ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

鳩山首相のTwitterで政治報道が変わる?(追記あり)

 新年を期して、ということでしょうか。鳩山由紀夫首相が1日、Twitterのアカウントとブログ「鳩カフェ」を開設しました。初のつぶやきは次の通りです。

 みなさん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。今日からツイッターとブログ「鳩cafe」を始めました。http://bit.ly/7OSH1o ご感想など@hatoyamayukioへお寄せください。馴れるまでは1日1ツイートが目標です。

 ※http://twitter.com/hatoyamayukio/status/7254972447
 ブログ「鳩カフェ」の初エントリーでは、以下のように政治家の情報発信としてのブログやTwitterの位置付けを説明しています。

 基本的な政策や、それについての私の考え方は、メルマガや首相官邸チャンネルを通じて、きちんとお伝えしていきます。
 このブログでは私の身近な出来事やご報告を、ツイッターではそれらの更新情報や近況、速報などを、みなさんに直接お伝えしていければと考えております。
 そして、みなさんの声もぜひ聞かせてください。
 このブログへのご意見、ご感想などは、ツイッターでいただきたいと思います。「@hatoyamayukio」でコメントしてください。首相執務室の私のデスク横にある専用モニターで読ませていただきます。
 昨年は、私の献金問題で、みなさまに大変なご心配をおかけいたしました。もちろん厳しいご批判の声もあるかと思います。そういった声にも真摯に耳を傾け、職務に全力投球していきたいと思っています。

 ※「鳩カフェ」http://hatocafe.kantei.go.jp/
先日、鳩山首相を名乗る成り済ましアカウントがTwitterに現れて話題になりました。今回はTwitterのプロフィルページ(http://twitter.com/hatoyamayukio)に「認証済みアカウント」のチェックマークも付いています。

 以前のエントリー「メディアのありようを変えるTwitter」でも触れましたが、Twitterを使いこなす政治家が増え、それぞれが政治活動の局面局面でつぶやくようになれば、政治のナマの現場の一次情報がマスメディアを経由することなく、ダイレクトに有権者に届くのが当たり前になります。その状況に鳩山首相も加わりました。今のところは「1日1ツイートが目標」とのことですが、とにもかくにも首相のつぶやきが有権者や社会に直に伝わる状況になったわけです。
 思い起こすのは故佐藤栄作元首相の有名なエピソードです。首相退任時の会見は、「国民に直接話がしたい」「偏向的な新聞は大嫌いなんだ」と語って新聞記者を会見場から閉め出し、テレビカメラに向かって独り話す異例の情景でした。
※参考 ウイキペディア「佐藤栄作
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E6%A0%84%E4%BD%9C

 故佐藤栄作氏が首相を退任した1972年当時、首相に限らず政治家が有権者や社会に広く考えを伝えようとする場合、マスメディアを経由するしか方法はありませんでした。言い方を換えれば、「政治」は従来、新聞をはじめとするマスメディアが一次情報を独占して囲い込んできた典型的な分野でした。Twitterはその状況を変えつつあるように思えます。鳩山首相が1日に1回、Twitterでつぶやいたところで140字の情報量は知れていますが、それは運用の問題であって、マスメディア向けに行っている「ぶら下がり会見」と同等、あるいはそれ以上の労力をTwitterに割くとしたらどうでしょうか。相当の量の情報を、マスメディアの一切のバイアスなしに直接、リアルタイムで社会に発信できる状況は今までなかったことです。

 この状況を新聞や放送の既存マスメディアの側から見れば、政治報道のありようがいよいよ問われることになると思います。新聞社の政治部ではどこも、配属されたばかりの最若手記者を首相官邸の取材担当グループに入れて「首相番」として政治取材の第一歩を踏ませます。こうした若手記者はそれぞれの新聞社に数人ずついます。首相の定例のぶら下がり会見の内容を速報するのも彼らです。
 ぶら下がりとはいえ、毎日首相が会見に応じているのは実は国際的にも稀有な例のようですが、それはともかくとして首相が毎日、時々の政治的なトピックスに対して発言するその内容は重要な一次情報です。それを独占していたマスメディアにとっては、平たく言えば「メシのタネ」ということでしたし、政治取材のイロハを学ぶ場でもあり、複数の若手記者を張りつけるに見合うだけの報道価値がありました。政治家側からみても、小泉純一郎元首相のように、その機会を実にうまく使いこなして支持に結び付けていた政治家もいました。
 鳩山首相がマスメディアへの対抗を意識してTwitterやブログを使っていくのかどうか、まだよく分かりませんが、仮に故佐藤栄作氏のように「国民に直接話がしたい」「偏向的な新聞は大嫌いなんだ」と公言する首相が登場した場合、一次情報の担い手としてのマスメディアの役割は変容を余儀なくされるでしょう。端的に言えば「質問力」が一層問われることになると思います。また、匿名の情報、個別独自の取材も含めて、独占的に集めた一次情報の集積を基にして、個々の政治的テーマや果ては政局について的確に見通すのがマスメディアの政治報道の真骨頂でもあったのですが、こうしたありようにも変化が起こると思います。それがどんな変化なのかはまだよく見えませんが。
 ちなみに「栄ちゃんと呼ばれたい」と話していたという故佐藤栄作氏なら「@eichan(栄ちゃん)」とかTwitterのアカウントを開設していたことでしょう。

 個人的に興味があり、可能なら鳩山首相に聞いてみたいのは、本当に「@hatoyamayukio」に送られてくるTwitterのつぶやきの一つひとつを自分自身で見ているのかどうか、です。「首相執務室の私のデスク横にある専用モニター」で、とのことですが、一晩寝ている間だけでも相当な数のつぶやきが寄せられているはずです。多忙な身のことですから、ここは担当の秘書官なりを決めて、首相が自分で目を通しておいたほうがいいものを事前に「仕分ける」といったこともあっていいと思います。

【追記】2010年1月3日午前8時45分
 さて、新聞各紙はこのニュースをどう報じたのでしょうか。自宅で購読している朝日新聞(東京本社発行)の1月3日付朝刊では、「首相動静」に「1日午前10時9分 公邸前でブログ用の写真を携帯電話で撮影」とあるだけでした。東京新聞の朝刊は「首相動静」に加え、3面に「『鳩カフェ』首相がブログ」の記事。事実関係だけで全文18行の短信ですが、見出しは2段で大きな扱いです。
 その他の新聞はネットで検索した限りですが、読売新聞、毎日新聞日経新聞にも記事があり、それぞれ事実関係を簡潔にまとめています。読売新聞だけは「首相はこの中で、『これから皇居での新年祝賀の儀に出席します』と自らの予定を“発表”。これには『警備上望ましくない』と指摘する声もある。」と「指摘する声」を紹介しています。
 総じて見出しはTwitterよりもブログで取っているのが共通点でしょうか。