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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

ビジョン欠いた「国難突破解散」~安倍首相会見の在京紙報道の記録

 「国難突破解散」なのだそうです。安倍晋三首相は9月25日に記者会見し、かねて報じられている通り、 28日の臨時国会冒頭で衆院を解散することを表明しました。記者会見で安倍首相はつらつら、理由を語りましたが、会見の前から「大義なき解散ではないか」と様々に指摘されているように、わたしも解散の理由として納得できるものはありません。

 安倍首相の会見の中で強く印象に残ったのは、「少子高齢化」と「緊迫する北朝鮮情勢」を「国難」と呼び、この解散を「国難突破解散」と呼んだことです。「国難」と呼ぶ時代がかった感覚もさることながら、それを突破できるだけの将来展望を何か示し得ているとは到底感じられません。とりわけ北朝鮮に対しては、圧力をかけねばならないと強調するだけで、具体的にどうやれば北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄し、拉致問題が解決に向かうか、その道筋は何も示し得ていません。「しなければならない」とだけ大仰な言葉で強調し「(こうやれば)解決できる」とのビジョンはありません。それで一体、国民に何の信を問おうというのか。危機に便乗しての政権維持、さらには危機をあおるだけに等しいのではないかと感じます。

 今、安倍首相がまずやるべきは、「リトル・ロケットマン」などと北朝鮮へ言葉の挑発を続けるトランプ米大統領をたしなめることではないでしょうか。

 26日付の東京発行の新聞各紙朝刊はいずれも1面トップで安倍氏の「解散宣言」を報じました。事実関係を伝える中心の記事(本記)の見出しと、政治部長や論説担当者らの署名記事の見出し、社説の見出しをそれぞれ書き出してみました。各紙それぞれに、今回の衆院解散・総選挙をどうとらえているかが分かると思います。25日は小池百合子・東京都知事も国政新党「希望の党」の立ち上げを宣言しました。各紙とも2番手の扱いです。

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【朝日新聞】
1面トップ「28日解散 首相表明/『消費増税の使途変更問う』/財政再建、大幅に後退/10日公示、22日投票」
1面・座標軸「憲法ないがしろの果てに」2度目の『乱用』/横紙破りの連続=根本清樹・論説主幹
社説「衆院選 大義なき解散 『首相の姿勢』こそ争点だ」国会無視のふるまい/議論からの逃走/数の力におごる政治

【毎日新聞】
1面トップ「『消費税・北朝鮮問う』/首相『28日に解散』/『国難突破』と強調/来月22日投票/『自公過半数割れなら辞任』」
1面「確かな目 持とう」佐藤千矢子・政治部長
社説「日本の岐路 首相が冒頭解散を表明 説得力欠く勝手な理屈だ」/「森友」「加計」疑惑隠し/「安倍1強」継続が争点

【読売新聞】
1面トップ「衆院28日解散/増税使途 変更問う/北情勢・少子高齢化『国難を突破』/10月10日公示、22日投開票」
1面「『1強再び』首相の賭け」前木理一郎・政治部長
社説「衆院解散表明 問われる安倍政治の総合評価 全世代型の社会保障も争点」難題に取り組む契機に/財政再建も両立させよ/憲法改正の膠着打開を

【日経新聞】
1面トップ「28日解散 首相表明/増税使途見直し問う/財政黒字化を先送り」
1面・衆院選に問う(上)「政界液状化 見極める目を」大石格・編集委員
社説「持続可能な日本への設計図を競え」財政健全化の道筋競え/なぜいま解散なのか

【産経新聞】
1面トップ「首相『国難突破』28日解散/消費税使途・少子高齢化 信を問う/衆院選 来月22日投開票」
1面「北情勢 未曽有の危機迫り…決断」阿比留瑠比※肩書なし
社説(「主張」)「首相の解散表明 『北朝鮮危機』最大争点に 憲法9条改正を正面から語れ」国民守る方策を論じよ/2兆円投入の中身示せ

【東京新聞】
1面トップ「消費税19年に10%/使途は教育に変更/財政再建は先送り/首相解散表明/衆院選10月22日」
社説「衆院28日解散 『安倍政治』への審判だ」消費税を大義に掲げ/憲法軽視の審議封じ/「小池新党」見極めて

 

 「国難突破」を見出しに取った新聞と取らなかった新聞に分かれました。取らなかった新聞は、「北朝鮮」も見出しに取っていません。主見出しに「国難突破」を入れた産経新聞は、北朝鮮についても1面に「未曽有の危機」、社説では「『北朝鮮危機』最大争点に」と強調しています。朝日新聞、東京新聞は1面に安倍首相の写真を載せませんでした。

 各紙それぞれ、多様な情報と論調があること自体は、有権者の判断材料が増えるという意味で、決して悪いことではありません。