児島・佐賀『当然』『情報提供を』」

▼毎日新聞
1面トップ「米、全オスプレイ飛行停止/墜落、機体不具合か」
3面「米軍『安全懸念なし』一転/墜落原因の調査難航も」「沖縄・佐賀『遅い』『当然だ』」「陸上幕僚長『詳細確認中』」「世界の安保に影響/国際大・山口昇教授」

▼読売新聞
1面トップ「オスプレイ 世界で停止/米軍 墜落 機体不具合か」「安全確保 最優先/官房長官強調」
7面(国際)「オスプレイ『調査に透明性』 米NSC部長」
社会面「『事故原因 究明を』/全停止、配備先に不安」「不明者捜索続く」

▼日経新聞
2面「オスプレイ、全停止に転換/日本での事故 機材不具合の可能性/米軍、原因究明急ぐ」 ※1面INDEXにも掲載

▼産経新聞
2面「米、全オスプレイ飛行停止/墜落事故受け 機材不具合 原因か」

▼東京新聞
1面準トップ「オスプレイ 全世界で停止/米軍、安全性確保が焦点」/用語「オスプレイ」
第2社会面「『墜落 杞憂でなかった』/横田基地訴訟 原告訴え」

※追記 12月11日8時45分

 オスプレイ墜落後、日本政府が米軍にどんな要請を行ったのか、さらに報道を見返してみました。
 12月1日には、米国防総省高官が日本政府による飛行停止要請を把握していないと述べたことが報じられました。これに対し、松野博一官房長官は1日の記者会見で、「捜索救助活動を除き、安全が確認されてから飛行を行うよう正式に要請してきている」と説明したと報じられています。

※47news=共同通信「オスプレイ飛行停止『正式要請』 松野氏、米に働きかけ継続」2023年12月 

www.47news.jp

 松野博一官房長官は1日の記者会見で、米国防総省高官が米空軍輸送機CV22オスプレイの墜落事故を受けた日本政府による飛行停止要請を把握していないと述べたことに関し「捜索救助活動を除き、安全が確認されてから飛行を行うよう正式に要請してきている」と説明した。外務、防衛両省を通じて働きかけを続ける考えを示した。
 米側に対し「日本政府の累次の要請にもかかわらず、飛行安全の確認について十分な説明がない中、飛行が行われていることに懸念を有している」と強調。墜落事故については「地域の皆さんに大きな不安を与えるものであり、誠に遺憾だ」とした。

 「捜索救助活動を除き、安全が確認されてから飛行を行うよう正式に要請」と、木原稔防衛相が前日の参院外交防衛委員会で述べた内容と同じです。この通りの文言を米軍に伝えたのでしょう。やはり、飛行を停止するよう明確に求めた、と主張するには無理があります。むしろ、明確に伝えたのは、捜索救助活動での飛行は容認する、という点です。飛行停止を求めてはいない、との米軍の理解の方が自然です。
 防衛相と官房長官が、国会答弁や記者会見で述べたこの文言ではなく、誤解の余地なく明確に飛行停止を求めていたというなら、それはいつ、日本政府のだれが米軍のだれに対して、どんな文言だったのかを政府は明らかにするべきでしょう。
 マスメディアの側も、8人も犠牲者が出ている事態の重大性、オスプレイが日本全国を飛行している当事者性に鑑みれば、自国政府に対して、そうしたディテールにもっとこだわる必要があると思います。それも権力の監視です。