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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

改憲に批判的・懐疑的な方が情報量は多い〜憲法記念日の在京各紙紙面

 5月3日は日本国憲法施行から67年の憲法記念日でした。集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更で容認していいのか否かが大きな政治テーマになっている中で、東京発行の新聞各紙がどのような記事を載せ、どのような紙面を作っているのか、読み比べてみました。対象は朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙です。集団的自衛権をめぐる解釈改憲をはじめとして、安倍晋三政権の改憲志向に批判的ないしは懐疑的なのは朝日、毎日、東京の3紙。改憲を社是としている、あるいは改憲に理解を示している新聞は、読売、産経、日経の各紙です。各紙を読み比べてみてまず感じるのは、安倍政権の改憲志向に批判的・懐疑的な紙面の方が記事の扱いが大きく、報道のボリュームも大きいことです。各紙の中心になる記事「本記」の見出しと扱いの大きさ、次いで社説の見出しを抜き出してみます。朝日、毎日、東京の3紙がそろって1面トップに据えているのに対し、読売、産経は1面掲載とはいえ相対的に小さな扱いです。
▽本記
【朝日】1面トップ「改憲に執念 首相の源流」「挫折経て再挑戦 背押す保守人脈」憲法を考える(上)
【毎日】1面トップ「他国に自衛隊派遣せず」「政府方針 与党本格協議へ」「集団的自衛権 限定容認論」「裁量拡大の懸念」
【東京】1面トップ「『日中は裏安保』」「戦争知る3政権 平和へ知恵」「関係者が証言」「憲法67年 変質する自民」

【読売】1面「憲法施行67周年」(見出し2段、本文18行)
【産経】1面「集団的自衛権 各地で議論」「礒崎補佐官『行使容認は抑止力』」「きょう憲法記念日」(囲み全3段)
【日経】4面(政治面)「憲法『維持』『改正』並ぶ」「調査初、ともに44%」本社世論調査

▽社説
【朝日】「安倍政権と憲法 平和主義の要を壊すな」本質は他国の防衛/行政府への抑止なく/憲法を取り上げるな
【毎日】「集団的自衛権 改憲せず行使はできぬ」限定容認の先は何か/国民に判断を委ねよ
【東京】「憲法を考える 9条と怪人二十面相」「解釈改憲」は変装だ/専守防衛で国民守る/戦争を考える悪者は

【読売】「憲法記念日 集団的自衛権で抑止力高めよ」「解釈変更は立憲主義に反しない」日米同盟強化に資する/限定容認で合意形成を/緊急事態への対処も
【産経】「憲法施行67年 9条改正あくまで目指せ」「集団自衛権の容認が出発点だ」国守規定が存在せず/「軍」の位置づけが必要
【日経】「集団的自衛権めぐるジレンマ解消を」グレー領域の調整カギ/解釈と明文改憲の区別

 本記以外の記事の掲載の詳細も、備忘を兼ねて後に書き留めておきますが、朝日、毎日、東京が1面から始まって総合面、社会面まで関連記事を大量に掲載しているのに対し、読売、産経、日経の3紙は社会面に関連記事が見当たりません。憲法をもっぱら政治課題として扱い、報道する、というスタンスがうかがえるようにも思えます。
 この「批判的・懐疑的な新聞ほど情報量が多い」という傾向は、実は昨年の特定秘密保護法案の国会審理の審理の際にもありました。秘密保護法も改憲も根本にある発想は日本が戦争をできる国にすることですから、この傾向の一致、符号は当然と言えば当然かもしれません。社会の大元を規定している憲法をめぐって為政者が何をやろうとしているのか、関連の情報、多様なものの見方や考え方が社会に流通することは大事なことで、多すぎて困るということはないと思います。
 個別の記事の中で印象に残るのは、東京新聞が1面トップに据えた「『日中は裏安保』」です。1960年代から70年代にかけての池田勇人田中角栄大平正芳各氏の自民党3政権が、国交回復前から対中国関係を「『裏安保』関係」と位置づけ、日米安保とほぼ同等の2国間関係として重視していた、との内容です。近隣諸国も含めておびただしい犠牲を生んだ果てに、1945年に日本の敗戦で終わった悲惨な戦争の体験が、社会の共通体験としてあった時代のことだとは思いますが、ナショナリズム的な感情の赴くままにただ敵視を続け、ひたすら軍事的な発想で安全を保障しようとするよりは、よほど平和のために実効があるように思えます。今日なお大事にしたい発想だと感じました。
 以下に東京新聞の記事の一部を引用します。
「『日中は裏安保』 戦争知る3政権 平和へ知恵」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014050302000110.html

 一九六〇年から七〇年代にかけ、日本のかじ取りを担った池田、田中、大平の自民党三政権が日中関係を「『裏安保』関係」と位置づけ、日米安保とほぼ同等の二国間関係として重視していたことが関係者の証言で分かった。安倍政権は中国と対立し、安全保障環境の悪化を理由に、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認を目指している。自民党安倍晋三首相の下で大きく変質していることが鮮明になった。憲法九条の平和主義が岐路に立つ中、憲法は三日、六十七回目の誕生日を迎えた。
 池田勇人氏は六〇年の日米安保条約改定後に岸信介氏が退陣した後、首相に就任。中国との国交正常化が実現するのは十年以上も先のことになるが、既に日中関係を基盤にした「裏安保」を意識していた。
 池田内閣の外相だった大平正芳氏に、長く秘書として仕えた森田一元運輸相は本紙の取材に「池田氏は中国との関係改善に積極的だった」と指摘。「裏安保」との表現を使っていたことを明かした。中国との平和的関係が日米安全保障条約と表裏一体となって、初めて日本の安保体制が確保されるとの考えだ。
 大平氏は六四年、池田氏の意を体して国会で「国連で(中国加盟が)祝福される事態になれば国交正常化を考えなければならない」と答弁。大平氏は田中内閣でも外相を務め、盟友の田中角栄氏と正常化に尽力し、七二年に実現させた。


 以下に、6紙の関連記事の扱いと主な見出しを列記しておきます。
【朝日】
・1面トップ「改憲に執念 首相の源流」「挫折経て再挑戦 背押す保守人脈」憲法を考える(上)
・2面1ページ特集「安倍首相 突き進む理由」/憲法観「日本の国の形、理想と未来を語るもの」/前文と9条「安全、命を他国の善意に委ねていいか」/改正手法「国民投票の機会、閉じ込めてはいけない」/談話・ジャーナリスト桜井よしこ氏、衛藤晟一首相補佐官八木秀次麗沢大教授
・3面「解釈改憲『法の支配』危機」長谷部恭男早稲田大教授・杉田敦法政大教授/連続対談
・4面「行使範囲『広げられる』」「集団的自衛権 石破氏、米議員に講演」/「集団的自衛権 各党割れる」「憲法記念日で談話・声明」
・6面1ページ特集「一から分かる立憲主義」/どんな考え方「多数決の乱用防ぎ人権守る」/なぜ生まれた「権力者の力を抑える」/日本での歩み「明治時代に芽生える」/自民の改正案「人権尊重に条件」
・15面(オピニオン)寄稿・今この国はどこにあるのか「ずっと戦争の中にいた少年がみた敗戦と戦後 新憲法素直に受け入れ」「『列強国』入りを望む政権の危うさ」作家 小林信彦(81)
・社会面トップ「みる・きく・はなす」はいま「排除の理由」6/「圧力恐れず報じ続ける」「強まる政治からの干渉」「『萎縮する空気 現場に』」(NHK琉球新報
・第2社会面「憲法」17年で300回演じて・コメディアン松元ヒロさん「戦争で人殺さないこと、誇り」/読んでCD本を収録・フリーアナウンサー小林麻耶さん「高らかに理想宣言 かっこいい」
※中面に「九条実現」の意見広告を掲載

【毎日】
・1面トップ「他国に自衛隊派遣せず」「政府方針 与党本格協議へ」「集団的自衛権 限定容認論」「裁量拡大の懸念」
・1面「9条改正反対51%」「前年比14ポイント増 きょう憲法記念日」「本社世論調査
・5面「解釈改憲 新たな緊張」笠井亮共産党政策副委員長・集団的自衛権 政治家に聞く5/「集団的自衛権行使の範囲」「石破氏『拡大は可能』」
・12〜13面2ページ特集「どうなる『集団的自衛権行使』」「きょう憲法記念日」/「首相こだわり加速」「解釈変更 国民不在」/「安保基本法先送り」「『限定容認』で歩調」/「公明 揺れる党是」/「地方議会に懸念広がる」「反対意見書 保守系会派加わり」/「小国支援名目で行使」/「『法の番人』抜てき人事で関門突破」/「55年前の判決で正当化」「『砂川事件』1審裁判官 9条と矛盾『何を今さら』」/「『消極司法』のツケ」/「『限定的』は言葉のマジック」浦田一郎明治大教授/「解釈の変遷―81年答弁書『必要最小限度』援用へ」/「日本でも導入議論 憲法裁ってなに?」「政治問題も積極的に判断」質問なるほドリ
・社会面トップ「母の願い 賛同の輪」「『戦争しない日本かっこいい』」「『憲法9条ノーベル平和賞候補に」/「集団的自衛権『国民的議論に』最高裁長官」
・26面(東京都内)「憲法改正 識者に聞く」/日大法学部教授百地章氏「国家的緊急時に備えよ」/千葉大名誉教授水内宏氏「軍事でなく外交努力を」

【東京】
・1面トップ「『日中は裏安保』」「戦争知る3政権 平和へ知恵」「関係者が証言」「憲法67年 変質する自民」
・1面・解説「日米安保と両輪」/「戦前生まれの国会議員9%」「96年の69%から激減」
・2面「安倍政権の強硬路線に警鐘」戦争を体験した世代 自民4氏に聞く/「『銃を持たない』守れ」加藤紘一氏(74)/「中韓の立場も考えて」二階俊博氏(75)/「隣人中国 重視は不変」森田一氏(79)/「共同繁栄 対話が糸口」野田毅氏(72)
・3面・核心「表現の自由 揺らぐ」「『憲法は政治的』集会後援を自治体拒否」/「『政権移行に迎合』」/「市民萎縮 議論停滞も」
・3面「公明『容認せず一貫』」「代表演説 歴代政権と同じ」「集団的自衛権行使」/「具体例の限定 否定」「石破氏、行使容認めぐり」/憲法記念日 各党の談話
・8面1ページ特集「『積極的平和主義』を問う」/「平和の解釈変えないで」作家大野更紗さん「幸福追求 今の憲法で」「社会問題 解決を優先」(13条)/「貧困、差別も暴力」立命館大国際平和ミュージアム名誉館長安斎育郎さん/「『平和路線』かき消す安倍政権」/「憲法から薄れていく血の色」社会部長・瀬口晴義
・特報面「『法教育』あるべき姿は」「問題解決する力養え」「権力監視の観点必要」
・社会面トップ「学ぶ権利 学校以外にも」「10代 岐路に立つ憲法を語る」「関心のなさに危機感・憲法は権力者縛る」(26条)
・第2社会面「『憲法9条先人の遺産』『戦争放棄すごい』」「官邸前デモ参加者に聞く」
※中面に「国民が主権者である」意見広告と「九条実現」意見広告を掲載


【読売】
・1面「憲法施行67周年」(見出し2段、本文18行)
※1面トップは日米TPP「豚肉関税大幅下げ『50円』」「差額制維持 牛肉は『9%』」
・4面「改正の中身 各党思惑」「議論推進では8党一致」「憲法記念日 談話」/「集団的自衛権『当初は限定』米講演で石破氏」
・12面1ページ特集「憲法記念日討論会 改正論議 若者も参加」/国民投票法改正の意義「18歳責任持って判断」前原誠司氏「政治意識・行動に好影響」船田元氏/優先項目「まず環境権から」船田氏「発議要件を緩和」前原氏/「現行憲法納得できぬ」「押し付けの意識ない」/解釈見直し「数段的自衛権 狭く容認」/人口減「移民 政策議論が重要」※学生参加者は4人

【産経】
・1面「集団的自衛権 各地で議論」「礒崎補佐官『行使容認は抑止力』」「きょう憲法記念日」(囲み全3段)
※1面トップはウクライナ情勢「軍、東部で大規模作戦」「米国防長官『NATO軍事力強化』」
・3面・水平垂直「自衛権は国家の自然権」「解釈変更は憲法曲げず」礒崎首相補佐官憲法記念日 本格化する議論/「『国民的関心高めたい』」「日本JC全国でプロジェクト」
・3面「改憲の時節 到来する」時代とともに変遷/戦後体制から脱却(政治部編集委員:阿比留瑠比の極限御免 特別版)

【日経】
※1面トップは「起業促進へ税優遇拡大」「政府検討 補助金で年収500万円保証」
・4面(政治面)「憲法『維持』『改正』並ぶ」「調査初、ともに44%」本社世論調査/「憲法記念日 与野党が談話」/「『集団的自衛権 必要なら拡大』石破氏」
※中面に「違憲状態議員」の意見広告を掲載