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国葬「反対」が多数、国会審議「必要」6割超、共同通信調査~「歴史にも目を据え、服喪の強要になりかねない国葬を問い直す必要」(信濃毎日新聞社説) ※追記:日経調査では反対47% 賛成43%

 一つ前の記事で触れた共同通信の世論調査の続きです。
 7月30、31日に実施した調査のうち、安倍晋三元首相の国葬に関わる質問と回答状況は以下の通りです。

 ▼政府は、安倍晋三元首相の葬儀を国葬として実施すると決めました。全額を国費で負担します。あなたは安倍氏の国葬に賛成ですか、反対ですか。     
 賛成         17・9%
 どちらかといえば賛成 27・2%
 どちらかといえば反対 23・5%
 反対         29・8%
 分からない・無回答   1・6%

 ▼野党は、国葬にする理由の説明が不十分だとして、国会での審議を与党に求めています。あなたは国会の審議が必要だと思いますか、思いませんか。    
 審議が必要だ       61・9%
 審議が必要だとは思わない 36・0%
 分からない・無回答     2・1%

 国葬への賛否は「どちらかといえば」を含めた四つの選択肢の中で「反対」が最多で3割近くなのに対し、「賛成」は2割に達しません。「どちらかといえば反対」「どちらかといえば賛成」を含めると、賛成45.1%に対して反対53.3%です。
 先行する他社の世論調査では、NHKと産経新聞・FNNが国葬に触れていましたが、「国葬への賛否」を直接尋ねるのではなく、国葬を決めた政府の方針や政府の決定が対象でした。

■NHK調査 7月16~18日実施
 政府は、安倍元総理大臣の葬儀を、国の儀式の「国葬」として今年秋に行う方針です。
この方針への評価 ※質問の正確な文言は不明
「評価する」 49%
「評価しない」38%

■産経新聞・FNN 7月23、24日実施
 政府は安倍晋三元首相の葬儀を国葬として実施することを決め、費用は全額国費で負担する。この決定をよかったと思うか
 よかった           31.0%
 どちらかといえばよかった   19.1%
 どちらかといえばよくなかった 14.8%
 よくなかった         32.1%

 共同通信の調査は最新であることに加えて、国葬への賛否を直接尋ねており、国葬に対する民意の所在をより正確に示している、と言っていいと思います。
 共同通信の配信記事によると、国葬に反対する人の岸田文雄内閣不支持は59・8%と半数を超え、支持24・5%を大きく上回っています。「感染が急拡大している新型コロナへの対応、依然続く物価高への対策に加え、説明不足との批判がある政府の国葬実施決定が支持率急落につながった可能性がある」とのことです。
 国葬について国会での審議が必要と思うかどうかでは、必要との回答が6割を超えています。法的な根拠もなく、実施を閣議決定で決めた手続きも問題ないのかどうか。そうしたことを国会で審議することが必要ですし、その結果、手続きが適正ではないことがはっきりするならば、岸田首相は閣議決定で撤回を決めるべきだろうと思います。

 安倍元首相の国葬を取り上げた最近の社説、論説を書きとめておきます。

 信濃毎日新聞は8月1日付で、国葬について3回目の社説を掲載。吉田茂元首相の国葬や、最近では中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬で弔意の強制や圧力と言わざる得ない動きがあったことを挙げ、戦前にまでさかのぼる歴史的な視野で強く疑問を呈しています。
 産経新聞は国葬を支持していますが、その産経新聞でさえも「元首相の国葬後に、国葬に関する法令の整備を進めてもらいたい」と書いていることが目を引きました。

【8月1日付】
▼信濃毎日新聞「安倍氏の国葬 服喪の強要にならないか」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022080100020

 国民一人一人に喪に服すことを求めるものではない―。安倍晋三元首相の国葬について松野博一官房長官は繰り返し述べている。
 当日を休日にすることも検討していないと明言した。だとしても、国葬とすることそれ自体が弔意を強いる危うさをはらんでいることに変わりはない。あからさまな強制でない形で同調圧力が強まらないか心配だ。
 (中略)
 かつて国葬は、ナショナリズムを高揚させ、国民を動員して戦時体制を強化する装置となったことを中央大の宮間純一教授は指摘している。その歴史にも目を据え、服喪の強要になりかねない国葬を問い直す必要がある。

【7月29日付】
▼新潟日報「安倍氏国葬決定 国会で説明尽くすべきだ」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/92372

 岸田文雄首相は閣議決定した22日当日の講演で「さまざまな意見があることは承知している。丁寧に説明し、できるだけ多くの国民に納得してもらって行いたい」と話したが、説明しようという姿勢は今なお見えない。
 政府が来月3日に臨時国会を召集し、会期を3日間とする方針を示したのに対し、野党は国葬などについて質疑するため十分な会期確保を求めている。さまざまな疑問に答えてもらいたい。

▼西日本新聞「国葬の当否 臨時国会を議論の機会に」

【7月28日付】
▼朝日新聞「臨時国会 首相は『国葬』の説明を」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15370474.html

 政府が閣議決定した安倍元首相の「国葬」について、世論の賛否は割れたままである。
 社説は、極めて異例の追悼の形式が、社会の溝を広げ、政治家の業績に対する自由な論評を妨げる恐れを指摘した。
 来週、召集される臨時国会では、国葬を決めた岸田首相自身が、数々の疑問や懸念に直接、答えねばならない。説明責任も果たさず、わずか3日の会期で閉じるなら、国葬に対する違和感を強めるだけだろう。

【7月26日付】
▼産経新聞「安倍元首相の国葬 野党の反対は理解できぬ」
 https://www.sankei.com/article/20220726-NG2IVQEVDVMP3L3EVBV7JGWM4M/

 白昼の銃撃で倒れた安倍氏の葬儀を国葬として執り行うことは、国民の支持を得て長く政権を預かった元首相を国として追悼するばかりでなく、日本が「暴力に屈せず、民主主義を守り抜く」(岸田文雄首相)姿勢を内外に示す意義がある。アベノミクスなど評価が分かれている元首相の業績を無条件で賛美するわけではない。
弔意の強制についても政府はすでに9月27日を休日とせず、黙禱(もくとう)なども強制しない方針を明確にしている。
 (中略)
 政府は、国葬の意義をさらに詳しく国民に説明するとともに、元首相の国葬後に、国葬に関する法令の整備を進めてもらいたい。国家に功績のあった人物を国葬で送るのは、諸外国では当たり前である。日本もそうあるべきだ。

▼宮崎日日新聞「安倍氏の国葬 対立避けるため説明尽くせ」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_64602.html

【追記】2022年8月3日21時10分
 日経新聞とテレビ東京が7月29~31日に実施した世論調査でも、安倍元首相の国葬を巡る質問があったようです。以下は日経新聞の記事の一部です。

 銃撃を受けて死去した安倍晋三元首相の国葬に関する賛否を日本経済新聞社の世論調査で聞いた。「反対」が47%、「賛成」が43%と評価が割れた。

 国葬に賛成か反対かを聞いたのかどうか、質問の文章が不明ですので、ほかの世論調査の結果との比較は難しく、また賛否の差「4ポイント」も有意の差か、誤差の範囲内か、評価が難しいです。少なくとも、多数の支持を得ている状況ではないことは確かです。