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危険は沖縄も東京も変わらない~オスプレイ墜落、焦点は配備撤回と日本の主権

 開発段階からトラブル続きで安全性に疑念がある軍用機が、運用段階に入っても各地で墜落事故を起こし、とうとう日本国内でも墜落して死者が出た。日本中いつ、どこで市街地に墜落するか分からない。そんな事態ではないのか―。
 11月29日午後、鹿児島県・屋久島近くの海上に、米空軍の輸送機CV22オスプレイが墜落しました。機体は東京都多摩地区の福生市、昭島市、立川市など5市1町にまたがる横田基地の所属。8人が乗っており、12月1日現在、うち1人の遺体が収容されたと報じられています。
 オスプレイの日本初配備は2012年10月。米海兵隊のMV22が、沖縄県・普天間飛行場に地元の反対を押し切って配備されました。横田基地への配備は2018年10月。普天間飛行場の所属機の1機が16年12月、空中給油の失敗から名護市の沿岸に墜落(本土メディアは「不時着水」と報じています)。このときは、死者はいませんでしたが、17年8月に別の1機がオーストラリアで墜落し、3人が死亡しています。今回の事故は、日本国内のオスプレイ事故で死者が出た初めてのケースになります。オスプレイは日本政府も購入して陸上自衛隊に配備しており、現在は一時的に千葉県・木更津基地で運用されています。運用の拠点となる新施設が佐賀市の佐賀空港に隣接して建設中です。
 オスプレイは垂直離着陸が可能な点に特徴があり、機体構造、特にエンジン部分が複雑になっています。CV、MVなど形式の違いがあっても基本構造に変わりはありません。開発段階から乗員が死亡する重大事故が続いています。今回の墜落は意外でも想定外でもなく、「いつかは日本でも重大事故を起こすのではないか」との危惧が現実のものになったと言うべきでしょう。
 事故機は横田基地から沖縄県・嘉手納基地に向かっていたと報じられています。沖縄の地方紙の琉球新報、沖縄タイムスはいち早く11月30日付朝刊に社説を掲載。それを読むと、この墜落事故の意味合いがよく分かります。焦点は墜落を繰り返すオスプレイの配備の撤回と、日本の国家主権の所在です。

※琉球新報 社説「オスプレイ屋久島沖墜落 国内全面撤去しかない」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-2526840.html

 墜落を繰り返す欠陥機オスプレイが上空を飛んでいる限り、地上に住む私たちは常に生命の危機に直面している。県民、国民の生命・財産を守るため、国内からオスプレイを全面撤去するしかない。
(中略)
 日本政府は米側に対し、普天間飛行場に所属する海兵隊仕様のMV22を含め、日本国内を飛行するオスプレイの即時飛行停止を求めるべきだ。さらに国内基地所属機の全面撤去に向け、対米交渉を進めなければならない。国民の生命を守るべき主権国家として当然の義務である。自衛隊のオスプレイについても退役を検討する必要がある。
(中略)
 欠陥機はいつ、どこで墜落するか分からない。普天間飛行場を名護市辺野古に移設しても、沖縄にオスプレイの飛行経路がある以上、危機は続くのだ。新基地建設は危険性の除去にならない。
 オスプレイは沖縄、日本の空から去らねばならない。日本の主権に関わる問題であることを政府は認識すべきだ。

※沖縄タイムス 社説「米軍オスプレイ墜落 全ての飛行を停止せよ」

 開発段階から死亡事故が相次いだ米軍機だ。今年の米報告書では構造上の欠陥も指摘されている。直ちに全てのオスプレイの飛行を停止して事故の原因究明を図るべきだ。
(中略)
 日米合同委員会は6月、オスプレイが日本国内でより低空飛行できるよう高度制限の緩和に合意。軍備強化が進む中、オスプレイの訓練区域は全国に広がっている。
今回の事故を受け、宮澤博行防衛副大臣は米側の説明として「不時着水」との認識を示した。
 しかし、墜落直前には機体が背面飛行のような状態になり、火を噴き回転しながら落ちたとの目撃証言もある。国内で起きた重大事故であり、政府は主体的に調査に関わるべきだ。

 オスプレイに対しては、「他の軍用機と比べ、事故率が異常に高いとされているわけではないが、墜落が続いているのは事実である」(産経新聞12月1日付社説)との指摘があるように、危険性は否定しようがありません。その危険な軍用機の、東京に配備されている機体が墜落事故を起こしました。沖縄はもちろんのこと、首都圏を始め全国の空をオスプレイが飛んでいる実態があります。オスプレイの初配備から10年以上にわたって沖縄の人たちが直面を余儀なくされてきた危険が、今や日本全国に広がっていることを浮き彫りにした墜落事故です。オスプレイの危険に、沖縄も東京も違いはありません。
 首都圏はじめ全国の市街地上空でも同じことが起こることを前提に対応しなければならないことは自明です。即座の飛行停止は最低限の措置。しかし日本政府は、原因究明まで飛行の停止を米国に求める、との緩慢な姿勢です。しかも、その要望すら、米国には届いていないようです。驚いたことに、12月1日に以下のようなニュースを目にしました。まるで日本は主権国家とみなされていないかのような事態です。

※47news=共同通信「米、オスプレイ運用継続 松野官房長官、飛行に『懸念』」
https://www.47news.jp/10204104.html

【ワシントン共同】米国防総省のシン副報道官は11月30日の記者会見で、空軍輸送機CV22オスプレイの鹿児島県・屋久島沖での墜落事故を巡り、日本側の飛行停止要請を把握していないと述べ、日本でオスプレイの運用を続けていると明らかにした。
 松野博一官房長官は12月1日の記者会見で「日本政府の累次の要請にもかかわらず、安全の確認について十分な説明がない中、飛行が行われていることに懸念を有している」と表明した。

 オスプレイの事故のたびに、原因究明は行われているはずです。それでも堕ちる。これまで原因究明が徹底されていなかったのなら論外です。次は市街地に堕ちるかもしれない、というのなら、もうそんな機体は撤去しかない、というのが常識的な判断です。

 今回墜落した機体が東京の横田基地所属だったことは、東京がこの重大事故の関係地であることを意味します。いったいどうしたことか、と思うのは、墜落当日、小池百合子東京都知事の見解表明がなかったことです。
 都道府県知事には住民の安全を守る責任があります。現に、墜落した機体が向かっていた沖縄県の玉城デニー知事は当日の午後、記者団に対して、事故原因が究明されるまで米軍のオスプレイの飛行停止を求める方針を明らかにしたと琉球新報は報じています。朝日新聞によると、玉城知事は「直ちに配備を中止し、本国もしくは民間や事業に影響ない場所での運用を心がけるべきだ」と話しました。
 報道では屋久島の住民の不安の声が目立ちますが、仮に東京の上空で同じような事故が起きていたらどんな惨状になるか。ニュースとしては、首都東京は最大の関係地の一つです。都知事は当事者の一人であり、すみやかに見解を公表し、日本政府や米軍に対してオスプレイの飛行の全面停止を求めるぐらいのことをやって当然です。しかし、都知事コメントの正式コメントの発表はなく、記者団の囲み取材に応じた、との報道もありません。
 マスメディアの側も、新聞やNHKは複数の記者が東京都庁を担当しています。知事コメントが出ないなら、自らコメントを取りに行く、それでも知事が応じないのなら、そのことを報じてもいいと思うのですが、そうした報道も見当たりません。

 墜落を報じる11月30日付の東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の紙面にも、少なからず驚きました。東京がこの墜落事故の関係地であること、東京や周辺住民が危険にさらされている当事者であることへの意識が希薄であると受け取らざるを得ない紙面でした。

 日経以外の5紙は、1面トップの扱いでそろいました。社会面トップの展開ながら、1面のINDEXに写真付きで入れた日経も含めて、確かに大きく扱ってはいます。しかし、東京を拠点にするオスプレイであることは、1面の見出しからは分からず、東京新聞がかろうじて3本目の見出しに「横田所属 嘉手納へ飛行予定」と「横田」を入れているだけです。社会面では東京新聞が横田の周辺住民の反応を大きく伝えていますが、他紙ではわずかに毎日新聞が総合面で横田基地への配備に反対する市民団体に取材している程度です。
 現場に近い屋久島の様子や、米海兵隊のオスプレイが配備されている沖縄県知事のコメント、日本政府が購入し陸自に配備されているオスプレイの関係地である佐賀や千葉県木更津の表情は、いくらか報じられています。しかし核心は、墜落を繰り返しているオスプレイが日本で墜ちたこと、それが横田基地の機体であり、同型機が横田で離発着を繰り返す限り東京上空で同じ事が起きかねないこと、オスプレイが日本全国を飛ぶ限り日本全国どこでも起きかねないという点です。原因が不明の段階でも、この2点が核心であることに変わりはありません。特に東京での墜落の可能性を否定できないことは、東京発行の新聞、中でも東京の社会部にとっては地元の大ニュースです。

 日経を除く在京5紙は、1日おいた12月1日付でそろって社説で取り上げました。以下は見出しです。
・朝日新聞「オスプレイ墜落 飛行停止し原因究明を」
・毎日新聞「米軍オスプレイの墜落 飛行停止し機体総点検を」
・読売新聞「オスプレイ墜落 原因究明と情報公開が重要だ」
・産経新聞「米オスプレイ墜落 原因究明し抑止力を保て」
・東京新聞「オスプレイ墜落 国内配備自体を見直せ」

 朝日、毎日、読売、産経は大同小異で主眼は原因究明とそれまでの飛行停止です。東京新聞だけは、配備の見直しに踏み込みました。しかし、琉球新報が前日の社説で「全面撤去」を主張したのに比べると、東京新聞も含めて在京紙のトーンの“穏やかさ”が際立ちます。
 琉球新報、沖縄タイムスは12月1日付でともに2日連続で関連の社説を掲載しました。いずれも、日本政府の主体性の欠如を厳しいトーンで批判しています。
・琉球新報「オスプレイ飛行継続 主権国家の体をなさず」
・沖縄タイムス「CV22事故 政府の対応 毅然と主権を行使せよ」

 ※以下に、在京5紙と沖縄2紙の社説の見出しを一覧にしました

 繰り返しになりますが、墜落が続き、原因究明がされているはずなのに、それでも堕ちる。原因究明や再発防止の対策が徹底されていなかったのなら論外です。次は市街地に堕ちるかもしれない、というのなら、もうそんな機体は撤去しかない、というのが常識的な判断です。しかし、米軍は翌日もオスプレイを飛ばし続け、日本政府は抗議もしない。東京都知事は自らの言葉で見解を表明することすらありません。軍事と市民社会は常識が異なるのかもしれませんが、軍事のそれを「常識」と受け入れてしまっては、日本もいよいよ軍事国家になってしまいます。そのことを危惧します。

 以下に、11月30日付の東京発行各紙朝刊の主な記事と見出しを書きとめておきます。
【朝日新聞】
・1面トップ「米軍オスプレイ墜落/屋久島沖 1人死亡 5人不明/オスプレイ 死亡事故 国内初」/「飛行停止含めた米への要求検討/首相が指示」
・社会面トップ「火噴き落下 爆発音/米オスプレイ 住民『ゾッとする』」/「『エンジン火災の可能性も』」/「『直ちに配備中止を』沖縄知事」

【毎日新聞】
・1面トップ「米軍オスプレイ墜落/6人搭乗、1人死亡 屋久島沖」
・2面・焦点「オスプレイ 不安が現実に/配備に再び疑問符」「南西諸島防衛 影響も」/「丁寧な説明必要」佐道明広・中京大教授(安全保障論)
・社会面トップ「エンジンから火 真っ逆さま/屋久島住民『街中だったら…』」/「開発段階から事故相次ぐ」

【読売新聞】
・1面トップ「米軍オスプレイ墜落か/屋久島沖 1人死亡5人不明」/「米に飛行停止要請 首相指示」
・3面・スキャナー「佐賀配備 準備さなか/陸自と同一構造 地元に不安/政府、安保へ影響懸念」「日米、原因究明急ぐ」
・社会面準トップ「『機体から炎と煙』/屋久島住民に衝撃」

【日経新聞】
・社会面トップ「米軍オスプレイ『墜落』/屋久島沖に残骸多数/男性1人発見 国内初の死亡事故 6人搭乗」/「国内外、過去にトラブル」/「煙、轟音…島民『怖い』」/「『人命救助に全力尽くす』首相」/「沖縄県知事『飛行停止を』」

【産経新聞】
・1面トップ「米軍オスプレイ墜落/屋久島沖 発見の1人死亡 6人搭乗/左エンジンから出火情報」
・社会面準トップ「響く轟音 沖合から煙/夜中まで捜索、上空に航空機」/「過去には不時着や緊急着陸」

【東京新聞】
・1面トップ「米軍オスプレイ墜落/6人搭乗 屋久島沖、1人死亡/横田所属 嘉手納へ飛行予定」
・2面・核心「南西防衛への影響必至/陸自機 全面飛行停止の可能性」
・社会面トップ「墜落の不安 現実に/横田・木更津 周辺住民『飛行禁止を』」/「『バーン』響く爆音 火噴く機体/屋久島住民『怖い』」