支持率45~59%、岸田政権“ご祝儀”少な目~「新しい資本主義」は耳当たりがいいが「雇用の質」をどう考えるのか

 自民党の岸田文雄総裁が10月4日、国会で第100代首相に選出され、自民、公明両党連立の新内閣が発足しました。岸田首相は同日夜の記者会見で、臨時国会会期末の14日に衆院を解散し、19日公示、31日投開票とすることを表明。これまでは自治体などの準備期間を考慮して11月7日か14日の投開票の公算と報じられていたこともあって、「随分と急ぐんだな」と、ちょっと驚きました。5日付の東京発行の新聞各紙によると、新内閣の刷新感をアピールできる間に衆院選に持ち込むのが得策として、岸田首相自身が決めたことのようです。表向きの理由としても、新型コロナウイルスの感染が今のところは収まっていること、10月21日に衆院議員が4年間の任期を満了するため、衆議院の空白期間をなるべく短くすることなどもあるようです。
 果たして目論見通りに進むのかどうか。新内閣発足に対する世論調査がさっそく5日夕方から夜にかけてネット上で報じられました。いずれも4~5日に実施。朝日新聞調査では、支持率は5割を下回る45%、不支持率は20%でした。毎日新聞と社会調査研究センターの調査でも支持率は49%と5割に届かず、不支持率は40%。以下、読売新聞:支持56%、不支持27%/日経新聞・テレビ東京:支持59%/共同通信:支持55.7%、不支持23.7%―となっており、目にした限りでは支持率が60%を超えた調査結果はありません。
 昨年9月の菅義偉内閣発足時の支持率は、60%台半ばから70%超でした。今回の岸田内閣の支持率は始動時としては低いと感じます。岸田首相が意気込むほどには、民意は「刷新」と受け止めていない可能性があるようです。高い支持を得てスタートした菅政権はこの1年、コロナ対応で失政を繰り返した上に、民意の反対や懐疑に正面から向き合うことなく五輪パラリンピック開催を強行。挙げ句に、一時は「制御不能」と言われるほどに感染が急拡大したことは、記憶に新しいところです。この1年の経験を経て、政権の表紙が変わったぐらいでは、民意はそう簡単に“ご祝儀”をはずむことはなくなった、ということでしょうか。

 さて、岸田内閣の発足を5日付の東京発行新聞各紙はそろって1面トップに据え、総合面や政治面、経済面、社会面にも関連記事を大量に掲載しています。雑駁な印象になるのですが、新内閣や報道に対して感じたことを若干書きとめておきます。

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 ■「新しい資本主義」と雇用の質
 昨年の菅内閣発足時のキーワードは、安倍晋三政権の「継承」でした。岸田内閣については、新型コロナウイルスへの対応が当面の最重要課題である点は当然だとして、政権のキーワードという点で各紙の1面を見渡したところでは「新しい資本主義」がチラホラと目に止まります。岸田首相は会見で「分配なくして次の成長はない」「成長と分配の好循環を実現し、豊かに生活できる経済をつくり上げる」と強調し、「新しい資本主義実現会議」を立ち上げることを表明しました。岸田氏が率いる派閥「宏池会」の創始者、池田隼人首相(当時)が「所得倍増計画」を掲げて1960年代に高度経済成長をもたらしたことをほうふつとさせます。
 在京紙各紙も、この「新しい資本主義」に焦点を当てたサイド記事を総合面や経済面に掲載しています。安倍政権のアベノミクスが格差の拡大を招いたとの指摘があることを意識して、岸田政権の独自色を出そうと意気込んでいる、との見方がおおむね共通しています。
 富の分配は政治の役割であり、そのことを重視するのはいいのですが、具体策となるとまだこれからのようです。懸念は、衆院選です。内容がはっきりしないまま「成長と分配の好循環」という耳当たりの良いスローガンだけが目玉政策のように強調されることになりはしまいか。野党が掲げる格差の縮小・解消策との差異、さらには求める社会観の違いが目に見えるように示され、有権者がはっきり理解できるようでなければならないと思います。マスメディアの役割も重要であり、大きな責任があります。
 アベノミクスでは、企業や富裕層からのトリクルダウン効果は期待外れに終わりました。当たり前だと思います。昭和の高度成長期とは社会の就労構造が大きく様変わりしています。小泉純一郎政権期の雇用・労働面での規制緩和以降、不安定で低賃金の非正規雇用が増え続けています。かつてのように社会に分厚い中間層を復活させたいというのなら、この「雇用の質」の問題をどう考えるのか。岸田首相にそのことを問うてみたいと思います。そもそも、岸田氏はアベノミクスからの脱却を明確にするのかどうか。そうだとしたら、岸田首相は総裁選で大きな借りができた形の安倍元首相に面従腹背で臨むことになります。その胆力があるのかどうか。衆院選を前に、「新しい資本主義」にはいろいろな意味で警戒が必要だと感じています。

 ■抜てきの一方で77歳初入閣が2人
 自民党の役員人事では、麻生太郎氏を副総裁、甘利明氏を幹事長に据え、総裁選で安倍元首相が強力に支援した高市早苗氏を政調会長に就かせるなど、およそ刷新感、清新さは感じられませんでした。「岸田カラー」は組閣で、というつもりなのか、閣僚20人のうち初入閣は13人に上りました。うち3人は衆院当選3回の“若手”です。この点をマスメディアはおおむね好意的に取り上げているようです。
 ただ、少し引いて新内閣の全体を俯瞰して眺めてみると、違った様相が見えてくるように思います。
 一つは女性閣僚がわずか3人という点です。東京五輪組織委員会の森喜朗会長(当時)の女性蔑視、「わきまえる」発言以降、日本社会でもジェンダーバランスに対する意識が高まっています。もっと大胆に女性閣僚を増やしてもいいはずです。
 初入閣組も前述の若手3人に注目が行きがちですが、13人のうち77歳が2人、65歳以上の高齢者は計6人に上ります。民間企業の一般的な定年年齢の60歳で線引きすれば8人。年齢は問題ではなく肝心なのは資質と能力かもしれません。ただ、失礼な言い方かもしれませんが、この年齢になるまで当選回数は積み上げたものの入閣の機会がなかった政治家が、これを機に格段の能力を発揮する、となるのでしょうか。正直なところ疑問です。果たして岸田首相自身の人選なのか。仮に、各派閥の意向が反映された人選なのだとすれば、いつもながらのことで、自民党の変革、改革とはほど遠いと思います。

 ■「不愉快だ」
 党役員人事や組閣の内幕をめぐる各紙のリポートでは、日経新聞総合面の「岸田体制『3A』不協和音/安倍氏 要望通らず不満/麻生氏 甘利氏 人事に影響力」の記事を興味深く読みました。
 「3A」は安倍、麻生、甘利の長老3氏の頭文字を取った表記です。3人それぞれに岸田氏の総裁選勝利に寄与しており、今や「3A」が岸田氏の後ろ盾という党内力学は、新聞各紙もおおむね共通した見方です。麻生氏は副総裁、甘利氏は幹事長と中枢重要ポストに就き、さぞや満足だろうと思います。安倍氏にしても、支援した高市氏が政調会長に就き、安倍氏が影響力を持つ細田派から4人が入閣、うち実弟の岸信夫防衛相は再任と、“陰の実力者”としては十分満足ではないかと思ったら、そうではないとのことです。
 日経新聞の記事によると、安倍氏は側近の萩生田光一氏のポストについて党幹事長か官房長官を求めていたのに、萩生田氏は文部科学相から経済産業相に横滑りでした。安倍氏は周辺に「正直、不愉快だ」とつぶやいたとのこと。一方で岸田派では、無派閥ながら安倍氏に近い高市氏を含めて、党3役のうち2人に加え官房長官まで細田派が占めているとの認識があり「細田派にそこまでの借りはない。譲りすぎだ」との声も出ているとのことです。
 岸田首相がどれだけ自民党の変化を強調しようとも、やはり内情はそう簡単には変われない、ということなのではないかと思います。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 以下に東京発行各紙の5日付朝刊の1面と総合面の主な記事と社説の見出しを書きとめておきます。「新しい資本主義」「分配と成長」に焦点を当てたサイド記事も含みます。
▼朝日新聞
1面トップ「衆院選 31日投票/解散17日後は最短 任期満了初超え/岸田新内閣 派閥と刷新感重視/14日解散 19日公示」
1面「新しい資本主義担当相 新設」
2面「始動 いきなり選挙/『負の遺産』対応 歯切れ悪いまま」「野党『人の話を聞く、どこが』」
3面「コロナ・経済 続く難題/3閣僚一新 第6派の備えは/大型補正予算 問われる中身」
7面(経済)「『分配なくして成長なし』道筋は/岸田内閣 経済立て直しの『最大の柱』」
社説「岸田新内閣が発足 実行問われる『寛容な政治』」/「政高党低」に変化も/コロナ対応猶予なし/選挙を急ぐ党利党略

▼毎日新聞
1面トップ「分配重視 経済再生強調/岸田内閣発足/『新しい資本主義』会議発足」
1面「衆院選31日投開票」
2面「経済底上げ 新味薄く/追加対策に数十兆円」「日米基軸の外交 継承」「脱炭素 問われる手段」
3面・クローズアップ「『ご祝儀』狙い短期決戦/コロナ『収束』うかがい」「若手起用で刷新演出」「不支持冷遇『ノーサイド』どこへ」
社説「岸田新内閣が発足 政策を転換できる布陣か」/拭えぬ「安倍・麻生」色/分配重視の理念実行を

▼読売新聞
1面トップ「岸田内閣 発足/衆院選31日投開票 19日公示/コロナ対策・経済再生 注力」
1面「『期待』を『納得』にできるか」伊藤俊行編集委員
2面「『所得再分配』掲げ」「感染症対応 一元化・経済安保 法整備」「対中国『言うべきこと言う』」
3面・スキャナー「『速攻』首相決断/勢い・コロナ・外交日程考慮」「甘利氏ら 存在感ズシリ/『閣僚 おとなしい人多い』『党高政低』指摘も」
7面(経済)「『アベノミクス』修正/分配 中間層に手厚く」
社説「岸田内閣発足 難問山積に総力で立ち向かえ 国家像と具体策を競う衆院選に」/コロナ克服の道筋を/「成長と分配」両立が鍵/安保戦略改定は急務だ

▼日経新聞
1面トップ「岸田内閣 発足/衆院選31日投開票 戦後最短解散得へ/『コロナ対策急ぐ』」
2面「衆院選 異例の短期決戦/高い支持保ち投開票狙う/選挙日程で主導権」
3面「岸田体制『3A』不協和音/安倍氏 要望通らず不満/麻生氏 甘利氏 人事に影響力」
4面(政治・外交)「個人への現金給付 経済対策の目玉/衆院選公約、週内にも骨格」
5面(経済・政策)「金融所得課税 見直し検討/首相『成長と分配の好循環』掲げ/『新しい資本主義』会議新設」
社説「新政権は日本再生への道筋を示せ」/基礎固めの論功人事/成長戦略の具体化を

▼産経新聞
1面トップ「岸田内閣発足『新時代共創』/衆院選19日公示 31日投開票/『新しい資本主義』目指す/対コロナ、健康危機管理庁」
1面「『無味無臭』で国難に挑めるか」大谷次郎政治部長
2面「岸田人事 安定を優先/後ろ盾は細田・麻生派」「発信力磨き 闘志前面/岸田首相 我慢の連続乗り越え」
3面「政権発足 一気に選挙/自民、公約づくり『3日で』」「所得再分配の政策重視/成長戦略と両輪不可欠」
社説(「主張」)「岸田新内閣 実行力こそ問われている 総裁選の約束を明文化せよ」/若手の登用を歓迎する/エネ基計画の見直しを

▼東京新聞
1面トップ「衆院選31日投開票/岸田政権発足/14日解散 19日公示/安倍・麻生氏の影響 色濃く」
1面・解説「官邸主導から党主導へ」
2面・核心「『ご祝儀相場』狙い 最短日程/衆院選 31日投票の背景は/解散5日後公示『コロナ沈静化のうちに』/予算委見送り反発 野党『政策論争を』」
3面「野党『乱暴な政権』対決鮮明/新内閣の支持率警戒 候補一本化急ぐ」
3面「深夜の負担会費 説明機会に遅れ/閣僚就任会見 異例の見送り」
社説「岸田内閣が発足 民主主義再生こそ急務」/軽視された最高機関/安倍・菅総括に否定的