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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

軽視できない安倍政権の死者数誤集計~北海道地震 発生初日からミス、報道の食い違いにも訂正できず

 北海道胆振地方で9月6日、最大震度7を観測する大きな地震がありました。被災地の皆さまにお見舞い申し上げますとともに、犠牲になった方々に哀悼の意を表します。行方が分からない方々の無事とけがをされた方々の回復、被災地に一日も早く日常が戻ることを願っています。

 この地震災害をめぐって、菅義偉・官房長官が7日午後の記者会見で、同日午前中に発表した死者数16人を、「死者9人、心肺停止7人」の誤りだったと訂正しました。報道によると、菅氏は「『事務的に集計する段階で死者と心肺停止者の両者をまとめて死者として計上した』と説明し、陳謝した」(8日付毎日新聞朝刊)とのことです。読売新聞が紙面に掲載しているドキュメントによると、「死者16人」は7日午前9時37分に安倍晋三首相が関係閣僚会議で明らかにしていました。
 この問題では、安倍晋三政権の「人命」への姿勢に気にかかる点があります。また東京発行の新聞各紙の報道にも顕著な「二極化」の傾向がみられます。備忘を兼ねて書きとめることにします。

 ■「死亡」と「心肺停止」の差異
 まず安倍政権の「人命」への姿勢についてです。「死亡」と「心肺停止」には明確な差異があります。人間の死を判定できるのは、日本の法律上では死亡診断書を作成する医師と歯科医師だけです。公的に死者として扱われるのは、医師が死亡を判定した後です。一方の心肺停止とは、文字通り心臓と呼吸が停止した状態です。救命措置で蘇生する場合もありますし、仮に心肺停止に陥ってから長時間が経過し蘇生は絶望と思われる状態でも、医師が死亡判定するまでは「心肺停止」です。
 報道の実務では、災害や遭難などで行方不明者、安否不明者が捜索で見つかった場合、仮に蘇生はありえないと思われるケースでも、死亡と心肺停止は厳密に区分けして報じます。どちらか判然としない場合は単に「行方不明者のうち○人が見つかった」としか書かない場合もあれば、「呼びかけに反応はないという」などと分かっている状況をできるだけ具体的に伝える場合もあります。
 人の「死」、しかも不慮の死は家族や知人にはショックが大きく、事実として受け入れるのはとてもつらく、苦しいことです。だから報道は、犠牲者一人一人にそれぞれの人生があり、家族とともに歩んだ時間があることに思いをはせ、その人生の終焉に厳粛に向き合わなければなりません。どんなに混乱を極める災害や事件事故でも、人の死を数字の羅列としてしか見ないということはあってはならないと、わたし自身、教え込まれてきました。だから、死亡と心肺停止を合算してしまうというミスに、驚きを禁じ得ません。

 ■ミスは前日から
 菅官房長官はミスが事務的な集計の段階で起きたと説明したようです。それはその通りかもしれませんが、もう一つ気になるのは、ミスはこの7日だけではなく、地震発生当初からだったのではないか、ということです。
 7日付の手元の朝日、毎日、読売3紙の朝刊を見ると、6日夜の時点での人的被害の集計では、死者数は「9人」(朝日、読売)と、「5人」(毎日)の二つの数字が出ています。「死者9人」は安倍首相が6日午後6時の関係閣僚会議で明らかにした数字でした。「死者5人」は同じ段階で警察庁が集計していた人数で、ほかに「心肺停止4人」もありました。毎日新聞は見出しにこの二つを併記して「5人死亡 4人心肺停止」としていました。わたしは菅官房長官が7日に訂正したことを知って、安倍首相が前日明らかにした「9人」も、同じように死者と心肺停止者を合計した人数ではないのかと疑いを持ちました。
 仮にそうだとすれば、7日早朝の段階で、二つの異なった死者の人数が報道されていたわけで、政府内部の指摘を待つまでもなく、集計の誤りに気付くことが可能だったはずです。しかし前述のとおり、安倍首相は7日午前9時37分の関係閣僚会議で、死者と心肺停止者を合計した「17人」を死者数として公表し(読売新聞)、菅官房長官も午前の定例会見で発表しました。誤りを訂正したのは7日夕方で、まる一昼夜、誤った集計を公表し続けていたことになります。
 ここでは「仮に」と留保を付けましたが、毎日新聞は9日付朝刊で、「関係者によると」として、「6日に発表した死者数にも心肺停止者数が含まれていた。基になる資料で『死者など』とされていたのに、官邸への報告までに『など』が抜け落ち、心肺停止者を死者にカウントした可能性があるという」と報じています。死者と心肺停止者を合計して「死者」の人数を発表するミスはまる一昼夜続き、この間、ミスに気付く機会はあったのに首相も官房長官も気付かなかったのが実態だったと思います。

 ■事務方だけの責任か
 安倍政権のもとで起こった最近の数々の不祥事では、責任は官僚が負い、閣僚ら政治家の責任は極めて軽く扱われるのが常のように思えます。今回の集計の誤りも、事務方の責任で終わるのかもしれません。しかし、「死亡」と「心肺停止」を区別することの意味が政権内に貫かれていれば、このようなミスが起きたでしょうか。あるいは、人間のやることにミスは免れ得ないとしても、もっと早くに気付くことはできたのではないでしょうか。
 報道によると、安倍晋三首相は6日の地震発生当日、「政府としては人命第一で、政府一丸となって、災害応急対応に当たっていく」と記者団の前で話していました。生存者の救出が最優先であることに異存はありませんが、「人命」の尊重とは生存者のことだけを考えていればいいということではないでしょう。無神経に心肺停止者を死者と一緒に集計するのも、ある意味、人命の尊重からかけ離れた行為であると思います。
 前述のように、遅くとも7日早朝には、報道によって死者の数が異なることから、集計のミスに気付く可能性は客観的にもありました。にもかかわらず、間違いを重ねた集計を安倍首相自身が公表していました。そこに政権、政治家は自省を込めるべきだと思います。

 ■ここでも在京紙の二極化
 このミスを巡る報道には顕著な「二極化」の傾向が見られました。
 菅官房長官が7日の記者会見で集計の誤りを認め陳謝したことを、東京発行の新聞5紙(朝日、毎日、読売、産経、東京)が8日付朝刊でどう報じたかをチェックしてみました。朝日新聞、毎日新聞、東京新聞の3紙はそれぞれ1面に、さほど長くはありませんが独立した記事を掲載しています。見出しは以下の通りです。
 ・朝日「死者の人数 政府が訂正」
 ・毎日「首相ら発表の死者数を訂正」
 ・東京「政府、心肺停止時点で『死者に』/菅氏 発表訂正し陳謝」

 一方、産経新聞には関連記事が見当たりませんでした。他紙は前日の夕刊で、政府の発表に基づき、死者と心肺停止者を合わせた人数を死者数として掲載していたことから、事実関係を訂正する続報としても、記事には意味がありました。産経新聞は東京本社では夕刊を発行しておらず、紙面上の訂正の必要はないという事情の違いはあると思います。
 少なからず驚いたのは読売新聞です。見出しがついた一般の記事形式ではなく、「ドキュメント」という時刻と動きを羅列した記録スタイルの記事の中に、4行にわたって「16・21 菅官房長官が記者会見で死者数を訂正。死者と心肺停止を『まとめて計上してしまい申し訳ない』と陳謝」と記述しました。第2社会面の掲載です。よほど隅々まで紙面に目を通さなければ気付かないかもしれません。
 朝日、毎日、東京の3紙が1面で見出しを立てて報じたのに対し、関連記事の掲載がないか、あっても小さな扱いの読売、産経両紙という紙面状況は、特に安倍政権の政策を巡って数年来、顕著になっている論調の二極化に通じるように思います。

■マスメディアの検証

 前述のとおり、毎日新聞は9日付朝刊の1面に、この問題の続報を掲載しています。リードと末尾の部分を引用します。
 ※毎日新聞「『犠牲者』政府先行発表で混乱/官邸主導をアピール?」

 今回の地震では、安倍晋三首相や菅義偉官房長官が犠牲者数をいち早く発表している。国の発表は警察や自治体より遅れることが多く、政府の先行発表は異例だ。政府関係者は「官邸主導をアピールする狙いがある」と話すが、首相が発言した情報が不正確で官房長官が謝罪する事態も招いている。
 (中略)
 関係者によると、6日に発表した死者数にも心肺停止者数が含まれていた。基になる資料で「死者など」とされていたのに、官邸への報告までに「など」が抜け落ち、心肺停止者を死者にカウントした可能性があるという。政府関係者は「今回は自民党総裁選もにらみ、危機管理態勢の充実ぶりをアピールする狙いもあったかもしれない」と指摘する。

 ネットでも読めるようです。
 https://mainichi.jp/articles/20180909/ddm/001/040/160000c

 このようなミスがなぜ起きたか、早くに気付く機会があったのに訂正までなぜ一昼夜かかったか、「人命第一」のアピールに「自民党総裁選」という「私心」が入り込んでいなかったか―。これらは時の政治権力に対するマスメディアの検証に値するテーマであり、毎日新聞に他メディアも続いてほしいと思います。

沖縄知事選と辺野古の在京紙報道の記録②~県民投票求め署名9万提出

 沖縄県知事選や辺野古新基地建設問題、沖縄の基地集中を巡る東京発行新聞各紙の報道の記録の続きです。9月4日付朝刊から7日付朝刊までです。

【9月4日付朝刊】
▼朝日
4面「沖縄知事選に総力/与党 党幹部ら続々と/野党 オール沖縄前面」図表
第2社会面(30面)沖縄2018「佐喜真氏の政策 辺野古に触れず/知事選へ『注視したい』」

▼毎日(なし)

▼読売
4面「辺野古承認撤回『残念』」※短信・官房長官会見
4面「二階氏沖縄入り」※短信

▼産経
5面ルポ「『生活第一』の住民と距離/辺野古承認撤回 気勢上げる反対派/県庁に押しかけ、職員は過激行動警戒」写真、地図
5面「二階氏 沖縄シフト/知事選 勝って幹事長続投に道筋」
5面「辺野古賛否示さず 佐喜真氏が政策集」

▼東京
3面「辺野古是非 明記せず/沖縄知事選 佐喜真氏が公約発表」写真
3面「辺野古サンゴ採捕不許可に/沖縄県、承認撤回で」
23面(特報面)「長径2メートル超すサンゴの群体」辺野古・高江リポート(琉球新報転載)写真

【9月5日付朝刊】
▼朝日
第3社会面(25面)「最後の会見前 翁長氏『体調ぼろぼろ…』/がん末期の日々 妻が語る」写真
▼毎日(なし)
▼読売
4面「自民 沖縄知事選に注力/菅・二階氏ら現地入り/新総裁の初陣」総裁選2018、写真
4面「沖縄 二つの風景」政(まつりごと)なび
▼産経
5面「沖縄知事選 二階氏が佐喜真氏激励」※短信
▼東京(なし)

【9月6日付朝刊】※台風21号で関西空港浸水
▼朝日 ※県民投票は5日夕刊にも掲載
第3社会面(33面)「辺野古 県民投票審議へ/署名9万筆提出 県に条例案請求」
第3社会面「事前連絡なく米軍ヘリ着陸 沖縄・久米島空港」

▼毎日
10面・記者の目「『魂の飢餓感』に答えを/故翁長沖縄県知事 本土への問い」西部報道部・佐藤敬一記者、写真、顔写真
第3社会面(27面)「辺野古 県民投票を請求/市民団体 署名9万人 県に提出」
第3社会面「米軍普天間ヘリ 沖縄で緊急着陸 久米島」

▼読売 ※県民投票は5日夕刊に掲載
第3社会面(33面)「沖縄・久米島空港に米軍ヘリ緊急着陸」

▼産経
5面「辺野古移設問う県民投票条例 請求」
第3社会面(24面)「普天間の米軍ヘリ、久米島に緊急着陸」※短信

▼東京 ※県民投票は5日夕刊に掲載
3面「佐喜真氏と玉城氏 初の公開討論会 沖縄知事選」
3面「沖縄・久米島空港 米軍ヘリ緊急着陸」
第3社会面(29面)「沖縄で米軍ヘリ緊急着陸」※短信

【9月7日付朝刊】※北海道で震度7
▼朝日(なし)
▼毎日(なし)
▼読売(なし)
▼産経(なし)
▼東京
4面:日々論々「視点 沖縄から/翁長氏の魂 継承すべき」比屋根照夫氏(琉球大名誉教授)顔

沖縄知事選と辺野古の在京紙報道の記録①~玉城氏が出馬表明/埋め立て承認撤回

 沖縄県知事だった翁長雄志氏の死去に伴う知事選が9月30日に実施されます。翁長氏が後継者として名前を挙げていたとされる自由党の衆院議員玉城デニー氏と、安倍晋三政権の与党の自民、公明両党が推す前宜野湾市長、佐喜真淳氏の事実上の一騎打ちになると伝えられています。
 翁長氏は宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設問題を巡り、県内の名護市辺野古への新基地建設を阻止するとの公約を貫き、辺野古の埋め立て承認を撤回することを7月末に表明した後、亡くなりました。県は8月31日に正式に承認を撤回しました。
 こうした状況下で行われる知事選では、普通に考えれば辺野古への新基地建設の是非が最大の争点です。沖縄の基地集中の問題は沖縄という1地域に固有の問題ではなく、日本全体の問題です。この沖縄県知事選挙がどのように戦われ、どのような結果になるのか、前後して日本政府・安倍晋三政権が辺野古新基地の工事を巡ってどんな動きをするのか、あるいはしないのか、といったことが沖縄県外、日本本土で広く知られることには大きな意味があります。そこに日本本土のマスメディアの役割もあります。
 沖縄の基地集中の問題では、しばらく前から本土マスメディアの報道は日本政府支持と日本政府に批判的な論調とに二極化してきました。そこで今回の沖縄知事選や辺野古の新基地建設工事についても、東京発行の新聞各紙がどんな形でどれだけ報じたかを記録してみようと思います。沖縄の基地集中に関わる記事であれば、対象にします。見出しからでも各紙の論調の違いは感じ取れるのではないかと思います。
 なお、産経新聞は東京本社では夕刊を発行していないので、各紙の記録も朝刊だけを対象にします。また経済紙の日経新聞は調査に含めません。知事選に玉城デニー氏が出馬を表明したニュースが載った8月30日付朝刊から始めます。社説や短信も含めて関連する記事の主な見出しと扱い、写真や図表の有無もあわせて何日分かをまとめて随時、書きとめていくことにします。

 

【8月30日付朝刊】沖縄県知事選に玉城デニー氏が出馬表明(8月29日)
▼朝日新聞
1面「玉城氏が出馬表明/佐喜真氏と対決へ」顔写真2枚
4面「枝野氏、辺野古に反対」※短信
社会面トップ・沖縄2018「辺野古 交わらない世代/『どうせ基地できる』保育無料化歓迎/移設反対『若者に届きにくい』危機感」写真2枚、地図1枚

▼毎日新聞
1面「沖縄県あすにも撤回/辺野古埋め立て承認 政府対抗へ」
3面・クローズアップ「『オール沖縄』再現遠く/保守一部離れ『弔い』頼み」「翁長氏批判 自公避け」図表1枚
5面「移設反対仲西氏出馬を正式表明 宜野湾市長選」

▼読売新聞                                  
1面「玉城氏が出馬表明/沖縄知事選 佐喜真氏と対決へ」顔写真2枚
3面・スキャナー「沖縄 与野党駆け引き/『辺野古』争点化 与党は警戒/佐喜真氏」「弱い強調 野党共闘『試金石』/玉城氏」図表1枚

▼産経新聞
2面「埋め立て承認 近く撤回/沖縄県『準備が整い次第』」
2面「玉城氏が出馬表明 沖縄知事選」顔写真1枚
5面「承認撤回で求心力維持/オール沖縄 市民団体要求のむ」
5面「枝野氏、辺野古移設反対を表明」※短信

▼東京新聞
1面「『辺野古阻止を貫徹』/沖縄知事選 玉城氏が出馬会見」顔写真
2面・核心「オール沖縄vs政権/玉城氏 辺野古 前面に/佐喜真氏 公明推薦 力に」顔写真2枚、図表1枚
2面「PTA連前会長の仲西氏が出馬表明 宜野湾市長選」

 

【8月31日付朝刊】
▼朝日
4面「沖縄知事選 立候補予定の2人、どんなひと?」「玉城デニー氏 故・翁長氏の後継 DJで人気に」「佐喜真淳氏 政権とパイプ 落選ゼロの前市長」写真2枚
4面「共産・志井氏、立憲の辺野古移設反対表明を『歓迎』」※短信
▼毎日
2面「辺野古埋め立て承認/沖縄県 きょう撤回へ」
2面「沖縄住民の安全懸念/国連委、日本政府に勧告」※ジュネーブ共同電
社説「沖縄知事選の構図固まる 『辺野古』の膠着に道筋を」
▼読売
2面「辺野古承認きょう撤回 沖縄県」
▼産経
5面「辺野古埋め立て きょう承認撤回 沖縄県」
5面「維新、沖縄知事選であす佐喜真氏推薦」※短信
▼東京
3面「辺野古承認 きょう撤回/沖縄県 故翁長氏表名を重視」
3面「『承認撤回 拍手送る』都内で集会」写真
社説「沖縄県知事選 辺野古の是非を語れ」

 

【9月1日付朝刊】沖縄県が辺野古埋め立て承認を撤回(8月31日)
▼朝日
1面準トップ「辺野古埋め立て承認撤回/沖縄県 国、法的対抗措置の方針」
2面・時時刻刻「辺野古 知事選控え神経戦」「オール沖縄勢力 移設反対の機運に弾み/「政権 悪影響懸念 工事再開に慎重」「民意示す手段 市民模索/県民投票や条例 現状変える一歩」写真、図表
社説「辺野古工事 全ての自治体の問題だ」
※1面トップは「中高生ネット依存7人に1人」

▼毎日
1面トップ「県 辺野古承認を撤回/埋め立て 翁長氏方針通り/政府 法的措置へ」写真、地図
3面・クローズアップ「知事選にらみ日程攻防/オール沖縄歓迎」「工事延期 政府、渡りに船」図表
社会面「県、翁長氏の遺志継ぐ/『国に勝てぬ』冷めた声も」写真

▼読売
1面中「辺野古承認 県が撤回/工事中断 国、法的措置で対抗へ」地図
2面「辺野古撤回 知事選を意識/政府、移設問題過熱を懸念」写真、図表
※1面トップは「日銀総裁『利上げ長期間しない』」

▼産経
1面準トップ「沖縄県、辺野古承認を撤回/政府は法的措置で対抗」図表、地図
2面「辺野古撤回 隠せぬ政治性/沖縄知事選 県側、玉城氏に期待」
社説(「主張」)「辺野古埋め立て 知事選目当ての『撤回』だ」
※1面トップは「概算要求 102兆円台後半」

▼東京
1面トップ「沖縄県が承認撤回/辺野古埋め立て中断/知事選控え国と対決/防衛省は法的対抗措置へ」写真1枚、図表2枚
3面「知事選争点 新基地際立つ/玉城氏『強く尊重』」
社会面トップ「沖縄だけの問題じゃない/沖縄 翁長氏の遺志継ぐ」(琉球新報)「首都圏・市民団体 『移設強行は自治破壊』」写真1枚

 

【9月2日付朝刊】
▼朝日
3面「翁長知事の言葉のゆくえ」日曜に想う、福島申二編集委員
4面「佐喜真氏の推薦 維新の会が決定 沖縄知事選」
▼毎日
2面「佐喜真氏支援へ 菅氏が沖縄訪問」
2面「維新、佐喜真氏推薦を決定」※短信
▼読売
4面「沖縄の方向性決める選挙/菅氏、現地で知事選テコ入れ」
4面「佐喜真氏の推薦決定 日本維新の会」
社説「辺野古承認撤回 対立をあおる手法は疑問だ」
▼産経
4面「沖縄知事選、維新が佐喜真氏推薦決定」※短信
▼東京
2面「維新、佐喜真氏推薦 沖縄知事選」
特報面(26~27面)「戦争を肌で知る/沖縄・チビチリガマの悲劇 展示で再現」写真3枚、顔写真1枚

 

【9月3日付朝刊】
▼朝日
1面トップ「沖縄を見る目 アムロが変えた」写真1枚:企画「平成とは」第3部 うつろう空気① ※2面続き「高まる存在感 本土と摩擦/『恵まれた地域』―変わる印象 絶えぬ差別」写真3枚、図表1枚
第2社会面「名護市議選が告示」※短信
▼毎日
2面「辺野古移設『反対』42%/『賛成』33% 意見割れ 本社世論調査」写真
▼読売
 (なし)
▼産経
2面「名護市議選など告示/9日投開票 沖縄知事選の前哨戦」
▼東京
2面「辺野古是非32人激戦/名護市議選告示 知事選を左右」

「公約貫く重い判断」(沖縄タイムス)、「遺志を実行に移したことを評価」(琉球新報)~辺野古埋め立て承認撤回の報道の記録

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設計画に対して沖縄県は8月31日、日米両政府が移設先として合意している沖縄県名護市辺野古の埋め立て承認を撤回しました。8月8日に死去した翁長雄志前知事が承認撤回の方針を明言していました。日本政府は辺野古地区への新基地建設の法的根拠を失い、建設工事はただちに中断することになりました。いずれ、日本政府は撤回の執行停止などを裁判所に申し立てる方針と報じられており、9月30日投開票の県知事選とともに、推移を注視していきたいと思います。
 この沖縄県の埋め立て承認撤回について、沖縄の地元紙である沖縄タイムス、琉球新報がどう受け止めているか、9月1日付の両紙の社説の一部を引用します。両紙とも撤回を評価し、日本政府に対して辺野古への新基地建設を断念するよう求めています。

※沖縄タイムス:社説「[『辺野古』承認撤回]工事強行の瑕疵明白だ」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/307645

 翁長氏が撤回表明してから1カ月余り。翁長氏の公約を貫く重い判断である。
 (中略)
 撤回によって工事は法的根拠を失い、即時中断した。
 ただ、国は対抗措置として撤回の取り消しを求める訴訟や撤回の効力の一時停止を求める申し立てなどを取る方針だ。再び法廷闘争に入るとみられる。
 県と国の対立がここまで深まったのはなぜか。
 ずさんな生活・自然環境の保全策。選挙で示された沖縄の民意無視。「辺野古が唯一の解決策」と言いながら、果たされぬ説明責任…。県外から機動隊を導入するなど強行姿勢一辺倒の安倍政権のやり方が招いた結果である。
 安倍政権は県が撤回せざるを得なかったことを謙虚に受け止めるべきだ。
 小野寺五典防衛相は「法的措置を取る」と明言しているが、裁判に訴えるのではなく、県の撤回を尊重し、工事を断念すべきである。

※琉球新報:社説「県が辺野古承認撤回 法的対抗措置やめ断念を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-794750.html

 政府が工事中断に伴う損害賠償の可能性をちらつかせる中で、謝花喜一郎、富川盛武両副知事ら県首脳が故・翁長雄志知事の遺志を実行に移したことを評価したい。
 (中略)
 県民の間に強い反対がある中で新基地建設を強行するのは政府に対する不信感を増幅させるだけだ。沖縄に矛先を向けるのではなく、米国政府と真正面から向き合って、県内移設を伴わない普天間飛行場の返還を提起すべきだ。
 承認撤回を受け、政府は法的対抗措置を取ることを明らかにした。国、県の対立がまたしても法廷に持ち込まれる。
 強い者にへつらい、弱い者に強権を振りかざす。今の日本政府は時代劇でお目にかかる「悪代官」のように映る。
 政府首脳はこれまでの対応を省みて恥ずべき点がなかったのか、胸に手を当ててよく考えてほしい。対抗措置をやめ、新基地建設を断念することこそ取るべき選択だ。

 また、埋め立て承認撤回を東京発行の新聞各紙が9月1日付朝刊でどのように報じたか、扱いや主な見出しを書きとめておきます。
 1面トップで扱ったのは毎日新聞と東京新聞でした。両紙とも総合面のほか社会面にも記事を掲載しています。ともに以前からこの問題では日本政府・安倍晋三政権の方針に批判的な論調です。
 朝日、読売、産経の各紙も1面です。毎日、東京と同じく安倍政権に批判的な朝日は、写真や地図、図表もなく、見た目に地味だと感じました。安倍政権の方針支持が明確な読売、産経と比べても控え目な扱いが目立つように思います。日経新聞は1面の掲載はなく、総合面の扱いでした。

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▼朝日新聞
1面準トップ「辺野古埋め立て承認撤回/沖縄県 国、法的対抗措置の方針」
2面・時時刻刻「辺野古 知事選控え神経戦」「オール沖縄勢力 移設反対の機運に弾み/「政権 悪影響懸念 工事再開に慎重」「民意示す手段 市民模索/県民投票や条例 現状変える一歩」写真、図表
社説「辺野古工事 全ての自治体の問題だ」

▼毎日新聞
1面トップ「県 辺野古承認を撤回/埋め立て 翁長氏方針通り/政府 法的措置へ」写真、地図
3面・クローズアップ「知事選にらみ日程攻防/オール沖縄歓迎」「工事延期 政府、渡りに船」図表
社会面「県、翁長氏の遺志継ぐ/『国に勝てぬ』冷めた声も」写真

▼読売新聞
1面・中「辺野古承認 県が撤回/工事中断 国、法的措置で対抗へ」地図
2面「辺野古撤回 知事選を意識/政府、移設問題過熱を懸念」写真、図表

▼日経新聞
4面「辺野古埋め立て承認撤回/県『翁長氏 強い意志』/移設工事中断 政府は対抗措置へ」/「米軍普天間基地の辺野古移設」※用語説明

▼産経新聞
1面準トップ「沖縄県、辺野古承認を撤回/政府は法的措置で対抗」図表、地図
2面「辺野古撤回 隠せぬ政治性/沖縄知事選 県側、玉城氏に期待」
社説(「主張」)「辺野古埋め立て 知事選目当ての『撤回』だ」

▼東京新聞
1面トップ「沖縄県が承認撤回/辺野古埋め立て中断/知事選控え国と対決/防衛省は法的対抗措置へ」
3面「知事選争点 新基地際立つ/玉城氏『強く尊重』」
社会面トップ「沖縄だけの問題じゃない/沖縄 翁長氏の遺志継ぐ」(琉球新報)「首都圏・市民団体 『移設強行は自治破壊』」

 このブログで繰り返し触れているように、沖縄の基地集中は日本の安全保障政策の問題であって、沖縄一地域の問題ではありません。日本全体の問題です。そして、地域の民意は反対が明らかなのに、それが無視されて国家的政策が強行されていくようなことがほかの地域では起こっていないのだとしたら、辺野古の工事強行は沖縄に対する差別としか言いようがありません。
 沖縄の基地集中の問題は、沖縄県外、日本本土に住む日本国の主権者がどう考えるかによって変わりうるだろうと思います。そのためにはまず、沖縄で何が起こっているかが沖縄県外、日本本土でも広く知られなければなりません。その意味で、日本本土のマスメディアが何をどう伝えるかには大きな意味があります。9月30日の沖縄県知事選へ、さまざまな動きが続くと思われます。日本本土での報道も注視しています。

辺野古移設、否定意見が肯定上回る~世論調査3件に共通

 8月最終の週末に実施された4件の世論調査の結果が報じられています。
 目を引くのは沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設問題です。日米両政府が合意し、安倍晋三政権が進めている沖縄県内、名護市辺野古への移設についての賛否を共同通信、産経新聞・FNN、読売新聞の3件の調査が尋ねています。質問の文章は異なっているのですが、いずれも安倍政権の方針に否定的な回答が肯定的な回答を上回っています。辺野古移設に反対し、沖縄県知事として安倍政権と対峙した翁長雄志氏の訃報が沖縄県外でも大きく報じられたことが、世論調査にも関係しているのかもしれません。いずれにしても、このまま辺野古に新基地建設を強行しても、民意の多数の支持は得られないようです。
 沖縄では、9月に行われる知事選に、翁長氏の後継として出馬することを自由党の玉城デニー衆院議員が8月29日に表明しました。玉城氏は出馬表明の会見で、辺野古新基地建設について「絶対に避けて通れない争点だ。翁長雄志知事は『あらゆる手段を尽くして辺野古新基地建設を止める』と言っていた。しっかり私も受け継いでいく。その方向性は1ミリもぶれることはない」(琉球新報)と述べたと報じられています。
 自民党、公明党の国政与党側の候補として既に出馬を表明している前宜野湾市長の佐喜真淳氏は、宜野湾市長選では辺野古移設の是非には触れず、普天間飛行場の早期返還を訴えて市長になった経緯があります。共同通信の世論調査の記事によると、辺野古移設方針と支持政党との関係では、自民党支持層の62・2%が移設を支持するとしたのに対し、公明党は40・9%にとどまりました。公明党は沖縄の地元組織は移設に反対しています。知事選では佐喜真氏がどういう公約を掲げるのか。注視したいと思います。

 ※琉球新報「玉城氏が知事選出馬を正式表明 『翁長氏の遺志継ぐ』」2018年8月30日
 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-793407.html

 憲法改正を巡っては、安倍首相は自民党の改憲案提出に前のめりですが、世論調査では急ぐ必要はないとの考えが多数派であることがうかがえます。その一方で、自衛隊の存在を明記するかどうかが焦点の9条の改正問題では、改正自体必要ないとの回答も3割以上あります。質問の尋ね方が変われば回答状況も大きく変わる余地もありそうです。
 2020年の東京五輪の猛暑対策として政府が検討に着手したとされるサマータイムに対しては、4件の調査とも、反対が賛成を上回りました。
 以下に、主な調査の結果を引用して書きとめておきます。

▼内閣支持率 ※()は前回比、Pは「ポイント」
・共同通信 8月25、26日実施
 「支持」44・2%(0・8P増) 「不支持」42・4%(0・6P増)
・産経新聞・FNN 8月25、26日実施
 「支持」45・6%(3・5P増) 44・4%「不支持」(2・9P減)
・日経新聞・テレビ東京 8月24~26日実施
 「支持」48%(3P増) 「不支持」42%(5P減)
・読売新聞 8月24~26日実施
 「支持」50%(5P増) 「不支持」40%(5P減)

▼サマータイム導入
・共同通信 賛成30・8% 反対61・6%
・産経・FNN 賛成37・0% 反対57・5%
・日経・テレビ東京 賛成31% 反対55%
・読売新聞 賛成40% 反対50%

▼自民党の憲法改正案
・共同通信
 「自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう取りまとめを加速すべきだ」との安倍首相の意向について
 賛成 36・7% 反対 49・0%

・日経・テレビ東京
 秋の臨時国会に提出すべきだ 17%
 提出を急ぐべきではない 73%

・読売新聞
 自民党が憲法改正案を提出する時期は、いつがよいと思うか(一つ選ぶ)
  今年秋の臨時国会 18%
  来年前半 12%
  来年後半 11%
  再来年以降 14%
  改正案を提出する必要はない 31%

▼憲法9条改正
・共同通信
 憲法9条の改正について安倍首相は、戦力を持たないことを定めた9条の2項を維持したまま自衛隊を明記する考え。一方、自民党

内には9条の2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける考えも。
 9条2項を維持したまま、自衛隊を明記すべきだ 40・0%
 9条2項を削除した上で、自衛隊を戦力と位置付けるべきだ 17・8%
 自衛隊の存在を明記する憲法改正は必要ない 30・9%

・産経・FNN
 2項を維持したまま自衛隊を明記する安倍首相案を支持 21・9%
 2項の削除と国防軍の創設を持論とする石破氏案を支持 22・2%
 両案と異なる9条改正 12・1%
 9条改正は必要ない 38・1%
 
・読売新聞
 自民党は、憲法に自衛隊の存在を明記することについて、戦力を持たないことを定めた9条2項を維持したうえで、自衛隊の根拠規

定を追加する案を検討。この案に
 賛成 45% 反対 38%

▼辺野古
 沖縄県の米軍普天間飛行場を同県名護市辺野古へ移設する政府・安倍内閣の方針について
・共同通信
 支持する 40・3%
 支持しない 44・3%

・産経・FNN
 県外移設を目指すべきだ 48・4%
 政府が進める「危険性除去のため早期の辺野古移設」を支持 44・0%

・読売新聞
 評価する 35%
 評価しない 48%

「薩長で新しい時代を」と口にする安倍首相の歴史観~「明治維新150年」は「戊辰150年」でもある 【追記】福島民友新聞の社説「新時代は総力でつくらねば」

 安倍晋三首相が8月26日、視察先の鹿児島県垂水市で記者団に対し、9月の自民党総裁選に3選を目指して出馬することを表明しました。東京での記者会見ではなく視察先で、しかも桜島をバックに視覚的な演出もうかがわれるやり方での出馬表明は異例のこととして、マスメディアの報道でもさまざまに解説されています。
 わたしが気になったのは、鹿児島の地で山口県出身の安倍首相が「薩長」という言葉を使ったことです。江戸時代の末期、鹿児島の薩摩藩と山口の長州藩は政治的、軍事的同盟を結びます。大政奉還で徳川幕府体制が終焉した後は、明治の新政府では重要な役職に両藩出身者が多く就き、「藩閥政治」とも呼ばれました。報道によると、安倍首相は出馬表明の前に行った講演で、薩摩の西郷隆盛を主人公にしたNHKの大河ドラマにも触れながら、自らをかつての「長州」になぞらえてか「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」(産経新聞)と述べたとのことです。
 自民党の総裁選は党所属の国会議員の票と地方組織の票の合計で争われ、安倍首相との一騎打ちになりそうな石破茂氏は地方組織票に強いとの評があります。安倍首相の東京を離れての出馬表明は、地方組織票を狙い、地方重視をアピールするためとの見方が報道では有力です。その通りだとすれば、かつての薩摩と長州の同盟になぞらえて「薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」と述べたのは、鹿児島の自民党組織を意識したリップサービスなのでしょう。しかしわたしは、仮にも現職の首相である政治家が「薩長」をそのような文脈で口にすることに、どうにも政治家としての資質の底の浅さを感じずにはいられません。
 ことしは1868年の明治維新から150年です。明治維新を近代国家日本の歩みの始まりとして肯定的にとらえる見方もあるでしょう。ただ、全ての人がそうした見方で一致するとは限りません。明治維新は戊辰戦争という内戦と表裏一体でした。東北や越後では諸藩が薩長両藩や土佐藩、肥前藩などからなる新政府軍に対抗して奥羽越列藩同盟を結び、各地で激しい戦火を交えました。新政府軍は官軍、それに歯向かうのは賊軍です。激しい戦闘があった場所の一つ、福島県の会津若松市ではことし、「戊辰150年」として記念事業を行っています。そういう地域もあるのに「薩長で新たな時代を切り開く」という物言いは、日本全体に責任を負う首相の発言としては少なからず違和感を覚えます。もちろん、歴史をどう受け止めるかは個々人の自由です。しかし、日本国の全体に責任を負う国会議員、ましてや首相ともなれば、おのずとわきまえるべき一線があるはずです。
 先に「資質の底の浅さ」と書きましたが、言葉の選び方一つにも隅々に気を使うような細やかさを欠いている、と言ってもいいと思います。政治家の資質には歴史観や大局観が問われ ます。今日「薩長で新たな時代を」と口にするような歴史観で、例えば沖縄の基地集中の問題をどのように考えているのか。薩長主導の明治政府による「琉球処分」に始まる沖縄の現代史をどのように理解しているのか。沖縄県知事として沖縄の民意を背負って故翁長雄志氏が発した「魂の飢餓感」という言葉を、どういう風に解釈しているのか-。そうしたことも聞いてみたい気がします。
 政治家がどんな言葉を使って何を語るかは、社会で共有すべき情報です。選挙に際して、有権者が一票を行使する際の重要な判断材料になるからです。
 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の中で、安倍首相の「薩長」発言を27日付朝刊で紹介したのは朝日、毎日、読売、産経の4紙でした。いずれも出馬表明の背景などを深掘りした、総合面の読み物記事の中です。各紙の関係部分を引用して書きとめておきます。

▼朝日新聞2面「遅れた表明 論戦避ける狙い?/桜島背景に 地方・若者を意識」 

 26日午後、快晴の鹿児島県垂水市。錦江湾越しに見える雄大な桜島を背景に、首相は総裁選への立候補を正式に表明した。「あと3年、自民党総裁として、首相として日本のかじ取りを担う決意だ。来月の総裁選挙に出馬します」
 総裁選への立候補表明を、地方視察にあわせるのは異例だ。カメラ目線で語る出馬表明をNHKが生中継した。山口が地盤の首相は放映中の大河ドラマ「西郷どん」を意識。直前には鹿児島選出議員が開いた会合の演説で「今晩は西郷どん。薩長で力を合わせて、新たな時代を切り開いていきたい」と語った。若者向けにPRできる「インスタ映え」の意識もにじむ。

▼毎日新聞3面「首相 政策論争避け/石破氏 党員票に逆転託す/安倍氏 支持率受け手堅く」

 首相は26日、宮崎県から鹿児島県に移動し、垂水市の海潟漁港で「気力、体力、十二分であるとの確信に至った」と総裁選への立候補を表明した。この日を選んだのは2012年12月26日の第2次安倍内閣発足から5年8カ月の節目の意味があり、桜島を背景に地方重視の姿勢も演出。直前の鹿屋市での講演では「今晩はNHKの『西郷どん』。(首相の出身地の山口県と)薩長で力を合わせて新たな時代を切り開いていきたい」とサービスした。

▼読売新聞3面・スキャナー「首相、地方重視の姿勢/桜島背に表明 党員票固め」 

 ■薩長同盟
 「平成の時代に向けて、新たな国造りを進めていく先頭に立つ決意だ」
 26日午後、首相は鹿児島のシンボル・桜島を背景に自民党総裁の連続3選に挑む意欲をこう語った。
 2012年総裁選は党本部、15年は東京都内で立候補を表明した。地方での表明は異例だ。あえて地方の場を選んだのは、今回から国会議員票と同数になり、比重が大きくなった党員票を意識してのことだ。
 鹿児島の特産品「大島つむぎ」のネクタイを着用した首相は、「美しい伝統ある古里を(次世代に)引き渡す」と地方重視の姿勢を強調し、地方活性化を掲げる石破茂・元幹事長への対抗心をあらわにした。
 演出にもこだわった。鹿児島の旧薩摩藩と、首相の地元・山口の旧長州藩との「薩長同盟」が明治維新の原動力となったことと、自身の改革姿勢を重ねる狙いがあった。首相は出馬表明に先立つこの日の講演で、「薩長で力を合わせて新たな時代を切りひらきたい」と力を込めた。

▼産経新聞5面「『薩長同盟』を演出/石原派取りまとめ 森山氏に返礼」
http://www.sankei.com/politics/news/180826/plt1808260018-n1.html 

 9月の自民党総裁選で連続3選を目指す安倍晋三首相(党総裁)が、正式な出馬表明の舞台に選んだのは、森山裕国対委員長の地元の鹿児島県だった。森山氏は先の通常国会対応で尽力し、「反安倍」に傾きそうだった石原派(近未来政治研究会、12人)を首相支持でまとめた。山口県選出の首相は森山氏への返礼の意味も込めて「平成の薩長同盟」を演出したともいえる。(今仲信博)
 「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」
 首相は26日、鹿児島県鹿屋市で開かれた森山氏の後援会合に出席し、新時代の「薩長」の絆を大切にする考えを強調した。
 首相は、7月に鹿児島入りする予定だったが、西日本豪雨の対応で延期していた。今回は訪問の約束を守るだけでなく、鹿児島のシンボル・桜島の雄大な景色をバックに出馬表明まで行った。
 (中略)
 もっとも、森山氏の厚遇は、党内でくすぶる「反安倍」勢力への見えざるメッセージという面もある。
 首相は25日に宮崎県に入り、地元首長や県議らと会食した。宮崎は石破茂元幹事長が率いる石破派(水月会、20人)の古川禎久事務総長の地元でもあり、宮崎入りは党員票を意識した石破陣営への牽制(けんせい)でもある。
 首相が言う「平成の薩長同盟」には、硬軟織り交ぜて「反安倍」の芽をつぶす狙いも込められている。 

 時事通信は出稿記事の中で「会津藩」にも触れました。見識だと思います。

※時事ドットコム「『薩摩・長州で新時代』=安倍首相」2018年8月26日
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2018082600374&g=pol

 安倍晋三首相は、自民党総裁選への出馬を表明する舞台に鹿児島県を選んだ。首相の地元の山口との「薩長同盟」が明治維新の契機となったことにちなんだとみられる。出馬表明に先立つ26日午後、鹿児島県鹿屋市の会合で講演した首相は「しっかり薩摩藩、長州藩で力を合わせて新たな時代を切り開いていきたい」と力を込めた。
 ただ、薩長が中心の新政府軍が戊辰戦争で会津藩などを攻め立てた歴史があり、旧幕府軍側だった地域で反発が出る可能性もある。

 時事通信は立憲民主党の枝野幸男代表の反応も出稿しています。

※時事ドットコム「枝野立憲代表、安倍首相の薩長発言批判=『国民分断は間違い』」2018年8月27日
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2018082700854&g=pol

 枝野氏は「わが党には鹿児島選出もいる一方で、(薩長と対抗した)福島の人間も、奥羽越列藩同盟の地域だった人間もいる。わが国を分断するような、国全体のリーダーとしては間違った言い方だ」と断じた。

 

【追記】2018年8月29日6時50分
 福島県の地方紙、福島民友新聞が28日付の社説で安倍首相の「薩長」発言を取り上げています。

※福島民友新聞「【8月28日付社説】首相『薩長発言』/新時代は総力でつくらねば」
 http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20180828-301599.php 

 首相は山口県が地元。幕末の薩長同盟を念頭に、講演を盛り上げるために言及したとみられる。また、薩長同盟が明治維新の道を開いたことと、自らの改革姿勢を重ねたのではとの見方もある。
 150年の節目に「新たな国造り」を強調しようという考えは分からないわけではない。しかし、戊辰戦争で薩長を中心とする新政府軍が会津藩など旧幕府軍を打ち負かした歴史に思いをはせれば、節目の年だからこそ発言に配慮があってしかるべきだっただろう。
 首相は1月の施政方針演説で、会津出身で明治時代の教育者・山川健次郎の「国の力は、人に在り」を引用して、「あらゆる日本人にチャンスを作ることで、少子高齢化も克服できる」と述べた。
 しかし、首相が掲げる地方創生は人口減少の抑制がかなわず、東京一極集中は一段と進んでいる。圧勝ともいわれる総裁選であればこそなおそれぞれの地方の良さを引き出し、国を挙げて国造りに取り組むことができる戦略や政策を示し、石破氏と「骨太の議論」を戦わせてほしい。

 

【追記】2018年8月29日21時30分
 立憲民主党の枝野幸男代表は、自身のツイッターでも考えをまとめて述べています。

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「唐突感は否めない」(佐賀新聞)、オスプレイ受け入れ佐賀県知事が表明

 陸上自衛隊が導入する米国製の輸送機V22オスプレイの佐賀空港配備計画について、佐賀県の山口祥義知事が8月24日会見し、受け入れを表明しました。会見に先立ち同日、小野寺五典防衛相と会談し、国が20年間で100億円の使用料を支払い、県がこれを元に漁業振興基金などを創設するなどの使用条件で合意しました。佐賀空港は有明海に接しており、オスプレイ配備に際しては空港隣接地を国が取得してオスプレイ部隊の駐屯地を建設する計画で、県は予定地を所有する漁協と協議に入ると報じられています。
 佐賀県の地元紙の佐賀新聞は25日付の論説で「唐突感は否めない」との見出しを掲げ「駐屯地予定地の地権者である漁業者の理解が得られていない中での判断は、スケジュールありきの印象も拭えない」と指摘。このニュースの大きなポイントである100億円の空港使用料と漁業振興基金を中心に、以下のように疑問を示しています。

※佐賀新聞LIVE:論説「オスプレイ配備受諾 唐突感は否めない」2018年8月25日
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/264598

 合意した事項は、防衛省、佐賀県、県有明海漁協などの関係機関が参加して環境保全と補償を検討する協議会の設置や、自衛隊機の空港着陸料で5億円を20年間支払って計100億円の漁業振興基金(仮称)を創設すること、事故など重大事案に対応する両者のホットライン設置を盛り込んだ。
 驚いたのは100億円の基金である。突然出てきた。漁業者が要望した金額ではなく、県は防衛省と交渉で折り合った額として明確な算定根拠を示さなかった。財源となる県営空港の着陸料は県民の財産であり、本来は空港の維持管理に充てるはずだ。漁業者だけに使う「特定財源」化は、防衛省の管轄外の漁業振興策に使うための「秘策」かもしれないが、これまで表立った議論はなく、妥当性には疑問がある。
 県と防衛省は水面下で交渉を続けてきた。当の漁業者には1年前に県が聞き取りをしたものの、具体的な交渉は漁業者抜きで進められた。防衛省のコノシロ漁の追加調査もこれからで、仮に影響があれば飛行ルートや飛行時間帯の変更で対応するとした防衛相の発言に、知事が早々と理解を示したことに「筋書きがあったのでは」と不信感を募らせる漁業者もいる。

 佐賀新聞によると、100億円の着陸料の徴収は佐賀県が防衛省に申し入れたようです。

※佐賀新聞LIVE「100億円は佐賀県からの申し入れ 防衛省『応分の負担』」2018年8月25日
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/264701

 防衛計画課は、県側から「漁業振興基金の原資に充てるため、着陸料100億円を徴収したい」との申し入れがあったと説明した。オスプレイ配備には民航機の利用だけを想定して建設された佐賀空港の関連施設を使用する必要があり、空港建設時に国補助事業で県が支出した約200億円を折半することは「応分の負担であり、不合理はない」と判断した。
 20年の根拠は、想定されるオスプレイの運用期間を前提とした。担当者は「まず100億円という額ありきで、防衛省として支払う理屈として着陸料が適切だった」と述べた。

 オスプレイは機体の構造的な欠陥の疑いが根強く指摘されており、沖縄県の米軍普天間飛行場に配備されている米海兵隊のMV22の機体も、死者を出した墜落事故のほか、緊急着陸などのトラブルも続いています。日本政府は機体の安全性に問題はないとの米軍の見解をそのまま受け入れているようですが、それでも配備予定地の地元で慎重ないし反対意見はあって当然のことで、その意味で佐賀県知事の受け入れ表明への唐突感には、受け入れ同意の民意もそろっていないのになぜこの時期に?との疑問も混じっています。
 東京発行の新聞各紙も25日付朝刊では、日経新聞を除いて各紙1面の大きな扱いで報じました。唐突感のゆえだと思います。朝日新聞と東京新聞は1面トップです。以下に主な見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面トップ「オスプレイ佐賀配備合意/防衛省・県 着陸料 年5億円/漁業者は反発」
2面・時時刻刻「オスプレイ いきなり合意/地元反発する中 佐賀知事表明」「防衛省幹部『こんなに早いとは』」「計51機配備計画 陸自・米軍」
▼毎日新聞
1面準トップ「佐賀県 オスプレイ容認/陸自配備 地元漁協と協議へ/着陸料100億円」/用語説明「オスプレイ差が配備計画」
2面「県民不安消えず 時期尚早の声も」※見出し1段
▼読売新聞
1面準トップ「オスプレイ佐賀受け入れ/知事表明 国、着陸料100億円」
2面「佐賀配備 離島防衛の要/政府、漁業者説得急ぐ」
▼日経新聞
社会面「オスプレイ受け入れ表明/佐賀空港配備で知事」※見出し2段
▼産経新聞
1面準トップ「オスプレイ佐賀配備合意/防衛省と県 着陸料 20年で100億円」
▼東京新聞
1面トップ「オスプレイ佐賀配備合意/漁協も協議受け入れ/知事が正式表明/着陸料20年間100億円」
1面「用地交渉、安全性 残る課題」
第2社会面「地元『なぜ急ぐ』『仕方ない』」

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 この中で興味深く読んだのは、読売新聞の2面のサイド記事「佐賀配備 離島防衛の要」です。陸自のオスプレイは離島の上陸・奪還作戦を担当する「水陸機動団」の輸送を担当し、機動団の本拠地の長崎県・相浦駐屯地に近い佐賀空港への配備が急務となっていることを説明した上で、以下のように書いています。

 オスプレイは今秋5機、来年以降は年4機ずつ配備される見通しだ。当面は木更津駐屯地(千葉県木更津市)に暫定配備する方向だが、「佐賀配備が決まらない中では、木更津が受け入れるはずがない」(自民党国防族議員)との見方もあり、防衛省は佐賀県との交渉を急いでいた。

 なぜこの時期に受け入れ表明なのかということに関連して言えば、防衛省側には切迫した事情があるということでしょうか。そうならなおのこと、水面下で続いていたという防衛省と佐賀県の交渉で何が話されていたのか、情報公開が必要でしょうし、マスメディアも深層を探り報じていくべきだと思います。
 オスプレイを巡っては、米空軍の特殊作戦用の機体CV22が5機、東京・横田基地に10月1日に正式配備されることが8月22日に発表されたばかりです。沖縄の普天間飛行場への配備は、沖縄を挙げての反対にもかかわらず、日本政府は米軍の運用のことであるとして、当事者性を放棄したに等しい対応でした。横田配備でも同じ姿勢なのでしょうが、このブログで以前触れたように、日本政府は米国の通知から18日間も秘匿していました。結果として日本国民、地域住民は不意打ちのように配備を知ることになりました。

news-worker.hatenablog.com

 オスプレイ配備を巡っては、沖縄も横田も民意不在、住民無視と言うほかない状況が続いています。日本政府―防衛省が主体になる佐賀のケースはどう進むのでしょうか。なぜ機体の安全面で相対的に定評がある既存のヘリではだめなのか、なぜオスプレイでなければだめなのか。さらには、離島奪還作戦が必要になる現実味はどの程度あるのか、といった「そもそも論」も含めて、マスメディアは報道を展開していっていいと思います。そうなればその先に、佐賀のオスプレイ配備の問題から横田、沖縄のオスプレイ配備の問題へ、さらには沖縄の基地集中の問題へと、当事者意識を備えた社会的議論の高まりも期待できると思います。

日本農業新聞の気骨

 第100回の節目の大会だった今夏の全国高校野球選手権は、金足農業高校が秋田代表としては第1回大会以来103年ぶりの決勝に進み、話題を集めました。県立高校でチーム全員が地元秋田出身。優勝は、史上初の2度目の春夏連覇を遂げた大阪桐蔭高でしたが、後世まで記憶に残るのは「雑草軍団」を自負した金足農高だろうと思わせるほど、強く印象に残るチームでした。
 その金足農高の活躍とともにマスメディアの分野で注目されたのは、専門紙である日本農業新聞が甲子園球場での大会のもようを自社取材で報じたことです。8月21日の決勝の結果は号外紙面を作成し、PDFファイルにして自社サイトにアップ。22日付の紙面でも金足農高の準優勝を1面トップで報じました。専門紙のこうした異例の報道もそれ自体が話題になり、スポーツ紙や一般紙も紹介しました。
 ※日本農業新聞 https://www.agrinews.co.jp/

 ふだんはなじみの薄い専門紙ですが、わたしは日本農業新聞については昨年、印象に残ることがありました。このブログでも書きましたが、昨年9月8日発行の岩波書店「世界」10月号に、わたしが参加した座談会の記事が掲載されました。タイトルは「報道の『沈黙』が社会を壊す―プロフェッショナリズムの不在について」。上智大教授(当時)の田島泰彦さん、立教大名誉教授の服部孝章さんとの3人で、新聞のジャーナリズムについてあれこれ語りました。

news-worker.hatenablog.com

 この座談会の中で、服部さんが日本農業新聞に言及していました。「世界」掲載の記事から関係部分を引用します。公権力と対峙する地方紙についてのわたしの発言に続く服部さんの発言です。

 服部 ただ、共謀罪や安保法制、特定秘密保護法については地方紙は富山県の一部の新聞をのぞいてこぞって反対の論陣をはりましたが、そうした反対姿勢が読者にいきわたっているとはとても思えません。社説では批判を書いていても、実際の選挙ではそのような結果は出ていない。発行部数三十数万部の日本農業新聞だけは、連日アベ農政批判をやっていて、農村票が反アベに出たのに……という気持ちです。
 地方紙はどこも部数を伸ばしているところはなくて、むしろものすごい勢いで減っています。金融庁がつい最近、地方の銀行は合併すべきだというような方針を明らかにしましたが、地方新聞社だってそんな話が出てきても不思議ではない。
 さらに言えば首都圏でも、二〇五〇年には人口が数十パーセント減少する。そうなると、大手新聞社でさえやっていけない可能性もある。確かに社説としてデータが残ってはいても、それが農業新聞くらい読者に伝わっているところは少なくなってくるんじゃないかと思います。

 直接は地方紙の現状への言及ですが、日本農業新聞はその主張が読者に伝わり受け入れられていることの紹介でした。
 今回、農業高校の甲子園での活躍を紙面で取り上げたことも、ふだんからの読者との結び付きの強さがあればこそだろうと推察します。
 服部さんが紹介した「連日アベ農政批判をやっていて、農村票が反アベに出た」という、日本農業新聞のいわば気骨と言ってもいいのではないかと思うのですが、それがよく分かると感じる同紙の論説を引用して書きとめておきます。今年の8月15日付です。

※「不戦の誓い 危険な予兆に声上げよ」
 https://www.agrinews.co.jp/p44885.html

「戦争の始まりは表現の自由への抑圧から」。今年98歳で亡くなった俳人の金子兜太さんの言葉は重い。今日は73回目の終戦の日。「戦争の予兆」をまとう危うい政策に一人一人が声を上げ続けることで、同じ過ちへの道を阻みたい。
 戦争は突然始まるのではない。目に見えない言論・思想統制から始まり、気が付いたら、後戻りできない状況に陥ってしまう。戦争を知る世代の多くは「今の時代は戦前と似ている」と危機感を語る。政府・与党が十分な議論もせず、さまざまな法案を強行的に採決してきた一連の流れがあるからだ。
 安倍政権となって以来、2013年には、知る権利と報道の自由を脅かす特定秘密保護法が成立。14年は、海外での武力行使を禁じた憲法9条の解釈を変え、限定的に集団的自衛権を行使できるよう閣議決定した。15年、自衛隊の海外での武力行使に道を開く安全保障関連法が成立。共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法は、17年に成立した。平和主義を定めた憲法9条改正の動きも、依然としてある。
 この状況に「危ない」と声を上げるのが俳人や作家、映画監督ら表現者だ。日本農業新聞は15日まで「戦争“表現”で語り継ぐ」を連載した。40、50代の戦後の世代と70、80代の戦争を体験した世代の計5人に活動と平和への思いを聞いた。
 (中略)
 危険な種は、育つ前に刈り取らなければならない。日常でパワハラやセクハラ発言、差別などを黙って見過ごしていないだろうか。まずはわが身を振りかえり「おかしい」と思うことに異を唱えるところから始めよう。多くの「自己規制」の積み重ねが、戦争の種を育てる。
 過去の百姓一揆から、近年の環太平洋連携協定(TPP)反対運動へと、農に携わる人たちには反骨精神が息づいている。命を生み出す農業界から「不戦」を貫こう。おかしいことを「おかしい」と自由に言える雰囲気こそが、「戦後」をつくり続ける。

 

「琵琶湖」「えぼし岩」と沖縄の基地集中~京都新聞と琉球新報のコラムから

 先日の記事の続きです。沖縄の基地集中の問題に関連して、地方紙の1面コラム2本を紹介します。
 一つは京都新聞の8月14日付「凡語」です。
 https://www.kyoto-np.co.jp/info/bongo/20180814_2.html
 まず、米軍統治下の那覇市長や立法院議員、返還後も衆院議員を務めた「カメジロー」こと瀬長亀次郎氏(1907~2001年)を紹介しています。 

▼瀬長氏は米軍による土地の強制接収などを批判し、日本復帰を熱心に説いた。度々弾圧され、市長職も追われた。だが『カメジロー』はものともしない。演説会にはいつも多くの人が集まった 

 次いで、沖縄では8月8日に死去した知事の翁長雄志氏に瀬長氏を重ねる人が少なくないことを指摘しながら、翁長氏が日本本土の講演で発した言葉を紹介して次のように結んでいます。 

▼15年の外国特派員協会での講演では一層踏み込んだ。「安保のためなら琵琶湖を埋めるのですか」。本土では、こうまで言わないとだめなのか。そんな思いが伝わる。私たちは、いよいよ正面を向いて議論する時ではないか。 

 辺野古の海が埋め立てられようとしています。沖縄県は翁長氏が生前示した方針を守って、埋め立て許可を撤回する構えです。翁長氏の前任の知事が許可を出したものの、翁長氏は辺野古への新基地建設反対を公約に掲げて前任者を選挙で破り知事に就任しました。翁長氏が沖縄の民意を代弁しているのは明らかですが、その翁長氏の反対を意に介することなく、安倍晋三政権は新基地建設を強行しました。同じようなことが沖縄県外、日本本土で起きているのか、どうすれば本土の日本国民たちは事の重大性に気付くのか―。その思いが「安保のためなら琵琶湖を埋めるのですか」という言葉になって口をついて出たのでしょう。

 もう一つのコラムは琉球新報の8月16日付「金口木舌」です。
 https://ryukyushimpo.jp/column/entry-783065.html
 サザンオールスターズとゆかりが深い神奈川県・湘南地域の茅ヶ崎市のシンボル「えぼし岩」の話題です。 

▼「チャコの海岸物語」に限らず湘南を歌った歌には茅ケ崎のシンボル「えぼし岩」がよく登場する。平安時代以来の男性用のかぶり物「烏帽子(えぼし)」の形状からとった通称だが、実は昔は岩の先端部分がもっと長く伸びていた
▼そのとがった先端部分を吹っ飛ばしたのは米軍だ。日本海軍の演習場だったこの海岸は敗戦後、米軍が接収し「チガサキビーチ」と呼んだ。えぼし岩を標的にした射撃訓練のほか、年6回以上の上陸演習や砲撃演習が実施された 

 パラシュート降下、航空機爆撃なども行われました。その後地元の反対を受け米軍は去りました。 

 ▼湘南サウンドを聞くときに思い起こしたい。沖縄では、民意に「背を向けて」「勝手に」訓練を続ける米軍が、かつてチガサキビーチで繰り広げたような傍若無人な演習を今も続けている。 

 米軍のこの訓練の話は茅ヶ崎市のサイトでも紹介されています。

 ※茅ヶ崎市「えぼし岩あれこれ」
 http://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kankou_list/koen/1006948.html 

 昔のえぼし岩は現在のものより先端部分がより烏帽子らしく西へ長く尾を引いていましたが、戦後、米軍の射撃訓練の標的にされ、その先端部分は消失し、わが町のシンボルを守るための市民運動が起き、訓練は中止されました。 

  湘南には大勢の人たちが訪れますが、えぼし岩にかつて起きたことはどこまで知られているでしょうか。沖縄で今、起きていることは、例えて言えば琵琶湖を埋めようとするに等しいことであり、あるいはかつて、湘南の海岸で行われていたことです。基地や米軍を巡るそうしたことが広く知られれば、日本本土に住む日本人も沖縄の基地集中の問題に無関心ではいられなくなるのではないか。そう期待したいと、2本のコラムを読んで思います。

8月15日に元陸軍飛行場で、戦争の教訓と沖縄の基地集中を考えた

 日本の敗戦から73年の8月15日、思い立って東京都調布市の調布飛行場に隣接する「武蔵野の森公園」を訪ねました。調布飛行場は今では伊豆諸島の離島路線の定期便もある軽飛行機の専用空港ですが、元は日本陸軍の飛行場でした。当時の飛行場は今よりも広く、武蔵野の森公園の中には第2次大戦末期、米軍の空襲から戦闘機を守るために作られた掩体壕が保存されています。そのことを最近知り、この日に戦争遺跡に身を置いてみようと思い付きました。
 公園は調布飛行場を挟んで北地区と南地区に分かれています。掩体壕があるのは北地区。西武鉄道多摩川線の多磨駅で下車して徒歩5分ほどで公園に着きます。掩体壕へはさらに園内を5分ほど歩きます。
 ※武蔵野の森公園 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index058.html
 ※「掩体壕と飛燕」 http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/view058.html

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 【写真】1945年春当時の調布飛行場の施設配置図=現地の掲示板
 掲示されている説明によると、調布飛行場は1941(昭和16)年4月に南北1000メートル、東西700メートルの2本の滑走路や格納庫などが完成しました。首都防衛のため戦闘機「飛燕」を中心とする陸軍の飛行部隊が配属されました。戦況が悪化した1945(昭和20)年ごろには、米軍のB29爆撃機や艦載機の空襲を受け、飛行場や近くの高射砲陣地で死傷者が出ました。このころには特攻隊の訓練と、出撃基地である鹿児島県の知覧基地への中継地にもなっていたとのことです。
 掩体壕は1944(昭和19)年ごろから、コンクリート製の約30基、土塁をコの字型にした約30基の計約60基が短期間で作られました。掩体壕に収容されていた戦闘機は、出撃の際は機体にロープをかけ、人力で誘導路を通って滑走路まで運んだとのことです。

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【写真】掩体壕・大沢2号
 保存されている2基の掩体壕はこの地の地名を元に南から「大沢1号」「大沢2号」の名前が付いています。公園の正面入り口から歩いてくると、まず大沢2号を見て、次に大沢1号に向かうことになります。ともに古びたコンクリートの建造物です。
 大沢2号は、中が空洞になっているのが暗いながらもよく分かります。

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【写真】掩体壕・大沢1号
 大沢1号は壕内に補修が施されているようでふさがれています。その前面には、整備を受けている戦闘機「飛燕」の大きなイラストが描かれています。目を引くのは傍らにあるブロンズ像。掩体壕とその中で待機する飛燕の様子が、よく分かります。

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【写真】飛燕のブロンズ像
 掲示の説明によると「飛燕」は1943(昭和18)年に陸軍に正式採用され、調布飛行場では首都防衛のため飛行第244戦隊に配備されました。1945年になると米軍のB29爆撃機による本土空襲が激しくなり、飛燕も迎撃に飛び立ちますが戦果は上がらず、最後は体当たりで対抗したとのことです。
 その辺のことは以前に戦記もので読んだことがあります。物量の差に加えて、高度1万メートルを飛んでくるB29に日本の戦闘機は性能面で歯が立ちませんでした。体当たりは文字通り最後の手段、いわば「空対空の特攻」でしたが、脱出して生還したパイロットもいて、1人で2度、3度と体当たりを成功させた例もあったと記憶しています。
 しかし、しょせんは焼け石に水の迎撃戦でした。爆弾を抱えて飛行機ごと艦艇に突っ込む特攻にしても、生還を前提としない作戦は軍部の中でも「統帥の外道」との批判があったといいます。そこまで追い込まれたのなら、一刻も早く戦争を終わらせることを考えるべきでした。しかし、勝てる見通しのないまま深みにはまり、沖縄の地上戦、広島、長崎への原爆投下、東京、大阪をはじめとする全国の都市への空襲で、おびただしい非戦闘員の住民が犠牲になったあげくに、ようやく敗北を受け入れて戦争は終結しました。軍事力では国民の生命、財産を守ることができなかった―。これは、あの戦争の教訓の一つです。アジア諸国にもおびただしい犠牲を生んだことも忘れずにいたいと思います。

 この日、掩体壕を訪ねた時には正午を過ぎていましたが、目を閉じて73年前のことを想像してみました。73年前も同じようにじりじりとした暑さの中で、ラジオから昭和天皇の声が聞こえてきたのか。太平洋戦争だけでも3年8カ月余りも続いていました。「大本営発表」報道で戦果は過大に、損害は過小に報じられていました。勝利を信じていて敗戦を受け入れられない人もいれば、何はともあれ、もう出撃する必要はないと安堵する人もいたのでしょうか。実際のところはどうだったのか。戦争を、身をもって体験した人たちの証言を受け継いでいくことの大切さをあらためて思いました。

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【写真】調布飛行場に並ぶ民間機
 もう一つ感じたことがあります。公園の高台からは調布飛行場の全景を望むことができます。今は民間機が飛び交う平和な光景が広がっています。しかし、沖縄では戦後73年の今でも、米軍機の危険に市民生活がさらされています。決して自分たちで望んだわけではないのに、基地の受け入れを強制され続けているのが沖縄です。調布飛行場には民間機がずらりと並んでいました。同じような光景ながら、沖縄の米軍普天間飛行場に並ぶのは、沖縄配備後にも墜落事故や不時着、緊急着陸のトラブルが相次いでいる輸送機オスプレイです。名護市辺野古では、その普天間飛行場の代替とされながら、実質は機能が強化された新基地の建設が、県知事だった故翁長雄志氏の反対を押し切って始まりました。地域の将来のことは自分たちで決める「自己決定権」が認められないまま、国家的事業が強行される、そうしたことが行われているのは日本で沖縄だけです。その差別にわたしたち日本本土に住むこの国の主権者はあまりに無知で鈍感ではないのか―。沖縄から近年、そうした問い掛けが続いていること自体にも、わたしたち日本本土の社会はどれだけ問題意識を共有できているだろうか、ということも感じます。眼下の調布飛行場を見ながら、ここにオスプレイがずらりと並ぶさまを想像することが、沖縄の基地集中の問題をわがこととしてとらえることができる一歩になるのかもしれないと、そんなことも考えた8月15日でした。