ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

大震災「東北でよかった」発言と沖縄の基地集中は通底していないか

 少し時間がたってしまいましたが、備忘も兼ねて書きとめておきます。
 復興相だった今村雅弘衆院議員が4月25日、所属する自民党二階派の会合で、東日本大震災の被害に触れる中で「25兆円という数字もある。これがまだ東北で、あっちの方だったから良かったけど、これがもっと首都圏に近かったりすると莫大な、甚大な被害があったと思っている」と発言しました。東日本大震災では関連死を合わせて2万1千人以上が犠牲になり、東京電力福島第1原発事故もあって、大震災から6年を迎えてもなお避難者は、全都道府県で約12万3千人に上るとされます。復興相でありながら、そういう地を「あっち」と呼び、「だからよかった」と言い放つのは、「うっかり」のレベルの失言ではないでしょう。東北地方を見下した意識がなければ、口をついて出てこないはずの物言いです。
 報道によると、安倍晋三首相は今村氏の発言を知るとただちに菅義偉官房長官と対応を協議し、今村氏の更迭を即座に決めたと伝えられています。今村氏は今回の発言の前にも、福島第1原発事故で自主避難した人たちについて「本人の問題」、つまりは自己責任であると言い放って批判を浴びましたが、首相は任にとどめていました。今回は2度目の問題発言であり、放置した場合は批判が首相に向かうところだったでしょう。発言の内容よりも2度目という点が、安倍首相のすばやい決断の最大の要因だったように感じます。
 今村氏が所属する派閥のボスの二階俊博・自民党幹事長に至っては、26日に講演した際に「政治家が出てきて何かを話したら、マスコミは余すところなく記録を取り、一行でも悪いところがあれば首を取れと。なんということか。そんな人は、はじめから排除して(会場に)入れないようにしないといけない」と話したと報じられています。今村氏の発言自体についても「人の頭をたたいて血を出したという話ではない」としていますが、その程度の認識しかないのかと驚きました。一応は「マスコミに罪をなすりつけるような、ひきょうなまねはしてはいけない。間違ったことを言う人の資質の問題だ」とも話してはいますが、今村氏の発言の内容の深刻さに比して、その受け止め方としては、メディア批判を口にしてみたりと、ある種の軽薄さを感じます。これが「安倍一強、自民一強」と言われている中での、その自民党の実状です。
 今回の今村氏の発言を見ながら思うのは、差別意識に根差す「―でよかった」との発想は、東北に対してだけではないということです。安倍政権でもっとも強く表れているのは沖縄に対してではないかと感じます。「米軍基地は沖縄でよい」「あっちの方でよい」ということです。今村氏が「東北で、あっちの方だったから良かった」と言い、その発言を安倍首相が謝罪した同じ日、この政権は米軍普天間飛行場の移転先と定める名護市辺野古で、埋め立て作業着手を強行しました。政権に、沖縄県の翁長雄志知事と話し合おうという姿勢は、もはやみられません。
 現地の抗議行動に対しては、本土の機動隊が投入され、リーダーの山城博治・沖縄平和運動センター議長は、その逮捕容疑や起訴事実の内容に比べれば異常ともいえる長期間、拘束されました。そして、この沖縄を下に見下すような安倍政権に対して、沖縄県外、つまりは日本本土の世論が沸騰し、異を唱えることはありません。従って、安倍政権が政策を見直したり、沖縄に謝罪することもないでしょう。
 東京発行の4月26日付け新聞各紙の朝刊は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙は「今村氏辞任へ」「今村氏更迭」を1面トップで大きく扱いました。日経も今村氏の発言問題を1面に入れています。一方の辺野古の埋め立て作業着手強行は、前日の25日付夕刊で1面トップの扱いだったこともあり、朝刊では相対的に扱いは小さくなっていますが、朝日、毎日、読売、東京は1面に続報を掲載しています。二つのニュースが26日付け朝刊の紙面に同時に載ったことは、たまたまなのかもしれません。しかし私は、二つのニュースが同根であることを象徴し、視覚的にも訴える紙面として、記憶にとどめておこうと思います。


 以下は、東京発行6紙の4月26日付け朝刊の記録です。今村氏発言と辺野古埋め立て作業着手のそれぞれ本記(事実関係を主に伝える中心記事)の扱いや見出し、社説などを書きとめておきます。
▼朝日新聞
1面トップ「今村復興相、辞任へ」「震災『東北でよかった』と発言」「後任に吉野氏」
1面「辺野古差し止め提訴へ」「沖縄県、埋め立てに対抗」※2面・時時刻刻「辺野古強行 迷走の末」、社会面「苦悩 なぜ沖縄ばかり」
社説「辺野古埋め立て強行 『対話なき強権』の果てに」/原点は基地負担軽減/強まる『軍事の島』/本土の側も問われる

▼毎日新聞
1面トップ「今村復興相 辞任へ」「『震災、東北で良かった』」「再び失言 政権に打撃」「後任に吉野正芳氏」
1面準トップ「辺野古 原状回復困難に」「政府、埋め立て開始」※2面「政府強硬 一線越える」、社会面「『もう基地いらない』」
社説「今村復興相、暴言で辞任へ 内閣の緩みはすさまじい」/「辺野古の埋め立て始まる 『対立の海』にしたいのか」

▼読売新聞
1面トップ「今村復興相 更迭」「震災『東北でよかった』」「また失言 福島選出の吉野氏後任」
1面「辺野古 再び法廷闘争も」「護岸着工 翁長知事『全力で戦う』」※第3社会面「住民対立『もうやめに』」
社説「辺野古護岸工事 『普天間』返還へ重要な一歩だ」

▼日経新聞
1面「今村復興相を更迭」「『東北でよかった』震災巡り発言」
4面「辺野古、再び法廷闘争へ」「埋め立て着工 沖縄県が提訴検討」

▼産経新聞
1面トップ「今村復興相 更迭」「震災『東北でよかった』」「後任に吉野氏」/「早期決着も問われる任命責任」
3面「辺野古 護岸工事始まる」「菅氏『普天間返還へ一歩』」「政府、周到な構え 知事選前には土砂投入」

▼東京新聞
1面トップ「今村復興相 更迭」「大震災『東北で良かった』」「派閥パーティーで発言」/「被災者を再び踏みにじる」「死者1万5893人 不明者2553人」
1面準トップ「辺野古差し止め提訴へ」「翁長氏 埋め立て開始に対抗」※2面「辺野古 既成事実化図る」、第2社会面「『強行』許せない」


 以下は前日の4月25日付けの夕刊です。自宅で購読している朝日、毎日、読売です。


 琉球新報の4月26日付け紙面です。「基地は沖縄で良い」「大震災は東北で良かった」―。沖縄県外、つまりは日本本土に住む日本人に手に取ってほしいと思う紙面です。

尋ね方で賛否変わる「共謀罪」・政府呼称「テロ等準備罪」―一般の理解は深まっていない

 安倍晋三政権が「テロ等準備罪」と呼ぶ組織犯罪処罰法改正案を巡って、朝日新聞社が4月15、16日に実施した世論調査の結果が報じられています。その内容が興味深いので、少し時間がたっていますが書きとめておきます。
 調査では「テロ等準備罪」の呼称を使わず、「『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案」の表現で賛否を尋ねたところ、賛成35%、反対33%と拮抗しました。同じ法案について2月の世論調査では「テロ等準備罪」の表記を用いて賛否を尋ねており、このときは賛成44%、反対25%と、賛成が反対を相当程度、上回っていたとのことです。
 備忘を兼ねて、「共謀罪」関連の質問文と回答を引用して書きとめておきます(単位は%)。

◆政府は、犯罪を実行しなくても、計画の段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ、組織的犯罪処罰法の改正案の成立を目指しています。この法案に賛成ですか。
 賛成35▽反対33
組織的犯罪処罰法の改正案について、安倍首相は、東京オリンピックパラリンピックに向けてテロ対策のために必要だと説明しています。こうした説明に納得できますか。
 納得できる46▽納得できない36
組織的犯罪処罰法が改正されると、犯罪を実行していない段階から警察などの捜査の対象になり、一般の人への監視が強まるという意見があります。この改正で、一般の人への監視が強まる不安を、どの程度感じますか。(択一)
 大いに感じる12▽ある程度感じる47▽あまり感じない28▽まったく感じない8

 「『共謀罪』の趣旨」の説明が付いた問いには賛否が拮抗している一方で、「東京オリンピックパラリンピックに向けてテロ対策のために必要だ」との安倍首相の説明に対しては、「納得できる」が「納得できない」を10ポイント上回っており、さらには「一般の人への監視が強まる不安」については、「大いに」と「ある程度」を合わせて59%もの人が「感じる」と答えています。これらの回答状況から、この法案を巡って、どういうところに危険性を感じて否定的評価につながっているのか、あるいは、どういうところを積極的に評価して肯定的にとらえているのか、といった意味での、筋道だった受け止め方を見出すのは困難なように感じます。ひと言で言えば、世論の受け止めのまとまりのなさです。
 同じ4月15、16日に産経新聞社とFNNが合同で実施した世論調査の結果も報じられており、それによると、この法案への賛否は賛成57・2%、反対32・9%と、賛成が過半数でした。こちらは質問の全文は分からないのですが、産経新聞の紙面の「主な質問と回答」を引用すると、以下の通りです。「共謀罪の構成要件を厳格化するなどした」との説明には、「いい方向に改善した」との響きが感じられるように思います。

【問】政府は従来の共謀罪の構成要件を厳格化するなどした「テロ等準備罪」を設ける法案を今国会に提出した。この法案について
賛成57・2 反対32・9 他9・9 

 朝日新聞産経新聞・FNNの二つの調査結果は、同じ法案に対する同じ時期の調査でありながら、異なった回答状況になっています。朝日新聞の2月調査と今回の調査結果の差異、さらには朝日新聞の今回の調査結果のまとまりのなさも併せて考えるなら、「共謀罪」の用語を使うか、政府呼称の「テロ等準備罪」を使うか、さらには前振りにどんな説明をつけるかで、回答状況は大きく変わる状況にあると考えた方が良いように思います。つまり、この法案への一般の理解は深まっていないと言うべきでしょう。個人的な見方を言えば、安倍政権がどんなふうに呼称を変えようとも、過去3度廃案になった「共謀罪」と本質的な危険は変わっていません。そのこともまた一般に十分に理解されているとは言い難いことが、世論調査の結果からは読み取れるように思えます。
 一般への理解が深まらないまま、国会で自民、公明の与党が数をたのんで採決を強行するようなことはあってはなりません。マスメディアの課題もそこにあって、この法案を是とするか否とするか、新聞はそれぞれに社論が分かれているとしても、国会での論戦や、識者らの多様な意見や見方、考え方を努めて紹介していくべきです。


 「共謀罪」のほかの調査結果も、いくつか書きとめておきます。
朝日新聞

◆戦前や戦中の時代、教育の基本方針とされた「教育勅語」について、安倍内閣は、憲法教育基本法に反しない形で、教材として使うことを認める答弁書閣議決定しました。教育勅語をめぐる安倍内閣の姿勢は妥当だと思いますか。
 妥当だ31▽妥当ではない43
◆沖縄の基地問題についてうかがいます。沖縄県にあるアメリカ軍の普天間飛行場を、沖縄県名護市辺野古に移設することに賛成ですか。
 賛成36▽反対34
アメリカ軍基地が集中する沖縄の負担軽減について、安倍内閣が沖縄の意見をどの程度聞いていると思いますか。(択一)
 十分聞いている5▽ある程度聞いている36▽あまり聞いていない40▽まったく聞いていない13
北朝鮮のミサイル発射や核開発に、脅威をどの程度感じますか。(択一)
 強く感じる56▽ある程度感じる34▽あまり感じない7▽まったく感じない2
◆アメリカのトランプ政権は、朝鮮半島近くに空母を派遣するなど、北朝鮮に軍事的な圧力をかけています。このアメリカの姿勢を支持しますか。
 支持する59▽支持しない25


産経新聞・FNN

【問】北朝鮮核兵器や弾道ミサイルの開発に脅威を感じるか
 感じる91・3 感じない8・0 他0・7
【問】自民党北朝鮮が実際に日本に向けて弾道ミサイルを発射した場合、2発目以降の弾道ミサイル発射させないように敵基地反撃能力の保有を検討するよう政府に提言した。考えに近いものは
 北朝鮮が実際に弾道ミサイルを日本に向けて発射したあとに限るべきだ45・0
 北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射していなくても、発射する具体的な構えを見せた段階で北朝鮮の基地を攻撃すべきだ30・7
 北朝鮮が実際に弾道ミサイルを発射しても、日本は北朝鮮の基地に反撃すべきではない19・2
 他5・1
【問】北朝鮮核兵器や弾道ミサイルの開発を阻止する役割を中国に期待できると思うか
 思う19・9 思わない76・8 他3・3
【問】今の憲法を改正することに賛成か
 賛成52・9 反対39・5 他7・6
【前問で「賛成」の人に質問】憲法9条を改正することに賛成か
 賛成56・3 反対38・4 他5・3

 産経新聞・FNNの調査で、憲法改正に賛成の人のうち、9条改正に賛成は56・3%、反対派38・4%だったことに対して、産経新聞の記事は「9条改正のハードルは高いようだ」との分析を示しています。

北朝鮮情勢に冷静な対応求める地方紙各紙

 核、ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮を巡って、緊張が高まっています。これまで「瀬戸際外交」と言えばもっぱら北朝鮮でしたが、今年1月に発足したトランプ米政権も、4月7日にシリアを巡航ミサイルで攻撃するなど、「次に何をするか先が読めない」ぶりが次第に顕著になってきているように感じます。安倍晋三政権は米国のシリア攻撃に対しては、化学兵器使用を許さないとの決意を支持し、行動に理解を示すと表明しました。シリアが化学兵器を使用した確たる証拠の有無、つまりは米国のシリア攻撃の正当性の有無を巡っての苦しい判断が「支持」と「理解」の使い分けに表れたのだと思いますが、それはすなわち、北朝鮮への直接的な対処を、トランプ米政権に依存せざるを得ないためなのでしょう。トランプ大統領は、北朝鮮への対応は軍事面を含めて事前に日本と相談すると安倍首相に伝えたと報じられています。
 4月15日は北朝鮮では故金日成主席の生誕記念日「太陽節」でした。ピョンヤンで大掛かりな軍事パレードがあったものの、懸念された核実験や弾道ミサイル発射の強行などは、この記事を書いている15日夜の時点では伝えられていません。この先、北朝鮮をめぐる緊張を緩和させ、戦争を未然に防ぐために日本は何を考え、どう動くべきでしょうか。あるいは何ができるでしょうか。ネットでは現在の緊張状態を巡ってさまざまな言説が飛び交っていますが、ここでは地方紙の社説を紹介します。ネット上の自社サイトで社説を公開している地方紙の中で、ここ数日のうちにアップされた関連の社説の見出しとリンク先を以下に書きとめておきます。印象に残った内容のいくつかは備忘を兼ねて、一部を引用して紹介します。
 地方紙すべてを網羅した結果ではなく、いずれも確認できた範囲内ではあるのですが、おおむね、北朝鮮とともに米国にも武力行使の回避を求め、そのために安倍政権に冷静な対応を厳に求める論調が共通していると感じています。

【4月15日】
北海道新聞米朝緊張 日本は冷静さ保たねば
 http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0112290.html

 米朝とも「予測不能」といわれる政権同士だ。仮に軍事衝突すれば、北朝鮮の攻撃は米軍基地のある韓国や日本に及び、東アジアの平和と安全は重大な危機にひんする。絶対に避けねばならない。
 そのためには軍事的圧力を強めるトランプ政権に自制を促すとともに、北朝鮮に対する制裁包囲網を強化し対話の場に引き出す外交努力を尽くす。それが日本の役割であることを肝に銘じたい。
 安倍晋三首相はおとといの国会答弁で「北朝鮮サリンを(ミサイルの)弾頭に付けて着弾させる能力を既に保有している可能性がある」と述べた上で、日米同盟の抑止力強化が重要だと強調した。
 核・ミサイル開発だけではなく非道な化学兵器も断じて認められないのは言うまでもない。
 だが、北朝鮮保有疑惑自体は以前から指摘されている。脅威を強調する材料として持ち出してみせたとの印象も否めない。
 緊張をあおるのではなく、平和的解決を目指す決意こそ首相はより強く打ち出してほしい。
 そうした言葉が全くないわけではないが、現実はトランプ大統領の強硬策を評価し、同盟強化に一層前のめりな姿が鮮明だ。

河北新報:緊迫の北朝鮮情勢/中国に本気の行動促したい
 http://www.kahoku.co.jp/editorial/20170415_01.html

 日本は米国に自制を促したい。と同時に、米国も求めるように、「朝鮮半島の非核化」実現を掲げながらも、北朝鮮に十分な圧力をかけてこなかった中国に対し、国際社会と連携して「本気」の行動を強く求めていくべきだ。
 そのことが事態を非軍事的解決に導く、最も有効な手だてとなり得る。そう考える。
 安倍政権は、韓国在留邦人の救出策を中心に朝鮮半島有事の対応を検討しているという。万一の事態に、十分に備えておくことに異論はない。
 だが一方で首相は、北朝鮮が猛毒サリンをミサイル弾頭に付け着弾させる能力を保有している可能性に言及した。
 抑止力強化の必要性を説くためだとしても、国民の不安をいたずらにあおりはしないか。米国の軍事力行使をちらつかせた強硬対応を容認する姿勢と併せ、疑問が残る。
 わが国の北朝鮮対処の基本は「対話と圧力」だ。圧力に軍事は含まないはずだ。拉致問題を含め平和的な解決に向けて、いかに外交努力を展開するか、そのことを国民に語るべきではないのか。

岩手日報:緊張の朝鮮半島 対話へ引き出す圧力を
 http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2017/m04/r0413.htm

福井新聞米朝対立 日本は対話を働きかけよ
 http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/119306.html

中国新聞朝鮮半島緊迫 武力行使避け、対話探れ
 http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=334668&comment_sub_id=0&category_id=142

山陰中央新報米朝対立と日本外交/対話による解決へ努力を
 http://www.sanin-chuo.co.jp/column/modules/news/article.php?storyid=564637033

西日本新聞北朝鮮と米国 「非軍事」の一線を越すな
 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/321876

 これまでの北朝鮮政策が功を奏さず、核・ミサイル開発に歯止めがかからなかった反省から、トランプ政権が従来と違う強硬な対策を模索することは理解できる。
 ただし、あくまで「非軍事」の一線を守るべきだ。制裁と外交で北朝鮮を追い込むという基本戦略を崩してはならない。
 トランプ大統領は対北朝鮮で中国の制裁強化に期待する発言を繰り返している。空母派遣は中国に行動を促す側面もある。まずは制裁を確実に強化して北朝鮮に圧力を加えることだ。外交交渉の場に北朝鮮を引っ張り出すためにも米中の戦略的連携が必要である。

南日本新聞:[米朝と日本] 対話により事態打開を
 http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=83610

 米国は北朝鮮対応について、事前に日本と協議する意向を伝えたという。安倍晋三首相はトランプ氏と「個人的な信頼関係を確立した」と自負する。そのパイプを生かし、軍事的な選択肢は取り得ないと米側に強く説くべきだ。それが日本の責務だろう。
 日本政府関係者は「北朝鮮は非公式ルートで、米韓両国の合同軍事演習の中止と引き換えに、対話に応じる構えを見せている」と指摘する。
 北朝鮮は先の最高人民会議で外交委員会を復活させた。緊迫する半島情勢の打開に向け、外交戦略に乗り出す可能性はある。サインを見逃すべきではない。
 米国に北朝鮮への締め付け強化を求められている中国も、対話による問題解決の必要性を強調している。
 北朝鮮と日米韓中ロによる6カ国協議の再開を含め、対話の糸口を探らなくてはならない。
 ただ万一に備え、有事に向けた危機管理も急ぐ必要がある。日本政府は国家安全保障会議(NSC)で対応策の検討に着手した。

沖縄タイムス:[北朝鮮情勢緊迫]外交努力を放棄するな
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/93299

琉球新報朝鮮半島有事対策 優先すべきは非軍事的解決
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-478990.html

 安保関連法を巡っては、朝鮮半島有事を「重要影響事態」と認定すれば米軍の後方支援が可能になる。米軍が武力攻撃を受け「存立危機事態」と判断すれば、自衛隊集団的自衛権を行使して米艦防護も実施できる。
 だが、日本が攻撃されていないのに集団的自衛権を行使したり、米艦船を防護したりすれば、相手国にとっては日本も敵になる。本来は戦争の当事者ではない日本が戦争に巻き込まれてしまうことになる。そもそも安保関連法は、多くの憲法学者違憲と指摘している。
 自衛隊が米軍と一体になる事態ではなく、朝鮮半島有事を回避する行動こそ求められている。

【4月13日】
秋田魁新報北朝鮮情勢緊迫化 有事回避へ手段尽くせ
 http://www.sakigake.jp/news/article/20170413AK0009/

 米朝関係の緊張感が高まる中にあって、新たな動きが出てきた点も注視する必要がある。北朝鮮最高人民会議で約20年ぶりの復活が決まった外交委員会について、韓国政府は「国際社会での孤立から脱却するため、対外関係の改善を狙った」とみる。中国政府は米中首脳会談の後、北朝鮮に対して核実験などを強行した場合、独自の制裁措置を取ると警告したという。日米韓はこうした変化も慎重に分析しながら、有事回避に向けて手段を尽くすべきである。

中日新聞米朝緊張と日本 非軍事的解決の道探れ
 http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2017041302000108.html

高知新聞:【米朝関係】緊張鎮め対話の道に戻れ
 http://www.kochinews.co.jp/article/92401

【4月12日】
▼デーリー東北:敵基地攻撃能力 議論の是非慎重に考慮を
 http://www.daily-tohoku.co.jp/jihyo/20170412/201704120P169862.html

宮崎日日新聞:米中首脳会談◆世界平和へ良好な関係築け◆
 http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_25305.html


 各紙の社説に目を通しながら、ナチスの巨魁、ヘルマン・ゲーリングがドイツ敗北後のニュルンベルグ裁判で囚われの身になっていた折に残したとされる言葉を思い出しました。国民を戦争に向かわせるには―「われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよい」との内容です。
 ブログでこの言葉を紹介した過去記事です。
 ※「ヘルマン・ゲーリングの言葉と伊丹万作の警句『だまされることの罪』〜今年1年、希望を見失わないために」=2016年1月1日
  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160101/1451575528

「共謀罪」と伝える新聞、「テロ等準備罪」と伝える新聞〜衆院審議入りの在京各紙の報道

 安倍晋三政権が「テロ等準備罪」と呼ぶ組織犯罪処罰法改正案が4月6日、衆議院で審議入りしました。安倍政権はかつて3度、国会に提出されながらいずれも廃案になった「共謀罪」とは別ものだと強調しますが、実際に実行された犯罪行為やその未遂行為にとどまらず、犯罪の計画段階で、その計画合意に加わった者を処罰するという点では、かつての「共謀罪」と趣旨は同じです。
 この法案の審議入りのニュースの扱いは、東京発行の翌4月7日付けの新聞朝刊(朝日新聞毎日新聞、読売新聞、日経新聞産経新聞東京新聞の6紙)では、各紙ごとに共通点もあれば差異もありました。共通点にしても差異にしても、各紙それぞれの論調が、この法案を是としているか否としているかに関わっているようにも思います。
 これまでの報道や社説などから、法案に対する是非の論調については、大まかに言えば明確に反対ないしは懐疑的なのは朝日、毎日、東京の3紙、明確に賛成ないし推進は読売、産経の2紙と言ってよいと思います。日経はここのところ、スタンスを明確にした社説は見当たらないようなのですが、2月6日に「『共謀罪』は十分な説明なしには進まない」との社説を掲載しており、慎重姿勢というところでしょうか。いくつか、感じたことを書きとめておきます。各紙の主な記事と見出しは後掲の通りです。写真は7日付朝刊各紙の1面です(いずれも東京本社発行の最終版)。

 まず、事実関係を伝える中心の記事(本記)で、この改正案をどのように表現しているのか、書き出しの最初の文章を書き出してみました。以下の通りです。地方紙に掲載されることが多い共同通信の出稿も書きとめました。

朝日新聞
共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で審議入りした。
毎日新聞
組織犯罪を計画段階で処罰可能とする「共謀罪」の成立要件を絞った「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。
【読売新聞】
後半国会最大の焦点である組織犯罪処罰法改正案(テロ準備罪法案)は6日、衆院本会議で審議入りし、与野党の論戦が始まった。
日経新聞
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で審議入りした。
産経新聞
共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で審議入りし、安倍晋三首相も出席して趣旨説明と質疑が行われた。
東京新聞
犯罪に合意したことを処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案は六日、衆院本会議で審議入りした。
共同通信
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案は6日、衆院本会議で審議入りした。

 一見して特徴的なのは、朝日新聞東京新聞は政府の呼称の「テロ等準備罪」を用いていないことです。逆に、読売新聞は「共謀罪」を使っていません。共同通信を含めてほかの4者は「共謀罪」と「テロ等準備罪」の両方を盛り込んでいますが、日経新聞共同通信は「『共謀罪』の構成要件を改め『テロ等準備罪』を」、「『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ『テロ等準備罪』」と、呼称の変容を客観的な表現で伝えているのに対し、毎日新聞産経新聞は「『共謀罪』の成立要件を絞った『テロ等準備罪』」、「共謀罪の構成要件を厳格化した『テロ等準備罪』」の表現です。「成立要件を絞った」「構成要件を厳格化した」と、一定の評価を伴っています。
 朝日新聞東京新聞については、法案の本質はかつての「共謀罪」と何ら変わりがないとの見解をこういう表記で表したのだと思います。読売新聞は逆に、「テロ等準備罪」は「共謀罪」とは全く異なるとの政府主張に即した表記のように思えますし、産経新聞の「構成要件を厳格化」も政府主張に沿った表記でしょう。それぞれ新聞の法案に対する是非の姿勢が反映されているように感じます。毎日新聞は法案に反対ないし懐疑的ですが、かつての「共謀罪」との比較では、成立要件を絞ったこと自体は、政府主張に理解を示しているのかもしれません。
 各紙ごとの法案への是非の別が表れていると感じるもう一つの点は見出しです。朝日、毎日、日経、東京の4紙は、この国会で審議されるのは「共謀罪」であるとの見出しの取り方をしています。対して読売、産経の見出しは「テロ等準備罪」が審議されるとの文脈です。
 総じて言えば、反対ないし懐疑的、慎重姿勢な4紙は「共謀罪」の表記を重視し、賛成、推進の2紙は政府と同じように「テロ等準備罪」を使っています。

 紙面を比べて目立つのは、法案への反対の動きの扱いです。社会面で関連記事を載せたのは朝日、毎日、産経、東京の4紙。朝日、毎日、東京はいずれも、廃案を求めて東京・日比谷野外音楽堂で開かれた集会などを紹介していますが、産経は法案に賛成の立場の識者の大型の談話のみで、反対の動きの記事はありません。廃案を求める集会のことは、総合面の「野党、曲解主張で世論あおる」の見出しの記事で触れていますが、市民団体と共闘する野党の取り組みに疑問を提示するトーンです。集会が「共謀罪の廃案を求める」としていることに対しては「政府は共謀罪法案は提出していない」としています。一方で毎日新聞は社会面では、反対意見の識者だけではなく、賛成の識者の意見も取り上げています。
 朝日、毎日、東京の3紙と読売、産経の2紙は、関連記事のボリュームで比べれば差は歴然としており、それはそのまま情報量の差です。政府方針に反対ないしは懐疑的な新聞ほど、関連の情報量が多いというのは、特定秘密保護法や安全保障法の成立までの報道でも同じ傾向がありました。人は自分と異なる意見やものの考え方に触れた時、それまで知らなかったことを知った時に、考え方や意見が変わることがあります。だからこそ、民主主義社会では少数意見は尊重されなければなりませんし、世論の賛否が割れるようなテーマでは、多様な意見やものの考え方が社会に流通することが重要になってきます。

 7日付朝刊の各紙の記事で興味深く読んだものの一つは、毎日新聞3面の「首相のメンツ優先」の記事です。なぜこの時期に、かつて3度も廃案になった「共謀罪」と本質においては変わりがない法改正を急ごうとするのか―。この記事によると、5月にイタリアで開かれる主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)をにらんでいるからとのことです。そして政府関係者の話として「昨年の伊勢志摩サミットでは、議長国の日本が国際組織犯罪防止条約を締結していなくて、首相は恥ずかしい思いをした。メンツの問題だ」と明かしたことを紹介しています。法改正が国際組織犯罪防止条約の締結のために必要と政府が主張していることは繰り返し報じられ、またそのことに野党や日弁連から疑義が呈されていることも報じられています。
 もう一つ、興味深く読んだのは東京新聞特報面の治安維持法の特集記事です。戦前戦中の日本社会で治安維持法が、言論弾圧、思想弾圧にどのように使われたか、高齢の体験者への取材も交え、具体的な事件に即して紹介しています。以前の共謀罪反対運動の中で耳にしたことがある「悪法は小さく生まれて大きく育つ」との物言いを思い出しました。


 以下は4月7日付の東京発行新聞各紙の主な記事の見出しです。

朝日新聞
・本記:1面トップ「『共謀罪』攻防」「政権 会期内成立狙う」「4野党『廃案を』訴え」「衆院審議入り」
・1面「『共謀罪NO』つきつける」写真:東京・日比谷野外音楽堂の集会
・2面(総合面)時時刻刻「『共謀罪』早くも激論」「首相『テロ』前面 野党『内心を処罰』」/「市民は対象?何をすれば罪?」「判断基準も対立」
・4面(総合面)「『共謀罪』審議入り」「野党『なぜ必要』『違憲では』」/「首相『五輪開催国の責務』」/「維新『取り調べ可視化を』」※国会でのやり取り
・社会面トップ「問う『共謀罪』」・「監視・内心の自由 地方懸念」「長野 戦前 弾圧の歴史 福島 原発 国に物申してきたが」「36の県市町村議会 意見書」
・社会面「会見で 集会で 危機感」
・社説「『共謀罪』審議 政権の体質が見える」

毎日新聞
・本記:1面準トップ「首相『テロ対策重要』」/野党、監視社会懸念/「共謀罪」審議入り
・3面(総合面)クローズアップ2017「『拙速』に危うさ」「根強い疑念 カギは法相答弁」/「首相のメンツ優先」
・3面 質問なるほドリ「何が論点になっているの?」「組織的犯罪集団の認定 対象多すぎる批判も」
・24面(総合・社会=第3社会面)「私はこう思う」/賛成「現行法制に限界」公益財団法人「公共政策調査会」研究センター長・板橋功氏(57歳)/反対「表現萎縮の恐れ」元東京地検公安部検事、弁護士・落合洋司氏(53歳)
・24面・衆院本会議での主な質疑
・24面「NOの波 日比谷」写真:東京・日比谷野外音楽堂の集会/「『民主的な社会崩しかねない』メディア有志」/「性犯罪厳罰化 審議後回しに 被害者ら落胆」

【読売新聞】
・本記:1面トップ「テロ防止『五輪へ責務』」「首相強調『準備罪』審議入り」「野党は廃案訴え」
・2面(総合面)ニュースQ+「テロ等準備罪とは?」「『共謀罪』より要件厳しく」
・3面(総合面)スキャナー「『犯罪』判断基準 焦点に」「『集団』『準備行為』めぐり論争」/「一変」の定義/条約締結/なお課題も
・3面「採決方針 都議選控え 自公に温度差」

日経新聞
・本記:2面(総合面)「『共謀罪』適用要件が焦点」「法案審議入り、与野党論戦」/テロ対策訴え/「内心」の問題/条約の条件?
・4面(政治面)「『共謀罪』必要性の議論真摯に」坂口祐一編集委員

産経新聞
・本記:3面(総合面)水平垂直「要件 共謀罪より厳格に」「テロ準備罪法案審議入り 首相『五輪開催国の責務』」「一般市民は対象外」/計画では適用せず/予備罪の空白カバー/国際連携への条件
・3面「野党、曲解主張で世論あおる」「市民団体と共闘 安保法と同様手法」/「与党 法相答弁に不安」写真:東京都千代田区の反対集会
・5面(総合面)「首相『内心を処罰することない』」「共産『自由な社会 押しつぶす』」「テロ準備罪法案 衆院質疑要旨」
・第2社会面「テロ等準備罪を考える」・「『乱用』批判派当たらない」弁護士・木村圭二郎氏
・社説(「主張」)「テロ準備罪の審議 国際社会の環に参加せよ」

東京新聞
・本記:1面トップ「『共謀罪』論戦」「野党 『市民も処罰の恐れ』『思想の自由を侵害』」「首相『テロ対策』前面」「審議入り」※表「『共謀罪』国会論戦チェック」/「9つの論点 4月6日衆院本会議でのやりとり」
・2面(総合面)核心「疑問消えぬ『テロ対策』」「『単独犯防げぬ』指摘→答えず」「不安・懸念 首相、根拠示さず否定」
・6面(総合面)※衆院本会議質疑の詳報
・24・25面(特報面)「治安維持法も『組織犯罪』対象だった」「歴史が示す重い教訓」/「拡大解釈で『一般人』弾圧」「教師 学生 俳句の会 詩人…」「『なぜ自分が』『何も知らない』」「逮捕、取り調べ 数十万人にも」
・社会面トップ「辺野古座り込みも対象に?」「『誘ったり誘われたりが犯罪なら怖い』」「法案審議入り 各地で懸念」
・社会面「『共謀罪』私たちの日常にも…」/「『趣味の小説 好きに書けなく…』」※日比谷野外音楽堂の集会、写真も/「『ジャーナリストの活動に影響』」※メディア関係有志33人が緊急アピール

森友問題、証人喚問後の内閣支持率、日経・テレ東62%、共同通信52・4%

 日本経済新聞社テレビ東京が合同で3月24―26日に実施した世論調査と、共同通信社が25、26両日に実施した世論調査の結果がそれぞれ報じられています。少し日がたちましたが。備忘を兼ねて書きとめておきます。
 3月23日に大阪市の学校法人「森友学園」の籠池泰典理事長が国会での証人喚問で、安倍晋三首相の昭恵夫人から、首相からとして100万円の寄付を受けたと主張したほか、昭恵夫人付きの政府職員から、国有地の定期借地契約について財務省に問い合わせた結果などをファクスで知らせてもらう便宜供与を受けていたことを暴露した直後の調査です。日経新聞テレビ東京の調査では、森友学園への国有地払い下げを巡る政府側の説明に対して「納得できない」と答えた人は74%に上り、「納得できる」の15%を大きく上回りました。共同通信の調査でも、国有地の払い下げの経緯などについて政府が十分に説明していると思わないとの回答が82・5%に上りました。
 しかし内閣支持率が大きく下がる、ということはなく、日経新聞テレビ東京の調査では支持率は62%で、2月下旬の前回調査と比べて2ポイント上昇でした。日経新聞は記事では「横ばい」としています。共同通信の調査では支持率は52・4%。2週間前の前回調査から下落していますが、幅は3・3ポイントにとどまりました。共同の記事では、前々回の2月12、13両日の調査と比べると、内閣支持率は9・3ポイントの下落となることを紹介しています。森友学園の問題を巡っては、政府への批判、不満は高いものの、安倍政権自体への批判には結びついていないようで、これはやはり「自民1強」の中の「安倍1強」で、次期首相と目される候補がいない、もっと言えば安倍首相の替わりが見当たらないことによるのでしょうか。

 以下に、共同通信の調査結果を、質問文とともにいくつか書きとめておきます。
森友学園問題
・大阪の学校法人「森友学園」の籠池泰典理事長は、国会の証人喚問で、安倍晋三首相の昭恵夫人から100万円の寄付を受けたと証言しましたが、首相らは寄付を否定しています。あなたは、安倍首相らの説明で理解できますか。
 「理解できる」30・2% 「理解できない」58・7%

森友学園の国有地取得問題に絡み、籠池氏の問い合わせに対し、首相夫人付きの政府職員がファクスで回答していたことが判明しました。首相は払い下げについて夫人も含め関与を否定しています。あなたは、首相の説明に納得できますか。
 「納得できる」28・7% 「納得できない」62・6%

・あなたは、昭恵夫人を国会に呼んで説明を求めるべきだと思いますか。
 「国会で説明を求めるべきだ」52・0% 「国会で説明を求める必要はない」42・8%

・あなたは、政府が払い下げの経緯などについて十分に説明していると思いますか。
 「説明していると思う」10・7% 「説明していると思わない」82・5%

共謀罪
・政府は犯行を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案を閣議決定し、今国会で成立させる方針です。政府はテロ対策に不可欠としていますが、人権が侵害されかねないとの懸念もでています。あなたは、この法改正に賛成ですか、反対ですか。
 「賛成」38・8% 「反対」40・0% 分からない・無回答21・2%

▼PKO日報問題
南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報が廃棄されたとしながら、陸上自衛隊が保管していた問題について、あなたは稲田朋美防衛相に責任があると思いますか。
 「責任があると思う」58・5% 「責任があると思わない」31・0%     

首相夫人付き政府職員が動けば「首相夫人案件」にならないか―森友学園・籠池氏が証人喚問で暴露したファクスの意味

 大阪市の学校法人「森友学園」の籠池泰典理事長の証人喚問が3月23日、衆参両院で行われました。今春の開校を目指していた系列小学校の用地として払い下げられた国有地の価格が、ごみの撤去に費用が掛かることなどを理由に、大幅に値引きされていたことが表面化して以降、不自然な土地払い下げ疑惑として大きく報じられ、国会でも連日取り上げられるに至りました。小学校の名誉校長に安倍晋三首相の昭恵夫人が就任し、寄付金集めの際には学園側が「安倍晋三記念小学校」を掲げていたことなどから、国有地払い下げに安倍首相や夫人の意向が反映されたのではないか、あるいは安倍首相や夫人に対する忖度が働いたのではないかとの疑いを持たれるのは当然だろうと思います。
 参考人招致にすら及び腰だった自民党が一転、籠池氏の喚問に乗り出したのは、籠池氏が小学校の現地調査に訪れた与野党議員らの前で「安倍首相から100万円の寄付を頂いた」と言い出したことが契機でした。報道されている通り、国会の場で籠池氏の証言が虚偽であると印象付け、幕引きを図ろうとしたのでしょう。しかし籠池氏は100万円の寄付の主張を維持したばかりか、昭恵夫人付きの政府職員から、国有地の定期借地契約について財務省に問い合わせた結果などをファクスで知らせてもらう便宜供与を受けていたことを暴露しました。ファクスの記録は菅義偉官房長官も認め、その日のうちに内容を公表せざるをえませんでした。
 籠池氏の証言のほとんどが、首相側や当事者の言い分と食い違っている中で、このファクスは唯一、存在に争いのないものです。このことが意味していることは、決して小さくないと思います。首相側は、財務省への問い合わせに昭恵夫人本人は関与しておらず、その内容にも違法性はなく一般的な事項だなどと主張して、首相や昭恵夫人は国有地払い下げには無関係だと強調します。しかし、昭恵夫人付きの政府職員が動けば、接する相手は、そこに昭恵夫人の意向が働いていると受け止めるでしょう。仮に昭恵夫人から政府職員に指示がないまま、政府職員がまったくの独断で動いたのだとしたら、それはそれで別の問題ですが、夫人から、包括的にでも籠池氏へ対応するよう指示があれば、そこには昭恵夫人の「威光」が加わることになります。籠池氏はそうやって、政府職員を介して昭恵夫人の意向ないしは威光を得て、財務省の動向を確認し、情報を入手していた、というのがこのファクスの1件が持つ意味ではないでしょうか。ファクスの内容はさして問題ではなく、ファクスの存在によって首相夫人付きの政府職員が籠池氏のために動いていたということ自体が明らかになったことに大きな意味があります。そして、この国有地払い下げの件は昭恵夫人の意向、ないしは威光が付随した案件として、ほかの案件とは違う特に留意が必要な案件として財務省などでは意識されていたことが疑われます。そういう環境の中で、国有地が大幅に値引きされて払い下げられたことこそが、疑惑の核心だといっていいように思います。100万円の寄付の件など、籠池氏のほかの証言が真偽不明だとしても、このファクスのことだけでも、昭恵夫人、さらには安倍首相の政治倫理上の責任は免れ得ないように思います。
 これは仮説ですが、籠池氏が証人喚問でもっとも力を注いだのは、このファクスの存在の暴露だったのではないかという気がしています。密室の中でやり取りがあったとされる100万円の寄付は、「あった」「なかった」で水掛け論になることが容易に推察できる一方で、ファクスはそれ自体が物証です。籠池氏のために首相夫人付きの政府職員が動いたことを、それ自体が示しています。

 証人喚問後の25、26両日に共同通信が実施した世論調査が報じられています。安倍首相側の説明に納得できないとの回答は62%、昭恵夫人を国会に招致して説明を求めるべきだとの回答は52%に上っています。

※47news=共同通信「森友、首相説明納得できず62%/共同通信世論調査」2017年3月25日
 https://this.kiji.is/218644587658035201

 共同通信社が25、26両日実施した全国緊急電話世論調査によると、大阪市の学校法人「森友学園」への国有地売却問題に絡み、安倍晋三首相が昭恵夫人を含めて関与を否定していることに「納得できない」とする回答が62.6%で「納得できる」の28.7%を大きく上回った。昭恵夫人を国会に招致して説明を求めるべきだとの回答は52.0%、「必要ない」は42.8%。内閣支持率は52.4%で前回の11、12両日調査に比べ3.3ポイント減った。不支持率は32.5%。
 前々回の2月12、13両日調査と比べると、内閣支持率は9.3ポイントの下落となる。

 経営する幼稚園で園児に教育勅語を暗唱させたりする籠池氏の復古主義的な教育方針は、戦後政治の総決算を掲げ、憲法改正を悲願とする安倍首相と極めて近く、安倍政権の高い支持率の岩盤部分をなす層にも通じるのではないかと感じます。安倍氏の政治姿勢を批判する層ではなく、支持する層の中核にいるはずの籠池氏が、安倍首相の政治家生命を脅かしかねない存在になっていることは、皮肉と言えば皮肉なようにも感じます。
 この国有地払い下げをめぐる疑惑が明るみに出た発端は、豊中市議が行った情報公開請求に対し、森友学園(当時の記事中では匿名)の意向を受けた国が売却金額を非開示にしていたことを共同通信が2月2日に報じたことでした。それから2カ月近く。疑惑は解明が進んだというよりも、一層深まっているように思います。籠池氏の主張には検証不能なものが少なくない中で、マスメディアはただその主張を伝えるだけでいいはずはないと思います。“籠池劇場報道”に終わることなく、調査報道により一層、事実解明が進むのを待ちたいと思います。 


 籠池氏の証人喚問は、東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)とも24日付け朝刊で大きく報じました。写真は各紙の1面です。
 産経新聞は、昭恵夫人と籠池氏の妻とのメールのやりとり判明という独自ダネを1面トップに置いていますが、他紙はみな、このファクスの件を、証人喚問で一番重要なニュースと判断し、本記(そのニュースの中心になる記事)の主見出しに立てています。


【追記】2017年3月27日8時50分
 橋本龍太郎首相の下で秘書官を務めた経歴を持つ江田憲司氏が、首相官邸内の指示系統などについて知見を明らかにしています。現在、民進党の要職(代表代行)にある点を割り引いても、首相官邸の内情についての論考は参考にしていいのではないかと思います。
※「森友問題の謎を解くカギ・・・官邸内のメカニズムを知る必要」=2017年3月26日
 http://www.huffingtonpost.jp/kenji-eda/moritomo-mechanism_b_15613410.html

「共謀罪」か「テロ等準備罪」か、在京紙の見出しは二分

 かつての「共謀罪」の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案の3月21日の閣議決定と国会提出は、マスメディアも大きく報じました。東京発行新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)の22日付け朝刊では、前日の21日夕刊で閣議決定の動きを伝えた後で、法案の意義や問題点などを巡って各紙それぞれに報じており、見出しを拾って見るだけでも各紙ごとのこの問題の捉え方の違いが分かるのではないかと思います。中心となる記事(新聞制作の現場では「本記」と呼びます)や、1面、総合面掲載の主な関連記事の扱いと見出しは以下の通りです。

朝日新聞
1面トップ・本記「『共謀罪』全面対決へ/与野党、会期末にらみ/法案閣議決定
1面・解説「内心の自由 踏み込む危険」
2面・時時刻刻「『テロ』強調 本質変わらず」「政府案文言なし 異例の追加」「277に減 目立つ暴力団対象」/「『西安出たら答弁…』法相に野党照準」
社説「『共謀罪』法案 疑問尽きない化粧直し」
※1面に「おことわり」:「政府が国会に提出した組織的犯罪処罰法改正案には、犯罪を計画段階で処罰する『共謀罪』の趣旨が盛り込まれており、朝日新聞はこれまでと同様、原則として『共謀罪』の表現を使います。『テロ等準備罪』という政府の呼称は、必要に応じて使用していきます。」


毎日新聞
1面トップ・本記「『共謀罪』法案 衆院提出/政府閣議決定 与野党論戦へ」
3面・クローズアップ2017「テロ対策か否か」「政府、悪印象払拭を狙う」「答弁不安『急所』は法相」
3面・質問なるほドリ「組織犯罪防止条約 利点は?/捜査共助 犯罪人引き渡し円滑に」
社説「『共謀罪』法案 説明の矛盾が多過ぎる」


【読売新聞】
1面・本記「テロ準備罪法案 国会提出/政府 成立要件を厳格化」
3面・スキャナー「『共謀罪と別』強調」「政府 対象・範囲絞る」「野党『基準あいまい』」/「『社長殴ろう』同僚計画→不適用」
社説「テロ準備罪法案 政府は堂々と意義を主張せよ」


日経新聞
3面・Q&A「『共謀罪』歯止め焦点/準備で処罰、冤罪懸念なお/277犯罪に絞り国会提出」
社説「十分な審議が必要な『共謀罪』」


産経新聞
1面トップ・本記「テロ準備罪法案 閣議決定/適用『犯罪集団』に厳格化/277罪対象 今国会成立目指す」
1面「一般市民は処罰されず/組織犯罪 水際で阻止へ」
3面・水平垂直「各国連携 犯罪捜査に利点」「容疑者人定・金融機関の口座照会…」「国際条約批准の条件」/「反対派 曲解と扇動」「民進など『話し合うだけで罪』」


東京新聞
1面トップ・本記「犯行前に処罰可能/『共謀罪』捜査 当局の裁量/政府が法案提出 論戦へ」
1面・解説「政府の看板に残る疑念―『テロ』文言 法の目的になし」
2面「首相説明に矛盾」「『東京五輪開けない』→開催条件に含まれず」「『共謀罪の呼称誤り』→話し合い・準備で罪に」(ファクト・チェック)
3面・核心「『テロ』現行法で対処可能」「国連主要条約 加入済み」
社説「『共謀罪閣議決定 刑法の原則が覆る怖さ」/当局の解釈次第では/現行法でも締結可能/行く末は監視社会か


※写真は各紙の1面の様子です。各紙とも東京本社発行の最終版です。

 各紙の違いですぐに目に付くのは、見出しに「共謀罪」を取るか「テロ等準備罪」を取るかです。
 朝日、毎日、日経、東京の4紙は社会面なども含めて、見出しは「共謀罪」です。政府がいくら「共謀罪とは別もの」と強調しても、かつて3回廃案になった「共謀罪」と本紙的には変わらないとの判断に基づくのだろうと思います。特に朝日新聞は1面に「おことわり」を載せ、呼び方についての基本的な考え方を読者に説明しているのが目を引きます。
 この4紙に対して、読売と産経は「テロ準備罪」を使っています。成立要件や適用を巡り「厳格化」とするなど、政府主張そのままに見出しを取っています。
 政府主張に疑問を示す新聞は「共謀罪」を見出しに使い、政府主張に理解を示す新聞は「テロ準備罪」を使うように、はっきりと分かれました。

立法の必要性に具体例の説明なく、理解も不十分な「共謀罪」―世論調査は逆転、「反対」が「賛成」上回る

 過去3回廃案になった共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案が21日、閣議決定され国会に提出されました。政府は2020年東京五輪を前にテロ防止のために必要と強調し、呼び方も「テロ等準備罪」と変えています。菅義偉官房長官は21日の閣議決定後の記者会見で「法案に対する不安や懸念を払拭する内容で、かつての共謀罪とは明らかに別物だ」(朝日新聞)と強調しました。しかし、適用対象の罪を半分以下に絞り込もうとも、犯罪の準備段階、共謀段階を広範に処罰することは以前の共謀罪と何ら変わりがなく、人間の内心を処罰することにつながりかねません。それは憲法が保障する内心の自由、ひいては表現の自由を危うくすることになります。
 この「共謀罪」の危うさは、例えば仮に最終的には裁判で無罪になろうとも、あるいはその以前に不起訴になろうとも、共謀を理由に逮捕や取り調べ、家宅捜索などが行えるようになることです。この点は、沖縄・米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設に対する辺野古現地での抗議行動など、国策に対する抗議としての表現活動のことを想起すれば分かりやすいのではないかと思います。逮捕や取り調べが行われるだけでも大きなダメージであり、国家権力への抗議という表現活動が直接的に侵害されることになります。「組織的犯罪集団」であるか否か、事前に個別具体的に指定されているわけではなく、適用対象を捜査側が恣意的に判断することを排除できる仕組みになっていません。かつての共謀罪の違いとして、準備行為が行われていることが必要とされますが、準備行為の解釈も結局は捜査する側がどうとらえるか次第です。政府は、正当な活動をする団体であっても犯罪集団に一変すれば適用対象になる、との見解も示しており、捜査側のさじ加減一つで、一般人も適用対象になるとの懸念も残ったままです。また、共謀は密室の中で行われるのが常であり、必然的に監視や盗聴、あるいは密告の奨励を招くことになります。監視社会化がいっそう強まる可能性があります。
 こうした「共謀罪」の内容以上に問題だと感じるのは、なぜこの立法が必要なのかが十分に説明され、なおかつ理解されているとは言い難いことです。この「共謀罪」がなかったために、現に生じている被害に対して何もできず、被害を放置するに任すしかなかったというような事例は、具体的に示されていません。そういう意味での必要性が示されていないのです。政府はテロ対策を前面に押し出し、あたかもこの「共謀罪」がなければ東京五輪も開催できないかのような主張まで繰り広げていますが、そのような話は五輪招致活動の中ではまったく聞こえてきませんでした。「テロ」にしても、与党に原案が示された段階では条文のどこにも「テロ」の2文字はなく、そのことが大きく報じられた後になって、わずかに「組織的犯罪集団」の説明に、例示として「テロリズム集団」を加えただけです。テロリズムの定義も示していません。また、組織犯罪防止条約の締結に対して「共謀罪」が必要と政府は説明しますが、現在のままでも可能との反論もあります。
 立法必要性の理解に関連して、世論調査結果の推移も紹介しておきます。一般に世論調査では、ある事柄の賛否を問うにしても、質問の中でどういう説明をするかによって結果に違いが出ます。質問の文章を記録していた調査結果をいくつか紹介すると、以下の通りです。

▼3月11、12日実施:共同通信
・政府は犯行を計画段階で処罰する共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案を今国会で成立させる方針です。政府はテロ対策に不可欠としていますが、人権が侵害されかねないとの懸念もでています。あなたは、この法改正に賛成ですか、反対ですか。
 「賛成」33・0% 「反対」45・5%

▼2月18、19日実施:朝日新聞
・政府は、過去3度廃案になった「共謀罪」の法案の内容を改め、組織的な犯罪について、準備の段階から取り締まる「テロ等準備罪」を設ける法案を、今の国会に提出する方針です。この法案に賛成ですか。反対ですか。
 「賛成」44% 「反対」25%
・「テロ等準備罪」によって、犯罪組織だけでなく、一般の人まで取り締まられる不安をどの程度感じますか。(択一)
 「大いに感じる」13% 「ある程度感じる」42% 「あまり感じない」29% 「まったく感じない」9%

▼1月21、22日実施:毎日新聞
・政府は組織的な犯罪集団が犯罪を実行しなくても準備した段階で罪に問える「テロ等準備罪」を設ける法案を今の国会に提出する方針です。テロなどの組織的犯罪を防ぐ目的ですが、捜査当局による人権侵害につながるとの指摘もあります。あなたはこの法案に賛成ですか、反対ですか。
 「賛成」53% 「反対」30%

 2月末に原案に「テロ」の記載が全くないことが判明した後に、共謀罪に触れた世論調査は、目に付く限りは上記の共同通信の結果しかないのですが、それまでの各社の世論調査では相当の差を付けて「賛成」が「反対」を上回ってきたのに、賛否が逆転しました。「テロ対策」のため必要としてきた政府の説明が、実は3回廃案になった経緯もあってマイナスイメージがつきまとう「共謀罪」の呼称を変える世論対策に過ぎなかったと受け止めた人が多かったことを示しているように思えます。
 いずれにせよ、今国会の最大の与野党対決法案と呼ばれる法案です。国会審議では、まず立法必要性を十分に論議してほしいと思います。


【追記】2017年3月26日23時
 共同通信が3月25、26両日に実施した世論調査の結果が報じられています。「共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案に賛成は38・8%、反対は40・0%」とのことです。なお反対が賛成を上回ってはいますが、「ほぼ拮抗」ととらえた方がいいのかもしれません。それでも、この賛成の割合では、「共謀罪」の必要性に理解が進んだとは到底言えない状況であることに変わりはないでしょう。

内閣支持率、読売調査は10ポイント低下、NNN調査「稲田氏辞任の必要」57・3%

 前回の記事の続きになります。読売新聞社が3月17―19日に実施した世論調査と、日本テレビ系列のNNNが同じ時期に実施した世論調査の結果が報じられています。安倍晋三内閣の支持率は、読売新聞の調査では56%で前回2月から10ポイント低下しました。NNNは47・6%で7・3ポイント低下でした。不支持率は読売新聞調査33%(前回比9ポイント増)、NNN調査32・9%(6・9ポイント増)。読売新聞の記事によると、10ポイントの下げ幅は2012年12月の第2次安倍内閣発足以降で最大とのことです。
 支持率自体は読売新聞とNNNの調査で大きな違いがあり、1週間前のNHKや朝日新聞毎日新聞共同通信の調査と比べても違いの幅は大きいのですが、一方で支持率減少の傾向は続き、しかも低下の幅は1週間前に比べて大きくなっているようです。前回の記事でも触れたように、学校法人「森友学園」の国有地取得、小学校開設を巡る一連の問題や、稲田朋美防衛相が南スーダンPKO派遣部隊の日報が陸上自衛隊には残っていないとしながら、実は残っていたことが明らかになった問題などで、安倍政権に対する世論の批判的な視線は収まるよりも、むしろ強まっているとみていいように感じます。

▼3月17―19日実施
・読売新聞 「支持」56%(10P減) 「不支持」33%(9P増)
・NNN  「支持」47・6%(7・3P減) 「不支持」32・9%(6・9P増)
▼3月11―12日実施 ※NHKは10―12日実施
・NHK  「支持」51%(7P減) 「不支持」31%(8P増)
朝日新聞 「支持」49%(3P減) 「不支持」28%(3P増)
毎日新聞 「支持」50%(5P減) 「不支持」31%(4P増) 「関心がない」17%(2P増)
共同通信 「支持」55・7%(6・0P減) 「不支持」30・7%(3・5P増)


 いくつか質問と答えも書きとめておきます。
 NNNが、稲田朋美防衛相について、辞任の必要があると思うかどうかを尋ねたのに対し、「思う」が57・3%と過半数に達し、「思わない」27・8%の倍になっているのが目を引きました。

森友学園問題
・読売新聞:政府は森友学園に国有地を評価額より8億円安く売却したことについて、ごみの撤去費用分を差し引いたと説明。この説明に納得できるか
  「納得できる」7% 「納得できない」85%
・読売新聞:安倍首相は、国有地売却を巡る問題で、首相や妻昭恵さん関与を否定。この説明に
  「納得できる」24% 「納得できない」64%
・読売新聞:稲田防衛大臣森友学園との関わりを説明した国会での答弁をどう思うか
  「大いに問題がある」42% 「多少は問題がある」39% 「あまり問題はない」10% 「全く問題はない」3%

・NNN:森友学園が、私立小学校を建設のために、国有地を評価額よりも8億円以上安く購入していたことについて。政府は、この土地取引について、土地の地下に埋まっているゴミ処理に必要な費用を、見積もって差し引いた金額での適切な取引だと説明。この説明に納得するか
  「納得する」3・9% 「納得しない」83・8%
・NNN:学校法人の理事長は、現地を視察した与野党議員に対し、「安倍総理大臣から昭恵夫人を通じて100万円の寄付を受けた」などと主張したが、安倍総理はこれを強く否定。国会は23日に理事長の証人喚問を行。この証人喚問によって,土地取引などをめぐる事実関係がはっきりすると思うか
  「思う」12・8% 「思わない」71・8%
・NNN:安倍総理の妻・昭恵夫人が、この土地に建設中の私立小学校の名誉校長となっており、最近、辞めた。名誉職に就いていたことは適切だと思うか
  「思う」9・3% 「思わない」76・9%
・NNN:野党は、稲田朋美防衛大臣が、森友学園に弁護士として関わっていた事をめぐる国会答弁を訂正した事や、南スーダン派遣の自衛隊の活動で、陸上自衛隊が廃棄したと説明していた日報が、実際には廃棄されていなかった事を理由に、辞任を要求。稲田大臣が辞任する必要があると思うか
  「思う」57・3% 「思わない」27・8%

7―3ポイント下落するもなお50%前後、安倍内閣の支持率(前週の調査4件)

 3月10〜12日にNHKが実施した世論調査と、11〜12日に朝日新聞毎日新聞共同通信が実施した3件の世論調査の結果がそれぞれ報じられています。1週間前の調査ですが、記録と備忘を兼ねて書きとめておきます。
 安倍晋三内閣の支持率は以下の通りです。

内閣支持率
・NHK 「支持」51%(前月比7ポイント減) 「不支持」31%(同8ポイント増)
朝日新聞 「支持」49%(3P減) 「不支持」28%(3P増)
毎日新聞 「支持」50%(5P減) 「不支持」31%(4P増) 「関心がない」17%(2P増)
共同通信 「支持」55・7%(6・0P減) 「不支持」30・7%(3・5P増)


 支持率はいずれの調査結果でも前回から下がりました。下落幅は最大で7ポイント。裏返しで不支持率は上昇し、最大で8ポイント上がりました。大阪府豊中市の国有地払い下げに端を発した学校法人「森友学園」の問題が影響しているのは間違いがないでしょう。ただ、下がったとはいえ、支持率はまだおおむね50%を維持しています。これこそが「自民1強」の中の「安倍1強」、つまり安倍氏にとって代われる首相候補が存在せず、多少のことはあっても安倍氏が支持され続ける現状を如実に表していると思います。
 この調査期間後には、森友学園を巡って新たな事態も起きています。森友学園の訴訟に弁護士として関与したことはないと稲田朋美防衛相が国会で言い切った翌日、実際には森友学園の代理人として出廷した大阪地裁の記録が存在することが報道で明るみに出たり、さらには森友学園籠池泰典理事長が、安倍首相から主学校開設へ100万円の寄付を受けたと言い出したりしました。また、南スーダンPKO派遣の陸上自衛隊部隊の日報が陸自には残っていないとされていたのに、実は残っていて隠蔽されていたことも報道で明らかになり、稲田氏はこの問題でも防衛相としての資質を問われています。これらの状況を踏まえた内閣支持率はどうなっているでしょうか。


 森友学園の問題を巡る各調査の主な結果も書きとめておきます。

・NHK:大阪・豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に鑑定価格より低く売却されていたことについて、ごみの撤去費用を差し引いたものだという国の説明に納得できるか
  「大いに納得できる」2%、「ある程度納得できる」10%、「あまり納得できない」31%、「全く納得できない」49%→「納得できない」80% 「納得できない」12%

朝日新聞:「森友学園」に売却された国有地の評価額は約9億円。国がごみの撤去費用などとして役8億円を差し引き、約1億円で売却した。このような取引は妥当と思うか
  「妥当だ」6% 「妥当ではない」81%
朝日新聞安倍内閣は国有地売却について、法令に基づき、適正に処理されたと説明している。この説明に納得できるか
  「納得できる」12% 「納得できない」71%

毎日新聞:「森友学園」が国有地を格安で取得したことが問題になっている。政府のこれまでの説明に納得しているか
  「納得している」8% 「納得していない」75%
毎日新聞:安倍首相の妻昭恵さんは、森友学園が開設を予定している小学校の「名誉校長」を引き受け、後に辞退した。どう思うか
  「辞退したので問題はない」23% 「辞退したが問題は残る」58% 「辞退する必要はなかった」3%

共同通信:「森友学園」に国有地が土地評価額の14%で払い下げられたことが明らかになった。この払い下げが適切だったと思うか
  「適切だと思う」6・6% 「適切だと思わない」86・5%
共同通信:政府が払い下げの経緯などについて、十分に説明していると思うか
  「説明していると思う」5・2% 「説明していると思わない」87・6%
共同通信:安倍首相の昭恵夫人が、この学園が新設する小学校の名誉校長に就任したが辞任した。首相は国会で国有地払い下げについて関与を否定し「私や妻、事務所が関わっていれば、首相も議員も辞める」としている。学園との関係に関する首相の説明に納得できるか
  「納得できる」30・8% 「納得できない」58・3%


 森友学園の籠池理事長が、安倍氏から寄付があったと主張してから、それまで籠池氏の国会招致に消極的だった自民党も一転し、籠池氏の衆参両院での証人喚問が決まりました。この寄付問題は結局は籠池氏と安倍氏の間で「寄付を受けた」「寄付はしていない」の言い分の食い違いは続くのではないかと思います。その以前に、上記の世論調査結果に明らかなように、豊中市の国有地の払い下げそのものに、世論は大きな不信を抱き、政府、政権の説明に納得していません。この土地を巡って何があったのかも、国会の籠池氏の証人喚問では大きな焦点になります。


 世論調査のそのほかの項目もいくつか書きとめておきます。共謀罪を巡っては、共同通信の調査では前回と賛否が逆転しましたが、質問文も変わっているようです。以下はいずれも質問文を原文のまま引用します。
共謀罪
共同通信:「政府は犯行を計画段階で処罰する共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案を今国会で成立させる方針です。政府はテロ対策に不可欠としていますが、人権が侵害されかねないとの懸念もでています。あなたは、この法改正に賛成ですか、反対ですか。」
  「賛成」33・0% 「反対」45・5%

教育勅語
共同通信:「稲田朋美防衛相が、戦前の教育の基本理念を示した教育勅語に関し『精神を取り戻すべきだ』と国会で答弁しました。教育勅語は、軍国主義教育と結び付き、衆参両院は1948年、排除や失効を決議しています。あなたは、稲田氏の答弁が防衛相としてふさわしいと思いますか。」
  「ふさわしいと思う」12・4% 「ふさわしくないと思う」71・8%

自民党総裁任期
共同通信:「自民党は、党総裁任期を『連続3期9年まで』に改正し、安倍首相が2018年秋以降、党総裁として3期目を務めることが可能となりました。あなたは、安倍首相が党総裁を3期務めることをどう思いますか。
  「望ましい」45・2% 「望ましくない」44・4%

原発再稼働
毎日新聞:「国内の原子力発電所の再稼働が進んでいます。あなたは原発の再稼働に賛成ですか、反対ですか」
  「賛成」26% 「反対」55% 

朝日新聞:「民進党蓮舫代表は、今月の党大会で原発の稼働を2030年にゼロにする目標を表明する方針でしたが、民進党を支持している労働組合などの反発を受け、表明を取りやめることにしました。この方針の変更を評価しますか」
  「評価する」25% 「評価しない」50%


※その他
 朝日新聞世論調査は、固定電話のほか携帯電話も対象にしています。同紙の「調査の方法」によると、コンピューターで無作為に抽出した固定電話と携帯電話の番号に調査員が電話をかけるRDD方式で、全国の有権者を対象に実施。固定は福島県の一部を除いています。固定では、有権者がいる世帯と判明した番号は1669件、有効回答828人、回答率は50%。携帯は、有権者につながった番号は2188件、有効回答1021件、回答率47%とのことです。