社会の分断が可視化された日~安倍元首相「国葬」 在京紙の報道の記録

 安倍晋三元首相の国葬が9月27日、実施されました。このブログでも詳細に記録してきましたが、マスメディア各社の世論調査では、当初から賛否は分かれていました。時間がたつにつれ否定的な意見が増え、9月の調査では反対が6割に達しました。岸田文雄内閣の支持率も急落しましたが、岸田首相は信頼回復に何か手立てを取ることもありませんでした。当日はNHKや民放各局が中継していましたが、わたしは見ることができず、国葬の模様は後刻、主としてネット上の各紙サイトを含めて、新聞の報道を通じて知りました。会場の日本武道館近くの公園に設けられた一般向けの献花には約2万3千人が訪れた一方で、各地で抗議行動もあり、国会前には1万5千人(主催者発表)が集まったと報じられています。俯瞰して眺めてみれば、国葬の強行が社会にもたらした分断が可視化された日になった、と感じます。
 国葬を巡る賛否の論点の一つは、安倍元首相の実績をどう評価するか、でした。そもそも安倍元首相の政治姿勢は、社会に分断をもたらしていました。2017年の東京都議選の街頭演説で、「安倍やめろ」コールに対して「私たちは、こんな人たちに負けるわけにはいかないんです」と言い放ったことは、その姿勢の象徴でした。安倍政治の検証と総括はなお必要です。同時に、「安倍政治」で傷んだ社会の修復は、岸田首相の大きな課題であるはずです。しかし、国葬が終わった今、思うのは、岸田首相にはとても期待できない、ということです。岸田首相が国葬を強行したために社会の分断、亀裂は深まった観があります。
 ほかにも危惧することがあります。岸田政権は軍事費の大幅な拡大を表明し、原発の新増設や稼働期間の延長の方向性を打ち出しています。いずれも、社会のありようを大きく変えかねないテーマであり、賛否が割れることが予想されます。意見の違いを相互に認め合いながら、社会全体で熟議が必要なのに、信を失った岸田政権がこれらの進めていくことは極めて危ういと感じます。

 今回の国葬の報道を全体として見れば、故人の礼賛に終始する報道だけではなく、反対の声が高まっていた中で実施されたことを伝え、その反対の声自体を伝える報道も少なくありません。一般に葬儀では、故人のネガティブな面にはあえて触れないことが慎みとして共有されています。今回の国葬も、会場内では、葬儀委員長の岸田首相、友人代表の菅前首相の弔辞に代表されるように、故人の礼賛に終始していました。しかし、マスメディアの報道が会場外も俯瞰しながら、全体としては礼賛一色になるのを免れたのは、世論調査に表れた民意、デモや集会で示された反対の声などを無視できなかったからだろうと感じます。

 東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)の翌28日付の紙面は、いずれもこの国葬を大きく報じました。中心的な事実関係を報じる「本記」の扱いと見出しは以下の通りです。経済記事が中心の日経新聞はともかくとして、他の5紙を比べると、朝日、毎日、東京の3紙は見出しに「賛否」が割れる中での実施だったことを明記しています。読売、産経は、見出しにはそうした要素は見当たりません。

▽朝日新聞:1面トップ「賛否の中 安倍氏国葬/戦後2例目 4100人超参列/一般献花に列■周辺でデモ」
▽毎日新聞:1面トップ「安倍元首相国葬に4200人/献花にデモ 賛否割れる中」
▽読売新聞:1面トップ「安倍元首相 国葬/菅氏『真のリーダーだった』/最長政権8年8カ月/4183人参列」
▽日経新聞:1面準トップ「安倍元首相 国葬/国内外4200人が参列」
▽産経新聞:1面トップ「安倍晋三元首相 国葬/内外4200人参列 献花2万人超/首相弔辞『長さより事績を記憶』/吉田茂以来55年ぶり」
▽東京新聞:1面トップ「賛否交錯の中 安倍氏国葬/戦後2例目 55年ぶり実施 4100人が参列」

 これまでの社説では、読売、産経の2紙は国葬とすることを支持する論調を掲げていたのに対し、朝日、毎日、東京は岸田首相の説明不足などを指摘し、このままでの実施には批判的な論調でした。その社論の違いが、1面の見出しに分かりやすく表れていると感じます。

 いくつかの新聞では、1面の写真にも工夫を感じます。毎日新聞は武道館内部の写真を国会議事堂前の反対集会と並べて掲載しました。祭壇は小さく、遺影は判別が困難です。そのためか、別に安倍元首相の顔写真を載せています。祭壇の遺影を正面からとらえた会場の写真を大きく掲載した他紙とは、随分と紙面の雰囲気が異なるように感じます。東京新聞は祭壇を正面からではなく、少し斜めから撮った写真でした。
 朝日、毎日、読売は1面には国葬と並べて五輪汚職事件の続報を掲載しています。東京五輪の誘致に際しては、安倍元首相は大きな役割を果たしていました。東京電力福島第一原発の状況を「アンダーコントロール」と言い切ったことに対しては、今も批判があります。その東京大会の舞台裏は汚辱にまみれていたことが、東京地検特捜部の捜査をきっかけに表面化しています。そういったことを考えると、歴史的な紙面と言えるかもしれないと感じます。

 各紙とも社会面にも関連記事を大きく載せ、武道館周辺の様子や各地の表情などを伝えています。その社会面トップの見出しにも、各紙ごとの社論の違いが反映されているようにも感じます。

▽朝日新聞「国葬 悼む列 怒る列」
▽毎日新聞「悼みと反発 入り交じり」
▽読売新聞「安倍さん『見守って』」
▽日経新聞「厳戒下 各地から献花に」
▽産経新聞「遺影見上げ 涙と拍手」
▽東京新聞「送る日 抗議も追悼も」

 安倍政権の当時、世論が割れるような政策では、常にと言っていいほど、政権に批判的、懐疑的な朝日、毎日、東京と、政権支持の色彩が強い読売、産経とに二極化していました。今回の国葬に賛否が割れているのは、直接的には岸田首相の“失政”の要因が強いと感じますが、在京各紙のこのトーンの違いは安倍政権当時そのままです。

 以下に、東京発行の6紙の28日付朝刊の主な記事の扱いと見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▼1面トップ「賛否の中 安倍氏国葬/戦後2例目 4100人超参列/一般献花に列■周辺でデモ」/「分断に責任 首相は行動を」林尚行・政治部長
▼2面時時刻刻「安倍氏へ弔意 粛々と」「足跡たたえる映像 8分間」「『友人代表』菅氏、声震わせ弔辞」/「もくろみ外れ 政権痛手/割れた世論 党内対立も」
▼3面・連載企画「国葬の代償」5回続きの①「岸田氏『国葬に近い形で』/家族葬の日 検討を指示」/「弔問外交2日目 豪印と連携確認」
▼4面(政治)「国葬参列 割れた野党/臨時国会では経費・基準 追及へ/与党『旧統一教会と関連づけられ痛かった』」
「席次 国際儀礼と政治的配慮と」/「『台湾』と呼ばれ代表が献花/中国側は反発『不可分の一部』」
▼11面(国際)「国葬 分断に海外メディア注目/BBC・CNN 会場の様子中継」
▼26面・ドキュメント(写真7枚)/岸田文雄首相 追悼の辞
▼27面(第3社会)「国葬 当日のSNSは/長蛇の列■反対デモ…関連投稿12時間で100万件超」/「『台本』の文書か SNSで広がる」
「テレビ各局 中継や特番/功績紹介の一方、森友問題なども」/「全国紙・NHK 参列への対応は」/菅義偉前首相(友人代表)追悼の辞
▼社会面(29面)トップ「国葬 悼む列 怒る列」「献花に3時間『気持ちを形に示せた』」「反対デモに人並『弔意強制しないで』」/「声届かなかったけど、一歩踏み出せた」/「『カオスな街に、安倍さんの光と影が見えた気がした』」
▼第2社会面(28面)「世論の分断 社会課題隠した」ジャーナリスト 津田大介さん/「空気頼みの国こそ 法整備を」近現代史研究家 辻田真佐憲さん
「都内限界 2万人警備」/「庁舎前 半旗掲揚/安倍氏の地元・山口」「花抱える人たち/奈良の銃撃現場」
▼社説「安倍氏『国葬』 分断深めた首相の独断」

【毎日新聞】
▼1面トップ「安倍元首相国葬に4200人/献花にデモ 賛否割れる中」/「首相は説明尽くしたか」中田卓二・政治部長
▼2面「安倍氏 評価定まらず」「『旧統一教会』に批判」「日米同盟強化に注力」「アベノミクス硬直化」
▼3面クローズアップ「国葬 分断浮き彫りに/弔意の強制 一掃に腐心」「中途半端 保守派も不満」「『かけ足』の弔問外交」
「実施 憲法上問題なし」龍谷大教授(憲法学)石埼学氏/「今の社会になじまぬ」中央大教授(日本近代史)宮間純一氏
▼5面「安倍氏国葬 野党出欠割れ/検証・基準作り 要望相次ぐ」/「『政府の思いが伝わらず反省』/自民・萩生田政調会長」/「同期の『盟友』首相追悼の辞」「『真のリーダー』菅前首相追悼の辞」/「ブルーリボンバッジ式壇に/拉致問題象徴」/岸田首相追悼の辞 全文/菅前首相追悼の辞 要旨
▼7面(経済)「商業施設は通常営業」
▼8面(国際)「台湾が指名献花/安倍氏国葬 中国は反発」
▼社会面見開き「悼みと反発 入り交じり」「疑惑 検証されないまま」
※社会面(25面)
「国葬 献花の長い列」/「厳戒警備 もみ合いも」「自民党本部に急きょ献花台」「半旗掲揚も 山口の公立高」
「英 宗教的な荘厳さ 日 和やかな雰囲気 国柄を反映」
※第2社会面(24面)
「恩師『証言を残してほしかった』/早紀江さん『拉致』対応に感謝/ゆかりの人たち」
「在京新聞6社 対応分かれる」/毎日新聞社社長室広報担当の話」
▼社説「安倍元首相の『国葬』 合意なき追悼の重い教訓」/分断招いた強引な手法/前例にしてはならない

【読売新聞】
▼1面トップ「安倍元首相 国葬/菅氏『真のリーダーだった』/最長政権8年8カ月/4183人参列」「海外要人700人 218の国・地域など」「皇族方7人参列」
▼2面「クアッド結束示す/弔問外交 豪印と首脳会談」/「中国 直前の人選/台湾顔ぶれで判断か」/「最前列は皇族方 2列目に首相ら」「天皇陛下きょう7か国元首会見」
▼3面・スキャナー「国葬 首相が主導」「世論の反発 想定外/旧統一教会問題が影」「閣議決定で式典 通例」
▼4面(政治)「政府説明 割れた賛否/与党反省も 立民ちぐはぐ」「維新・国民は出席■共産はデモ」「衆院議長経験2氏も参列」「海外の参列者と議員相次ぎ会談」
「出会い 別れ 菅氏朴訥と/『いつか首相になる人 確信した』/総裁選の出馬説得『誇り』」
▼6面(特別面)「黙とう 弔砲 別れの日」写真6枚
▼7面(解説)「安倍元首相国葬 どう見る」/「大きな功績 最高の礼儀」大阪大名誉教授・坂元一哉氏/「『国会合意』担保する必要」京大教授・曽我部真裕氏/「公的な葬儀 理念に共感」英誌エコノミスト元編集長・ビル・エモット氏
▼8面(特別面)安倍元首相国葬 追悼の辞全文 岸田首相・菅前首相、衆参議長、最高裁長官/ドキュメント/主な参列者一覧
▼9面(国際)「安倍氏指導力 各国たたえる」
▼社会面(31面)トップ「安倍さん『見守って』/拉致、被災地関係者ら追悼」/「厳重警備 トラブル防ぐ」/「元首相葬儀 皇族、いずれも参列」
▼第2社会面(30面)
「各地で反対の声も/『法的根拠ない』都内などでデモ」「42知事が出席 沖縄以外半旗」
「費用 高額と言えず」関東学院大の君塚直隆教授(国際政治史)/「首相の語る力 不足」評論家の内田樹・神戸女学院大名誉教授
▼社説「安倍元首相国葬 功績たたえ多くの人が悼んだ 外交遺産を戦略的に活用したい」/日本の存在感を高めた/内心の自由とは別問題/警備の体制も問われた

【日経新聞】
▼1面準トップ「安倍元首相 国葬/国内外4200人が参列」
▼3面「最長首相 最後の別れ/首相『土台の上に日本つくる』/菅氏『真のリーダーだった』/一般献花に長い列」/「米は大統領経験者/英、王室など対象 仏、辞退が慣習/世界の国葬は…」
▼4面(政治・外交)「割れた賛否 支持低下招く/首相、死去6日後に国葬表明/旧統一教会問題 重なる」/「安倍派、新体制を検討」/「萩生田氏『説明必要だった』/泉氏『政治利用許さず』」/「首脳級50人前後参列/米副大統領ら 首相、豪・印と結束確認」/「台湾『指名献花』対象に」
「専門家はこう見た」「丁寧な合意形成欠く」九州大教授・南野森氏/「批判でも説明 評価」早大教授・ソジエ内田恵美氏/「実施判断、早計だった」米国進歩センター上席研究員・トバイアス・ハリス氏
▼29面(特集面)「儀仗で見送り 弔砲19発/首相経験者、55年ぶり」/「伊藤博文や山本五十六/戦前、国葬の例は…」/「『内閣・党合同葬』が主流/戦後の歴代首相」/追悼の辞 全文 岸田首相(葬儀委員長) 菅前首相(友人代表)
▼社会面(41面)トップ「厳戒下 各地から献花に/安倍氏国葬、最高レベルの警備態勢/沿道に警官ずらり」/「絶えぬ列『感謝伝えたい』」「国会前で抗議『開催強行』」/「半旗掲揚 個別に判断/川崎市 弔意表明に独自基準」
▼社説「国葬への批判踏まえ丁寧な政権運営を」

【産経新聞】
▼1面トップ「安倍晋三元首相 国葬/内外4200人参列 献花2万人超/首相弔辞『長さより事績を記憶』/吉田茂以来55年ぶり」/「政治家の覚悟と不思議な縁」阿比留瑠比・論説委員兼政治部編集委員
▼2面「最高警備 2万人態勢/警察バス数十台・テロ制圧部隊も」/「台湾の指名献花 中国反発/韓国は内閣支持低下報道」
▼3面「戦後に幕 今日の礎/首相弔辞 拉致・会見、盟友へ誓う」/「『インド太平洋』継承強調/首相、豪印首脳らと会談」/「安保法制で功績、自衛隊が儀仗/防衛省前 隊員ら800人見送り」
▼5面「国葬 与党『歴史が判断する』/安倍氏の功績評価/『説明不足』反省も」/「自民党本部に臨時献花台」/「『出席』『反対集会参加』/対応分かれた野党」/安倍元首相の語録「戦後レジームを大胆に見直し/積極的平和主義の旗を掲げたい」
▼9面(国際)「豪印が示した厚い弔意」森浩のアジアの視線/「親日の台湾若者 安倍氏が残した宝/李登輝元総統の次女 李安妮氏」
▼11面(経済)「経済界、功績しのぶ/日銀本店や東京駅に半旗」/「アベノミクス 岸田政権で完遂を」茂木友三郎・キッコーマン名誉会長
▼14、15面(特集面)「国家の根本的課題 挑んだ勇気の人」岸田首相弔辞 全文/「再出馬 焼き鳥屋で口説いた3時間」菅前首相弔辞 全文 写真9枚、会場のイラスト
▼23面(スポーツ)「IOC会長が国葬参列/フェンシング・太田氏らと献花」
▼社会面(29面)トップ「遺影見上げ 涙と拍手/安倍氏追悼『ありがとう』/式壇 日本の風景表現」/「早朝から献花の長い列」/「霞が関 半旗掲げ黙禱も」/「各地デモ 国会前1.5万人」/「在京各局が特別番組」
▼第2社会面(28面)「国葬『正しさ』共有」「サッチャー元英首相の葬送と共通点/儒教研究者 大場一央氏と歩く」/「都道府県、職員に黙祷要請せず」/「拉致家族『尽力に感謝』/遺骨そばにブルーリボン」/「安倍氏自宅前にも儀仗隊」
「『過激な批判、原理主義のよう』評論家の與那覇潤氏」/「『首相、必要性訴えるべきだった』政治学者の岩田温氏」

【東京新聞】
▼1面トップ「賛否交錯の中 安倍氏国葬/戦後2例目 55年ぶり実施 4100人が参列」「分断の責任、岸田首相に」豊田洋一・論説主幹/「国会前『1万5000人』 全国で抗議」
▼2面・核心「首相打算 対立生む誤算/国会軽視、旧統一教会問題 残る説明責任」/「『実績はすべて、今日に連なる基礎に』/岸田首相が弔辞」/「与党『必要だった』『法整備を』」「野党『禍根残る』『政局化反対』」/「黙とう呼びかけ 省庁、対応分かれる」
▼3面「海外首脳級50人近く」「指名献花で政府『台湾』読み上げ/正式名回避も中国反発」
▼9面「百貨店など通常営業/『国葬 いつもの平日と同じ』」/弔辞・岸田首相(全文)、菅前首相(要旨)
▼22、23面(特報面)
「記者が見た 国葬その日」「モリカケは…追悼映像触れず/声詰まらす盟友 大きな拍手」/「強行の末 温度差鮮明」「『批判もあるけど』献花へ/賛否両派 緊迫の交差点」
▼社会面見開き「送る日 抗議も追悼も」「分断 修復の道は」
※社会面(25面)
「『民主主義傷つけた』デモ行進」「『尊敬』『感謝』献花の列4キロ」/「品川区長選 対応さまざま/街宣自粛『弔意示す』/反対訴え『多額税金』」
※第2社会面(24面)
「『問題追及し続ける』早大1年 安達晴野さん」「『社会成熟への半歩になった』作家 落合恵子さん」
▼社説「分断の国葬を終えて 『安倍政治』検証は続く」/政策縛るアベノミクス/憲法や国会を軽んじて