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国葬それ自体に加え、岸田首相の姿勢も問われている~「強行するなら信を問え」(沖縄タイムス)

 安倍晋三元首相の9月27日の国葬が近づいています。岸田文雄首相が国会で説明を行ったにもかかわらず、マスメディア各社の世論調査では国葬に否定的な意見が6割に達しています。このまま国葬が強行され、社会の分断を深める結果を招くことを危惧します。国葬それ自体の是非もさることながら、ここにきて、岸田首相が世論の反対を押し切って国葬を強行しようとしている、その姿勢も問われてしかるべきです。国葬への反対意見が増えているのと同時に、岸田政権の支持率が続落しているのは、その民意の表れだと感じます。
 その岸田首相は22日、国連総会出席のため訪れていたニューヨークでの記者会見で、国葬について「引き続き最後まで丁寧な説明を続けたい」と強調しました。また、安倍元首相と旧統一教会の関係を巡っては「ご本人が亡くなられた今、実態を把握することには限界がある」と調査に改めて否定的見解を示しました。
※共同通信「国葬『最後まで丁寧説明』 首相、強い反対論踏まえ」=2022年9月23日

 https://nordot.app/945697201183309824

 「丁寧な説明」とは何のことを言っているのでしょうか。「限界」とは、やってみて壁に突き当たり、どうにも進めなくなったときに初めて「限界がある」と言えるもののはずです。国葬を終えてしまえば、いずれ批判は収まると考えているのか。
 こんなニュースも報じられています。
※共同通信「安倍氏国葬4300人参列見込む 海外から218カ国・機関」=2022年9月23日
 https://nordot.app/945601443676160000

国葬を巡り世論の賛否が割れている中、参列者は「最大6千人程度」(松野氏)との政府想定を下回るのは確実な状況だ。

 国葬でなければならない理由は何だったのか。元首相の突然の死を、自らの支持基盤固めのために政治利用したのではないか。あらためてそう感じます。

 目にとまった新聞各紙の最近の社説、論説のうち、国葬に関連した内容のものを以下に書きとめておきます。沖縄タイムス(9月20日付)は、国葬が日本国内に混乱をもたらしていることを指摘し、「混乱を招いた岸田政権の責任は重い」「事ここに至っては、衆議院を解散し、国民に信を問うべきだ」と主張しています。北海道新聞(9月13日付)は、知事の国葬への出席に対して批判しています。「言うまでもなく自治体は国の下部機関ではなく、両者は対等だ」「案内されたから行かなければならない筋合いはなく、『国の儀式』を出席理由とする知事の発言は主体性に乏しく納得できない」との見解が目を引きました。

▼9月22日付 朝日新聞「教団・『国葬』 首相はこれでいいのか」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15423629.html

 首相の姿勢が厳しく問われているのは、来週に迫った安倍氏の「国葬」もそうだ。朝日新聞の今月の世論調査では、反対が56%と、賛成の38%を大きく上回った。立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の各党の代表は欠席を決めた。このままでは、国民の分断を印象付けるだけに終わりかねない。
 首相は国会の閉会中審査で一度だけ、質疑に応じたが、先の世論調査で、首相の説明に「納得できない」が64%と、「納得できる」の3倍近かったことに示されるように、国民の心にその言葉は届いていない。
 先月末の記者会見で、首相は政治の信頼回復の先頭に立つ決意を語った。ならば、国葬までの残り期間に国民にどう向き合うか、真剣に考えるべき時だ。

▼9月22日付 中日新聞・東京新聞「内閣支持率急落 国民の声が聞こえぬか」
 https://www.chunichi.co.jp/article/549538

 岸田内閣の支持率が急落している。故安倍晋三元首相の国葬や自民党と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係、物価高などを巡る政権不信が主な要因だ。岸田文雄首相には、国民の切実な声が聞こえているのか。
 (中略)
 国葬について、首相は国会の閉会中審査で説明したが、従来の見解を繰り返すにとどまり、逆に反対意見が強まった。国民の声を真摯(しんし)に受け止め、内閣葬や内閣・自民党合同葬に切り替えるなど、実施形式を見直すべきではないか。
 (中略)
 首相は「世論調査結果に一喜一憂しない。国民の声には丁寧に耳を傾けていかなければならない」と語った。多くの国民が、首相の言葉に不信感を抱くからこそ、支持率が低下したのではないか。一憂くらいはすべきだろう。
 国民の切実な声を受け止め、時には反対意見にも耳を傾ける。そうした誠実な姿勢を政治に取り戻すしか、信頼回復の道はない。

▼9月20日付 日経新聞「首相は政策実行で信頼回復を」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK2069K0Q2A920C2000000/

 岸田内閣の支持率は50~60%台を維持してきた。当初は新型コロナウイルス対策などが一定の評価を受けたが、支持率の低下は1年近くたっても政策面の実績が乏しい現状への不満を映している。
政府は20日、足元の物価高対策として石油元売りへの補助金延長や低所得世帯への5万円給付などを決めた。しかし、コロナ対策と同様、対症療法の域を出ず効果は限定的だ。
看板政策の「新しい資本主義」や「全世代型社会保障」の制度設計を急ぎ、経済再生への道筋を明確にすべきだ。エネルギー戦略や防衛力の抜本強化も先送りが許されない喫緊の課題である。
世論調査からは、内閣の政策実行への期待もうかがえる。次世代原子力発電所の新増設・建て替え検討への首相指示は「評価」が53%、コロナ対策で導入した水際対策の緩和は「賛成」が63%に達した。重要課題への取り組みを加速し、成果を早く示してほしい。

▼9月20日付 沖縄タイムス「[国葬と内閣支持率]強行するなら信を問え」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1027660

 なぜ、安倍元首相を例外的に扱うのか、その説明も不十分で、安倍氏と旧統一教会の関係を巡る疑問に答えることもなく、国葬を実施するつもりなのだろうか。
 安倍元首相の葬儀を巡ってこれほど国内政治が混乱するとは、当初、誰も想像しなかったはずだ。
 混乱を招いた岸田政権の責任は重い。
 事ここに至っては、衆議院を解散し、国民に信を問うべきだ。

▼9月13日付 北海道新聞「知事の国葬出席 道民への説明不十分だ」

 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/730015/

 言うまでもなく自治体は国の下部機関ではなく、両者は対等だ。
 案内されたから行かなければならない筋合いはなく、「国の儀式」を出席理由とする知事の発言は主体性に乏しく納得できない。
 (中略)
 一方、道内では弁護士らが、知事と議長が公費で国葬に出席するのは違憲、違法として差し止めを求める住民監査請求を行っている。国葬は憲法が保障する思想良心の自由を侵害するなどとした。
 知事は会見で「公務で出席する。当然それは公費で対応するのが当たり前だと思う」と述べた。
 「公務」自体が問題視されているのに説明になっていない。違法な支出をチェックする監査制度を形骸化させる問題発言ではないか。
 半旗掲揚も道職員や道民への弔意強制につながる恐れがある。知事一人の判断で決めていい事柄ではないはずだ。
 道議会は会期中の27日を休会にした。地方自治を体現する場の道議会が、国と道民のどちらを向いているのかが問われている。国葬問題の議論を尽くすべきだ。