核、ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮を巡って、緊張が高まっています。これまで「瀬戸際外交」と言えばもっぱら北朝鮮でしたが、今年1月に発足したトランプ米政権も、4月7日にシリアを巡航ミサイルで攻撃するなど、「次に何をするか先が読めない」ぶりが次第に顕著になってきているように感じます。安倍晋三政権は米国のシリア攻撃に対しては、化学兵器使用を許さないとの決意を支持し、行動に理解を示すと表明しました。シリアが化学兵器を使用した確たる証拠の有無、つまりは米国のシリア攻撃の正当性の有無を巡っての苦しい判断が「支持」と「理解」の使い分けに表れたのだと思いますが、それはすなわち、北朝鮮への直接的な対処を、トランプ米政権に依存せざるを得ないためなのでしょう。トランプ大統領は、北朝鮮への対応は軍事面を含めて事前に日本と相談すると安倍首相に伝えたと報じられています。
4月15日は北朝鮮では故金日成主席の生誕記念日「太陽節」でした。ピョンヤンで大掛かりな軍事パレードがあったものの、懸念された核実験や弾道ミサイル発射の強行などは、この記事を書いている15日夜の時点では伝えられていません。この先、北朝鮮をめぐる緊張を緩和させ、戦争を未然に防ぐために日本は何を考え、どう動くべきでしょうか。あるいは何ができるでしょうか。ネットでは現在の緊張状態を巡ってさまざまな言説が飛び交っていますが、ここでは地方紙の社説を紹介します。ネット上の自社サイトで社説を公開している地方紙の中で、ここ数日のうちにアップされた関連の社説の見出しとリンク先を以下に書きとめておきます。印象に残った内容のいくつかは備忘を兼ねて、一部を引用して紹介します。
地方紙すべてを網羅した結果ではなく、いずれも確認できた範囲内ではあるのですが、おおむね、北朝鮮とともに米国にも武力行使の回避を求め、そのために安倍政権に冷静な対応を厳に求める論調が共通していると感じています。
【4月15日】
▼北海道新聞:米朝緊張 日本は冷静さ保たねば
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0112290.html
米朝とも「予測不能」といわれる政権同士だ。仮に軍事衝突すれば、北朝鮮の攻撃は米軍基地のある韓国や日本に及び、東アジアの平和と安全は重大な危機にひんする。絶対に避けねばならない。
そのためには軍事的圧力を強めるトランプ政権に自制を促すとともに、北朝鮮に対する制裁包囲網を強化し対話の場に引き出す外交努力を尽くす。それが日本の役割であることを肝に銘じたい。
安倍晋三首相はおとといの国会答弁で「北朝鮮はサリンを(ミサイルの)弾頭に付けて着弾させる能力を既に保有している可能性がある」と述べた上で、日米同盟の抑止力強化が重要だと強調した。
核・ミサイル開発だけではなく非道な化学兵器も断じて認められないのは言うまでもない。
だが、北朝鮮の保有疑惑自体は以前から指摘されている。脅威を強調する材料として持ち出してみせたとの印象も否めない。
緊張をあおるのではなく、平和的解決を目指す決意こそ首相はより強く打ち出してほしい。
そうした言葉が全くないわけではないが、現実はトランプ大統領の強硬策を評価し、同盟強化に一層前のめりな姿が鮮明だ。
▼河北新報:緊迫の北朝鮮情勢/中国に本気の行動促したい
http://www.kahoku.co.jp/editorial/20170415_01.html
日本は米国に自制を促したい。と同時に、米国も求めるように、「朝鮮半島の非核化」実現を掲げながらも、北朝鮮に十分な圧力をかけてこなかった中国に対し、国際社会と連携して「本気」の行動を強く求めていくべきだ。
そのことが事態を非軍事的解決に導く、最も有効な手だてとなり得る。そう考える。
安倍政権は、韓国在留邦人の救出策を中心に朝鮮半島有事の対応を検討しているという。万一の事態に、十分に備えておくことに異論はない。
だが一方で首相は、北朝鮮が猛毒サリンをミサイル弾頭に付け着弾させる能力を保有している可能性に言及した。
抑止力強化の必要性を説くためだとしても、国民の不安をいたずらにあおりはしないか。米国の軍事力行使をちらつかせた強硬対応を容認する姿勢と併せ、疑問が残る。
わが国の北朝鮮対処の基本は「対話と圧力」だ。圧力に軍事は含まないはずだ。拉致問題を含め平和的な解決に向けて、いかに外交努力を展開するか、そのことを国民に語るべきではないのか。
▼岩手日報:緊張の朝鮮半島 対話へ引き出す圧力を
http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2017/m04/r0413.htm
▼福井新聞:米朝対立 日本は対話を働きかけよ
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/119306.html
▼中国新聞:朝鮮半島緊迫 武力行使避け、対話探れ
http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=334668&comment_sub_id=0&category_id=142
▼山陰中央新報:米朝対立と日本外交/対話による解決へ努力を
http://www.sanin-chuo.co.jp/column/modules/news/article.php?storyid=564637033
▼西日本新聞:北朝鮮と米国 「非軍事」の一線を越すな
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/321876
これまでの北朝鮮政策が功を奏さず、核・ミサイル開発に歯止めがかからなかった反省から、トランプ政権が従来と違う強硬な対策を模索することは理解できる。
ただし、あくまで「非軍事」の一線を守るべきだ。制裁と外交で北朝鮮を追い込むという基本戦略を崩してはならない。
トランプ大統領は対北朝鮮で中国の制裁強化に期待する発言を繰り返している。空母派遣は中国に行動を促す側面もある。まずは制裁を確実に強化して北朝鮮に圧力を加えることだ。外交交渉の場に北朝鮮を引っ張り出すためにも米中の戦略的連携が必要である。
▼南日本新聞:[米朝と日本] 対話により事態打開を
http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=83610
米国は北朝鮮対応について、事前に日本と協議する意向を伝えたという。安倍晋三首相はトランプ氏と「個人的な信頼関係を確立した」と自負する。そのパイプを生かし、軍事的な選択肢は取り得ないと米側に強く説くべきだ。それが日本の責務だろう。
日本政府関係者は「北朝鮮は非公式ルートで、米韓両国の合同軍事演習の中止と引き換えに、対話に応じる構えを見せている」と指摘する。
北朝鮮は先の最高人民会議で外交委員会を復活させた。緊迫する半島情勢の打開に向け、外交戦略に乗り出す可能性はある。サインを見逃すべきではない。
米国に北朝鮮への締め付け強化を求められている中国も、対話による問題解決の必要性を強調している。
北朝鮮と日米韓中ロによる6カ国協議の再開を含め、対話の糸口を探らなくてはならない。
ただ万一に備え、有事に向けた危機管理も急ぐ必要がある。日本政府は国家安全保障会議(NSC)で対応策の検討に着手した。
▼沖縄タイムス:[北朝鮮情勢緊迫]外交努力を放棄するな
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/93299
▼琉球新報:朝鮮半島有事対策 優先すべきは非軍事的解決
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-478990.html
安保関連法を巡っては、朝鮮半島有事を「重要影響事態」と認定すれば米軍の後方支援が可能になる。米軍が武力攻撃を受け「存立危機事態」と判断すれば、自衛隊は集団的自衛権を行使して米艦防護も実施できる。
だが、日本が攻撃されていないのに集団的自衛権を行使したり、米艦船を防護したりすれば、相手国にとっては日本も敵になる。本来は戦争の当事者ではない日本が戦争に巻き込まれてしまうことになる。そもそも安保関連法は、多くの憲法学者が違憲と指摘している。
自衛隊が米軍と一体になる事態ではなく、朝鮮半島有事を回避する行動こそ求められている。
【4月13日】
▼秋田魁新報:北朝鮮情勢緊迫化 有事回避へ手段尽くせ
http://www.sakigake.jp/news/article/20170413AK0009/
米朝関係の緊張感が高まる中にあって、新たな動きが出てきた点も注視する必要がある。北朝鮮の最高人民会議で約20年ぶりの復活が決まった外交委員会について、韓国政府は「国際社会での孤立から脱却するため、対外関係の改善を狙った」とみる。中国政府は米中首脳会談の後、北朝鮮に対して核実験などを強行した場合、独自の制裁措置を取ると警告したという。日米韓はこうした変化も慎重に分析しながら、有事回避に向けて手段を尽くすべきである。
▼中日新聞:米朝緊張と日本 非軍事的解決の道探れ
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2017041302000108.html
▼高知新聞:【米朝関係】緊張鎮め対話の道に戻れ
http://www.kochinews.co.jp/article/92401
【4月12日】
▼デーリー東北:敵基地攻撃能力 議論の是非慎重に考慮を
http://www.daily-tohoku.co.jp/jihyo/20170412/201704120P169862.html
▼宮崎日日新聞:米中首脳会談◆世界平和へ良好な関係築け◆
http://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_25305.html
各紙の社説に目を通しながら、ナチスの巨魁、ヘルマン・ゲーリングがドイツ敗北後のニュルンベルグ裁判で囚われの身になっていた折に残したとされる言葉を思い出しました。国民を戦争に向かわせるには―「われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよい」との内容です。
ブログでこの言葉を紹介した過去記事です。
※「ヘルマン・ゲーリングの言葉と伊丹万作の警句『だまされることの罪』〜今年1年、希望を見失わないために」=2016年1月1日
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160101/1451575528