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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

やはり問われるべきは憲法改正―解散翌日の在京各紙社説の記録

 衆議院が11月21日解散されました。衆院選は12月2日公示、14日投開票の日程です。解散の大義に野党から異論が出ていることを意識してか、安倍晋三首相は21日の記者会見で「アベノミクス解散」と呼びました。東京発行の新聞各紙も22日付朝刊で大きく扱い、大量の記事を掲載しています。各紙の1面トップの記事(本記)の主な見出しを書き留めておきます。各紙とも東京本社発行の最終版です。

【1面本記】
朝日新聞「安倍政治2年を問う」「衆院解散、来月14日投開票」「首相、経済政策を前面」「安全保障・原発も論点」
毎日新聞アベノミクス争点」「衆院解散 総選挙」「来月2日公示、14日投票」
▼読売新聞「安倍政権の2年問う」「衆院解散 総選挙」「来月2日公示 14日投開票」
日経新聞アベノミクス争点」「衆院解散、来月14日総選挙」「首相、雇用増を強調」「野党、経済格差拡大と批判」
産経新聞「争点隠さず論戦の時」「衆院解散」「総選挙、2日公示 14日投開票 1028人立候補予定」
東京新聞「一票が政策動かす」「衆院解散 12・14投開票」

 これまでの社説などで安倍政権に対する評価が対照的だった朝日新聞と読売新聞が、衆院選の意義をほぼ同じ表現で主見出しに取っているのを興味深く感じました。毎日新聞日経新聞は主見出しがまったく同じです。産経新聞の「争点隠さず論戦の時」は記事を読んでみると、解散には大義がないと主張している野党を、争点隠しに躍起になっていると批判する趣旨のようです。東京新聞は1面の本記の隣りに「衆院選でカギとなる『三つの議席数』」の記事を掲載。「安倍路線の継続」では議席過半数の「238」、憲法改正では改憲発議に必要な「3分の2」の「317」、脱原発では2年前の衆院選原発ゼロを訴えた政党の獲得議席「126」を目立つようにレイアウトしています。
 以下には、各紙の社説の見出しと、目を引かれた部分を書き留めておきます。

【社説】
朝日新聞衆院選 安倍政治への審判―有権者から立てる問い」憲法軽んじる姿勢/前のめりの原発回帰/「これから」の選択

 安倍首相の消費増税の延期と2年間の経済政策への評価は大切な論点である。そこはこれからじっくりと論じていきたいが、まず問われるべきなのは、首相の政治姿勢だ。
 昨夏の参院選をへて、衆院で3分の2、参院で半数を超える与党勢力を得た安倍政権には、数の力頼みの姿勢が著しい。
 その典型は、自らの権力に対する「縛り」となっている憲法への態度である。
 首相に返り咲いた直後の13年の通常国会で、安倍氏は「憲法を国民の手に取り戻す」と、改憲手続きを定めた96条の改正を唱えた。憲法改正案の発議に必要な議員の賛成を、3分の2以上から過半数に改めるという内容だ。
 だが、憲法で権力を縛る立憲主義に反するとの理解が広まると、首相は96条改正にはほとんど触れなくなった。かわりに進めたのが、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認である。
 首相は今年7月、私的懇談会の報告からわずか1カ月半後、与党協議をへただけで行使容認の閣議決定に踏み切った。
 来月に迫った特定秘密保護法の施行も、憲法に基づく報道の自由や知る権利を侵しかねないとの懸念を押し切っての、強行採決の結果である。
 首相が長期政権を確保したうえで見すえているのが、憲法の明文改正だ。自民党は、再来年夏の参院選の前後に改正案を発議できるよう、準備を始めようとしている。


毎日新聞「安倍政治を問う アベノミクス 期待頼みでは続かない」広がらない恩恵/「3本目の矢」はどこに
※「安倍政治」についてシリーズで点検

 限界が見えてきたが、安倍晋三首相は「三本の矢の経済政策は確実に成果を上げつつある」と主張し、継続すべきか否かを選挙で国民に問うと言う。だが「アベノミクス」をひとくくりに評価を仰ぐのは問題だ。最初の2本(日銀の大規模緩和と従来型の財政支出)と3本目(成長戦略)には、根本的な違いがある。
 最初の2本は、そのコストや弊害、リスクにとりあえず目をつぶり最初に手っ取り早く果実を得ようという発想で、3本目は、初めに岩盤規制を崩す苦労や新たな競争による痛みを伴うが、後々、収穫が持続的に期待できるという性質のものだ。
 安倍政権が実行したのは最初の2本、とりわけ1本目の、政権自らというより日銀に任せた量的緩和である。そこで人々や市場の期待に訴えかけ、期待が陰り始めると同じ2本を再び射ようという戦略に見える。
 肝心の3本目はどうか。メニューは並べたものの、本気で既得権益にメスを入れ、やる気のある人や企業の参入を後押ししようとしているようには見えない。農協改革しかり、女性の活躍推進しかり、だ。
 この先も手っ取り早い第一、第二の矢頼みで期待をあおっていくのか、それとも困難を覚悟で第三の矢中心に転換するのか。選挙戦を通じ、明らかにしてほしい。


▼読売新聞「衆院解散 首相への中間評価が下される 『アベノミクス』論争を深めたい」政策推進に必要な民意/建設的な対案が必要だ/野党は安保の見解示せ

 今回は、安倍政権の2年間の評価が問われる選挙となる可能性が大きい。野党の選挙準備が大幅に遅れ、過半数議席を得るには候補者が不足しているからだ。
 自民、公明両党は、295小選挙区のほぼ全部に公認候補を擁立するが、野党第1党の民主党の候補は160〜170人程度にとどまるとみられている。
 無論、それで今回の衆院選の重要性が減じることはない。
 安倍首相は、景気回復と財政再建の両立、持続可能な社会保障制度の構築、集団的自衛権の行使を限定容認する新たな安全保障法制の整備、原発の再稼働など、困難な政策課題を抱えている。
 特に世論を二分する課題の前進には国民の理解と協力が欠かせない。衆院選で新たな民意を得て、政策の推進力を手に入れようというのが首相の総合的判断だ。
 自民、公明両党で計326の解散勢力をどこまで守れるのか。これが首相に対する国民の信任のバロメーターである。


日経新聞解散のなぜ?吹き払う政策論議を」アベノミクス工程示せ/既成政党離れ忘れるな

 このタイミングで解散権を行使した安倍首相の対応は権力闘争をくり広げる現実政治家としてはおそらく間違いではないのだろう。
 政治合理性とは権力の最大化をめざすことだとすれば、多くの人がまずノーではない再増税延期で信を問う、選挙に有利な時期を選ぶ、相手の準備が整わないところで抜き打ち的に断行する、というのは政治技術的に、たけていることになる。
 しかしこんどの解散にどこか蹴手繰りのような印象が否めないのは、増税しないのに信を問う必要があるのかという疑問がどうしても、ぬぐい去れないからだ。民主党を含めて多くの野党で、増税延期を批判し論戦を挑もうとするところはない。解散の大義名分が争点にならないのである。
 だからこそ、この「なぜ?」にしっかり答える必要がある。衆院選を経て、あらためて有権者の信任を得て政権の力を回復し、アベノミクスをさらに進めたいのなら、取り組みが手薄だったテーマを含めて道筋や工程表をはっきりと示さなければならない。
 それがなければ権力闘争としての政治に理解は得ても、利害を調整し政策を実現していくための政治には疑問符がついたままになってしまう。そこからめばえてくるのは、政治家や政党への有権者の不信感である。だれのための政治なのかという疑問だ。
 野党に目を向けると、解散を前に政党が解党するなど何ともむなしくなるようなドタバタ劇がくり広げられている。第三極もその後二つに割れてしまった。
 野党第1党の民主党は政権担当の失敗をどう反省し、果たして何を学んだのかもよく見えない。


産経新聞(「主張」)「衆院解散 再生進める構想を競え 憲法改正、安保も重要争点だ」集団自衛権の意義問え/責任ある社会保障論を

 安倍政権は今年、安全保障政策を大きく転換した。日米共同の抑止力を高め、同盟の絆を強めるため、憲法解釈によって禁じられていた集団的自衛権の行使を容認した。長年の懸案であり、中国に加え、核・ミサイル開発をやめない北朝鮮の脅威に対処する上でも必要だった。
 来年の通常国会には安全保障関連法制の整備が控える。行使容認や法改正の意義、内容を国民に説明する機会ともなろう。
 同時に掲げるべきものは、憲法改正だ。安倍首相は産経新聞のインタビューで「いよいよ、その橋を渡り、どういう条項を改正すべきかという段階に至っている」と語った。
 改正の中核といえるのは、日本の安全保障を確かなものとするための9条改正だ。集団的自衛権の行使容認後も、自衛隊の「軍」としての位置付けを明確にするなどの課題は残されている。
 集団的自衛権の行使容認の閣議決定をめぐり、菅義偉官房長官は「自民党はすでに憲法改正を公約にしており(信を)問う必要はない」と述べたが、争点化に慎重と受け取られないか。
 憲法改正や安全保障法制の整備が実現するまで、その重要性は繰り返し訴えるべきだ。
 民主党公明党は、憲法改正への態度がはっきりしない。維新の党や次世代の党は、憲法論議のリード役を果たしてほしい。


東京新聞衆院解散 12・14総選挙 争点決めるのは国民だ」解散、6割理解できぬ/政権の業績評価投票/岐路に立つ危機感を

 国民の賛同が得やすい政策課題を争点に設定して政権を維持できる議席を得れば、集団的自衛権の行使容認や特定秘密保護法原発再稼働など国民の多数が反対する政策も同時に賛同を得たと主張できる−。政権側がそう考えているとしたら、狡知(こうち)が過ぎる。
 それを疑わせるのは、菅義偉官房長官が十九日の記者会見で「何を問うか問わないかは、政権が決める」と発言しているからだ。
 集団的自衛権の行使容認は、歴代内閣が堅持してきた政府の憲法解釈を変える重大な政策変更だったが、安倍内閣が国民に是非を問うことはなかった。
 「さまざまな選挙で公約していた。(信を問う)必要はなかった」「現行の憲法解釈の範囲内ということに尽きる」との説明だ。
 安倍内閣は昨年、選挙公約になかった特定秘密保護法の成立を強行したが、菅氏は「いちいち一つ一つについて信を問うということじゃないと思う」と突っぱねた。
 国民に信を問うべき政策課題では問おうとせず、問う必要のないことを、政権維持・強化の思惑から問おうとする。衆院解散は「首相の大権」だとしても、あまりにもご都合主義ではないのか。
 私たち有権者が、そんな政府の言い分に惑わされる必要はない。
 衆院選は政権与党には業績評価投票だ。安倍内閣の二年間の政策を冷静に振り返り、野党の公約と比較し、より信頼できる政党・候補者に貴重な一票を投じたい。


 朝日、産経、東京の3紙が「憲法」に触れています。特に改憲が社是、社論の産経は、積極的に争点化するように求めているようです。それぞれ社是、社論は異なっていても、この選挙で再び安倍氏と与党が多数の議席を獲得することになれば、その後の4年間で憲法改正に突き進む、との見通しは共通して持っているのだと思います。特定秘密保護法集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更などの先にあるのは、9条を中心にした憲法改正でしょう。このブログの以前の記事(「この衆院選で問われるべきは憲法改正」)でも触れましたが、わたしは今回の衆院選で究極的に問われるべきは、やはり憲法改正の是非なのだと思います。わたしたちの社会が名実ともに戦争することを容認する社会になるのか、という問題でもあり、「表現の自由」とも密接にかかわります。沖縄が負っている米軍基地の過剰な負担をどうするのか、という問題の根源的な要因でもあると思います。憲法改正の是非は争点として論戦が行われていいと思います。
 在京各紙の紙面をめくりながら注視していたのは、沖縄の記事の有無です。
 朝日新聞は社会面に「国民全体で考えて 沖縄米軍基地」の記事を「今こそ議論に意味 原発再稼働」「行使容認も争点に 集団的自衛権」とともに並べて大きく掲載。毎日新聞は第2社会面に、東北の被災地、原発事故避難者、原発地元などの表情とともに、沖縄の有権者の声を一コマ取り上げていました。
 米軍普天間飛行場沖縄県内の名護市辺野古地区に移設するとの日米両政府の現計画に対しては、16日の沖縄県知事選で、この計画への反対を掲げた翁長雄志氏が大差で当選したことで、沖縄の意思は明確に示されたと思います。このブログの以前の記事(「沖縄知事選と衆院解散・総選挙 ※追記:辺野古移設反対の翁長氏が当選確実」)で書きましたが、今回の衆院選の結果によっては安倍氏や政権側が「国民の総意として、辺野古移設は理解、支持を受けた」と強弁するような事態にならないか、との危惧があります。本土マスメディアは選挙報道の中で、沖縄の過剰な基地負担の問題が埋没することがないように留意するべきだと思います。本土マスメディアの沖縄に対するまなざしが問われるのだと、本土マスメディアで働く一人として考えています。