ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

大震災「東北でよかった」発言と沖縄の基地集中は通底していないか

 少し時間がたってしまいましたが、備忘も兼ねて書きとめておきます。
 復興相だった今村雅弘衆院議員が4月25日、所属する自民党二階派の会合で、東日本大震災の被害に触れる中で「25兆円という数字もある。これがまだ東北で、あっちの方だったから良かったけど、これがもっと首都圏に近かったりすると莫大な、甚大な被害があったと思っている」と発言しました。東日本大震災では関連死を合わせて2万1千人以上が犠牲になり、東京電力福島第1原発事故もあって、大震災から6年を迎えてもなお避難者は、全都道府県で約12万3千人に上るとされます。復興相でありながら、そういう地を「あっち」と呼び、「だからよかった」と言い放つのは、「うっかり」のレベルの失言ではないでしょう。東北地方を見下した意識がなければ、口をついて出てこないはずの物言いです。
 報道によると、安倍晋三首相は今村氏の発言を知るとただちに菅義偉官房長官と対応を協議し、今村氏の更迭を即座に決めたと伝えられています。今村氏は今回の発言の前にも、福島第1原発事故で自主避難した人たちについて「本人の問題」、つまりは自己責任であると言い放って批判を浴びましたが、首相は任にとどめていました。今回は2度目の問題発言であり、放置した場合は批判が首相に向かうところだったでしょう。発言の内容よりも2度目という点が、安倍首相のすばやい決断の最大の要因だったように感じます。
 今村氏が所属する派閥のボスの二階俊博・自民党幹事長に至っては、26日に講演した際に「政治家が出てきて何かを話したら、マスコミは余すところなく記録を取り、一行でも悪いところがあれば首を取れと。なんということか。そんな人は、はじめから排除して(会場に)入れないようにしないといけない」と話したと報じられています。今村氏の発言自体についても「人の頭をたたいて血を出したという話ではない」としていますが、その程度の認識しかないのかと驚きました。一応は「マスコミに罪をなすりつけるような、ひきょうなまねはしてはいけない。間違ったことを言う人の資質の問題だ」とも話してはいますが、今村氏の発言の内容の深刻さに比して、その受け止め方としては、メディア批判を口にしてみたりと、ある種の軽薄さを感じます。これが「安倍一強、自民一強」と言われている中での、その自民党の実状です。
 今回の今村氏の発言を見ながら思うのは、差別意識に根差す「―でよかった」との発想は、東北に対してだけではないということです。安倍政権でもっとも強く表れているのは沖縄に対してではないかと感じます。「米軍基地は沖縄でよい」「あっちの方でよい」ということです。今村氏が「東北で、あっちの方だったから良かった」と言い、その発言を安倍首相が謝罪した同じ日、この政権は米軍普天間飛行場の移転先と定める名護市辺野古で、埋め立て作業着手を強行しました。政権に、沖縄県の翁長雄志知事と話し合おうという姿勢は、もはやみられません。
 現地の抗議行動に対しては、本土の機動隊が投入され、リーダーの山城博治・沖縄平和運動センター議長は、その逮捕容疑や起訴事実の内容に比べれば異常ともいえる長期間、拘束されました。そして、この沖縄を下に見下すような安倍政権に対して、沖縄県外、つまりは日本本土の世論が沸騰し、異を唱えることはありません。従って、安倍政権が政策を見直したり、沖縄に謝罪することもないでしょう。
 東京発行の4月26日付け新聞各紙の朝刊は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙は「今村氏辞任へ」「今村氏更迭」を1面トップで大きく扱いました。日経も今村氏の発言問題を1面に入れています。一方の辺野古の埋め立て作業着手強行は、前日の25日付夕刊で1面トップの扱いだったこともあり、朝刊では相対的に扱いは小さくなっていますが、朝日、毎日、読売、東京は1面に続報を掲載しています。二つのニュースが26日付け朝刊の紙面に同時に載ったことは、たまたまなのかもしれません。しかし私は、二つのニュースが同根であることを象徴し、視覚的にも訴える紙面として、記憶にとどめておこうと思います。


 以下は、東京発行6紙の4月26日付け朝刊の記録です。今村氏発言と辺野古埋め立て作業着手のそれぞれ本記(事実関係を主に伝える中心記事)の扱いや見出し、社説などを書きとめておきます。
▼朝日新聞
1面トップ「今村復興相、辞任へ」「震災『東北でよかった』と発言」「後任に吉野氏」
1面「辺野古差し止め提訴へ」「沖縄県、埋め立てに対抗」※2面・時時刻刻「辺野古強行 迷走の末」、社会面「苦悩 なぜ沖縄ばかり」
社説「辺野古埋め立て強行 『対話なき強権』の果てに」/原点は基地負担軽減/強まる『軍事の島』/本土の側も問われる

▼毎日新聞
1面トップ「今村復興相 辞任へ」「『震災、東北で良かった』」「再び失言 政権に打撃」「後任に吉野正芳氏」
1面準トップ「辺野古 原状回復困難に」「政府、埋め立て開始」※2面「政府強硬 一線越える」、社会面「『もう基地いらない』」
社説「今村復興相、暴言で辞任へ 内閣の緩みはすさまじい」/「辺野古の埋め立て始まる 『対立の海』にしたいのか」

▼読売新聞
1面トップ「今村復興相 更迭」「震災『東北でよかった』」「また失言 福島選出の吉野氏後任」
1面「辺野古 再び法廷闘争も」「護岸着工 翁長知事『全力で戦う』」※第3社会面「住民対立『もうやめに』」
社説「辺野古護岸工事 『普天間』返還へ重要な一歩だ」

▼日経新聞
1面「今村復興相を更迭」「『東北でよかった』震災巡り発言」
4面「辺野古、再び法廷闘争へ」「埋め立て着工 沖縄県が提訴検討」

▼産経新聞
1面トップ「今村復興相 更迭」「震災『東北でよかった』」「後任に吉野氏」/「早期決着も問われる任命責任」
3面「辺野古 護岸工事始まる」「菅氏『普天間返還へ一歩』」「政府、周到な構え 知事選前には土砂投入」

▼東京新聞
1面トップ「今村復興相 更迭」「大震災『東北で良かった』」「派閥パーティーで発言」/「被災者を再び踏みにじる」「死者1万5893人 不明者2553人」
1面準トップ「辺野古差し止め提訴へ」「翁長氏 埋め立て開始に対抗」※2面「辺野古 既成事実化図る」、第2社会面「『強行』許せない」


 以下は前日の4月25日付けの夕刊です。自宅で購読している朝日、毎日、読売です。


 琉球新報の4月26日付け紙面です。「基地は沖縄で良い」「大震災は東北で良かった」―。沖縄県外、つまりは日本本土に住む日本人に手に取ってほしいと思う紙面です。